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会議後

 会議終了後、少しアヤネと話があるというリクとヴェーダを待っていたシュウは、突然腰に衝撃を感じた。

 衝撃の理由が分かっていたシュウが顔をしかめながら視線を下に向けると、そこには六歳ぐらいの見た目の少女が抱き着いていた。


「うぜぇ。離れろ」


 満面の笑みを向けてくる少女に対し、シュウは心底不快そうな表情を浮かべた。

 そんなシュウの態度を気にすることもなく、少女は笑顔のまま口を開いた。


「さっきはありがとう。お礼に今度好きな年齢で一日中一緒にいてあげる。何なら夜まで、げふぁ、」


 最後まで言わせずにシュウが少女を蹴飛ばすと、少女は勢いよく吹き飛び壁に激突した。


「ったく、こんな色ボケが治安維持局の局長とか世も末だな」


 呆れた顔のシュウが顔を抑えてうずくまる少女を見下ろしていると、リクとヴェーダが会議室から出てきた。


「大丈夫ですか?アヤネさん」


 心配そうに少女に話しかけたヴェーダに女は立ち上がると大丈夫だと告げた。


〈 アヤネ(?) 討伐局局長序列六位、治安維持局局長兼任 能力:自分の体の時間の操作 〉


 瞬く間に少女から二十代の女に姿を変えたこの人物こそ、治安維持局局長も務める隊長のアヤネだ。

 アヤネは自分の体の自分を操る能力を持っていて、見た目の能力を変えるだけでなく数秒だけ体の時間を巻き戻して体の傷を治すこともできる。


 先程シュウに蹴られた顔もすでに元通りで、何事も無かったかのように立っていた。

 アヤネの本当の年齢は誰も知らない。

 討伐局に入った時に提出した書類上の年齢は二十六歳なのだが、この書類自体が偽装されたものだったため参考にはならない。


 もちろん討伐局に書類を偽造して入ったことは当時問題視された。

 しかしアヤネがそれを明かしたのが隊長に就任してからしばらく経ってからだったこと。

 そしてアヤネのもたらした情報で外周部の人間と手を組んで犯罪を行っていた街の犯罪者を多数検挙できたことで最終的に不問になった。


 この結果が全てという今の機構の風潮こそリンドウがシュウを問題視している理由だった。

 シュウとアヤネ以外にもクオンも割とやりたい放題で、たちの悪いことにこの三人がそれぞれの分野で歴代屈指の功績をあげていることがこの風潮に拍車をかけていた。


 しかしそんなリンドウの苦悩も周囲からの視線もシュウにとってはどうでもよく、毎回アヤネの襲撃を回避できていないことの方がシュウにとっては問題だった。

 年端もいかない少女に抱き着かれて喜ぶ男もいるのだろうが、毎回アヤネの奇襲を回避できていないシュウとしてはおもしろくなかった。


 第一先程の蹴りにしてもアヤネならよけられたはずで、よけられるはずなのにアヤネは毎回わざとシュウの攻撃を食らっていた。

 すぐに回復できるといってもわざと食らう必要は無く、シュウがお前Mだったのかとアヤネに聞いたところ、シュウが相手ならSでもMでもどっちでもいけるわと笑顔で返してきた。


 先程のシュウの『色ボケ』発言はこれを受けてのもので、実際一時期は討伐局の局員数人に性別問わず手を出していたらしい。

 それを聞いて思うところが無いでもシュウだったが、今さら自分が口を出すことでもないかと思いとりあえずリクとヴェーダには手を出すなとだけ言っておいた。


「お前らも大変だな」


 心の底から同情したシュウがリクとヴェーダに視線を向けると、二人は苦笑いを浮かべた。


「で、三人そろって何の用だ?」


 リクとヴェーダはシュウがこれから稽古をつけることになっているので分かるが、アヤネまでこの場に残っている理由が分からない。

 さすがにシュウに抱き着くためではないと信じたいところだった。


「さっきの会議の件でお礼を言っておこうと思って」

「お礼?」


 アヤネの発言の意味が分からなかったシュウにヴェーダが横から説明を始めた。


「さっきの見回りの件はシュウさんが助けてくれなかったら、期間か人数のどちらかで私たちが譲歩することになっていました。クオンさんは研究局に関係無い議題には口を出さないので」


 滅多に会議に出ないシュウは知らないことだったが、隊長会議での決定は隊長の序列に左右される風潮があった。

 そのため序列三位以上の隊長はあまり会議には口を出さず、序列五位のコウガが難色を示した時点で会議の長期化が予想された。


 そこにそんな風潮を知らず、なおかつ自他共に認める討伐局最強のシュウが口を出したため会議がスムーズに進んだ。

 そこまでは理解していなかったシュウだったが、他の二人はともかくシュウを苦手としているヴェーダが改めて礼をしに来た時点で自分が役に立ったということは理解していた。


「そうか。まあ、気にするな。いつも言ってるけど、お前らが偉くなったら倍にして返してもらうつもりだからよ。さて、じゃあ、そろそろ、」

「少しいいですか?」


 予定通りリクとヴェーダに稽古をつけるため移動しようとしたシュウに後ろから声がかかった。

 シュウが振り向くとシンラが一人でいて、近くにリンドウとレイナの姿は無かった。


「あれ、リンドウのおっさんとレイナと話してんじゃなかったのか?」

「二人には少し待ってもらっています。ミアさんの件で少し話があったので」

「ああ、なるほど。ちょっと待ってくれ、リク」


 そう言うとシュウは、リクに自分の部屋の鍵を渡した。


「リンシャが訓練室の鍵を俺の机の上に置いてるはずだから先に言って開けといてくれ。じいさんとの話が終わり次第、俺も行く」

「分かりました」


 リクが鍵を受け取り、三人の姿が見えなくなってからシンラは話を始めた。


「個人的な頼みを聞いてもらいすみません」

「構わねぇよ。さっきも言ったけど使えなかったら追い出すし。俺の平隊員ライフのためにもせっせと育てるつもりだ」

「すぐに分かることなので言ってしまいますが、迷惑をかけることになると思います。三年前の件でシュウさんを恨んでいるのです」

「ああ、そういうことか」


 先程の会議からずっと申し訳なさそうにしているシンラを見てシュウは不思議に思っていたのだが、今の発言でようやく納得した。


「じいさんを助けられなかった役立たず恨んでるんだろ?いい孫持ったじゃねぇか」

「いえ、命の恩人のシュウさんに対して失礼なことで、何とお詫びすればいいか…。ご存じの通り詳しい説明ができないので誤解を解くこともできない状況でして…」


 三年前の事件の詳細は討伐局でも極一部の者しか知らない。

 そのためシンラの孫とはいえ当時部外者だったミアがシュウを恨むのは無理も無いことだし、そもそも人に恨まれることに慣れているシュウにとっては大した問題ではなかった。


「ま、なるようになるさ」


 そう軽く言うとシュウはその場を後にした。


 シュウと別れたシンラは、リンドウとレイナが待つ会議室へと戻った。


「お待たせしてすみません。リンドウさんが言いたいことがあるのではと思いこの場を設けました」


 シンラに促される形でリンドウは口を開いた。

「私が言うのも何ですが、本当にあの男を罷免していいのですか?正直局長は反対すると思っていました」


 リンドウはシュウに罷免に必要な他二人の隊長の同意を得ようとこれまでに何度か行動したがいずれもうまくいかなかった。

 シュウは今の隊長の内、クオン、アヤネ、リク、ヴェーダと仲がよく、この四人にはリンドウは声をかけていない。


 そしてセツナは、死刑延期の隊長特権以外の権限は認められていない。

 そうなると残りはシンラ、レイナ、コウガの三人になるのだが、シンラはシュウを気に入っているし、コウガには面倒だからと断られた。

 レイナには本気で言っているんですかと聞き返される始末で、自分と部下の危険が増すという理由で断られた。

 こういった経緯からシュウの罷免にシンラが同意したことにリンドウは驚き、さらにレイナにまで同意を求めるシンラの言動はリンドウにとって不可解なものだった。

 そんなリンドウにシンラは自分の考えを伝えた。


「構いません。さすがに討伐局を去られると困りますが残るという確認も取れましたし、隊長十人がそろうなら無理に隊長の座に留まってもらう必要は無いでしょう」

「…そうですか」


 自分の希望通りに進んでいるにも関わらず戸惑った様子のリンドウだったが、反対する理由も無かったのでそのまま引き下がるしかなかった。

 そんな中、レイナは二人の意見に反対した。


「私は反対です。仮に局長のお孫さんが隊長になったとしても、彼女と新人の二人がシュウ隊長の穴を埋められるとは思えません。余計な被害が出るだけです。さっきはつい同意してしまいましたけど、やはりシュウ隊長の罷免には賛成できません」


 レイナの発言はもっともだ。

 シンラはクオン推薦の新隊長の力は書類上でしか知らず、ミアに関しては何も知らない。

 それでもその新人の強さがシュウの足下にも及ばないことはこの場にいる三人の隊長全員が断言できた。


 その新人が弱いのではなくシュウが強いからだ。

 シンラ自身も討伐局で五本の指に入る強さだと自負しているが、三位以上とそれ以下の力の差が離れ過ぎていた。


 そのシンラ以上の強さを持つ三人とは、シュウ、コウガ、セツナの三人で、今の隊長の中ではこの三人が飛びぬけて強かった。

 この三人だけでシンラを含む他の討伐局の全戦力を同時に相手にしても勝てるだろう。


 それ程強い隊長の一人を罷免すると言うのだから、レイナが反対するのも当然だった。

 レイナの気持ちもよく分かるため、シンラは自分の考えを正直に伝えることにした。


「レイナさんの心配はもっともです。しかし私は討伐局の不利益になることをするつもりはありません。今は私を信じてもらえないでしょうか?」

「…分かりました」


 まだ完全に納得したわけではない様子のレイナだったが、とりあえずはシンラの言葉を信じて引き下がった。

 その後いくつか通常業務について話してから三人は部屋を後にした。

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