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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
3章

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捕獲準備

 ミアとサヤを『フェンリル』に割り当てられた訓練室に放り込んだ後、シュウはあらかじめ呼び出していた男と共にクオンの部屋に向かった。

 部屋の扉の指紋認証システムでドアを開けてシュウがクオンの部屋に入ると、クオンは居間にはいなかった。


 おそらく奥の部屋で研究をしているのだろうと考え、シュウが奥の部屋に向かうとある部屋から機械の稼働音が聞こえてきた。

 シュウがその部屋のドアを叩くと中からクオンの声が聞こえ、ぼさぼさの髪とよれよれの白衣を着たクオンが姿を現した。


「もうこんな時間?」

「また徹夜かよ?徹夜はともかく飯は食えよ?」


 もうすぐ朝の八時になろうという時間に眠そうな顔をしながらドアを開けたクオンを見て、すでに見慣れた姿とはいえシュウは呆れた表情をした。

 そのまま部屋を出ようとしたクオンだったが、今日はシュウの他にもう一人いたのでシュウはクオンを止めた。


「ちょっと待て。今日は俺の他にもう一人いる」


 シュウは今回透明化能力を持つ男を連れて来ており、この男の能力を入れてもらうためにクオンの部屋を訪ねた。

 部屋では身だしなみなど気にしないクオンだが、自分が研究局の顔であることは自覚しているため人目があるところでは最低限の化粧はするし服にも気を遣っている。

 シュウはそのことを知っていたため、今のクオンの恰好を自分が連れて来た男に見せるのはまずいと判断した。


 こうならないようにあらかじめこの時間の来訪を伝えていたのに、どうしてこんなことになっているのだろうか。

 不思議に思ったシュウに気づいたのかクオンは自分が今まで読んでいた論文について説明した。


「おとといまで新型の弾丸の開発に時間取られてたから、今部下に書かせた論文読んでたの。ほらこの前実験に付き合ってもらった望遠鏡の」

「あれわざわざ論文書く程の発明か?」


 クオンが言っている望遠鏡というのは能力者が使用すれば普通の望遠鏡とは比べ物にならない程遠くまでかつ鮮明に見ることができる望遠鏡のことだ。

 この望遠鏡は常にアイギスの周囲で目視による警戒を行っている民間の職員のために開発されたものだが、シュウの言う通りこの望遠鏡自体はわざわざ論文を書く程のものではない。


 クオンを始めとする研究局が論文にまとめたのは千里眼、透視、未来視といった視覚に関する能力についてだ。

 以前シュウがこの望遠鏡を使った際、本来の千里眼はもちろんのこと透視まで行って見せた。


 これを受けて視覚を通して発動する能力を持っている能力者は訓練次第で別の能力を獲得できるではという仮説が浮かんだ。

 もちろん成功例がシュウだけなので他の能力者に応用できるかはまだ分からないが、この仮説が証明されればやがて他の能力にも応用できる可能性がある。


 そうなれば能力者の強化にもつながるので、この仮説の証明に研究局はかなり力を入れていた。

 といっても研究局局長のクオンとしてはこの望遠鏡を手にしてさすがに石化は無理かと真顔で言っていたシュウは例としては不適切だと思っていた。


 しかし論文を読んだ限りではこの仮説が証明される可能性は半々といったところだったので、クオンはこのまま研究を進めるように部下たちに指示を出すつもりだった。

 この説明を聞きクオンが抱いていた懸念をシュウも抱いた。


「俺ができたから他の奴らもできるは無茶だと思うぞ」

「分かってる。でも研究っていうのはやってみないと分からないから」

「ふーん。まあいいや。とりあえず能力の方頼む」


 いつまでも男を待たせているのも悪いので、シュウはとりあえず男の能力のシュウへの移動をクオンに頼んだ。

 クオンに促された男がクオンがいる部屋のドアに近づき、ドアから手だけを出したクオンが男の能力をシュウに移動した。

 男の能力が自分に移動したことを確認した後、シュウは男に指示を出した。


「よし、後は俺が帰って来るまで一階で待っててくれ。昼前には帰って来れると思うけど、場合によっては夕方ぐらいになるかも知れない」

「分かりました。今日は何の予定も入れてないのでどうぞごゆっくり」


 そう言って男は部屋を出て行った。

 シュウとアヤネは個人的に能力者を何人か雇っており、先程の男もその内の一人だった。

 男が去った後そのまま居間へと出て来たクオンは、シュウが淹れたコーヒーを飲みながら自分用にカフェオレを用意して席についたシュウにもう何度目になるか分からない質問をした。


「こんな朝早くから透明になって何する気?」


 すでに朝早くという程の時間でもなかったが、シュウもそれ程規則正しい生活をしているわけではなかったのでクオンの発言の前半部分は無視して話を続けた。


「企業秘密だって何度も言ってるだろ?コウガには聞いてないのか?」

「何度も聞いたけど教えてくれない」


 コウガにはシュウが透明化能力を使って行っていることの内容を全てではないが知られているので、コウガがクオンにまでそれをばらしている恐れは十分あるとシュウは考えていた。

 コウガに知られただけでも予想外だったのにクオンにまで知られては面倒だとシュウは心配していたのだが、どうやら杞憂だったようだ。

 しかしコウガが今後も同じことを聞かれるのを放置するのも心苦しかったので、シュウは今日の用件をクオンに正直に伝えることにした。


「ここだけの話にしてくれよ?」

「うん」


 すでにこの話題は何度も繰り返していたので、聞いたクオンもどうせ今回も教えてはもらえないだろうと思っていた。

 そのため多少驚きつつも返事をしたクオンにシュウは説明を始めた。


「『妖精女王』に頼みたいことがあって、あいつを捕まえるのに透明化能力が必要なんだ」

「ああ、なるほど」


 シュウはこれまで『妖精女王』を三回捕まえており、警察や治安維持局が『妖精女王』を一度も捕まえることができていないため一体どうやって捕まえているのかとクオンも疑問に思っていた。

 そのためシュウの説明を聞いたクオンは透明になって近づいて不意打ちとはシュウにしては地味な方法で『妖精女王』を捕まえているのだなと思った。


 もっとも幻術使い相手に正面から挑んでも逃げられるだけなのでシュウのやり方は当然と言えば当然で、同時にクオンはシュウはもちろんコウガもこの話をしたがらなかったことに納得した。

 討伐局の隊長を務めているシュウと未成年とはいえリクを含む治安維持局局員への暴行、留置所襲撃、自分を襲った者への洗脳など数々の犯罪を行っている『妖精女王』が交流があるなど簡単には口にできないだろう。


『妖精女王』は特別指定犯罪者の一人を再起不能にして警察署に放り込んだこともあるが、これも法に触れる行為だ。

 数こそ少ないが人々の印象に残る事件をいくつも起こした結果街・外周部問わず多くの人間から恐れられている『妖精女王』とシュウが裏で繋がっていると知られたら、一部の新聞社は嬉々として特集記事を掲載するはずだ。


 そのためクオンも聞いてすぐにこの話は聞かなかったことにしようと判断した。

 シュウの説明を聞き納得した様子のクオンを見て、シュウは安心してから話題を変えた。


「で、話変えるけどあんなしょぼい弾丸にどうしてお前が関わってるんだ?俺が使った時の威力で完成だとするとあんなの邪竜との戦いで使えないだろ」 


 先程クオンが話題に出した弾丸というのは『テンペスト』の劣化版で、この弾丸の最大の特徴は非能力者でも使えることだった。

 この弾丸の試作品をクオンに言われてシュウが使ったところ、通常の銃弾よりは高い威力だったがそれでも能力者が専用の銃から撃ち出す魔力の弾丸と比べると話にならない威力だった。


 そのためあんな弾丸の開発にクオンがわざわざ時間を割いているということがシュウには意外だった。

 クオンは自分が興味を持った研究しか行わず、あの弾丸がクオンの興味を引くようなものには見えなかったからだ。

 いつものクオンなら最低限の道筋さえついたら後は部下に丸投げしそうなものだがとシュウが疑問に思っていると、クオンが口を開いた。


「確かにあれはシュウの言う通り威力自体は話にならない。でもあの武器は能力者じゃなくても使えるっていうのが重要」

「そこまで人手不足なのか?」


 ここ数ヶ月の間、新しい隊員の補充が大変だと他の隊長たちが話しているのをシュウは何度も聞いていた。

 そのためそれを補うために研究局は新型の弾丸を作ったのだろうとシュウは考えたのだが、そんなシュウの質問へのクオンの答えは意外なものだった。


「人手不足に関しては私も詳しくは知らないけど、別にあの弾丸は邪竜と戦うために開発したわけじゃない」

「は?」


 使用すれば非能力者でも邪竜と戦える弾丸を邪竜との戦い以外でどう使うというのか。

 クオンの発言を聞き困惑したシュウを見てクオンは説明を続けた。


「あの弾丸が何の役に立つかは今日の会見見れば分かるはず」

「ああ、そういや今日会見の日か」


 考えてみれば月初めなのだから当然かと思い、これ以上会見を控えているクオンの邪魔をするのも悪いと考えてシュウは冷蔵庫の中身を確認してから部屋を後にした。

 そんなシュウを見送りながらクオンはある疑問を抱いていた。


 シュウが透明になって『妖精女王』を捕まえているというのは分かった。

 ではシュウはどうやって『妖精女王』の居場所を把握しているのだろうか。

『妖精女王』は起こす事件こそ大きいが人前にはあまり姿を現さない。


 警察や治安維持局が捕まえるどころか所在すら把握していない『妖精女王』をシュウが何度も捕まえている方法にはクオンも興味はあった。

 しかし外周部で起こる事件に興味本位で首を突っ込むと大抵は不快な思いをすることになり、しかも今回は『妖精女王』が関わっている案件だ。

 これ以上の深入りは止めておこうとクオンは判断し、コーヒーを飲み終えてから部屋へと戻った。

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