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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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それぞれの努力

 クオンを始めとした研究局局員がシュウとコウガに『魔装』をどのように発動しているのか尋ねたところ、シュウは薄く伸ばした魔力二枚を逆方向にこすり合わせる様にしていると答え、コウガは圧縮した魔力を一気に爆発させると答えた。

 全く研究の役には立たない二人の意見だったが、こればかりはしかたがないとクオンは考えていた。


 クオンだって自分の能力で他者の能力を移動する際の感覚を具体的に説明するように言われても抽象的な説明しかできないからだ。

 とりあえずは他の研究同様少しずつ進めていくしかないとクオンは考えていたが、それでも自分が『魔装』を使えることを隠していたシュウへの不満はあった。


「シュウが『魔装』使えるってこともっと早く教えてくれてたら研究もずっと進んでた。ほんとにシュウは出し惜しみするから困る」

「出し惜しみしていたわけではないと思うぞ。あいつには『空間切断』があるからな。わざわざ『魔装』を使う必要が無かったというだけだろう。それを後輩の指導で使ってしまうのがあいつらしいが」


 どのような流れでシュウが『魔装』を使ったのかコウガは知らなかったが、シュウが余計な見栄を張るために『魔装』を使ったのであろうことは容易に想像がついた。

 なめられたら終わりというチンピラの様な考え方で行動しているのがシュウだからだ。


「でもコウガだけじゃなくてシュウも『魔装』を使えたってことはもしかしてセツナも使えるんじゃない?」


 事ある毎にシュウはコウガとセツナが自分と互角の力を持っていると口にしている。

 そのためのクオンはこの様な心配をしたのだが、コウガはそれを否定した。


「その心配は無い。あいつが言うにはあの人殺しは努力というものが嫌いらしいからな。あいつの『魔装』を見れば分かるだろうが、『魔装』は才能だけでできるようになる技術じゃない。能力にかまけた快楽主義者には使えないだろう」

「ふーん。それならいいけど今回のシュウの話聞いてセツナが隠れて訓練とかし始めたら面倒じゃない?」

「……もしそうなってあの人殺しが脱獄したとしても俺かあいつのどちらかが対応すれば済む話だ。もちろん他の隊長と一緒にな。どれだけ強くても一人が相手なら数で押せばどうとでもなる。そんなに心配するな」

「うん。分かった」


 幼馴染の発言を聞き、納得した様子のクオンはコウガに食事にしないかと提案した。


「今からカレー食べるけどコウガもどう?」

「あいつが作ったのか?」

「うん。残すとシュウ超怒るから減らすの手伝って」


 クオンが料理を含めて家事全般が駄目なことを知っていたコウガの質問にクオンは即答し、コウガにまでシュウの手料理を勧めてきた。

 ちょうど昼食時だったのでコウガはクオンの提案を受け入れたが、クオンとそろってシュウの手料理を食べるという状況に釈然としない気持ちを抱いた。

 そして食事が終わりしばらく経ってからクオンはコウガにあるものを差し出した。


「何だこれは?新しい飛行装備なんてどうして今……」


 いきなりクオンが『飛燕』そっくりの籠手型の装備を自分に差し出してきたことにコウガは戸惑った。

 そんなコウガにクオンはこの装備の説明を始めた。


「これは『飛燕』じゃない。コウガ専用に私が作った装備。空を飛ぶ用じゃなくて単に技の威力を上げる」

「こんなものを作っていたのか」


 クオンに促されたコウガが籠手こて型の装備を左手にはめて魔力を流すと、確かに素手より格段に魔力が増幅されていた。

 しかしこの籠手を装備したコウガはある不安を抱いた。


「これは俺が全力を出したら壊れるぞ?」


 今コウガが感じている魔力の増幅量から考えると、『雷帝の鎧』どころか通常の雷撃を最大出力で撃っただけでこの装備は壊れそうだった。

 そしてコウガのこの不安をクオンは肯定した。


「うん。そもそも一回使ったら壊れる前提で作ってる。名前は『グングニル』にした」

「『グングニル』は槍だろう」


 あまりそういった方面に明るくないコウガでも籠手に『グングニル』という名前をつけたクオンの感覚に思わず突っ込み、その後普段のクオンの名づけの傾向と違う装備の名前にコウガはある疑問を抱いた。


「その名前はあの馬鹿がつけたのか?」


 クオンが自分が作った物の名前に大して興味が無いことを知っていたコウガにとってこの質問は自然なものだった。

 しかしクオンの答えはコウガにとって意外なものだった。


「それの名前は私がつけた。それ私が一人で作ったからシュウはそれの存在すら知らない」

「そうか、ありがとう。だが名前は考え直した方が、」

「『グングニル』がいい」


 クオンにしては珍しい強い口調で押し切られ、コウガは結局突然渡された装備の名前をそのまま受け入れた。

 わざわざ忙しい中装備を作ってくれたクオンの手前口にはしなかったが、多少不自然とはいえコウガとしては装備の名前などどうでもよかったからだ。

 その後クオンの愚痴をコウガが聞くという形で二人は二時間程過ごし、その後まだ仕事が残っているだろうクオンに気を遣ったコウガが部屋を後にした。


 午前中の『レギオン』との訓練を終えたミアは、一人訓練室に残りここ数日レイナの下で自分なりに学んだことを思い返しながら体を動かしていた。


「やっぱ防御技があった方が便利よねー」


 ここ数日『レギオン』の指導をするレイナを見ていたミアは、自分がレイナの障壁を破壊できたこともあり防御をあまり重視していなかった。

 斧や重力球で相殺できないような技は全て回避すればいいとミアは思っていたのだが、自分一人で戦うのならともかく隊を率いて戦うとなるとそうも言っていられない。


 また認めるのは悔しいがシュウが『雷帝の鎧』らしき技を使ったという話を聞いたこともミアがこの様な考えを持つに至った一因だった。

 ここ数日色々考えたミアだったが、今のミアにできそうな防御技は斧を起点に重力の力場を発生させることぐらいだった。


 しばらく汗を流したミアは息を整えると斧を右手で持ち、そのまま斧を起点に横向きの重力を発生させた。

 それ自体はうまくいったが、その後斧はすぐに前方へと飛んでいってしまった。


 斧にかける重力が強すぎたかと思ったミアだったが、あまり弱くすると相手の攻撃を防ぐことができなくなる。

 レイナも最初は自分の周囲にしか障壁を創れなかったとミアは聞いていたので、この方法が間違っているかを考えるのは練習を重ねてからだ。


 そう考えたミアはその後何度も能力を発動し、やがて斧の方が耐え切れなくなり粉々になるまで訓練を続けた。

 時計を見ると一人での訓練を始めてから二時間程が経っていて、魔力もかなり消耗していた。

 これ以上の訓練は明日に疲れを残すだけだと判断したミアは今日の訓練を終えた。


「形は見えてきたわね」


 今日は結局成功しなかったが、最後の方はミアが手を放しても斧はしばらくその場に留まるようになった。

 後は訓練次第で障壁を張れるようになるだろうとミアは確信した。


 シュウが機構に届け出ている能力の内容は『万物切断』だが、これはもちろん自称で単に現時点でシュウの斬撃を防げる能力者がいないというだけの話だ。

 いずれは正面からシュウの刀を弾き飛ばしてみせる。


 そう決意したミアは、とりあえず自腹で訓練用の斧を用意するために研究局へと向かった。

 シンラもキキョウもミアの給料はミアの好きにすればいいと言ってくれたので、ミアは遠慮無く自分の武器費に使っていた。

 ミアは別に隊長になることが決まっているわけではない。


 それにも関わらずレイナは能力の使用だけでなく隊員への指導についてミアが質問した時もとても丁寧に対応してくれた。

 シュウに一矢報いたいというだけでなく、ミアは世話になったレイナの気持ちにも応えたいと考えていた。


 昼下がりの機構本部裏の森の奥でシュウはいつも通り昼寝をしていた。

 午前中にクオンの部屋に顔を出したシュウは、その後研究局にも顔を出してある武器を受け取ると後は二時間程かけて裁縫を行っていた。


 受け取った武器自体は別に最新武器でも何でもない。

 魔力を流す時間や量であらかじめ決められた複数の形に変形するという知育玩具の技術を応用した変形が可能な武器を研究局は去年開発した。


 しかし戦闘に耐え得る強度を実現するためには変形は一種類が限界で、それなら武器を二つ持てばいいだけだ。

 その上実戦で武器を二種類使用する者は討伐局でも限られている。


 こうした事情から開発したはいいものの使われることがなかったこの技術を知り、シュウは研究局に鞘をあるものに変形するようにしたいと伝えた。

 シュウの要望を聞いた研究局の者はシュウの考えの実用性を疑問視したが、かっこよさ重視なので別に実用性が無くても構わないとシュウは真顔で告げた。


 研究局も別に暇ではないので、この要望を出したシュウが隊長でなければ断っていただろう。

 それ程に実用性が疑わしいものへの変形をシュウは提案してきたのだ。

 とはいえ一度受けたからには研究局も手を抜かず、二週間ほどかけてシュウの要望通りの仕様の武器を開発した。


 最後の仕上げは手作業でする必要があったが、それはシュウが自分でするつもりだった。

 その作業で疲れた目を休ませるために横になっていたシュウだったが、ふと近くに人の気配があることに気づき慌てて起き上がった。


「お前か、……いつからいた?」

「十分は経ってると思います」


 いきなり起きたことにより不機嫌そうな表情のシュウを前にしても、その原因となったサヤは全く動じた様子を見せなかった。


「お前は暗殺者の才能があるな」

「ほめてるんですか?」

「さあな」


 寝ているシュウを起こさずに近くまで来れる人間をシュウはアヤネ以外知らなかった。

 そのため寝起きで頭がはっきりしていなかったこともありシュウは思ったままを口にしたのだが、暗殺者の才能があるは誰がどう聞いてもほめ言葉ではない。


 それに数年前ならともかく、今のアイギスでその方面の才能を伸ばしても幸せになれる可能性は低い。

 ようやく意識が覚醒し始め、自分の失言に気づいたシュウはサヤに用件を尋ねた。


「暗殺者どうこうの話は忘れろ。何の用だ?下らない用だったらただじゃおかねぇぞ」

「あなたに訓練してもらいたくてここに来ました」

「訓練?」

「はい。今の私がお金を稼ごうと思ったら、勉強するよりは強くなる努力をした方が可能性が高いと思います。だからあなたに鍛えてもらおうと思いました」


 サヤの訪問の目的を聞き、しばらく考えてからシュウは口を開いた。


「もしかして何か勘違いしてないか?俺にとってお前って助けた奴らの一人に過ぎないぞ?だから何の思い入れも無いし、お前の母親を殺したことも別に悪いと思ってない。だからこれ以上お前に何かする気はねぇよ。隊全体での訓練はつけてやるから、それで我慢しろ」


 これでシュウは話を終わらせるつもりだったが、意外にもサヤは食い下がった。


「私は隊長、と同じぐらい強い能力者の血を引いています。だからその辺りの能力者を鍛えるよりは見込みがあると思います」

「能力者の才能は遺伝関係無いだろ」


 今の隊長の内、親が隊長なのはコウガだけだ。

 もっとも隊長を務めていたコウガの父親はコウガが小学生になる前に殉職したらしいが。

 隊長になる予定のミアを入れても隊長の中には血縁者が少なく、サヤがチャルチィの血を引いているからといって強くなる保証は無かった。


「隊長同士で身内が少ないのは子供を作る前に隊長が死んでるからだと思います」

「ああ、言われてみればそれはそうかもな」


 隊長は若くして次々に死んでいく上に仮に結婚して家庭を持とうとしても、リクの様なケースも多いだろう。

 そう考えるとシュウもサヤの意見には納得できた。


「あなたが私を鍛えれば隊長ぐらいにはなれると思います」


 サヤがあまりにあっさりこう言うので、シュウはサヤが自分が言っていることの意味を理解しているか疑問を抱いた。

 しかしシュウが聞いたのは別のことだった。


「お前、隊長になりたいのか?」

「別に隊長になること自体が目的じゃないです。でもあなたを見てると強ければ色々と便利そうなので」

「なるほど」


 サヤにここまで言われてシュウはサヤの提案についてまじめに考え始めた。

 シュウから見てまるで才能を感じないリンドウが隊長をやれているのだから、仮にサヤに才能が無くてもシュウが鍛えればサヤが隊長になるのはそれ程難しいことではない。


 どの道クオンやリク、ヴェーダの件もあるので新しく隊長は育てないといけない。

 初めから隊長になるつもりの人間などそう簡単には見つからないだろうから、サヤの提案はシュウにとっても悪い話ではなかった。

 そう考えたシュウはサヤにある質問をした。


「気長に優しく育てて欲しいか?それとも短期間で強くなれる代わりに毎日痛い思いをするか?どっちがいい?」

「きついのは構いませんけど、私の目標はあなたなので短期間では無理だと思います」

「ぷっ、くくっ、くはははっ」


 ここでサヤが気長に育てて欲しいと言うようなら突き放そうと思っていたシュウだったが、予想もしていなかった回答を返されてシュウはこらえ切れずに笑ってしまった。


「あー、久々に超笑った。いいぜ。お前があきらめない限りは訓練をつけてやる。まじで手加減無しでやるから、嫌になったらいつでも止めていいからな」

「分かりました。私は才能もやる気もあるので私が強くなれなかったら、原因はあなたということになります。手加減なんてしないで下さい」

「りょーかい」


 サヤがシュウの訓練に耐えられるかは分からないが、サヤの提案自体はシュウにとっても好都合だったのでサヤのかなり勝手な言い分についてはシュウも何も言わなかった。

 しかしここ最近ずっと気になっていたことがあり、シュウはそれを口にした。


「そのあなたって呼び方止めろ。気持ちわりぃ。普通に隊長でいいだろ」


 シュウをあなたと呼ぶ相手はシュウを敵視している人間が多いため、シュウとしては積極的にされたい呼び方ではなかった。


「……私の母親を殺した人を隊長と呼びたくありません」

「またそれか。お前の母親は死んでから大活躍だな。あやかりたいもんだぜ」


 ここ数日サヤと話す機会がある度にシュウはサヤに能力を貸してくれと頼んでいるのだが、毎回サヤはこの断り文句でシュウの頼みを断っていた。

 シュウとしてはかなり本気でサヤの能力を借りたかったのだが、クオンによる能力の移動は能力者本人に同意が無いと不可能なのでサヤが嫌がっている以上どうしようもなかった。


「まあ、いいや。じゃあ、さっそく今日の分を、」


 そう言ってシュウが立ち上がった時、サヤが口を開いた。


「あなたは母親が生きていたら会いたいですか?」


 サヤの唐突な質問を受け、シュウは一瞬戸惑ったがすぐに返事をした。


「血がつながってるからって見ず知らずの女に今さら母親面されてもな。会ってもお互い気まずいだけだと思うし、別に会いたいとは思わねぇかな」

「……そうですか」


 シュウの答えを聞いたサヤが考え込んだ時、二人の耳に機構本部から明日の邪竜襲来予報が出たので隊長はただちに会議室に集合するようにという旨の放送が聞こえてきた。

 そのためサヤはシュウとの訓練は後回しになると残念に思ったのだが、シュウは機構本部に向かおうとはしなかった。


「行かなくていいんですか?」

「ああ、五時以降ならさすがに俺が行くけど、この時間ならまだリンシャが本部にいるだろ」


 昼夜や休日関係無く仕事が入る討伐局では、夕方五時以降は邪竜が出た以外では隊長に仕事を頼まないという慣例がある。

 シュウもそれに倣って夕方五時以降の会議はリンシャに任せるのではなく自分で出ることにしていた。


 それにシュウの感覚だと今回現れる邪竜は遠くに現れるか明日以降に現れるかのどちらかになりそうだったので、今すぐ動く必要は無かった。

 そんな事情は知らないサヤだったが、討伐局のことすらよく理解していないサヤからすればシュウさえいいと言うなら別に構わなかった。


「よく分かりませんけど、あなたがいいならいいです」


 そう言うとサヤは左右の手のひらをシュウからもらったナイフで切り、そこから血の刃を生やした。


「やっぱおもしろいな、お前の能力。……少しは期待しようかな」


 そう言うとシュウはサヤとの訓練を始めた。


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