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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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実演

 シュウがサヤに訓練をつけ始めてから二十分程経った頃、機構本部四階の会議室にはシュウとセツナ以外の隊長、そしてリンシャの姿があった。

 隊長たちが集まっての会議にシュウの代わりにリンシャが出席するのはすでに何度も行われていたことなので、会議に参加している隊長たちはアヴィスを除き全員がリンシャに同情的な視線を向けていた。

 シンラもその一人で、今も気まずそうにしているリンシャのために早く会議を終わらせようと会議を始めた。


「明日の午後一時二十分頃、アイギスから東に二十キロの地点にAランク十体が現れるとの報告が研究局からありました。三つの部隊に出てもらおうと思っていますが、希望する隊はありますか?」


 Aランク五体が一つの隊の対応できる平均的な数だとされているので、単に今回出現が予想されている邪竜を倒すだけなら二つの隊を出すだけで十分だ。

 しかし毎回必要最低限の戦力で邪竜を相手にしていると必要以上に被害が出てしまうため、余裕がある場合はできるだけ多くの隊で対応することにしていた。

 本来なら討伐局局長のシンラが出撃する隊を決め、それをシンラが無線で隊長たちに伝えればわざわざ隊長全員が集まる必要は無い。


 しかし毎回少なくない犠牲が出る邪竜討伐任務に出る隊を討伐局局長が一人で決めていると、出撃を命じられた隊の隊員や殉職した隊員たちの家族の不満が討伐局局長に集中してしまう。

 それを防ぐために出撃する隊は隊長全員が集まって決めることになっていた。

 シンラが各隊の希望を聞いた後、最初に口を開いたのはリンシャだった。


「Bランク以上が相手なら出たいと隊長が言っていたので私たちは出ます」


 Bランク以上の邪竜数体を相手にして部下に犠牲を出さないというのは不可能に近い。

 そのためできれば邪竜討伐を志願したくないというのがほとんどの隊長の本音だったので、部下に邪竜と戦いたいと言っているシュウとそれを聞いて全く嫌そうな顔をしていないリンシャを見て隊長たちは驚いた。


 シンラも他の隊長同様内心驚いていたが、リンシャの提案を断る理由も無かったのでシンラは残り二つの隊を決めようとした。

 その直後クオンが出撃すると言ったため、コウガを始めとした他の隊長たちは再び驚いた。


 クオンは隊長の仕事そのものに消極的で、クオンが出撃するのは一定期間出撃していない時にノルマ的に出撃する場合がほとんどだったからだ。

 そんなクオンがどうして自分から出撃を志願したのか不思議に思っていた隊長たちの前でクオンは説明を始めた。


「一度シュウが『飛燕』を実戦で使うところを見てみたいと思っていました。それに『魔装』も使ってもらって、それを研究局の部下に撮影させたいと思ってます」

「研究局の方をですか?それはさすがに危険過ぎるのでは……」


 各隊と邪竜の戦いの様子なら邪竜と戦っている隊が全滅した際の連絡要員を兼ねた人間が毎回撮影している。

 そのため研究局局員が危険を冒す必要は無いとシンラは考えたが、クオンは引かなかった。


「毎回研究局の部下を現場に出すつもりはありませんけど、『飛燕』も『魔装』もこれからの研究にとって重要なものなので今回だけは許可して下さい。もちろん研究局の部下の護衛に隊員を使ったりはしません」

「分かりました。邪竜との戦いに支障をきたさないというのなら、クオンさんの好きにして下さい」


『プロメテウス』の隊員は研究局局員の同行を知って不満を持つだろうが、それぐらいはクオンも分かっているだろう。

 そのためクオンが構わないというならこれに関してはシンラが口を出すことではなかった。

 こうして出撃する隊が二つまで決まったところでシンラはアヴィスに視線を向けた。


「どうでしょう、アヴィスさん?今回の任務は比較的簡単な部類だと思うので、初任務にはうってつけだと思うのですが」

「分かりました。クオンさんとシュウさんの足を引っ張らないようにがんばりたいと思います」


 アヴィスはそう言ってシンラに出撃の意思を示した後、クオンとリンシャに頭を下げた。


「それでは今回は『プロメテウス』、『オーダー』、『フェンリル』に出撃してもらいます。念のため明日は『シールズ』に本部待機をしてもらおうと思います」

「分かりました」


 こういった場合に本部待機を命じられた隊が実際に出撃することはまずないため、シンラの要請にコウガも特に不満そうな様子は見せなかった。


「それではこれで会議を終わります。クオンさん、アヴィスさん、そしてリンシャさん。明日はよろしくお願いします」


 シンラのこの発言で会議は終わり、会議に参加した者たちはそれぞれ退室した。

 会議が終わり自分の部屋に戻ったシンラは、今後の隊員の補充について考えていた。

 各隊長たちががんばってくれたおかげで先月の戦いの後討伐局を辞めたいと言い出した討伐局局員の半分以上は慰留することができた。


 しかし今後送り込まれてくる邪竜の数と質が落ちることはないので、このまま何も考えずに邪竜の迎撃だけを行っていたら必ず限界が来てしまう。

 シュウやコウガといった突出した戦力がいる以上、当分は現れた邪竜を倒すだけならどうにかなるだろう。


 しかし討伐局の各隊の隊員の数が減り続け、補充が追い付かなくなればいずれアイギスを守り切れなくなり最終的には街を維持できなくなる。

 明日の戦いは先程アヴィスにも言った通りかなり戦力に余裕があるので心配無い。


 しかしほとんどの戦いはそうはいかず、隊員のある程度の犠牲はしかたがないという今の風潮をシンラは改善したいと長年思っていた。

 そう言った意味では隊員を死なせずに戦っているシュウとレイナにシンラは期待しており、レイナには隊の育成と運営の手引き書作りを頼んでいた。


 しかしシンラが頼んだ時点でレイナもうまくいくかは分からないと答え、仮にレイナの手引き書作りがうまくいったとしてもすぐに効果が出るわけではない。

 こういう時に単に強いだけの自分にシンラは限界を感じ、後継者にと思っているシュウもこういった方面は不得手だろうから引退までに最低限の見通しはつけておきたいと思っていた。


 六月七日(日)

 この日の早朝、邪竜が出現する現場に向かうためシュウ、クオン、アヴィスはそれぞれの隊員と共にアイギスの郊外にいた。

 今回は隊を率いての移動のため全員が徒歩での移動で、現場に到着して即戦闘という状況を避けるために朝六時に集合となった。

 そのためシュウは集合場所に来た今も眠そうにしていた。


「朝五時とか人間の起きる時間じゃねぇよ」

「ほんと、もっと近くに現れてくれればいいのに」


 クオンは隊長としてはともかく研究局局長としては人目を気にしている。

 そのためクオンはシュウと違い普段通りの様子だったが、それでも若干眠そうだった。


「自分で会議に出ないからこんなことになるんですよ」


 とても隊員や市民には聞かせられない愚痴をこぼす隊長二人を前に複雑な表情をするアヴィスや各隊の副官をよそにリンシャは先程から何度も自分を恨めしそうに見ているシュウに冷ややかな視線を送った。


「次からはSランクじゃなければ午前中は止めといてくれ」

「分かりました。朝早くは全部うちで受けときますね」


 リンシャは別にイエスマンではないのでシュウの勝手な要求を真顔で切り捨てた。

 そんな光景に驚いていた他の面々だったがいつまでもここにいるわけにもいかない。

 隊長三人がそれぞれ隊に指示を出し、シュウたちはアイギスを出発した。


 その後隊から離れたところをシュウとクオンは話しながら歩いていた。

 アヴィスがこの場にいないのは二人と違い副官を指名していないため自分で隊の引率をしないといけないからだ。


「話には聞いてたけどほんとに作ったんだ、それ」

「ああ、ほんとはもっと飾りとかにもこだわりたかったんだけど、訓練用だからこれで我慢するつもりだ」


 シュウはいつも通り腰に刀を差しているが、それとは別に刃と柄が身の丈程もある鎌を所持していた。

 研究局の部下からシュウが大きな鎌を作ったという報告は受けていたクオンだったが、それでも実物を見ると実用性を疑わずにはいられなかった。


「それ使いづらくない?」

「邪竜相手なら適当に武器振り回してりゃ勝てるし、それに人間相手でもこれ武器で受けようと思ったらすげぇ大変だぞ」

「ふーん。でもどうしていきなり鎌なんて作ったの?」


 クオンは以前シュウから一番好きな武器は刀だと聞いていたので、いくら実用に耐え得るといってもシュウが今さら新しい武器を持ったことが不思議だった。


「最近うちの連中が強くなってきたんで、そろそろ訓練にも変化が欲しいと思ってな。そろそろ新しい武器をと思ってたんだ」

「それ訓練用ってこと?」


 自分の隊への訓練を一切しないクオンにとってもわざわざ部下の訓練のために武器を用意するというのは驚きだった。

 もっともこれでシュウに敬意を抱く程クオンとシュウとの付き合いは浅くなかった。


「ゲームとか漫画で見た武器を実際に使いたくなったっていうのは分かるけど、どうして訓練用の武器わざわざ今日持って来たの?」


『フェンリル』相手の訓練に使うだけならまだしもシュウが今持っている鎌は持ち運ぶには大き過ぎる。

 実際鎌を持っているシュウは微妙に歩きにくそうにしており、そんな思いをしてまで訓練用に作った武器を邪竜と戦う現場まで持っていく理由がクオンには分からなかった。

 そんなクオンにシュウは説明を始めた。


「実際にこれ使ってみたんだけど、思ったより威力が高くてな。邪竜相手に練習しないとあいつらに余計なけがさせちまいそうだから、こうして練習用に持って来た」


 鎌の刃で斬る分にはシュウの技量で手加減ができたが、鎌の刃先で何かを刺した時の威力がシュウの想像より高かった。

 そのため新しく用意した鎌をいきなり訓練で使うのはまずいとシュウは判断したのだが、隊の訓練用の武器の練習を邪竜相手にするというのは順番が逆なのではとクオンは思った。

 しかし戦いに関してシュウに口出しする程クオンもうぬぼれてはいない。

 その後クオンは新しく手に入れたゲームや今開発中の装備の話をシュウとしながら現場へと向かった。


 そしてシュウたちが現場について一時間程経った頃、シュウたちの前にいつもの渦が発生して予報通りAランクの邪竜十体が姿を現した。


「すること無いのもひまだろ?二体ずつは残しといてやる」


 シュウはクオンとアヴィスにそれだけ言うと、『飛燕』で一気に加速して邪竜の群れに近づき左から五番目と六番目にいた邪竜の首を鎌でたやすく斬り落とした。


「今回はお前らで一体倒してみろ。残りの三体は俺が始末する」


『フェンリル』の隊員たちにそう告げたシュウは、その後立て続けに邪竜の頭部や首を斬り裂いて次々と邪竜を消滅させていった。

 シュウがこれまで邪竜を倒すのに使っていた時間のほとんどは移動時間だったため、それを解消できる『飛燕』を装備したシュウにとってSランク以外の邪竜を瞬殺するなど造作もないことだった。

 クオンやアヴィスを含む他の者がまだ邪竜と交戦状態にすら入っていないにも関わらず、シュウは邪竜出現後二分も経たない内にAランクの邪竜四体を倒した。



「さてと後はゆっくり実験させてもらおうかな」

 シュウの活躍にほとんどの者が言葉を失う中、ただ一人シュウに文句を言う者がいた。


「ちょっとシュウ、邪竜全部倒してとは言わないけど『魔装』使って欲しいっていう私の頼み忘れてない?」


 何のために朝早く起きて部下共々ここまで来たと思っているのかとクオンはシュウの振る舞いへの不満を口にした。

 ちなみにシュウが邪竜四体を瞬殺したことに関しては、クオンはコウガとシュウが戦闘でどれだけ規格外のことをしても二人なら当然だと思っているため特に驚いてはいなかった。


「わりぃわりぃ。素で忘れてた。撮りやすい様に空中で使うからそう怒るな」


 クオンの不機嫌そうな声を聞き、シュウは慌てた様子で名前をつけたばかりの技、『纏刃』を発動した。

 アヴィスとの戦いで使ったこの技をシュウはあの後四時間程練習して完成させた。


 大抵の技を思いついてすぐに実現できる自分が完成させるのに数時間かかったのだから、大抵の能力者にとって『魔装』の会得は無理だろうとシュウは考えていた。

 シュウがそう考えていた間に邪竜はシュウ目掛けて火炎を吐き出した。


 それに対してシュウは『飛燕』でホバリングしたまま火炎を回避する素振りも見せず、邪竜の放った火炎をまともに受けた。

 数秒後邪竜が火炎を放つのを止めると、空中には傷一つ無いシュウの姿があった。


「クオン、後何回か使った方がいいか?」

「ちょっと待って、……うん、後二回お願い、できれば邪竜に直接攻撃されて」

「りょーかい」


 戦闘中のシュウの姿を複数の機器で計測していた自分の部下と連絡を取った後、クオンはシュウに戦い方の注文をした。

 それに文句一つ言わずにシュウは邪竜が目で追える速度で近づき、邪竜の前脚による攻撃を誘った。それにまんまと乗った邪竜がシュウを叩き落そうと左前脚を振るったが、邪竜の左前脚はシュウの『纏刃』に触れた途端消滅した。


「ほーら、後一回だ。がんばれ」


 邪竜の顔を殺さない程度に数回斬りながらシュウは邪竜を挑発し、それを受けて邪竜はシュウ目掛けて突撃を敢行した。

 邪竜にも頭から突撃しない程度の知恵はあったらしく、邪竜は左肩にあたる部分でシュウを押し潰そうとした。

 しかしどこでぶつかろうがAランクの邪竜の突撃程度で『纏刃』を突破できるはずが無く、シュウにぶつかった邪竜の体は大きく吹き飛んだ。


「おっと、やべぇ、やべぇ」


 邪竜の突撃自体は『纏刃』で問題無く防げたが、『飛燕』の出力が邪竜の突撃を支え切れなかったためシュウは後退を余儀無くされた。

 その後すぐに鎌で『空間切断』を発動して足場を創ったシュウは、クオンに話しかけた。


「おい、もういいだろう?今の地味にやばかった!」

「うん、もう十分。ありがとう」

「ったく、モルモットも楽じゃないぜ」


 クオンから自由に戦う許可をもらったシュウは、ようやく今日の目的の鎌を使う際の手加減の練習を邪竜相手に始めた。

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