再会
「もしかしてお前血を操る能力を持ってるのか?」
「はい」
少女の発言を聞き、アヤネはシュウが少女の能力の内容を言い当てたことに驚いた。
『メリクリウス』から押収したリストに少女が能力者だと記載されていたので、アヤネは少女を『フェンリル』の新しい隊員候補としてここに連れて来た。
しかし少女の能力の内容まではリストには書かれておらず、シュウに少女の能力を知る術など無かったはずだ。
「どうしてあんたがこの子の能力知ってるの?まさか知り合いとか言わないわよね?」
「ああ、今日初めて会った。でもコウガが俺たちから出てる電波だか電磁波だかで相手の居場所が分かるらしいから、もしかしたこいつもって思っただけだ」
以前クオンに透明化能力を入れてもらったシュウがあることをしていた時、コウガに偶然遭遇したことがある。
何度も会ったことがある人間ならコウガは相手から出ている電磁波でそれが誰かも特定でき、あの時はお互いに気まずい思いをした。
しかし本題はそこではなかったのでシュウは少女との話を再開した。
「右腕に血か、でも返り血浴びるような戦いは、あ」
シュウは少女を助ける前に行った戦いを思い出し、やがて一人心当たりがあることに気がついた。
「血と水、うん、多分そうだな。お前に会う前に水使いの女殺してるんだけど、多分そいつがお前の家族だと思う。年齢的に多分母親か?」
自分の母親を殺したかも知れないとシュウに告げられても、少女は特に表情を変えなかった。
「お互い親に恵まれたな。世の中邪魔だと思った子供殺す親がごろごろいるらしいから、俺もお前も本当についてた」
「あなたも親に売られたんですか?」
「ああ、だいぶ前だけどな。しかし自分のガキ売るぐらい追い込まれてたなら、とっとと引退すりゃよかったのに。馬鹿な女」
アヤネはチャルチィと少女の予想外の関係に驚きながら二人のやり取りに黙って耳を傾けていた。
「どうする?仇討ちたいって言うなら母親のとこに送ってやるぞ?」
「あなたの家族は今も生きているんですか?」
全く関係の無い質問をしてきた少女にシュウは一瞬戸惑ったが、少し考えて少女の思惑を悟り笑みを浮かべた。
「あいにくだったな。父親は確実に死んでるし、母親はどうだろうなー。今も生きてるかも知れねぇけど、顔覚えてねぇから探しようが無い」
「父親もあなたが殺したんですか?」
最近同じ様な質問ばかりされているなと苦笑しながらシュウは少女の質問に答えた。
「あいにく俺と父親の間には殺せる程の縁が無くてな。最後に会ったのは俺が十二、三歳の時だ。割と有名になった俺に金せびりに来たんで、次に顔見せたら殺すって言って金いくらからやって追い返した。生きてりゃ俺が隊長になった時に顔見せてるだろうから、とっくに誰かに殺されてると思うぜ。仕返しで俺の家族殺そうと思ってたなら残念だったな」
「仕返し?」
シュウの発言を聞き、少女は不思議そうな顔をした。
「俺が言うのも何だけど、俺お前の母親の仇だぞ?仇討とうと思わないのか?」
「能力であなたの腕からも私の家族の気配がしたから確認しただけで、特に仇を討ちたいとは思いません。私も親のことは全然覚えてませんから」
「あっそ、まあいいや。お前の能力使えば俺の家族探すのも不可能じゃないだろ。でもさすがに人殺したとなると俺もお前を捕まえるしかないんで、殺すならばれないようにって、それじゃ仕返しにならないか」
「ねぇ、ほんと勘弁して」
もはや殺人教唆の域に入りかけているシュウの発言に眉をひそめるアヤネを見て、シュウは話題を変えた。
「いちいちお前見張るわけにもいかねぇし、俺の家族に関してはお前の好きにしてくれ。お前が犯罪犯したら、こっちもそれなりの対応するだけだからな。それで話は変わるけど、お前を俺の隊に入れるよう頼まれてるわけだけど、どうする?無理に討伐局に入る必要は無いぞ。喫茶店の店員の仕事なら今日すぐに紹介できる」
シュウのこの発言を聞き、周囲の隊員たちが驚いた表情を見せたがシュウも少女も気にも留めなかった。
「私はあなたのところで働きたいです」
「母親殺した俺のところでか?」
「はい」
少女の発言を聞き隙をついて自分を殺すつもりかと考えたシュウだったが、それぐらいなら特に問題は無かった。
とはいえ何度も襲われても面倒なのでシュウは一応少女に釘を刺しておいた。
「まじめにうちの隊でやるなり隙をついて俺を殺そうとするなり、その辺りはお前の自由にしてくれればいい。ただし俺以外の奴を狙ったらその時点でお前を殺す。いいな?」
「あなたのことは襲ってもいいのですか?」
「ああ、別に構わないぞ。ただし何度も襲われるのはうぜぇから、一日一回までにしてくれ」
シュウと少女の話をここまで聞き、たまりかねたアヤネが口を挟んだ。
「ちょっと、あんまり煽るようなこと言わないでよ」
「でもこいつも親殺した俺に暴力はいけないことですなんて言われたくないだろ」
「とりあえずあんたからけんか売るのは止めて」
「安心しろ。俺こいつにかけらも興味ねぇから」
シュウのこの発言に少女は眉をひそめたが、それを気にも留めずにシュウは少女に質問をした。
「隊に入れる気無かったんだけど、お前が入りたいって言うなら別に構わないぜ。血を操るって具体的に何ができるんだ?」
さすがに目の前の少女の能力ぐらいは把握しておこう。
そう考えたシュウに少女は視線を向けてきた。
「何か斬るものを貸して下さい」
そう言われたシュウは、袖口に仕込んでいたナイフを取り出すと少女の足下に放り投げた。
「これにもあなたの血が」
「ああ、でも何か斬るだけなら問題無いだろ?」
シュウにそう言われた少女は、しばらくナイフを眺めた後ナイフで自分の右の手のひらを斬り裂いた。
その後少女の手のひらから流れた血が盛り上がり、少女がシュウに手のひらを向けると血の刃一発がシュウ目掛けて飛び出した。
少女からの攻撃自体は予想していたため、シュウはあっさり少女の攻撃を防いでから少女に視線を向けた。
「まあ、予想通りだな。液体操るってことは色々できると思うけど、能力の訓練自体は自分でどうにかしてくれ」
「分かりました。これはもらっていいですか?」
「ああ、いいぜ。慰謝料代わりってことにしといてくれ」
シュウのナイフを欲しがった少女の頼みをシュウが聞いたところ、少女はもう一つシュウに頼み事をしてきた。
「だったら慰謝料で私の名前も決めて下さい」
「思ったより図々しいな、お前。名前ならニーナで、……はいはい、分かったよ」
アヤネににらまれたシュウは自分の意見を撤回し、しばらく考えた後で視線を訓練室の壁に立てかけてあった武器に止めた。
「サヤでどうだ?」
「……あんた」
今のアイギスでは東洋風の名前も一般的だが、シュウの視線の先にある武器からして名前の由来は明白だった。
さすがにそれはまずいと思って再び非難の視線を向けたアヤネだったが、シュウは今度は撤回しなかった。
「何だ?ヨロイやカタナじゃないだけましだろ?何ならお前が、」
「サヤでいいです」
「ほら、本人がいいって言ってるぜ」
少女本人にそう言われてはアヤネも納得するしかなかった。
「よし、これで俺がお前の母親(仮)殺したのちゃらな。これ以上慰謝料が欲しかったらロイヤルアイギスとかいう新聞社に泣きついてくれ。あそこ俺たち潰すためなら誰とでも手を組むから」
ロイヤルアイギスはシュウの隊長就任直後にシュウに親を殺された匿名の女性の涙の訴えと見出しをつけた記事を紙面に載せたことがあった。
警察も動かなかったためただの嫌がらせといった感じの記事だったが、この記事により市民のシュウへの偏見がかなり根強いものになってしまった。
シュウは実害は無いからと気にした様子も無かったが、当時のシンラとレイナがかなり苦労したのをアヤネは直接目にしていた。
「止めてよ、ほんと」
シュウが犯罪者相手に無茶をするならアヤネもある程度大目に見るが、報道機関が相手となるとシュウは役に立たない。
それにも関わらず少女、改めサヤを焚きつけるような発言をするシュウにアヤネはため息をついた。
「その新聞社はあなたの敵なんですか?」
「いや、敵っていうのは俺と対等の奴に使う言葉だ。新聞社なんていつでも潰せるから敵でも何でもねぇ」
ここでシュウとサヤの会話が途切れ、ガドナーがサヤに声をかけようとした。
その時シュウが突然サヤに襲い掛かり、それに全く反応できなかったサヤは顔面をまともに殴られてその場に倒れ込んだ。
「隊長!何を?」
いきなりのシュウの暴力にさすがに声をあげたガドナーだったが、シュウはサヤから視線を外さなかった。
「これから先何度もそんな痛い目に遭う。討伐局っていうのはそういう場所だ。俺がお前に討伐局に残るかどうかを確認するのはこれが最後だ。一生の問題だから決めるなら早い内にな」
「……あなたは戦いが怖くないんですか?」
突然殴られたにも関わらずサヤは全く動揺した様子を見せず、座り込んだまま上体を起こしてシュウに質問をした。
痛みへの耐性があるのは外周部の人間では珍しいことでもなかったので、シュウはそれには大して驚かずにサヤの質問に質問で返した。
「お前飯食う時、これをのどに詰まらせて死んだらどうしようなんて考えたことあるか?」
「ありません」
「だろうな。俺にとって戦いっていうのはそういうもんだ。怖いなんて考える暇も無く戦ってたから、戦いが怖いものなんて今さら言われてもって感じだ」
シュウのこの発言を聞き終わったサヤは能力で鼻血を体内に取り込み、さらには顔の傷まで数秒で治してみせた。
いつの間にか先程サヤが自分で傷つけた手の傷もふさがっており、手のひらにはわずかな血すら残っていなかった。
「おっ、思ったより便利だな、その能力。あ、そうだ。大事な事言うの忘れてた。お前、相手が血流してなくても家族かどうか分かるのか?」
「……どうしてそんなことを聞くんですか?」
唐突なシュウの質問に警戒心を露わにしたサヤの視線を受け、シュウはしばらく考えてから理由を説明した。
「俺の知り合いに仲のいい兄弟がいるんだが、そいつらは血がつながってなくてそのことを本人たちは知らない。だからもしお前が相手見ただけで血がつながってるか分かるなら、簡単に口に出さないように言っておく必要があると思ったからだ」
「……確かに私は会っただけで相手の血がつながってるかどうかが分かります。でもあなたが言うなと言うなら言いません」
「そうか。はっきり言っておく。お前が自分の能力で知ったことしゃべったら、俺お前を殺すからな」
シュウのこの発言にサヤがこの日初めての動揺を見せた。
シュウの過激な発言に周囲の隊員たちもどよめく中、サヤはシュウにある質問をした。
「私の家族を見つけた場合もですか?」
「え、お前今さら父親に会いたいのか?」
サヤの予想外の発言に驚くシュウを前にサヤは黙り込んだ。
「悪い事言わねぇから変な期待しない方がいいぞ。仮にお前の父親が生きてたとしてもろくなことにならねぇから」
「言っていいのか悪いのかだけ答えて下さい」
シュウの発言に直接は答えず、サヤは重ねてシュウに質問をした。
「それは好きにしろ。お前の人生だからな。ただ一つだけアドバイスしとくなら、自分の食い扶持ぐらいは稼いでから名乗った方がいいぞ。働いてない初対面の奴が家族面で会いに来るのってまじでうぜぇから」
実感が伴ったシュウの発言を聞いたサヤはシュウに別の質問をした。
「いくらぐらい稼げば名乗っていいんですか?」
「え、いくら?そうだな、三千万は違うよな。ガドナー、機構以外で働いてる奴の収入ってどれくらいだ?」
訓練前に自分たちの前で重い話を長々としているシュウとサヤにガドナーは正直勘弁して欲しい思いでいっぱいだった。
しかし答えないわけにもいかなかったのでガドナーは何とかシュウの質問に答えた。
「機構以外の年収までは分かりませんけど、具体的にいくらということではなくて一年程自分一人で生計を立てられれば食い扶持を稼いでいると言えるんじゃないでしょうか?」
「なるほどな。だってよ」
「一年ですか。分かりました」
そんな心配は家族を見つけてからにしろと思ったシュウだったが、自分が口を出すことでもないと思い何も言わなかった。
「武器だの住むとこだのはお前連れて来た女とこいつに聞いてくれ。じゃあな」
シュウはサヤの面倒をガドナーとアヤネに任せると、そのまま訓練室を後にした。




