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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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練習準備

 六時間以上の余裕をもって現場に着いた後、それぞれ数時間の仮眠をとったシュウとレイナは邪竜の出現予測時刻二十分前に邪竜が現れた際の打ち合わせをしていた。

 レイナは布に包まれた箱らしきものを足下に置いていた。


「その場合は俺が気持ち右に突っ込むから後はお前が合わせてくれ」

「それはいいけどスピードはさっきのでお願いね。速くても遅くても困るわ」

「分かってる。それより閉じ込め損ねた邪竜に襲われないように気をつけろよ」


 こうして起こり得る状況を考えながら話し合いを行う隊長二人から少し離れたところでギオルとミアは緊張した様子で話をしていた。


「緊張してるんですか?」


 自分から見たらすでに安定した強さと戦い方を実現しているギオルがBランクの邪竜との戦い程度で緊張しているのがミアには意外だった。

 そんなミアを前にギオルは今の素直な気持ちを口にした。


「いつも通りやれば勝てると分かってはいるんですけど、でも周りに他の隊員たちがいない以上取り逃がす可能性はありますからね。そういう意味では緊張してます。ミアさんは緊張していないんですか?」

「この前Bランクと戦った時は引き分けでしたけど、あの時と比べたら私も強くなってるはずです。だから怖いって気持ちより早く戦いたいって気持ちの方が強いです」

「……すごいですね」


 自分より六歳下のミアの自信に満ちた顔を見てギオルは素直に称賛の声をあげた。

 その後しばらくして予報通り邪竜が出現し、四人はあらかじめ話し合っていた通りに動き出した。

 まず最初に行動したのはシュウで、『飛燕』で加速したシュウは邪竜の群れに正面から突っ込んでいった。


 その後シュウと邪竜を包み込む形でレイナが障壁六枚による箱を創り、シュウが邪竜と戦い始める中レイナは舌打ちした。

 邪竜を二体だけ外に出すつもりが四体も外に出してしまったからだ。

 今回は五体までなら『フェンリル』で面倒を見ると言われていたが、『レギオン』を指揮しながら戦っている時だったらこの失敗は致命的だった。


 自分の失敗に不快になったレイナだったが今は近くに邪竜がおり、考え事をしている余裕など無い。

 そう考えて障壁から逃れた邪竜にレイナが視線を向けると、Bランクの邪竜四体はギオルとミアに襲い掛かろうとしていた。


 それを見たレイナは邪竜二体をギオルとミア、及び他の二体の邪竜から切り離す形で障壁を創り、その後切り離した二体の邪竜を誘導するために発煙筒に火をつけた。

 目立つように赤く着色された煙が発煙筒から上がり、それに気づいたBランクの邪竜二体は標的をレイナに変更した。


 数秒でレイナとの距離を詰めた邪竜に対してレイナは何度も障壁を創りながらしばらく逃げ続けた。

 その後動きを止めたレイナに対し、レイナの障壁を前脚で割ろうとしていた邪竜たちだったが打撃では壊せないと判断したのか邪竜は二体そろってレイナの障壁に火炎を放ってきた。


 その後五秒程二体の邪竜は火炎を放ち続け、邪竜たちの攻撃が終わるとそこにはレイナの姿は無かった。

 標的を仕留めたと判断した二体の邪竜は、次の標的を求めて当初の目的地だったアイギスに向けて出発した。


 レイナが逃げた方角はアイギスがある方角で、すでにこの邪竜たちは最初に邪竜たちが出現した場所から離れた場所にいたからだ。

 といってもシュウたちとこの邪竜たちの距離は二百メートルも離れていなかったので、邪竜に多少でも知恵があれば振り向いて戦闘中の他の邪竜に加勢しただろう。


 しかし邪竜はあくまで創造主が創った存在で判断力は戦闘に必要な最低限のものしか与えられていない。

 そのため目に映る敵を全て殺したと判断した邪竜たちはこの場を後にしたのだが、邪竜たちはレイナすら殺せていなかった。


「ふー、思ったよりぎりぎりだったわね」


 つい先程まで邪竜たちの火炎にさらされていた場所からレイナの声が聞こえてきたが、そこには誰の姿も無かった。

 しかしすぐに誰もいなかったはずの空間からレイナが姿を現し、その後レイナは辞書程の大きさの箱がついた衣服を脱ぎ捨てた。


 これは研究局が開発した着た人間の姿を消す衣服で、普段はアイギスの周囲で目視による邪竜への警戒を行っている民間の職員しか使っていない。

 衣服についている辞書程の大きさの箱は透明化能力発動用の小型の魔動エンジンだ。


 一見強力に見えるこの衣服だが装着者が激しく動くと効果が発揮されないという欠点があり、邪竜と遭遇した際には戦わずにやり過ごすという使い方しかできない。

 使用者の消費魔力も多い上に討伐局の隊員が使えば職務放棄と言われてもしかたがないこの衣服だったが今回は役に立ってくれた。


 消費魔力の関係からこの衣服をあまり長時間使いたくなかったので、レイナは邪竜の火炎攻撃が収まるタイミングを見計らってこの衣服を発動する必要があった。

 Bランクの邪竜を相手に訓練を行いたいなどとギオルとミアが言い出さなかったらレイナがこんな面倒なことをする必要は無かった。


そのため今回の自分の役割を終えて一息ついたレイナは自分たちの隊長同様非常識な提案をしてきたギオルとミアに文句を言いたくなった。

 しかしレイナの補助があるとはいえ隊一つでBランクの邪竜二十体を相手にしている『フェンリル』に文句を言うわけにもいかない。


 レイナは一度ため息をついて様々な不満を飲み込んでから行動に移った。

 衣服を折りたたんだレイナは無線でガドナーに邪竜二体が向かったことを伝えると、戦っている三人に視線を向けた。


 ガドナーの強さはシュウだけでなくシンラからもこれまで何度も聞いていたので、レイナはアイギスに向かったBランクの邪竜二体については心配していなかった。

 レイナが視線を向けた時点でシュウはすでに箱の中の邪竜十六体を全て倒しており、レイナが障壁を解除するのを待っている状態だった。

 レイナが障壁を解除すると、シュウはすぐにレイナのもとにやってきた。


「いやー、これちょっと必勝コンボ過ぎるな。お前の障壁次第だけどAランク三十体でも四十体でもこれでいけるだろ」

「私とコウガでもできる?」


 シュウの言う大量の邪竜をレイナの障壁で閉じ込めてから誰かが一人で倒すという案が実現すれば今後の戦略が大きく変わる。

 時間がかかり過ぎると邪竜に障壁が破壊されるので箱の中で戦う隊長は誰でもいいわけではないが、コウガなら実行役として十分だろう。

 そう考えてのレイナの質問だったが、シュウはレイナの質問を聞いて微妙な顔をした。


「コウガで今回のやろうと思ったらコウガが障壁に気ぃ遣って全力出せねぇからなー。セツナならいけるだろうけど、あいつは別の意味で無理だろ?悪いけどこの戦法使いたかったら俺で我慢してくれ」

「そう、しかたないわね。で、こっちから話しかけといて何だけど、あの二人助けるなり逃げた二体追うなりしなくていいの?」


 アイギスに向かったものを含めて邪竜がまだ四体残っているというのにまるで自分たちの仕事が終わったかのような顔をしているシュウを見てレイナは思わず質問をした。

 そんなレイナに対してシュウは涼しい顔で答えた。


「氷使いと孫娘は大丈夫だろ。今のあいつらなら一対一ならBランク程度には負けねぇよ。二対二だと万が一があるかも知れねぇけど、あいつらかなり離れて戦ってるし。逃げた邪竜に至ってはガドナーがいるんだぞ?邪竜の二体や三体どうにでもなるし、あの二人以外も育てないといけないからな。AランクならともかくBランクならあいつらのいい練習相手になるだろう」


 そう言って残る四体に関しては心配いらないと告げた後、シュウは気だるげに息を吐いた。


「今回の戦法だけど倒すのは四十体が限度だと思うからそのつもりでいてくれ」

「どうして?私の障壁ならまだかなり余裕あるわよ?」


 いつものシュウならこのコンボならいくらでも邪竜を倒せると言っているだろう。

 そう考えたレイナは自分の障壁にはまだ余裕があることを伝えたが、シュウの意見は変わらなかった。


「お前の障壁の問題じゃなくてこっちの問題だ。障壁のせいで死んで霧状になった邪竜の魔力が広がらなくて滅茶苦茶息苦しかった。今も割と気持ち悪い」

「ちょっと、大丈夫?」


 シュウの強さはあくまで技術によるもので体の耐久力などは他の能力者と大差無い。

 そのためレイナはシュウの体調を心配したのだが、シュウはそんなレイナの様子を見て苦笑した。


「大丈夫だ。気持ち悪いっていっても魔力酔いみたいなものだし、少し経てば勝手に治るだろ。別に目や耳に異常があったり能力が使えないってわけでもねぇし」

「それならいいけど……」


 魔力酔いというのは能力者が幼少期に能力に目覚めた時になるもので、個人差はあるが数日寝込む者もいるため決して馬鹿にはできない。

 研究によると魔力酔いは非能力者が能力者や邪竜が戦っている場所に長時間いる場合にも起こるそうなので、今回のシュウはこちらに近い理由で魔力酔いになったのだろう。


「二人が心配無いなら車で休んでおいて。帰りは私が運転するから」


 急に優しくなったレイナに苦笑しつつ、シュウはレイナの提案を断った。


「まじで大丈夫だから心配するな。魔力が込もってるって伝えたのは今後のために伝えただけで、俺は特にどうもなってねぇから。俺はあいつらの戦い見に行くけどお前はどうする?」

「あの二人の戦いが終わるまでは念のためここにいるわ」

「りょーかい」


 必要なことだったため伝えたのだが、魔力酔いしたとシュウに伝えられて今も心配そうな顔をしているレイナを見てシュウは再び苦笑した。

 今のシュウは別に見栄を張っているわけではなく、多少体に違和感があるといってもいざとなったら邪竜とも戦える程度には元気だった。

 むしろ今回の件でここ最近難航していた『纏刃』の更に先の技についての考えがまとまったため、シュウは上機嫌でギオルとミアが戦っている現場へと向かった。

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