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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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申し出

 その後隊員の多くが立ち去る中、シュウは話を再開した。


「店の経営者には連絡入れとくからあさって行けばいい。あのお人好しなら雇ってくれるだろうよ」


 そう言って店の場所をサヤに伝えようとしたシュウだったが、アイギスの土地勘があまりないサヤはシュウの説明を聞いても理解できていない様子だった。

 しかたがないのであさってはサヤに同行して店まで行こうとシュウが考えていると、そこにミアが口を挟んできた。


「ねぇ、私がサヤさん案内していい?さっきの説明で大体の場所は分かったし」

「俺は別に構わねぇけどいいのか?興行地区の近くだぞ?」

「大丈夫よ、私ももう十五だし。変な店に入らなければいいんでしょ?」


 興行地区というのはアイギス公認の風俗店やカジノがある地区で、十五歳以下の立ち入りが禁止されている場所だった。

 ミアの言う通りミアもサヤも十五歳なので(サヤは怪しいが)入るだけなら問題は無かった。


 しかしミアが顔を赤くした上に若干声も上ずっていることから分かる通り、興行地区に入ることに抵抗がある者がいることも事実だった。

 しかしサヤと話す機会を狙っていたミアとしては今回の件はうってつけだったので、多少迷ったもののミアはサヤの案内を申し出た。


 出撃の度に殉職者が出るため隊員の平均年齢が二十歳を下回っている他の隊と比べ、『レギオン』と『フェンリル』の隊員の平均年齢は五歳程高い。

 そのためミアの次に若いのが二十歳のシュウのため、ミアは同じ歳のサヤと仲良くなるための機会をうかがっていた。


 ちなみに同様の悩みは一番歳が近い同僚のリンドウとすら三十歳近く歳が離れているシンラも抱えていた。

 ミアがサヤの案内を申し出た理由は分からなかったシュウだったが、サヤにはシュウ以外の隊員とも交流を持って欲しいとシュウも考えていたためミアの申し出に特に反対しなかった。


「昼に行けばそこまで変な事にもならないだろ。あっちには昼の二時頃に行くって伝えとく」

「分かりました」


 シュウの発言にサヤが返事をした横からミアが質問をしてきた。


「店の経営者ってどんな人?シュウ隊長みたいな人だとサヤさん怖がっちゃうんじゃない?」

「安心しろ、俺とは真逆の偽善者だからな。お前も名前ぐらいは聞いたことあると思うぞ?テュールって女だ」

「えっ!あんた、あのテュールさんと知り合いなの?」


 あまりに意外な事実を聞き、ミアは久しぶりにシュウをあんた呼ばわりしてしまった。

 シュウと話があったために残っていたガドナーがこれを聞き眉をひそめたが、この場に部外者はいないため何も言わなかった。

 そんなガドナーには気づかずにシュウたちは話を続けた。


「ああ、あいつとは利害が一致することが多くてな。しゃくだけど色々協力するはめになってる」

「まあ、考えてみればテュールさんは外周部の有名人なんだからあんたと知り合いでもおかしくはないか」


 現在の外周部の住民たちの間で敵に回してはいけないと言われている人物が三人おり、シュウ、妖精女王と並び称される三人目がテュールだった。

 といっても強さと容赦の無さから恐れられている二人とテュールでは敵に回してはいけないの意味合いが違った。


 以前外周部の住民同士の争いをテュールが仲裁したことがあったのだが、その際に一人の男が適当に振るった拳がテュールの顔に当たったことがあった。

 その時すでにテュールは外周部の住民の生活や就職の相談に乗っていたため、外周部の住民の多くから絶大な支持を受けていた。


 そのためテュールを殴ってしまった男は村八分されることになり、その後一部の人間が男をリンチしようとまでしたため男は街へと逃げ出す羽目になった。

 結局男はその後警察に捕まったのだが、その後テュールに表立って逆らう者は外周部にいなくなった。


 その他にも特別指定犯罪者の一人の逮捕、孤児院の経営、才能ある外周部の住民の研究局への紹介と様々な活躍をしているテュールだったが、そのせいでテュールは街の上流階級からはシュウ以上に嫌われていた。


「あのテュールさんに会えるなんてついてるわね。前に一度だけ街で演奏してるところ見たけど優しそうな人だったし」

「お前に音楽楽しむ感性があったとは驚いたな」


 テュールはアイギスの二大歌姫の一人、アリアと組んで時々街の施設で演奏を行っているためミアがテュールを見知っていたことにはシュウは驚かなかった。


「優しくて楽器の演奏もできてその上強いなんてまさに私の理想だわ。サインもらってもいいかしら」


 このミアの発言にシュウは眉をひそめた。


「あいつそういうのまじで嫌がるから止めた方がいいぞ」

「え、そうなの?」


 浮かれていたところに水を差され、ミアはまじめな表情でシュウに視線を向けた。

「ああ、あいつは頭いかれてて、人助けなんてして当然だと思ってるからな。自分が普段してることほめられること自体が嫌らしい」

「……へぇ」


 以前ミアが友人とテュールとアリアの演奏を聞きに行った時は二人共聴衆の声援に笑顔で応えていた。

 そのためテュールが相手にぞんざいな態度を取ると聞きミアは意外に思ったが、その理由を聞いた後では浮かれていた自分が恥ずかしくなった。


「とりあえずあさっての件はお前に任せる。別にあいつもサインはともかく話ぐらいなら嫌がらないと思うぜ。じゃあな」


 そう言うとシュウは何やら自分に用がありそうなガドナーのもとに向かった。

 その後訓練で『死亡』したサヤはできるだけ一人にしておきたかったので、ミアにもあまり長居しないように伝えるとそのまま二人は訓練室を後にした。


「ギオルさんとミアさんは分かりますが、サヤさんもそこまで強いのですか?」


 機構本部四階のシュウの部屋に着くなりガドナーは先程の三人に対するシュウの評価について質問をしていた。

 シュウはこの部屋を全く使わず、週三回業者が掃除をしているため汚れてはいないが備え付けの家具以外何も無い。

 そのためシュウはお茶も何も出さなかったが、そういった事情を知っているガドナーは特に気にした様子も無かった。


「ああ、あの地味子はクオンやセツナと同じ典型的な能力が強いってタイプだ。だから武器の使い方や身のこなしはまだまだだが、最終的にはかなりのものになると思うぞ」

「なるほど。隊長がそう言うなら期待できそうですね。しかし隊長も気にしてましたけど、サヤさんは他の隊員と全く交流をしないのでそこは困ったものですね」


『フェンリル』の隊員の中には打倒シュウを合言葉に訓練後に有志で集まり、互いの能力や連携などについて話し合っている者もいる。

 さすがにここまでの熱意を強制する気はガドナーにも無かったが、シュウに代わって隊の指揮を取ることが多いガドナーとしてはサヤが他の隊員たちなど眼中に無いという態度を隠そうともしないことは悩みの種だった。


 サヤの境遇は『フェンリル』の隊員も知っているので隊員たちがサヤに不満をぶつけるという事態には今のところなっていない。

 しかしサヤと他の隊員たちの間にある距離感は放置するとその内問題となりそうだった。


「あいつに関しては孫娘に任せとけ。他の隊員たちとうまくやれなくても問題無い程度には鍛えるつもりだし、最悪の場合一人で動くって方向で戦わせてもいい」

「それはさすがに危険過ぎると思います。私もリンシャさんもサヤさんばかりに気を配るというわけにはいきませんし」


 シュウの提案したサヤの運用方法に即反対したガドナーだったが、シュウはそれを聞いても落ち着いたままだった。


「大丈夫だ。さっきも言ったけどあいつどんなけがしてもすぐに治せるし、『飛燕』まで装備してるんだぞ?Bランクの邪竜程度が相手なら勝てはしないかも知れないけど、負けることも無いだろ」


 実際『飛燕』はここ最近の研究局が開発した装備の中では群を抜いて優れている装備だとシュウは考えていた。

 飛行用装備として開発された『飛燕』だったが、単純に地上での高速移動にも使える上に加速をつけて拳による攻撃の威力を上げることもできる。


 またシュウですら使用が困難だったため今回は見送られたが、将来的には『飛燕』使用のノウハウが蓄積されて足に装備するブーツ型の『飛燕』が開発・使用されるかも知れない。

 もっとも今ある籠手型の『飛燕』だけでも相当強く、体術が得意な能力者が『飛燕』を両手に装備して殴りかかってきたらシュウでも手こずるだろう。

 刀を持ったシュウと素手で渡り合えるとある女のことを思い出してそんな事を考えていたシュウの耳にガドナーの声が届き、シュウは意識をガドナーとの会話に戻した。


「先程の訓練でギオルさんたち三人を同時に相手するのは面倒だと言っていましたが、将来的には訓練がもっと厳しくなると考えていいですか?」

「いや、これ以上俺の方強くしてもしかたねぇから、お前らの人数の方を減らすつもりだ。氷使いと孫娘だけは分けて、後は適当に二等分しといてくれ」


 訓練中にしている手加減を徐々に少なくして訓練時のシュウの強さを上げることは可能だったが、現時点でシュウはAランクの邪竜の戦闘力を再現して訓練を行っている。

 さすがに隊員たちをSランクの邪竜と戦わせる気はシュウにも無い。


 そのためAランクの邪竜より強い相手との訓練などするだけ無駄なので、シュウは自分のこの考えに特に問題は無いと考えていた。

 しかしガドナーが不安そうな顔をしていたのでシュウはガドナーに安心するように伝えた。


「安心しろ。別に今すぐってわけじゃねぇ。新入り共が最低限は戦えるようにならないとさすがに無謀だし、隊員全体の腕も上がってるからな。地味子がどれだけ成長するかも分からないから場合によっては三等分する可能性もあるし、やる前にはちゃんと伝えるさ。ただ俺がこういう事考えてるってことだけはあいつらに伝えといてくれ」

「分かりました。しかしサヤさんに関してはこのまま放置というわけにも……」


 シュウとしてはサヤが『フェンリル』になじめるかどうかは失敗前提で考えていた。

 サヤの境遇を考えると社交的になれという方が無理で、強くなって自立しようと考えている分サヤは不幸アピールに余念が無かった『メリクリウス』の面々より余程ましだと考えていたからだ。

 そのためガドナーの心配はするだけ無駄だと思っており、シュウは自分の考えを正直にガドナーに伝えた。


「あいつの境遇考えれば社交的になれって方が無理だろ。バイトで接客すれば少しはましになるかも知れねぇけど、正直俺はあいつの性格については放っておいても問題無いと思ってる。別に隊員全員が仲いい必要無いだろ?実際うちと『レギオン』以外の隊はまじでそっけない感じらしいぞ?」


 シュウはこれまで何度かレイナに呼ばれて隊の訓練方法について意見を聞かれていた。

 シンラがレイナに頼んでいた隊の訓練方法の手引き書作りのためで、その際にシュウはレイナから他の隊の様子を聞いていた。


 どの隊も淡々と訓練を行うだけで一部の隊員を除き隊としての士気は低く、同じ隊でも隊員同士で名前を知らないのが普通らしい。

 いつ死ぬかも分からない同僚の名前などいちいち覚えていられないということだろう。


 これに関してはシュウも全く同じ理由で自分が強いと判断した相手の名前しか憶えないので納得できた。

 しかしガドナーは食い下がった。


「うちの隊は殉職者を出さずにやってこれているんですから、他の隊のことを気にしてもしかたないと思います。それに隊長抜きでAランク五体を相手にしようと思ったら少しでも不安要素はなくしておきたいですし」

「まあ、それはそうか。……そうだな、下見て安心するなんてどうかしてた。地味子については俺の方で考えてみる」

「はい。お願いします」


 シュウが他の隊を下呼ばわりしたことが引っかかったガドナーだったが、それをシュウに言っても無駄だろうと考えてガドナーは部屋を後にした。

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