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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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月例会見

 ミアとサヤが二人で昼食を取っていた頃、機構本部一階の一室では毎月月初めに行われている機構の局長四人による会見が開かれていた。

 今のアイギスには大きな新聞社は『ロイヤルアイギス』を含む三つしかないが、この会見には活動実績などの一定の条件を満たせば新聞社以外の報道機関の人間も参加できる。


 そのためこの会見には毎回報道関係者三十人程が参加していた。

 一応局長なのでレイナとクオンもこの会見に参加しているが、事務局と研究局の局長がこの会見で質問を受けることはほとんどない。


 機構の事務局は機構と外部の折衝を担当しているので、事務局は平時は機構への問い合わせと苦情全てに対応している。

 しかしこの会見では記者からの質問に対してそれぞれの局長が直接答えられる。

 事務局そのものに対する質問をする記者などほとんどいないため、事務局局長が機構の月例会見で発言する機会はそれ程多くなかった。


 研究局に関してはこの場にいる記者のほとんどが研究局局長に質問できる程の知識を持ち合わせておらず、その上研究局は普段から民間との共同研究を数多く行っているため機構の四つの局の中では比較的頻繁に外部に情報を発信していた。

 そのため研究局局長は事務局局長以上に月例会見での発言の機会が少なく、月例会見で主に矢面に立たされるのは討伐局と治安維持局の局長だった。


 といっても討伐局の局長は街に邪竜による被害が出ない限りは批判されることはないので、今回もシンラは『ロイヤルアイギス』からのものを含む質問を危な気無く切り抜けた。

 しかし局長たちはもちろん記者たちもアヤネへの質問が月例会見での本番だと分かっていたので、シンラへの質問が終わった瞬間室内の空気が変わった。


 そしてアヤネが質問を受ける番になるとすぐに今回機構の月例会見に出席していた『ロイヤルアイギス』の記者、ステカが手を挙げ、内心面倒に思いながらもアヤネはステカを指名した。

 その後アヤネに指名されたステカは先月シュウが行った『メリクリウス』の拠点への襲撃に関する質問をしてきた。


「先月シュウ隊長が『メリクリウス』という犯罪組織の拠点を襲撃して構成員を何人も殺害しました。この襲撃はシュウ隊長一人により行われたそうですが、シュウ隊長が一人で動かなければ死者を出さずに済んだのではありませんか?」


 シュウが『メリクリウス』の拠点を襲撃する前に一言相談して欲しかったとはアヤネも思ったが、ここでそれを言ってもシュウと治安維持局の連携不足を指摘されるだけだ。

 そのためアヤネはシュウが一人で『メリクリウス』襲撃を終わらせようしたことには触れず、事実を多少脚色して記者に伝えた。


「一人で動いたとおっしゃいますけどあの時シュウ隊長は『メリクリウス』から逃げて来た子供を治安維持局の局員に預けてから『メリクリウス』の拠点に向かっています。それを受けて私の部下がすぐにシュウ隊長のもとに向かいましたので、シュウ隊長は別に一人で動いたわけではありません」


 シュウがあの時治安維持局の局員に子供を預けたのは単に子供が行動の邪魔だったからで、実際シュウは子供を預けた際に子供を受け取った治安維持局の局員に自分の目的や行動をほとんど伝えなかった。


 その後まがりなりにもシュウと治安維持局が連携を取れたのは治安維持局側の尽力の結果だったが、『メリクリウス』に襲撃を仕掛ける前にシュウが治安維持局の局員と会っていたことは事実なので当時現場にいなかった外部の人間にそこまで分かるはずもなかった。


「それに治安維持局の準備ができる前にシュウ隊長が先行したのは事実ですが、時間をかけ過ぎると『メリクリウス』の人間が子供たちに危害を加える可能性がありました。シュウ隊長が私の部下との合流より襲撃を優先した結果とらわれていた子供たちは全員無事に救出できたので、あの時のシュウ隊長の判断は間違っていなかったと考えています」


『ロイヤルアイギス』の記者が今回の会見で先月のシュウの独断専行を批判してくるのは容易に想像できた。

 そのためアヤネはステカの批判に簡単に反論できたが、ステカも簡単に引き下がりはしなかった。


「しかしシュウ隊長が単独行動を取った結果『メリクリウス』側に多くの死者が出ています。それでもシュウ隊長の判断は正しかったとおっしゃるんですか?」


『メリクリウス』の人間が死んだことなど別に何とも思っていないくせにとステカに心の中で毒づきつつ、アヤネは口を開いた。


「先程からあなたはシュウ隊長が一人で動いたせいで犠牲者が増えたとおっしゃっていますけど、それは何を根拠におっしゃっているんですか?」


 アヤネに質問されたステカは一瞬考え込んだ後すぐにアヤネの質問に答えた。


「シュウ隊長が一人ではなく大勢の治安維持局の局員と共に『メリクリウス』の逮捕に向かえば余裕のある対応ができ、犠牲者が少なくできたと考えるのは自然なことだと思いますが?」


 ステカのこの発言を聞き、アヤネはステカが素人丸出しの発言をしたことに感謝すらした。

 ステカのこの発言のおかげでアヤネ、というより機構側が望んでいる方向に今回の会見の流れを運びやすくなったからだ。

 もちろんそんな考えは全く表情には出さずアヤネはステカの発言を否定した。


「先月の『メリクリウス』の逮捕に関しては人手を増やしても意味がありませんでした。『メリクリウス』には先月の時点で隊長に匹敵する強さを持った能力者が三人いたからです。隊長に匹敵する強さを持った能力者に並の能力者が大勢で挑んだらどうなるかはセツナ隊長が起こした事件で分かっていただけると思います」


 セツナはレイナに捕まる前に当時のアヤネの部下を五十人近く殺していた。

 現役の隊長が仕事以外で殺人を行った事例は今まで確認されていないので、決して口には出せないがセツナの起こした事件は隊長に匹敵する強さを持った能力者に人海戦術を行っても被害が大きくなるだけだという唯一の実例になっていた。


「対人戦闘に限って言えば私よりシュウ隊長の方が強いので、仮にシュウ隊長ではなく私が一人で行った場合、『メリクリウス』の幹部を逮捕するどころかへたをすると私が殺されていました。もちろん『メリクリウス』側に死者が出たことは残念でしたが、機構側に被害を出すわけにもいかなかったのでそういった意味でもシュウ隊長一人による突入は正しい判断だったと考えています」


 このアヤネの発言は後半部分はともかく前半部分は嘘ではない。

 歴代の隊長の中でも攻撃力が低いアヤネではチャルチィの水蒸気の結界を突破できず、実際アヤネはチャルチィに傷をつけるどころか戦う度に腕を何度も吹き飛ばされた。


 そのため治安維持局の人員だけで『メリクリウス』を力ずくで潰そうとした場合、一般の局員はもちろんアヤネ、リク、ヴェーダにも死者が出ていた可能性があるとアヤネは考えていた。

 しかし可能性の話をしただけで機構に批判的な『ロイヤルアイギス』の記者が引き下がるわけもなかったので、アヤネはステカに視線を向けてから話を続けた。


「もちろん治安維持局にも討伐局にも入っていない方は能力者の強さと言われてもぴんとこないと思います。特別指定犯罪者の制度ができる前の様に警察の人間が何十人も犠牲になったら市民のみなさまにも分かりやすいんでしょうけど、まさかステカさんの様な人を納得させるために死んでくれと警察の人に頼むわけにもいきませんし」


 そう言って心底困ったと言わんばかりの表情でステカを名指ししたアヤネを前にステカは声を荒げた。


「私は警察の方々に死んで欲しいなど一言も言ってはいません!今の発言は失礼でしょう!謝罪して下さい!」

「ああ、そうでした。さっきあなたは治安維持局の局員に犠牲になれと言ったんでしたね。勘違いをしてすみませんでした」


 そう言ってステカに頭を下げるアヤネを前にステカが反論できずにいると、その横から別の記者が発言をした。


「『ロイヤルアイギス』の方の先程の発言を責めるのは筋違いでしょう。先程アヤネ隊長がおっしゃっていたように我々は『メリクリウス』の能力者の強さなど分からないのですから」


『ロイヤルアイギス』同様王族の息がかかっている雑誌の記者の発言を聞き、アヤネは口を開いた。


「でしたらあなた方が治安維持局に入って犯罪者の取り締まりを行えばいいのでは?能力者の強さや戦いの感覚については仕事をしている内に分かってくると思いますし」


 このアヤネの発言を受け、しばらく黙り込んでいたステカが口を開いた。


「それは暴論でしょう!それが通るなら我々の様な能力者ではない人間は機構のすることに口を出せないじゃないですか!」

「そうだ!そうだ!能力者のすることを黙って見ていろと言うのか!」


 ステカの叫び声に続く形で記者数人の怒号が飛び、月例会見の会場は一時騒然となった。

 アヤネの発言に対する怒りの声をあげながらも、ステカを含む機構に批判的な記者たちはアヤネの先程の失言を内心歓迎していた。


 機構の影響力が年々増していることを王族がおもしろく思っておらず、そんな王族の意思を受けた一部の報道機関が機構への批判を強めているのは事実だ。

 しかし報道機関による機構への批判自体は王族が行動を起こす前から行われていた。


 そして機構と報道機関のやり取りの中で機構側の人間が決して口にしてはならないことがある。

 それは文句があるなら自分たちでやればいいという反論だ。

 この反論は言われた側が能力者ならあまり問題にならないが、機構の人間、それも隊長が非能力者に言うと一斉に批判を受ける。


 先程の記者が言った様にこの意見が通るなら邪竜や能力者に抵抗できない非能力者は能力者に逆らえなくなり、ひいては非能力者への差別になるからだ。

 そのためこの様な発言をアヤネがしたことにステカたちは大喜びで、帰ってからアヤネと機構を批判する記事を書くことばかり考えていた。


 比較的機構寄りの報道機関の人間も心配そうに事態の推移を見守るしかない状況の中、アヤネは記者たちの怒号に一切反論せず、ただ足下に置いていたケースを持ち上げて机の上に置くと記者たちが静まるのを待った。


 ステカたちがもう少し冷静になっていればアヤネの先程の発言を受けて会場が騒然としたにも関わらず、アヤネだけでなく他の局長たちも全く慌てていないことにすぐに気づけただろう。

 しかしアヤネの失言を引き出せたと思い浮かれていたステカたちはアヤネたちの余裕の表情に気づくのが遅れ、ひとしきり騒いでからようやく異変に気づいた。

 そんなステカたちを前にアヤネはケースから数日前に完成したばかりの弾丸を取り出した。


「これは開発されたばかりの対邪竜用の弾丸で、この弾丸の最大の特徴は能力者でなくても使えることです」


 アヤネのこの発言を受けて先程と違い会場は静まり返った。

 この会見はテレビで生放送されており、テレビの台数が限られているのでアイギス中とはいかないまでもアヤネのこの発表を受けてアイギスのいたる所で多くの人間が衝撃を受けていた。


 また会場にいた記者たちも能力者は邪竜と戦えないというこれまでの前提を覆す武器を突然出され、一人残らず発言できずにいた。

 今のアイギスでは機構にも警察にも所属していない能力者がこの二つの組織を批判すると白い目で見られる。


 特に討伐局と治安維持局が毎月の様に殉職者が出るせいで慢性的な人手不足であることは周知の事実なので、邪竜と戦えるにも関わらず機構に所属せずに批判だけしている能力者はどこにいても卑怯者として爪弾きにあった。


 そのため機構に関しての能力者の関わり方は所属するか何も言わないのどちらかというのがアイギスの不文律で、それを避けるために機構の月例会見に出席する記者は全員が非能力者だった。

 そのため彼らは安心して機構を批判できていたのだが、それも今日までだった。


「この弾丸があれば能力者じゃなくても邪竜と戦えます。あれ?どうしました?さっき私たちへの不満を口にしてた人たちは喜んでくれると思ったんですけど。この弾丸があれば今まで戦いたくても戦えなかったステカさんも戦えるんですよ?」

「いや、私は別に……」


 白々しい口調で記者たちに話しかけるアヤネとは対照的に邪竜と戦えない非能力者という安全地帯から突然引きずり出されたことでステカを含む多くの記者たちは口をつぐんでしまった。

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