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罷免

 そんなことを知る由も無いシュウは、シンラにある質問をした。


「もしかしてじいさんの孫って赤髪のポニテか?」

「はい。もしかしてもう会ったのですか?」

「いや、直接は会ってない」


 このシュウの発言にリクとヴェーダが顔を見合わせてシンラが不思議そうにする中、シュウは別の質問をした。


「でもいいのか?命の保証はできないぞ。レイナに預けた方が無難だと思うぜ」


 ここ二年の間に隊員が一人も死んでいない隊は、『フェンリル』とレイナ率いる『レギオン』だけだ。

 入隊した後の身の安全を考えるならレイナの障壁に守られながら戦える『レギオン』一択だった。

 そう考えてのシュウの提案だったのだがシンラはそれを断った。


「かなり勝気な性格なので、おそらくシュウさんでないと指導できないと思います。それに身の安全に関しては討伐局に入るという時点で覚悟はしているつもりです」

「あっそ。じゃあ、反対する理由は無いぜ。その代わり使えなかったら普通にくびにするからな?」

「はい。強さに関してはシュウさんのお眼鏡に適うと思いますし、処遇に関してはお任せします」

「分かった。性格はともかく戦力的には申し分無い隊長にしてやるよ」

「ああ、ぜひそうしてくれ。そうすれば隊長の名を汚しているお前たちを罷免できるからな」


 シュウとシンラの会話が一段落したところで、序列二位の隊長リンドウが口をはさんできた。


〈 リンドウ(三十七) 討伐局隊長序列二位 能力:身体能力の強化 〉


 リンドウは今の隊長の中ではシンラに次ぐ古参で、配下の部隊『ナイツ』を率いて長年アイギスを守り抜いてきた。

 大柄な体格と歴戦の風格が合わさり大抵の相手を威圧するリンドウだったが、そんなリンドウの発言にシュウは笑って答えた。


「お前たち?俺はともかく後誰だよ?まさかリクとヴェーダのことじゃねぇよな?そりゃまだ頼りないかも知れないけど、おっさんと違ってまだこれからなんだから長い目で見てやれよ」


 シュウに引き合いに出されてリクとヴェーダが表情を変える中、リンドウの発言を曲解したシュウの発言にリンドウは怒りを露わにした。


「貴様とあの人殺しのことだ!お前たちの様な者が隊長では隊員たちに示しがつかん!」

「示しねぇ」


 激高するリンドウとは対照的に笑みを浮かべるシュウを見て、他の隊長たちはやはりこうなったかと思った。

 討伐局の規則を軽視するシュウをリンドウが嫌っているのは討伐局の内外問わず有名で、実際リンドウは今まで何度かシュウを罷免しようとしていた。


 いくらシュウが強いといっても組織の一員としてはリンドウが正しいので、この二人については他の隊長たちは放置するしかないのが現状だった。

 リンドウの怒りを涼しい顔で受け流していたシュウはそのまま発言を続けた。


「いつも言ってるだろ?俺やセツナが気に入らないなら俺たちより弱い優等生を隊長に据えろってな。まあ、そいつら含めて余計な被害が出るだけだろうけど」


 シュウのこの発言は正しく、仮に今シュウとセツナを罷免したとしてもその穴を問題無く埋められる人材は今の討伐局にはいなかった。

 そうでなくてはシュウはともかくセツナの隊長就任はさすがにあり得なかっただろう。


「よし、じゃあこうしようぜ。おっさんには来年まで我慢してもらって、俺が育てたシンラのじいさんの孫と交代する形で俺が辞めればいいじゃねぇか。俺はともかくセツナの代わりはそうそう見つからないだろうし」


 セツナは広範囲に毒を散布できる典型的な遠距離型の能力者だ。

 隊長が務まる程の遠距離型の能力者は貴重で、遠距離型の隊長が一人もいなかった時期も珍しくなかったのでシンラ、コウガ、セツナと三人も遠距離型がいる現状は恵まれていた。


 大量のBランク以下の邪竜相手の防衛戦の場合、敵を全滅させるまでの時間が重要になる。

 そしてシュウの様な接近戦主体の能力者は、どうしても大勢の敵を相手取った場合敵を全滅させるのに時間がかかってしまう。


 そして時間がかかればかかる程邪竜を討ち漏らす可能性が高まり、街に被害が出る可能性も高まる。

 レイナがいる今は戦いにかかる時間をそこまで気にしなくていいが、一人に依存するのは危険なので組織としては人材の層が厚いに越したことはなかった。

 それを踏まえてのシュウの発言だったのだが、リンドウはそれを残念そうに否定した。


「簡単に辞めるなどと言うな。隊長が自分の意思で辞められないのは知っているだろう。第一隊長候補が一人育ったとしても、入れ替わりで罷免されるのはお前ではなくあの人殺しだ」


 討伐局の隊長は定年を除けば、殉職か再起不能のけがをしない限り辞めることができない。

 隊長がこの二つ以外で辞める方法は罷免しかなく、隊長の罷免は王族か序列三位以上の隊長しか行えない。

 リンドウの発言を聞き、少し考え込んだ後でシュウは名案とばかりに一つの提案をした。


「じゃあ、こうしよう。シンラのじいさんの孫が育ったらおっさんが俺を罷免すればいい。それに俺と来月就任する新入りが同意すれば丸く納まるだろ」


 王族による罷免は単独で行えるが、序列三位以上の隊長による罷免は他に二人の隊長の同意が必要になる。

 これがリンドウによるシュウの罷免が行えなかった理由なのだが、さすがに自分の罷免に自分で同意するというシュウの発言には室内の誰もが言葉を失っていた。


「貴様…」


 あまりに予想外かつ無責任なシュウの発言にリンドウが再び怒りを露わにする中、シンラが口を開いた。


「そこまでにして下さい。シュウさんもリンドウさんも一度落ち着いて下さい」


 そう言うとシンラは、まずリンドウに視線を向けた。


「リンドウさんがシュウさんとセツナさんをよく思っていないことは知っています。ですが実際問題二人の代わりがいない以上、妥協するしかありません。二人を推薦した私の顔を立ててくれませんか?」

「分かりました。取り乱してしまい申し訳ありません」


 これ以上言ってもこの場で自分の意見が通ることはないだろうと判断したリンドウは、意外にすぐに引き下がった。

 続いてシュウに視線を向けたシンラだったが、シンラが視線を向けた先でシュウは笑いをこらえていた。


「まさか俺が妥協した結果だとは思わなかったぜ。そうかー、強いから勧誘されたのかと思ってたんだけど妥協かー。調子乗ってたみたいだな」

「言葉を間違えました。気に障ったなら謝ります」

「いや、別に構わないぜ。リンシャやガドナーが苦労してるの知っててこの態度なんだから、何言われたってしかたねぇさ」


 言葉の通りシンラの発言に全く気分を害した様子のないシュウに視線を向けたまま、シンラは話を続けた。


「さて、シュウさんが辞めるという話でしたが条件さえそろえば構いません」


 このシンラの発言にリンドウだけでなく他の隊長たちまで表情を変えたが、そんな隊長たちをシンラはあえて無視した。


「私の孫のミアさんを隊長が務まるように育て上げて下さい。そうしたら私、リンドウさん、レイナさんの連名でシュウさんを罷免します。リンドウさんとレイナさんも構いませんね?」

「え、えぇ、分かりました」


 意外そうな顔をするリンドウと無言でうなずくレイナを確認したシンラは、シュウとの話を再開した。


「討伐局を辞める気は無いのですよね?」

「俺の上司になったじいさんの孫が俺をくびにしない限りはな」

「でしたら構いません。嫌々続けられても困りますし、リンドウさんの言う通り示しがつきませんからね。…シュウさんがミアさんと入れ替わりで隊長を辞めるという話は決して口外しないで下さい。これは討伐局局長としての命令です。いいですね?」

「あいよ」


 シュウがうなずくのを確認したシンラは、自分の思惑通りにことが運んで内心ほっとしていた。

 シュウとリンドウが会議に出て、隊長が十人そろいそうという話になればリンドウをきっかけに先程の様な流れになることは容易に想像できた。


 来年で定年を迎えるシンラが自身最後の大仕事と位置付けているのが、シュウの序列一位への就任だ。

 シンラの隊長特権は『引退する際の全権限の指定した人物の委譲』で、シンラが指名した人物がそのまま次の討伐局局長になる。


 破格の権限に思えるが、局員の平均年齢が四十歳に満たない討伐局で定年まで勤められるわけがないと判断されて認められた。

 市民だけでなく機構の職員の間でもこの権利をリンドウかレイナに使うのではないかと言われているが、シンラはシュウが隊長に就任して以来ずっとシュウを後継者にするつもりだった。


 もちろんシュウは嫌がるだろうが、説得の方法はすでに考えているので問題無かった。

 シュウは笑ってしまう程昔のシンラに似ている。

 若い頃のシンラは自分の強さに絶対の自信を持っていて実際強かった。


 同僚や部下が次々と死んでいく中戦い続け、名実共にアイギス防衛の要となった。

 それをかさに着ての傍若無人な振る舞いも多かったが、今よりも討伐局の体制が整っていなかったこともあり見逃された。


 その後年を重ねることで自然とシンラの性格も丸くなったので、シュウの今の振る舞いもシンラはそこまで気にしていなかった。

 しかしシンラがシュウを自分の後継者に据えようと思った理由は性格ではない。


 シュウが純粋に強いからだ。

 討伐局の隊長、特に序列一位には不敗が求められるとシンラは考えていて、実際シュウに初めて出会うまではそれが実現できていた。


 初めてシュウに出会い、そして負けた時の衝撃をシンラは今でも覚えている。

 昔のことを思い出していたシンラが我に返ると、他の隊長たちが自分を見ていることに気がついた。


「すみません。少し考え事をしてしまいました。私の話はこれで終わりです。最後に研究局からの報告をお願いします」


 シンラの指示に従い、クオンが研究所で新たに開発された武器の効果や費用を説明し始めた。

 クオンの説明が終わり、その後隊長数人からの質問にクオンが答える形で研究局からの報告も終わった。

 これで本日の会議は終了し、隊長たちは次々と席を離れた。


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