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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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目標

 六月十二日(金)

『フェンリル』の訓練が終わり、サヤは予定通りミアに案内されてテュールの経営している店に向かっていた。

 その道中サヤはおとといの訓練の内容を思い出していた。


 サヤが『暴食』と名付けた自分の血に武器を取り込む技はシュウとの戦いで一定の成果を出すことができた。

 とんでも技というシュウの評価が最初はよく分からなかったが、今のサヤが連発できるわけがないというシュウの発言から『暴食』自体はほめられたとサヤは受け止めていた。


 毎日寮の部屋でナイフを取り込む練習をしたかいがあったというものだ。

 もっとも『暴食』はシュウが見抜いた通り今のサヤでは連続使用ができない。

『暴食』で武器、正確に言うなら鉄を取り込んだ直後にサヤの体を激痛と倦怠感が襲うからだ。


 今のサヤでは刀一本分の鉄を取り込むのが精一杯で、それでも取り込んだ直後に意識を失いそうになる。

 いざ実戦で『暴食』を使おうと思ったら、取り込む鉄の量は半分程に抑えないといけないだろう。


 もっともいくら取り込める鉄の量を増やしても邪竜相手では役に立たないので、将来的には邪竜の体を取り込めるようになりたいとサヤは考えていた。

 しかし鉄以外の金属を取り込んだ際に嘔吐したことを考えると、邪竜相手に『暴食』を使う時は慎重に試す必要があった。


 他にも自分の能力については課題が山積みだと考えていたサヤだったが、他にも二つ問題があった。

 一つは鎌の使い方についてだ。


 初めてシュウが邪竜と戦っている姿を見た時、サヤはその姿に心を奪われた。

『飛燕』で一気に邪竜に近づき身の丈程ある鎌を軽々と振るい次々と邪竜を倒していくシュウの姿を見て、サヤは迷うことなく自分の使う武器を鎌に決めた。


 しかし個人差こそあるものの感覚である程度こなせることも多い能力の使用と違い、武器の使い方を含む戦闘中の身のこなしというのは一朝一夕で身に着くものではない。

 実際サヤは『フェンリル』の隊員と何度か戦ったのだが、鎌の生成以外に能力を使わなかったところ一回も勝てなかった。


 サヤはシュウから武術の心得が全く無くても能力を鍛えれば邪竜とは戦えるので、無理して武器などの訓練をする必要は無いと言われていた。

 しかしシュウを目標にしているサヤとしては武術と能力のどちらも鍛えたかった。


 こうして自分の今後の訓練について考えていたサヤだったが、考えが一段落したところで先程からサヤに何度も話しかけてくるミアに視線を向けた。

 サヤとしてはシュウ以外の人間と積極的に関わるつもりは無かった。


 しかしサヤはシュウから格上のシュウとばかり戦っていると負け癖がつくので、他の隊員たち相手の訓練も行った方がいいと言われていた。

 そのためサヤはあまり話しかけてこない他の隊員たちと違い何故かサヤに話しかけてくるミアと少しは会話をすることにした。


「あなたは斧の使い方は誰に習ったんですか?」

「私は討伐局に入る前からおじい様に稽古をつけてもらっていました」


 これまでミアがいくら話しかけてもサヤは気の無い返事しかせず、ミアはかなり困っていた。

 そんな時にサヤがまともな返事をしてきたためミアは驚いたが、それでも何とかこのまま会話を続けようとした。

 しかし次のサヤの発言を聞きミアは言葉を失った。


「あなたのおじいさんは強いんですか?」

「えっ?」


 サヤの予想外の質問に言葉を失うミアを見て、サヤは不思議そうにしながらも質問を重ねた。


「あなたに稽古をつけているということはあなたのおじいさんも強いんだと思ったのですが、私は何か失礼な質問をしましたか?」


 そもそもサヤがシュウ以外の人間とほとんど話さないので問題になることは少なかったが、サヤは自分にいわゆる一般常識が無いことは自覚していた。

 あいさつや礼儀の概念も怪しく、研究局に『飛燕』を注文に行った際は読み書きができずに支払いの手続きにかなり手間取った。

 また誰かと話す際に雑談の前提となる知識をサヤが持っていないということもざらで、今回がまさにそれだった。


「私のおじい様は序列一位の隊長です」

「ああ、なるほど」


 隊長になったばかりのアヴィスはまだそうでもないが、討伐局の隊長の名前はアイギスの住民の多くが知っている。

 特に四十年以上に渡り隊長を務めてきたシンラの名を知らない者などアイギスにはおらず、ミアがシンラの孫であることも広く知られているはずだ。


 そう考えていたミアは、まるで今初めてシンラの名前を聞いたという様子のサヤを見て驚いていた。

 そんなミアにサヤは謝罪した。


「何か失礼なことを言ってしまったようですみません。シュウ隊長から私はあまりにものを知らないので周りが迷惑だから新聞ぐらいは読むように言われているのですが、読み書きはまだ勉強中なので……」


 サヤは討伐局の寮に帰ってからの時間は睡眠時間以外は全て能力の訓練と読み書きの勉強にあてていた。

 しかしサヤはどちらも独学で行っていたため、能力の訓練の方はともかく読み書きの勉強の方の成果はいまいちだった。

 そういったサヤの事情をミアは知らなかったが、先程のサヤの発言は驚きこそしたものの気分を害する内容ではなかったのでミアはすぐに気にしないようにサヤに伝えた。


「いえ、気にしないで下さい。自分の隊以外の隊長を知らない人って結構多いらしいですから」

「そうですか。クオンとセツナという隊長は名前だけは知ってますけど、他の隊長は名前も知りません」


 クオンとセツナの二人は完全に戦闘を能力に頼っている人物の例としてシュウから聞いていたためサヤも知っていた。

 しかしそれを聞いたミアは一つ気になったことがあり、すぐに確認してみた。


「アヤネ隊長とも会ったことあるんですよね?」


 サヤが初めて『フェンリル』の隊員たちと顔合わせをした際にミアはその場にいなかったが、そこで何があったかは他の隊員たちに聞いて知っていた。

 そのためサヤがアヤネも知っていると思いミアは質問し、ミアの質問を受けたサヤはしばらく考え込んでから口を開いた。


「あの人隊長だったんですか。普通の隊員だと思ってました」

「……そうですか」


 もちろんアヤネはサヤに初めて会った時に名前も役職も告げた。

 しかしシュウに助けられて以降のサヤは周りからの声掛けに一切反応せず、話自体もろく聞いていなかった。


 そのためサヤはアヤネが隊長であることを今初めて知り、あの女も自分より強いのかと対抗心を燃やしていた。

 サヤはシュウがサヤのことを他の隊員と同様に扱うことを大変不快に思っていた。


 サヤに命を狙われているという警戒をしてくれればまだましだったのだが、シュウはサヤのことをまるで警戒しておらず実際これまでサヤが行った奇襲は全てシュウに防がれた。

 サヤは別に強くなること自体を目的としているわけではなく、サヤにとって強さとはシュウに自分を見てもらうための道具だった。


 しかしシュウが特別視する程の強さとなると並大抵の努力では手に入らず、サヤもそれは理解していた。

 そのためサヤは周囲が気づいていない程強くなることに貪欲になっており、それと同時に最初に設定した目標が高過ぎたがゆえの焦りも感じていた。


「アヤネ隊長は隊長の中だとどれぐらい強いんですか?」

「うーん、どうでしょう?アヤネ隊長の場合は強さ以前に『時間加速』どうにかしないと勝ち目無いですからねー。『時間加速』無しなら少しは勝負になるとは思いますけど」


 能力者の強さについて話す時に本人の戦闘力と能力の強さを分けて話すことは無意味で、そんなことはミアも分かっていた。

 しかしそう分かってはいても口にせずにはいられない程アヤネの『時間加速』は大抵の能力者にとって反則じみた技だった。


 アヤネの『時間加速』に対応しようと思ったら瞬時に『魔装』やレイナの障壁の様な防御手段をとるかシンラやセツナの様に全方位に一気に攻撃するかしか対抗手段は無い。

 しかしどちらの手段を取るにしても半端な練度の能力で行っても隊長のアヤネには突破されてしまうので、大抵の能力者にとっては『時間加速』への対抗手段は無いも同然だった。


「他の隊長にならあなたは勝てるんですか?」

「シュウ隊長が言うには一年後はともかく今の私では一番弱い隊長にも勝てないそうです」

「……そうですか」


 先日サヤがシュウにサヤとミアのどちらが強いかを聞いたところ、現時点ではミアの方が総合力では上だとシュウは答えていた。

 シュウの発言が間違っているわけがないので、今のミアが無理ならサヤでも隊長に勝つのは無理だろう。


 そうサヤが考えていると、二人の前にアヤネが姿を現した。

 ちょうど自分たちがアヤネの話をしている時にアヤネが現れ、驚いた様子のミアをよそにサヤはアヤネにあることを頼んだ。


「あなたに頼みがあります」

「頼み?あなたがテュールさんの店で働くってシュウから聞いたからちょっと顔出したんだけど、店ならもうすぐよ?」


 この状況でサヤにされる頼みなどテュールの店への道案内しか思い浮かばなかったためアヤネはこの様な発言をしたのだが、サヤの頼みはアヤネの予想から完全に外れていた。


「『時間加速』を使わないで私と戦って下さい」

「え?ちょっと待って?今?」


 サヤの唐突な頼みを聞き戸惑った様子を見せるアヤネの前でサヤはすでにナイフを取り出しており、そんなサヤをミアが止めようとした。


「サヤさん、こんな街中で刃物なんて取り出しちゃ駄目ですよ!」


 興行地区はアイギスの南西の街と外周部の境目にあり、ミアとサヤが目指していたテュールの店は興行地区の外周部寄りの場所にある。

 興行地区は元々昼は人通りが多くなく、それに加えて三人が今いる場所はテュールの店の近くだったため仮にここで戦いを始めても街の人間に見られる心配は少なかった。

 しかしだからといってここで戦いを始めてもいいというわけではない。

 そう考えてミアはサヤを止めようとしたのだが、アヤネが視線を向けてきたため発言を控えた。


「理由次第では戦ってもいいわよ?」


 アヤネにこう言われてサヤは自分の意図を伝えた。


「私は強くなりたいと思っています。必要なら隊長と同じぐらいまで強く。でも私はシュウ隊長以外の隊長と戦ったことがなくて他の隊長がどれだけ強いのか分かりません。そしてあなたは私がシュウ隊長以外で知っている隊長なので勝負したいと思いました」


 このサヤの発言を聞いたミアは何て身勝手な発言だろうと思いアヤネが怒らないか心配したが、アヤネは特に怒った様子も見せずに口を開いた。


「言いたいことは分かるわ。シュウ相手だと負けて当たり前だからいまいち強くなってるって実感できないでしょうし。……いいわよ。ただし条件があるわ」

「何ですか?」

「この場で三回戦ってあげるからこういうのは今日で最後にして。あなたはぴんとこないかも知れないけど、私たち外周部出身者の不祥事を心待ちにしてる連中って結構いるからこういうこと何度もされると困るの」

「分かりました」


 アヤネの予想通りサヤはアヤネの発言の意味はあまり理解していなかったが、機構本部の外で誰かに行動をたしなめられたら素直に従うようにシュウに言われていたためサヤはアヤネの指示に従うことにした。


「じゃあ誰かに見られても面倒だからそこの店の屋上で戦いましょう。そこの店の店長とは知り合いだから後で文句言われることもないだろうし」


 そう言ってアヤネが指定した店の屋上に三人は移動した。

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