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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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隠し弾

 しかし一人の記者が何とか気力を振り絞りアヤネに質問をした。


「その弾丸は開発したばかりということでしたが、本当に邪竜に通用するのですか?効果が不確かなものを出されても我々も判断に困ります」


 この記者の質問を受けてアヤネはクオンに視線を送り、それを受けてクオンは記者の質問に答えた。


「この弾丸はすでに先月の戦いで『レギオン』の隊員で実験済みで、すでにCランクの邪竜は撃退に成功しています。もちろんこの弾丸の使用時には魔力を使わないように隊員たちには頼んでおきました。Bランク相手では一撃で倒すとはいきませんがこれは平均的な討伐局の局員の攻撃でも同じですので、この弾丸はすでに実戦で使えるレベルに達していると考えています」


 自分たちの作品の出来を淡々と伝えるクオンを前に記者はなおも声を荒げた。


「どうしてこの弾丸のことを黙っていたんだ!先月のシュウ隊長の行動と同じで、これじゃ不意打ちじゃないか!」


 この記者の発言を受けてクオンは不思議そうな顔をし、その後レイナが口を開いた。


「先月の戦いで私の隊が試作品の弾丸を使ったことは機構が公表している活動報告に記載しています。批判は甘んじて受けますが、せめてこちらの発表している情報ぐらいには目を通してもらえませんか?」


 レイナの感情の込もっていない視線と声を受けて記者が黙り込み、そこにアヤネがとどめを刺した。


「勘違いしないでいただきたいのですがこの武器は能力者以外にも戦いを強いるために作ったわけではありません。あくまでみなさんに選択肢を与えるために作った武器です」


 シュウやセツナ程ではないが、法に触れないとはいえ隊長就任以前に外周部の人間を殺したと公言しているアヤネも人殺しが治安維持局の局長を務めているのは問題だと何度も批判を受けていた。

 そのためアヤネはこの場を使って自分を含む外周部出身の隊長三人への批判を牽制することにした。


「シュウ隊長や私のやり方が気に入らないというのであればどうか討伐局に志願をお願いします。クオン局長によるとこの弾丸は量産の見込みも立っているそうなので、年間三千人程の方が志願して下されば私たち三人はお払い箱だと思います。戦わないけど口だけは出す。そんな卑劣な人間はアイギスにはいないと信じていますので、どうかみなさんご自由に判断なさって下さい」


 このアヤネの発言の後、どの記者からも質問は出なかったため今回の月例会見はそのまま終了となった。


「いやー、ざまぁ無かったわね、記者の連中」


 会見終了直後、局長四人がシンラの部屋に集まると、アヤネは笑みを浮かべて先程の会見の最後を思い出していた。

 何かを言おうとしてもじゃあ自分で戦えばいいと言われるのを恐れ、記者たちは例の弾丸の存在を知った後何も言えずに帰って行った。

 報道機関、特に『ロイヤルアイギス』にはいい感情を持っていなかったため他の局長たちもアヤネの発言に反対こそしなかったがレイナは面倒そうに口を開いた。


「気持ちは分かるけどあんまり煽らないで。苦情受けるの私たちなんだから」

「ごめん、ごめん。まあ、今回は大丈夫でしょう。文句そのものを言えなくしたんだから」


 機構が設立される際、能力者のみが邪竜との戦いを強いられることに多くの能力者が反発し、当時の資料によるとその時は四千人近い死者が出る程の争いになったらしい。

 しかし今回機構側は別に非能力者に戦いを強いたわけではないので、機構に批判的な人間も動きを取りにくくなるはずだった。


「その代わりうざい嫌がらせが増えそうだけど」


 事実上機構に寄付を行っている企業のみに不利となる法律の制定や行政府による討伐局の武器の使用制限など王族はここ最近なりふり構わず機構への敵対行為を行っている。

 また現在アイギスの議会では機構に真っ向からけんかを売っているとしか思えない法案が審議中で、クオンの発言はこれらを受けてのものだった。


 特に行政府が提示した討伐局の武器の使用制限、具体的に言うと『瞬刃』と『グングニル』の使用制限はもはや越権行為と言える程厳しいものだった。

 そのためこの後シンラとレイナは武器の使用制限の緩和を要求するために行政府の関連部署に顔を出す予定だった。


「これからどうなるかしら」


 アヤネのこの発言を受けて他の三人の局長は同時に考え込んだ。

 今回の発表を受けて討伐局入りを志願する非能力者はそれ程多くないだろうというのが局長全員の予想だった。


 能力者の中にすら邪竜との戦いを恐れる者がいることを考えると、能力の使用も魔力による身体強化も行えない非能力者の中から邪竜と戦おうとする人間が多く現れるとは思えなかったからだ。

 一応研究局が来週までに新型の弾丸を二千発用意する予定になっていたが、その内の半分も使われるかは怪しかった。

 新型の弾丸のおかげで機構に批判的な人間の行動は当分は収まるだろう。


 しかし彼らもこのまま黙ってはおらず、そう遠くない内に何らかの動きを見せるはずだ。

 彼らの行動次第ではこれまでの議論の前提となる不文律などが壊れる可能性もあり、そうなると機構としても新たな対応を考えなくてはならない。

 しばらくは様子見するしかないがそれでも気は抜けない。

 局長四人は今後の機構としての動きを確認すると、その後それぞれの仕事へと向かった。


 月例会見が終わってから数時間後、間もなく午後の四時になろうとしていた頃、機構本部に帰って来たシュウは男に透明化能力を返した後も機構本部一階のロビーに座り、何をするでもなくロビーの様子を観察していた。


 機構本部への部外者の出入りは午後五時までとなっており、朝から昼にかけては機構への陳情や求人広告の掲示を行うために多くの人間が事務局を訪れる。

 しかし夕方ともなると事務局への訪問客も少なくなり、現在機構本部一階にいる人間は事務局の人間を除くと数人だけだった。


 機構本部の一階には奥に大小含めていくつかの部屋があるが、その他にもロビーにいす二つと机一つのセットが三セット用意されていた。

 これらのいすと机は外来者同士が話せるようにと用意されたもので、それ程利用されることはないのだがシュウはそこにすでに三十分以上座っていた。


 そんなシュウを見て最初は放置していた事務局員たちだったが、黙ってロビー全体に視線を向けるシュウにとうとう我慢できなくなりフミナにシュウが何をしているのか尋ねて欲しいと言ってきた。

 こんな時ばかり話しかけてくる同僚たちにフミナはうんざりしたが、シュウが先程から何をしているのかはフミナも興味があった。

 そのためシュウに話しかけるかどうか悩んでいたフミナはいい機会だと考え、同僚たちに見送られる形でシュウに話しかけた。


「シュウ隊長、先程から何をされてるんですか?」

「あ?ああ、あんたか。別に大したことしてるわけじゃねぇよ。部下の無茶振りに応えるために新技を開発してるところだ」

「新技の開発ですか?」


 シュウのぞんざいな態度には動じなかったフミナだったが、予想だにしていなかったシュウの答えを聞きさすがに困惑してしまった。

 そんなフミナの態度を気にした様子も見せずにシュウは話を続けた。


「別にロビーのど真ん中につっ立ってるわけじゃねぇんだから大目に見ろ。人がいなくなったら俺も帰るから」

「……はい。分かりました」


 人が行き交うロビーの様子を黙って見ていることがどうして新技の開発につながるのだろうか。

 そんな疑問を抱きながらもフミナは同僚たちのもとに帰り、その後フミナの説明を受けた事務局局員たちは先程のフミナ同様シュウの考えが理解できずにそろって困惑した。


 そんなフミナたちの様子を離れた場所から見ながらシュウはフミナたちに悪いことをしたと思っていた。

 自分たちの職場に長時間隊長が居座っていれば気にもなるだろうと考えたからだ。


 こんなことなら男に透明化能力を返すのは今行っている人間観察が終わってからにすればよかった。

 今シュウが行っているロビーにいる人間の観察の目的は、先程フミナに言った通りリンシャからの無茶振りに応えるための新技の開発だ。


 最初シュウは街中の道行く人々対象にこの観察を行っていたのだが、対象が多過ぎていくらシュウでも技の開発どころではなかった。

 そこで比較的人が少ないこの時間帯の機構の一階なら練習にちょうどいいとシュウは考えたのだが、人が少ないことで街中と違い今度はシュウが目立ってしまった。


 これ以上ここにいて明日レイナに文句を言われても面倒だ。

 魔力で視力を強化し続けて目が疲れていたこともあり、シュウはフミナとの話を終えてそれ程経たない内にその場を離れた。


「何だ、あの様は!揃いも揃って無能共が!」


 そう言ってアイギスの王、ボルスは手にしていたグラスを怒りに任せてこの場に呼びつけた報道機関の幹部たちの足下に投げつけた。

 床にぶつかりグラスが砕ける横で幹部の一人がボルスに謝罪した。


「部下の不手際でボルス様を不快にさせてしまい申し訳ありません。しかし機構の発表した弾丸は会見で記者が言っていたように効果が疑わしい代物です。すぐにぼろが出ると思いますのでその時には必ず……」


 こう言ってボルスの機嫌を取ろうとしている幹部を見て、ボルスの後ろに控えていたメイド、エナは冷ややかな視線を幹部に向けた。

 今の機構の局長たち四人はシュウという爆弾を抱えている関係で王族や報道機関が思っている以上に外部からの評価に気を配っている。


 そんな状況で未完成の武器の発表など機構が行うはずもなく、このまま敵失に期待しているようなら報道機関はそれ程警戒する必要は無いとエナは考えた。

 すでに機構は王族が大量の非能力者を機構に就職させようとした場合の対策も講じており、この様子なら機構が今すぐ危機に陥るということはなさそうだった。

 そう判断して安心していたエナの耳にボルスの怒号が届き、ボルスの発言を聞いたエナは表情にこそ出さなかったが心の中で舌打ちした。


「部下からの報告によると例の法案が今月中には通るらしい。これだけのお膳立てをしてやったのだ!また醜態を晒すようなら私と貴様らの関係はそこまでだ!よいな?」

「「「はっ、必ずボルス様の期待に応えてみせます!」」」


 そう言って報道機関の幹部たちは一斉にボルスに頭を下げた。

 その後怒りを隠そうともしないで部屋を後にしたボルスを見送った後で幹部たちも部屋を去り、一人残されたエナはボルスが投げ捨てたグラスを片付けていた。

 このまま大人しくしておけばお互い楽なものをまさかあの法案を通すとは……。

 ボルスとその息のかかった議員たちに呆れと侮蔑が入り混じった感情を抱きながらエナは部屋を片付け、そのまま部屋を後にした。

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