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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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開店初日

 この日の午前九時、興行地区に程近い場所でリクとヴェーダの姉、ミーシャが店長を務めるレストラン、『アクア』の支店が営業を開始した。

 外周部寄りの立地のためわざわざ街の中心部からこの店に来る客はいなかったが、それでもアイギスの郊外にある鉱山から徹夜明けで帰って来た男たちの団体やシュウやアヤネの知り合いなどでそれなりに店は繁盛していた。


 街の中心部の店とは営業時間やメニューを変えたためうまくいくかミーシャは不安だったが、目立ったトラブルも起きずに店を開けてから一時間程が経過した。

 この分なら自分はホールにいなくても大丈夫だろう。

 そう判断したミーシャはホールの責任者に一言断ってから店の奥へと入って行った。


 ミーシャがホールから姿を消した直後、それを見届けた四人の男たちが店内に入って来た。

 この男たちは外周部の人間が街へと進出することを快く思っていない人間に雇われた者たちで、開店初日のこの店で騒ぎを起こすためにこの店に来た。


「ったく、気が利かねぇ店だな!灰皿も置いてねぇのかよ!」


 男たちは店の入り口に貼ってあった禁煙の張り紙を無視してたばこを吸いながら店に入り、入り口近くにいた女の店員に怒号を飛ばした。


「何名様でしょうか?」


 男たちの喫煙も怒号もまるで気にしていないといった様子で店員が男たちに人数を尋ねると、男の一人が嘲笑を浮かべた。


「はいはい、マニュアル対応よくできましたねー。でも客の人数までは数えられなかったかなー?全員で四人だよー」


 店員を馬鹿にした口調でそう言った後、男は店員に口から吐いたたばこの煙を吹きかけ、後ろでこの一連のやり取りを見ていた連れの男たちは笑い声をあげた。

 その後男たちは床にたばこを捨てると店員の案内を受けずに店の奥に向かい、予約席と書かれた札が置かれた机を発見した。

 当然男たちは予約などしていないが店の隅で人目を避けやすかったこともあり、男たちは当然の様にその席に座ると今後の予定を話し合った。


「まさかあそこまでされて何も言わないとは思ってなかったな」


 男たちの当初の予定では入り口近くの店員を怒らせ、そのまま騒ぎを起こすつもりだった。

 しかし自分たちの喫煙も嘲笑もまるで気にした様子を見せなかった店員に男たちは少なからず驚いていた。

 しかし男たちのリーダー、ミロックは他の三人と違い落ち着いた様子だった。


「気にするこたぁねぇさ。今日この辺りに治安維持局の連中はいねぇ。最悪の場合俺たちが暴れりゃこの店の開店初日はぶち壊しだ」


 ミロックたちを雇った人間の働きかけにより、数日前に一部の週刊誌でリクとヴェーダが姉の経営している店の近くに治安維持局の局員数名を配置しているという記事が載った。

 この記事自体は事実無根だったが、この記事により治安維持局の局員たちはこの店に近づきにくくなっていた。


 そのためミロックたちがこの店で暴れたとしても治安維持局の局員が到着するには時間がかかり、治安維持局の局員が店に着く前に店を半壊させるのは四人全員が能力者のミロックたちにとってはたやすいことだった。

 もっとも客が暴れたと店が不手際を起こしたでは圧倒的に後者の方が店の印象が悪くなる。


 また店で暴れた場合ミロックたちも逮捕されるので、ミロックたちにとっても自分たちが暴れるのは最後の手段だった。

 この店の評判を落とすための道具はちゃんと懐に入れており、ミロックは店員が注文を取りに来るのを今か今かと待っていた。

 そして一分も立たない内に店員がミロックたちの席に注文を取りに来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ああ、こんな店の料理なんてどれでも一緒だろうから、一番安い定食五十人前頼む」

「はい。でしたらC定食になりますけどよろしかったでしょうか?」

「一番安いのって言っただろうが!さっさと運んで来い、こののろまが!」

「はい。かしこまりました」


 ミロックの怒号を受けても顔色一つ変えない店員を見て、ミロックは机に拳を振り下ろしながら声を荒げた。


「少しずつ持ってくるなよ!俺たちは腹が減ってるから五十人前一気に持って来い!いいな?」

「かしこまりました。失礼します」


 この店員の反応を見てミロックだけでなく部下たちも違和感を覚え始めた。


「ミロックさん、さっきから店員たちの態度おかしくないっすか?俺たちが何しても余裕って感じで……」

「もしかして治安維持局の局員が後ろで待機してるんじゃ……」


 そう考えると今他の客席で食事をしている客ですら男たちには治安維持局の局員に見え始め、口々に不安を言う部下を前にミロックは余裕の笑みを浮かべた。


「安心しろ。治安維持局の局員が出て来たらむしろ好都合だ。あの双子が出て来たら最高だな。その場合もちゃんと考えてある。仮に俺たちが捕まったらそれを材料に新聞や雑誌で機構を叩くらしいぜ。捕まった場合は一人三百万の追加報酬だ。悪くないだろ?」


 ミロックのこの発言を聞き、不安そうな顔をしていた男たちも笑みを浮かべた。


「まじっすか?それならむしろ捕まりたいぐらいっすね」

「ばーか、調子いいこと言いやがって。ま、理想は事件を起こさないことだ。ボーナスに関しては諦めろ」

「へーい」


 今回のミロックたちの雇い主の狙いは二つあり、一つは外周部の人間の雇用先の先駆けともいえるこの店の出鼻をくじくことだ。

 そのため『アクア』の開店初日にミロックたちはこの店にやってきた。


 そして二つ目、これは可能ならでいいと雇い主からは言われていたが、ミロックたちが騒ぎを起こした後で治安維持局の局員が駆けつけたらできるだけ騒ぎを大きくして欲しいと言われていた。

 あまり突っ込んだ質問をできる程今回の雇い主とミロックは親しい間柄ではなかったが、おそらく今回の件の黒幕は機構と外周部両方を敵対視しているのだろうとミロックは考えていた。


 そのためこの店の店長がリクとヴェーダの姉の時点で、今回のミロックたちの計画は黒幕の思惑通りになる可能性が高かった。

 外周部に近いここで騒ぎが起これば警察より治安維持局の人間の方が早く来る可能性が高いからだ。


 自分が直接会った雇い主すら誰かの使い走りで、いざとなったら自分たちは容赦無く捨て駒にされることもミロックは理解していたが失敗した際のリスクを恐れていてはこの仕事はできない。

 自分たちを指先一つで動かす顔も知らない金持ち連中にミロックも怒りを覚えないわけではなかったが、勝ち目の無い勝負に挑む程馬鹿ではない。


 世の中は結局誰かを踏み台にして生きていくしかないのだから、捨て駒は捨て駒なりにうまくやっていこう。

 そんな自虐的なことを考えながらミロックは部下たちと計画について話し合い、やがて店員数人がミロックたちの席に定食を運んで来た。


「こちらご注文のC定食になります。ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」


 店員たちが運んで来た定食を見てミロックの部下の一人が声を荒げた。

 店員たちが持って来た定食が二十人前しかなかったからだ。


「おい!何だ、これは!俺たちは五十人前を頼んだはずだぞ!全然足りねぇじゃねぇか!」

「当店では一人当たり五人前以上頼まれた場合にはまず五人分を食べ切ってから残りを提供させてもらっています。これはメニューにも記載しております」

「ふざけるな!客に逆らう気か!」


 ミロックの部下が店員をにらみながら机を叩いたが、店員の表情は全く変わらなかった。


「あくまで当店は店が決めた範囲内でのサービスを提供しています。それがお気に召さないのであればお帰り下さい。お代は結構です」

「お前、何様の、」


 店員の反論に怒鳴り返そうとした部下をミロックが止めた。


「店の決まりならしかたねぇな。追加の分も作っといてくれよ」

「はい。それでは失礼します」


 深々と頭を下げて店員たちが机を離れた後、部下の一人がミロックに話しかけた。


「ミロックさん、どうして止めたんですか?」

「あのまま俺たちがこの量食える、食えない言い合っても時間の無駄だろう。さっきから見てるといくら怒鳴っても無駄みたいだからな」


 店側としてもミロックたちの様な人間の来店は予想していたのだろう。

 店員への教育は行き届いており敵ながら見事と言いたくなる様な動じなさだった。

 そう感心しながらミロックは懐から小さなケースを取り出し、その後部下共々周囲をうかがってからケースに忍ばせていた虫の死骸を取り出して定食の上に乗せた。


「よし、騒げ」


 ミロックの指示を受けて部下たちは一斉に騒ぎ出した。


「おーおー、何だこりゃ!スープの中に虫が入ってるじゃねぇか!」

「この店は客に虫食わせるのかよ!」

「店長呼べ、店長を!」


 こうして一斉に騒ぎ出したミロックの部下たちだったが、すぐに違和感に気づいた。

 店員が来ないどころかミロックの部下たちの叫び声に客の誰も反応しないのだ。

 ミロックの部下がいくら叫び声をあげても客は食事と会話を楽しみ、店員たちは忙しそうに店の中を行き交う。

 この状況にミロックたちはようやく自分たちが何か見落としていることに気づいたがすでに手遅れで、ミロックたちにどこからか女の声がかかった。


「さっきから黙って聞いてれば本当にうるさい。少しは静かにできないの?」

「ああ、誰だぁ!余計な口挟むとただじゃおかねぇぞ!」


 客の誰かの声に部下の一人が反応したのを見て、ミロックは内心顔をしかめた。

 デメリットも多いので他の客を巻き込むのはできれば避けたかったからだ。

 しかし先程までのまるで自分たちが世界から切り離された様な感覚から解放されて安堵したのも事実だった。


 そのためミロックは部下の言動を止めず、計画の変更を行おうと考えていた。

 ミロックが計画の修正を行っている間、ミロックの部下たちは自分たちに話しかけてきた相手を探そうとしていた。


「おい、さっき余計なこと言ったのはどこのどいつだ!女だからって容赦しねぇぞ!」


 ミロックの部下の一人が席から立ち店内を見渡そうとした時、その男の足下から声が聞こえてきた。


「さっきあなたたちに話しかけたのは僕」

「ああ?」


 予想外の場所から聞こえてきた声に男が視線を下げると、確かにそこには一人の少女がいた。

 男たちが視線を下げた先には紫色の髪を長く伸ばした少女が立っており、少女は不快気な顔で男たちを見上げていた。


 自分たちに声をかけてきた人物が見たところ十歳になっているかも疑わしい少女だったことに男は驚いたが、相手が子供だからといって優しくするような良心をこの男たちは持ってはいなかった。

 とはいえこんな子供を相手にしても一銭にもならないので、男は少女を追い払うことにした。


「おい、ガキ!今なら許してやるからさっさと消えろ!」


 そう言って少女をにらんだ男だったが少女は全く動じず、そんな少女と男のやり取りを見ていた男の仲間が怯えた様子で口を開いた。


「おい、ちょっと待て。そのガキ、まさか……」


 仲間の怯えた様な声を聞き男が少女への恫喝を止めた直後、男の足下から男たちにとっては死刑宣告に等しい少女の自己紹介が聞こえてきた。


「『妖精女王』と呼ばれてる」


『妖精女王』のこの発言を聞いた瞬間ミロックたちは一目散に逃げようとしたが、次の瞬間には四人全員の視界を『妖精女王』の髪と同じ紫色に光る蝶の群れが遮り、その光景を最後にミロックたちは何も考えられなくなった。

ミロックたちが持ち込んだ虫はGです。

 次の話のためにお知らせしておきます。

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