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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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初陣(サヤ)

 シュウたちが邪竜と戦い始めてから二十分程遅れてガドナー率いる『フェンリル』は二体の邪竜を視界に捉えて戦いを始めようとしていた。

 といっても二体共『フェンリル』全員で倒すわけではなく、邪竜の内一体はガドナーが倒すことになっていた。


 ガドナーは向かって右側を飛んでいた邪竜に狙いを定めると邪竜の影から影の刃四本を生やした。

 影の刃は四本中三本が邪竜に命中し、その内の二本で頭を大きく損傷した邪竜は程無く消滅した。

 その気になればガドナーだけでもう一度影の刃を使用するなり直接斬りかかるなりでもう一体の邪竜も倒せたのだが、シュウから最低一体はガドナー以外の隊員たちで倒すようにという指示があったためガドナーは二体目を放置した。


「私も技名考えた方がいいんですかね」


 特に名前をつけていない技を使った後、誰に言うでもなくそうつぶやくとガドナーはシュウからの指示を思い出していた。

『フェンリル』の隊員たちが戦う邪竜が一体だけの場合、ガドナーとリンシャは極力手を出すなとシュウからは言われていた。


 しかしもしもの時はそんなことは言っていられないので、万が一に備えてガドナーは影に潜った。

 ガドナーが邪竜を仕留めた直後、残った邪竜目掛けて先陣を切ったのはサヤだった。

『飛燕』で加速したサヤは、一切速度を落とすことなく邪竜の腹部に激突した。


『飛燕』の扱いで難しいのは加速ではなく減速で、特に動いている邪竜への着地は大変困難だ。

 シュウですら加速時の邪竜への着地は極力避けており、そのためサヤは最初から邪竜への無傷での着地はあきらめていた。


 サヤは邪竜との激突の瞬間自分の体全体を血液に変えて邪竜との激突のダメージを防ぐと、その後五秒程かけて体、及び『飛燕』を復元した。

 この体全体の血液化は対物理攻撃には無敵だが、体の復元中サヤは周囲の状況が一切分からなくなる。


 またこの状態で火炎や雷撃、魔力の弾丸などを食らうと大量の血が飛び散って使用できなくなり、その後の戦いに支障をきたす。

 今回も激突の際にサヤは体内に貯めていた血の四分の一を失っていたため、体全体の血液化はあまり多用できる技ではなかった。


 体の復元を終えたサヤは血で創った鎌を邪竜の体に突き立てるとそのまま邪竜の体をよじ登り、その後邪竜の頭部に向かった。

 やがて邪竜の頭部に到着したサヤは邪竜の右眼目掛けて鎌を振り下ろしたが、サヤの鎌は邪竜の皮膚に阻まれて小さな傷しかつけることができなかった。


 その後何度も鎌で邪竜の眼を潰そうとしたサヤだったが、やがて邪竜と『フェンリル』の隊員たちの距離がかなり近づいてしまった。

 そのため悔しくはあったがサヤは単独での邪竜撃破をあきらめた。


「邪竜の両眼を潰すので邪竜の攻撃が不規則になるかも知れません。気をつけて下さい」


 通信で『フェンリル』の隊員たちにそう告げた後、サヤは鎌で両手を斬り裂くと『ウロボロス』を発動した。

『ウロボロス』を構成した血はそれぞれ邪竜の左右の眼へと伸び、そのまま邪竜の眼とその周辺を飲み込んでいった。


 先程サヤの鎌をたやすく弾いていたのが嘘の様に邪竜の眼の周囲は『ウロボロス』に破壊され、邪竜は大きく首を振って元凶であるサヤを振り落とそうとした。

 この邪竜の抵抗によりサヤの両脚は邪竜の体から離れたが、『ウロボロス』が邪竜の眼に深々と食い込んでいたのでサヤが振り落とされることはなかった。


 このまま邪竜の頭を内部から破壊しようと考えたサヤだったが、今体を襲っている揺れを考えると邪竜にとどめを刺す前にサヤが振り落とされそうだった。

 また腕の先に痛みが走っていたこともあり、サヤは『ウロボロス』を解除するとすぐに『飛燕』で加速して邪竜の翼を鎌で斬りつけた。


 しかしサヤの鎌は邪竜の翼に傷一つつけられず、加速の勢いに負けたサヤは鎌を落として血を無駄に消費してしまった。

 完全に邪竜から離れてしまったサヤは再び邪竜に接近しようとしたが、その時にはすでに他の隊員たちの攻撃が邪竜に届き始めていた。


 視力を奪われた邪竜に対して左右から挟み込む様に攻撃を仕掛けている他の隊員たちを見て、サヤはこれからどうするかを考えた。

 サヤとしてはもう一度邪竜の頭部に向かい攻撃を仕掛けたいところだったが、サヤが邪竜の頭部にいると他の隊員たちが攻撃をしにくいだろう。


 サヤは再生能力を持っているため邪竜と戦っている最中に他の隊員による流れ弾を食らっても問題無く、実際サヤは他の隊員たちにそう伝えた。

 しかし他の隊員たちは何故か邪竜をサヤもろとも攻撃することに難色を示した。


 隊員たちの意見を無視してサヤが行動すればシュウの怒りを買うことになるだろう。

 それはサヤとしても避けたかったのでサヤは他の隊員たちの邪魔にならないように短時間で邪竜の飛行能力を奪った後で邪竜から離れることにした。


『飛燕』で加速して邪竜を追い抜いたサヤは、右腕を鎌で斬り落として『ウロボロス』を発動すると邪竜の左の翼を飲み込み始めた。

 突然左の翼に違和感を覚えて邪竜が戸惑う中、サヤは邪竜の翼の根元の三分の二まで消し去ることに成功した。


 本当は『ウロボロス』だけで翼を切り離したかったが、邪竜の翼は薄いといっても厚さが五十センチはある。

 すでに半分以上の血を失っていた今のサヤでは翼を完全に切り離すことはできなかった。


 しかしそれはサヤも織り込み済みで、右腕を復元したサヤはすぐにちぎれかけの邪竜の翼に右手を添えると『飛燕』の最大出力で押し始めた。

 サヤによる押し込みと翼の重さにより邪竜の翼の根元の傷は徐々に広がっていき、やがて邪竜の左の翼は完全にちぎれ落ちた。


 その後邪竜の翼という支えがなくなった結果、サヤは勢い余って邪竜の後方へと移動してしまった。

 何とかサヤは空中で体勢を整えようとしたが、この時点で『飛燕』に限界がきて壊れてしまった。


 それを見たサヤはすぐに壊れた『飛燕』を自分の血液で取り込んで復元したが、復元された『飛燕』は見た目が元通りになっただけで飛行アイテムとしての機能は完全に死んでいた。

 服や近接武器なともかく『飛燕』の様な精密機器を再生能力で復元しようと思ったら、そのためだけの練習を何度もしなくてはならない。


 そのためサヤの『飛燕』は能力で復元する度に出力が落ちていたのだが、サヤはそれに気づいていなかった。

『飛燕』無しで落下を防ぐ術は今のサヤには無く、しかたなくサヤは地上への落下の衝撃を体を血液に変えることで防ぐことにした。


 やがて地上に激突したサヤは心臓を核に飛び散った血を集めて体を復元したが、そこが限界だった。

 その後視力と飛行能力を失った邪竜は『フェンリル』の隊員たちによって倒され、気を失ったサヤは隊員たちに回収された。


 サヤが車の振動で目を覚ますとサヤは車の後部座席で横になっていた。


「おう、目が覚めたか?」


 サヤが意識を取り戻したことに気づいたシュウの声を聞いたサヤは、まだはっきりしない頭を押さえながらシュウに謝罪した。


「邪竜に勝てなかった上に運んでもらってすみませんでした」

「ああ、気にすんな。戦う前にも言ったけど元々勝てるとは思ってなかったし邪竜の両目と翼を潰したなら初陣としては上出来だ。それにお前の戦いカメラで見たけど見世物としてはおもしろかったしな。特に体全体を血に変えるところはまじでグロかった。あの状態で『暴食』できれば大抵の奴には勝てるだろうな」

「……あれをしてる時は目も耳も使えないのであれをしながらの攻撃は難しいです」


 シュウにほめられて多少は嬉しかったが、自分の能力を過剰に買い被られても困るのでサヤは正直に全身の血液化の弱点をシュウに明かした。


「へー、……やっぱ一度お前の能力貸してくれ。一度使えばもっと効率のいい教え方ができると思うし」

「嫌です。何度も言ってますけど私の母親を殺した人に能力を貸したくないので」


 もう何度聞いたか分からないサヤの発言を聞き、シュウはため息をついた。


「ぶっちゃけお前、俺がお前の母親殺したこと大して恨んでないだろ?どうしてそこまで能力貸すの嫌がるんだ?すぐに返すぜ?」


 シュウに図星を突かれてサヤはかなり慌てたが、何とか表情には出さずに口を開いた。


「あなたに能力を貸すなんて考えただけでも嫌です」

「ふーん。まあ、そこまで嫌ならしょうがねぇか」


 シュウは相手と直に話せば相手が嘘をついているかどうか勘で見抜けるので、サヤがチャルチィを殺した件でシュウを恨んでいないことにはかなり早い段階で気づいていた。

 そして先程の会話でシュウに能力を貸したくないというサヤの気持ちが本気なことにも気づいたため、シュウは大人しく引き下がった。

 しかしサヤがシュウに能力を貸すのを嫌がる理由までは分かっていなかったので、シュウはサヤの向上心を煽れればとミアの初陣についてサヤに語った。


「言っとくけど孫娘は討伐局に入って最初の戦いで『飛燕』無しでBランクの邪竜と引き分けてる。さっきのやりとりでお前がまじで俺に能力貸したくないのは分かったからもう俺からこのことを言う気はねぇけど、お前と孫娘の間にかなりの差があるってことは自覚しろよ?」

「……そうですか、ミアさんが。私の鎌が全然邪竜の体に通用しなかったんですけど何がいけないか分かりますか?」


 サヤがシュウに能力を貸したくない理由はサヤとしてもこれ以上話題にしたくなかったので、サヤは話題転換も兼ねて先程の戦いで自分が邪竜を攻めあぐねた理由についてシュウに尋ねた。

 それに関するシュウの答えは簡潔だった。


「そりゃ簡単だ。お前の創った鎌、魔力ほとんど通ってねぇからな。普通の武器使ってるのと大差ねぇよ。自分の血で創った武器でそれってよっぽどだけど、まあ、魔力で武器を強化する練習は地道にやるしかないしな。もう元気ならこれ見てみろ。孫娘の斧、邪竜の翼なんてあっさり斬り裂いてるぞ」


 そう言ってシュウは取り外した車載カメラをサヤに渡した。

 しばらくカメラに記録されていたミアの戦いぶりを見た後、サヤは口を開いた。


「これは能力を使ってるわけじゃないんですか?」

「ああ、空飛ぶのには能力使ってるが、斧の切れ味の方は単純に魔力での強化だけだ」


 先程自分の鎌が邪竜に通じなかったことを思い出し、サヤは経験や身のこなし以前に能力者としての基礎の部分で自分がミアに負けていることを思い知らされた。


「どうすれば魔力での武器の強化がうまくなりますか?」

「こればっかりは筋トレと一緒で毎日続けるしかない。さっき孫娘にも言ったけど、お前討伐局に入ったばっかだってこと考えると十分強いからな?そこまで焦る必要も無いと思うぞ。ま、一つアドバイスしとくならお前は武器いくらでも自前で用意できるんだから武器に魔力通す時は制御するんじゃなくて武器を壊すぐらいの気持ちで強化すればお前だけの武器になるかもな」

「分かりました。今日から練習は始めます。それとすみませんでした」

「あ?何が?」


 唐突なサヤの謝罪を受けてシュウは思わず聞き返してしまった。


「私が気絶しなければあなたはアイギスに行けたんじゃないですか?今日の戦いはあっちでも強い敵が出そうだと隊の人たちが話してました」

「あー、そういうことか。何言い出すのかと思ったらうぬぼれるのも大概にしろ。俺がお前のために残ったと思ってるのか?単に歩きや『飛燕』で帰るのが面倒だっただけだ」

「でもせっかく強敵と戦うチャンスなのにいいんですか?」

「お前らどんだけ俺働かせたいんだよ?嘘でもアイギスに着くまでゆっくりしてて下さいぐらい言えねぇのか?」

「はい、はい。ゆっくりしてていいわよ。でも本当によかったの?Sランクが出たらあんたとしてはもったいないんじゃない?」


 今日各戦いが終わる度にアイギスに帰らなくていいのかと聞かれていたため思わずシュウが口にしたぐちを適当に聞き流しながらレイナはシュウの真意を尋ねた。

 そんなレイナにシュウは自分がアイギスに急いで帰る必要は無いことを伝えた。


「コウガとセツナがそろってるんだぞ?俺が『飛燕』で急いで帰っても着いた頃には敵は殺されてるだろ。そもそもセツナは今日が久しぶりの外出だからな。それに手ぇ出す程野暮じゃねぇよ」


 もっともここから『飛燕』を使ってアイギスまで帰った場合、魔力の消費と全身の疲労でさすがにシュウでも到着後すぐには戦えないので、『飛燕』で今から急いでアイギスに向かって戦いに参加するという仮定自体が無意味だった。


「その二人はそんなに強いんですか?」


 自分にとって雲の上の存在であるシュウと互角の能力者が二人もいるというのがサヤには信じられなかった。

 そんなサヤの前でシュウはさらに追い打ちとなる発言をした。


「ああ、強い。アイギスには俺と互角の奴が三人いるがその内の二人だ」

「へー、他にもそんな人が……」


 シュウの発言を受けてサヤはかなり驚いている様子だった。

 シュウはこの発言を事ある毎にし、シュウの言う三人とはコウガ、セツナ、そして妖精女王だというのが討伐局内の共通認識だった。


「強いぞ。後で二人の戦い資料室で見てみるといい。レベル違い過ぎて参考にならないだろうけど何かのヒントにはなるだろ」

「分かりました」


 まるで自分たちがアイギスに着いた時に戦いが終わっているのが当然というシュウの口振りにレイナは呆れた表情を浮かべた。


「よくそこまで気楽でいられるわね。あの男出撃させる度にあの男が逃げ出さないかとこっちは冷や冷やしてるんだけど」

「心配いらねぇよ。あいつもそこまで馬鹿じゃねぇから、俺とコウガが死ぬまでは大人しくしてるって言ってたし」

「それのどこに安心すればいいのよ?」

「俺とコウガがやられるような敵が現れたらセツナ関係無くアイギス終わりだからその時はあきらめろってことだ」

「はい。はい。その時は三人目に泣きつくから敵に少しでもダメージ与えといてね」

「りょーかい」


 シュウの身もふたも無い発言にレイナは適当に返事をし、それに対してシュウはレイナ同様適当な返事をしながらアイギスに向けて車を走らせた。

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