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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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二人目

 ミザーナたちと共に子供たちが捕らわれているという場所にシュウが到着すると、目的の建物の前に一人の男が立っていた。


「あいつがロンとかいう男か?」

「はい。強力な念動力を使ってきます!お気をつけて」

「馬鹿、気をつけるのはお前らだ。流れ弾で死なないようにしろよ?」


 そうミザーナに注意したシュウは、そのままロンに近づいた。


「さてと、こうして待ってたってことは俺があの水使いの女殺したことはもう伝わってるんだよな?」

「ええ、それに治安維持局の局員たちが動いていることも伝わっています。会見や休暇で局長たちがいない日にあえて襲撃を仕掛けてくるとはやってくれますね。完全に油断していました」

「いや、それに関しては偶然、でもないかもな」


 今日の騒動の発端はヘルガだ。

 ヘルガなら今日という日を狙ってシュウを利用しての『メリクリウス』への奇襲ぐらいは平気で計画しそうだった。

 シュウの発言から事情を察したロンがため息をつきながら口を開いた。


「トラースさんがうるさいのでヘルガさんは襲わずにいましたが、やはり殺しておくべきでしたね」

「あいにくだけど仮にあのばばあ殺してても、お前らは潰されてたと思うぞ?俺にコウガ、セツナが機構にいる時点でお前らに勝ち目無いし。俺一人に襲われたぐらいでこの様だぞ?勘違いしてるみたいだけど、お前らがこれまで潰されなかったのはお前らが強かったからじゃない。機構にとってお前らの優先順位が低かったってだけの話だ」

「ずいぶんとなめた口をきいてくれますね」


 ロンは口調こそ穏やかだったが、シュウの発言を聞き徐々に険しい目つきになっていった。

 しかしそんなロンを前にしてもシュウは落ち着いた様子を崩さなかった。


「ほんとの事言ってるだけだぜ。でも怒らせたなら謝る。お前には大人しく捕まって欲しいと思ってるからな」


 このシュウの発言を聞き、ロンだけでなくシュウの後ろで緊張した面持ちで二人のやり取りを聞いていたミザーナたちも驚いた様子だった。


「どういうつもりです?チャルチィさんは殺しておきながら、私は助けようというのですか?」

「ああ、知っての通り今討伐局は人手不足でな。優秀な人間気軽に殺すなって注意受けたばかりなんだ。だからあの水使いの女もちゃんと勧誘したんだぜ?なのに死んでいった部下たちに申し訳ないからって突っ込んできやがった。お前はどうする?死にたいって言うなら殺してやるぞ?」


 シュウの発言が終わるやいなや、ロンがシュウ目掛けて念動力を飛ばして攻撃してきた。

 それを『鎧』で防いだシュウを見てロンもミザーナたちも驚いた様子だったが、シュウはそれを気にも留めずに話を続けた。


「もう一度だけ聞いてやる。義理だの誇りだののために死ぬか?それとも大人しく捕まるか?お前が機構に入れば隊長だって夢じゃないし、そうなれば今の部下の力にだってなれるぞ?どうする?もう面倒だから部下の事なんて放って死にたいって言うなら、手ぇ貸してやるぜ?」


 シュウの発言を聞き悩んでいる様子のロンにシュウはとどめを刺した。


「これまで自分たちがしたこと気にしてるなら、気にする必要無いぞ。水使いの女にも言ったんだけどセツナが隊長やってるんだぞ?お前らのしたことなんてガキのいたずらみたいなもんだ。街の連中のために戦うのが嫌なのかも知れないけど、こればっかりは我慢してもらうしかないな。俺たちみたいな奴が認めてもらおうと思ったら役に立つとこ見せるしかねぇし」


 シュウがこう言った直後、ロンは再びシュウに念動力による攻撃を放った。

 これを見たミザーナたちはシュウがロンに襲い掛かると思った。

 止めたいところだったがロンの念動力の威力を考えると、ミザーナたちが割って入ると死人が出かねなかった。


 ロンには悪いがミザーナたちも死にたくはない。

 そう考えていたミザーナたちだったが、そんなミザーナたちの考えとは裏腹にシュウとロンの間の張り詰めていた空気が弛緩した。


「……私の攻撃を二度も受けて私を一切警戒していない。これ以上の抵抗は無駄なようですね。チャルチィさんには悪いですが、私は死にたくありません。投降します」

「……大人しく捕まってくれて嬉しいぜ。じゃあ俺はガキ共助けに行くから、後のことは後ろにいる奴らと相談してくれ」

「はい。ありがとうございました」


 そう言ってロンはミザーナたちのもとに向かいシュウとすれ違った。

 その直後だった。

 ロンは振り向きざまにシュウ目掛けて念動力を放ち、ロンの攻撃はロンに背を見せていたシュウに命中した。


 しかし『鎧』を発動していたシュウは無傷で、驚いた様子も無く振り向くと『鎧』を解除してロンに攻撃を仕掛けた。

 シュウは『鎧』を使わずに魔力を放出してロンの念動力を一回だけ防ぐと、そのまま間合いを詰めてロンの顔面に拳を叩き込んだ。

 そのまま後ろに倒れ込んだロンは背中を強打し、そのまま動かなくなった。


「馬鹿な奴、格上相手に不意打ちなんて効くかよ」


 不意打ちは相手に気づかれないようにする関係上、どうしても攻撃の規模や攻撃の際の防御が通常と比べておろそかになる。

 殺気を感じ取れるシュウに不意打ちを仕掛けるなど、目をつぶってノーガードで突撃する様なものだった。


 アヤネと行動を共にすることが多いため、ミザーナたちはアヤネ同様シュウにも不意打ちが効かないことは分かっていた。

 そのためミザーナたちはシュウがロンを難無く返り討ちにしたことには驚かなかったが、さすがに意識を失っている相手が目の前で殺されるのを見過ごすわけにはいかなかった。

 ミザーナは袖口からナイフを取り出してロンに近づくシュウを止めた。


「シュウ隊長!後は私たちに任せて下さい!何も殺す必要は無いと思います!」


 ミザーナの慌てた声を聞き、シュウはミザーナの勘違いに気づいた。


「安心しろ。殺す気はねぇよ。俺こいつと今日初めて会ったし」


 そう言うとシュウはロンの体をひっくり返し、右腰をナイフで二回刺した。

 これは別にまじないでもなんでもなく、能力者はこれをされると能力が一生使えなくなる。

 能力者により微妙に刺す位置が違うためシュウにしかできない技術で、これにより能力を奪われた犯罪者は多い。

 シュウに腰を刺されたロンは、痛みで気がついた直後シュウをにらみつけた。


「どうして殺さない?お前の様な生まれついての強者には分からないだろうが、俺たちの様な半端な人間は外周部では何をやっても最後には全て壊される。『虐殺公』に親を殺され、『メリクリウス』も結局お前らに壊された。もううんざりだ。……殺せ」


 視線の鋭さとは裏腹に力の無い声でそう言ったロンを見て、シュウは呆れた表情で口を開いた。


「盗んだ物や薬ぐらいならともかく、ガキ売りさばいといて被害者気取りとはいい性格してるな。お前らと似た様な境遇で街で地道に働いてる奴なんてごまんといるぜ。ま、いいや。好きに被害者してろ。後聞いてもいない身の上話ありがとよ。俺もするのがマナーなのかも知れねぇけど、俺が隊長になるまでのサクセスストーリーなんて興味無いだろ?」

「……くたばれ」

「百年もしたら死んでると思うから気長に待っててくれ」


 自分が何を言っても笑みを浮かべるだけのシュウを見て、とうとうロンは口を閉じた。

 そんなロンから視線を外したシュウは、ミザーナに簡単に指示を出した。


「さてと、じゃあ今度こそガキ共助けに行くから、逃げ出してきた奴がいたらよろしくな」


 そう言うとシュウはミザーナたちの返事を待たずに建物へと入って行った。

 ロンが待ち受けていた時点で予想はしていたが、建物の中には『メリクリウス』の構成員は一人も残っていなかった。


 別に構成員に逃げられるのは構わなかったが、この様子では捕らわれていた子供たちは殺されていても不思議ではない。

 逃走の際に子供たちを連れて行く余裕はさすがに無かったはずだからだ。


 もし子供たちが殺されていたロンには追加で制裁を加えてやろう。

 そう考えながらシュウは建物の奥に進み、次々に部屋を探索していった。

 そしてついに子供たちが閉じ込められている部屋に辿り着き、シュウはそこで十数名の子供たちが床に座っているのを発見した。


 その中でシュウの目を引いた子供は二人で、一人は子供と言っても十代後半の少女で犯罪者が奴隷として売りさばく対象としては年を取り過ぎていた。

 邪竜出現以前ならともかく、今のアイギスでは子供が少し暴れただけで奴隷の所有がばれてしまう。


 そのため売られる子供は簡単に取り押さえられる三歳から大きくても十歳程が一般的だった。

 奴隷を所有していた街の人間から助け出されるならまだしも、この年頃の少女を犯罪組織が商品として所有しているのはかなり妙だった。


 しかも髪のつやもかなりよく、つい最近まで普通の生活を過ごしていたと思われる程だった。

 しかしそれ以外に気になるところは無かったので、シュウはその少女からすぐに視線を外した。少女以上に気になる男の子がいたからだ。

 シュウはその男の子の髪に目をやり、その後男の子に話しかけた。


「おい、ちょっと確認して欲しいものがある。来い」

「嫌だ、怖いよ」


 七、八歳に見えるその男の子はシュウに呼ばれても立ち上がろうとしなかったが、シュウは部屋に入るとその男の子の首元をつかんで無理矢理部屋の外に連れ出した。

 この時に先程シュウの目を引いた少女がチャルチィの血がついたシュウの服の袖に視線を向けていることにシュウは気づいていなかった。


「止めて、止めてよ。お兄ちゃん」


 シュウに無理矢理連れ出され、男の子は今にも泣き出しそうな顔をした。

 そんな男の子を見てもシュウは表情一つ変えず、先程の部屋から少し離れたところで男の子を壁に押しつけた。


「痛い、止めてよ。お兄ちゃん」


 シュウの手から逃れようとする男の子を見て、シュウは舌打ちをした。


「そろそろそのうざい演技止めろ。お前が能力で姿を変えてることは分かってる」

「な、何の事?僕そんなことしてないよ」


 シュウの指摘を受けても一切動揺しない男の演技は大したものだったが、シュウも男の演技に動じずに問い詰め続けた。


「お前とこれ以上問答続ける気は無い。五秒以内に能力解かなければ、妖精女王ティターニアのとこに連れて行って改心してもらうだけだ」


 シュウのこの発言を聞き、男はとうとう観念した。

 妖精女王は幻術だけでなく能力による洗脳も行え、妖精女王によって人格を変えられた人間が何人もいるのを男も知っていたからだ。


「……何で分かった。俺の能力は完璧だったはずだ」


 子供特有の高い声のまま男はシュウに自分の正体がばれた理由を尋ねたが、シュウに答える義理は無かった。


「犯罪者に嘘のつき方教える気ねぇよ。とっとと能力解いて服着替えろ」


 部屋に入ってすぐにシュウはこの男が怪しいことに気がついた。

 何故なら思い思いの方向を見ているはずの子供たち全員がこの男から視線をそらしていたからだ。おそらく自分の方を見るなと子供たちを事前に脅していたのだろうが、雑な演技指導が仇となった。


 もっともそれが無かったとしてもシュウは男が能力で姿を変えていることに気がついただろう。シュウは相手の髪を見れば相手の体調をある程度見てとることができる。

 そして能力によって作られた髪というのはどうしても不自然さを隠せないため、シュウは髪を見れば一発で相手が能力で変身しているかどうかを見破ることができた。

 その後能力を解いた男と子供たちを連れて建物を出たシュウをミザーナたちが出迎えた。


「お疲れ様です!中に『メリクリウス』の人間はいなかったんですか?」

「ああ、こいつがガキに化けて紛れ込んでただけだ。じゃあ、残りの雑魚どもは任せるけど、トラースとかいう奴が現れたら絶対戦うなよ。隊長以外が戦っても死人が出るだけだからな」

「はい。局長にもそう言われているので大丈夫です。今日は本当に、」


 シュウに今日の礼を言おうとしたミザーナだったが、ここでミザーナに他の『メリクリウス』の拠点へと移動していた治安維持局局員から通信が入った。

 そのためシュウとの会話を中断したミザーナだったが、同僚からの報告を聞いたミザーナは何故か気まずそうにシュウに視線を向けてきた。


「あ?どうした。トラースとかいう奴が現れたのか?」


 それなら自分が出向いて捕まえてやろうと思っていたシュウだったが、ミザーナが申し訳無さそうに告げた内容はシュウの予想とは全く違うものだった。


「シュウ隊長が『リブラ』の隊員に預けた子供が『メリクリウス』の人間に捕まったみたいで、今別の場所で人質になっているそうです……」

「……お前らほんと使えねぇな」


 ミザーナの報告を聞いたシュウは、徒労感を感じつつミザーナから聞いた現場へと向かった。

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