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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
2章

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謁見

 六月一日(月)

 この日の午前中シンラ、リンドウ、レイナの三人は偶数月の一日に行っている王族への謁見のために王族の居住である屋敷へと出向いていた。

 本来なら機構の本部として使っている城に王族が住むべきなのだろうが、アイギスが街として動き始めた当初は邪竜出現前に権力を握っていた勢力複数が権力争いをしている状態で、明確な権力のトップというものが存在しなかった。


 その後王歴四十年頃には今の王族の先祖が王族としての地位を勝ち取ったが、その頃にはアイギスで一番大きい建物だった城は機構の雛形となる組織が使っていた。

 当時は王族の力もそこまで強くなく、現在では多大な労力を使ってまで機構本部の引っ越しをする必要は無いということになっていた。


 そのため王族たちはアイギスで二番目に立派な建物に住んでいた。

 シンラたち三人が屋敷内の謁見の間に着き待っていると、しばらくして現在のアイギスの王、ボルス・ミゼア・ゼーフィスとその息子、リューゼが現れた。


 ボルスにはもう一人クリスという娘がいるのだが、病弱なクリスは表舞台にはほとんど顔を見せない。

 ボルスの妻は数年前に病死しているため、シンラたちが王族と会う時はいつもこの二人を相手にすることになっていた。


「面を上げよ」


 仰々しく玉座に座った後でシンラたちに顔を上げるように言ったボルスの発言を受け、シンラたち三人は考えを表情に出さない様に努めながらボルスに視線を向けた。


「今回も拝謁をお許しいただきありがとうございます」


 三人を代表してシンラがボルスたちにあいさつすると、ボルスが口を開いた。

 一通りシンラたちに形式的な労いの言葉を述べた後、ボルスは先月討伐局に配属されたミアに言及した。


「シンラ隊長の孫が討伐局に入ったと聞いている。調子はどうだ?」

「はい。おかげ様で同僚たちともうまくやっているようです。順調にいけば私が引退する前に隊長になれるかも知れません」

「ほお、それは素晴らしい。やはりアイギスを守る討伐局の要となる隊長には、それにふさわしい血筋の者がならなくてはな」


 このリューゼの発言を聞き、シンラたちは表情を変えないようにするのが大変だった。

 この発言が外周部出身のシュウ、アヤネ、セツナを侮蔑したものであることは明白だったからだ。

 アイギスの中心部に住んでいる人間の外周部出身者への差別は今に始まったことではないが、ボルスの弟たちを含めた王族はそれが特に顕著だった。


 歴代の王族全てがそうというわけではないが、ボルスとリューゼは全くオブラートに包むことなく外周部出身者を差別しており、シュウを後継者にと考えているシンラとしては頭が痛い問題だった。

 シュウが序列一位になった場合、どうせシュウはこの場には来ないだろうから王族が不快になるぐらいで済むのがせめてもの救いだった。


「その孫を後継者にと考えているのか?」


 探る様にシンラに質問してきたボルスに対し、これ自体はごまかす必要も無かったのでシンラは正直に答えた。


「とんでもございません。数年後ならともかく討伐局に入ってわずか一年ちょっとの者が序列一位になれる程討伐局は甘い場所ではありません。私の孫は候補にも入っておりません」

「候補?まだ完全には決めていないということか?」


 シンラの発言を聞きボルスとシンラの会話に口を挟んできたリューゼにシンラはあらかじめ用意していた回答を口にした。


「はい。今の隊長の内二人までは絞っているのですが、まだ完全には決まっておりません」

「その二人というのは誰だ?」


 シンラが話すのは当然といった口調で質問をしてきたボルスに対し、シンラは再び用意していた回答を口にした。


「順当に序列通りリンドウさんかレイナさんになると思います。お二人なら人望も経験も申し分ありませんので」

「そうか。それを聞いて安心した。シンラ隊長は同僚に恵まれたな」

「はい。常々実感しております」


 ボルスの発言に今日この場に来て初めて同意したシンラだったが、そんなシンラの見ている前でボルスはリンドウとレイナにも声をかけた。


「そなたの兄には我々もいつも世話になっている。これからも兄弟共々アイギスのために尽くしてくれ」

「はい。全力を尽くします」


 リンドウの兄は王族に仕える役人で、それもボルスたちと顔を合わせることもある地位にいる人物だった。


「先月の戦いでもレイナ隊長は活躍したと聞いている。推薦した私たちとしても嬉しい限りだ。これからもがんばってくれ」

「はい。ありがとうございます」


 よくもそこまで白々しいことをと不快に思いながらも、それを全く感じさせずにレイナは形式的な礼を返した。


「うむ。今日はここまでとしよう。何かあったらいつでも相談してくれ」


 自分が上位の存在だと信じて疑っていない様子のボルスのこの発言で今日の謁見は終了となり、ボルスたちの背後に控えていたメイドに見送られてシンラたちは部屋を後にした。


「ふー、毎度のことながら恐ろしく無駄な時間でしたね」


 ボルスたちとの謁見を終え、機構本部に戻ったシンラたちはシンラの部屋で今日のボルスたちとの謁見の感想、もとい愚痴を口にしていた。


「しかたありません。これぐらいでボルス様たちの気が済むなら必要経費だと思わなくては」


 表情こそ普段と変わらないものの、時間を浪費させられて不機嫌そうなレイナをシンラは何とか慰めようとした。


「それは分かっていますが、今はただでさえ忙しいので…」


 レイナには先月の戦いで殉職した隊員たちの後任の採用にシンラが討伐局局長として頼んでいる仕事、それに加えて事務局局長や隊長としての仕事もある。

 そんな中王族のご機嫌取りなどに二時間以上時間を取られ、シンラが思っている以上にレイナは怒りを覚えていた。

 そんなレイナだったが多少気を取り直したのか、先程のシンラとボルスの会話で気になったことをシンラに尋ねた。


「さっき私かリンドウさんを次の序列一位にするつもりだと言ってましたけど、本気ですか?」

「ああ、あれに関しては嘘です。あの場はああ答えておいた方がボルス様たちが喜ぶと思ったので。お二人には悪いですが、お二人を私の後任にするつもりはありません」

「はい。指名されても困るんでそれはいいですけど、じゃあ誰を指名するつもりですか?」


 シンラの後任は自分たちの上司になる人物なので、レイナとしてもできればこの場で聞いておきたかった。

 そんなレイナの質問にシンラはしばらく考えてから答えた。


「今のところはコウガさんをと考えています」

「コウガをですか…」


 シンラの答えを聞き、レイナは言葉につまった。

 確かに実力でシンラの後任を選ぼうと思ったら、候補は今の討伐局のトップスリー、シュウ、コウガ、セツナから選ぶしかない。

 そしてこの三人からなら消去法でコウガしか残らないというのはレイナも納得できた。


 しかしセツナは論外としても、コウガはシュウとは別の意味で不安が残る人選だった。

 コウガは積極的にリーダーシップをとるという性格ではなく、その上お世辞にも社交的とは言えない性格だ。

 そのため十人いる隊長の一人ならともかく討伐局の局長はコウガには荷が重いのではというのがレイナの本音で、それはシンラも織り込み済みだった。


「レイナさんの不安は分かっているつもりです。しかし可能性の話をするなら私が誰も後任に指名しないという可能性もあるわけですから、まだこの話をするのは早いと考えています」


 シンラが序列一位の隊長及び討伐局局長としての後任を指名できるというのはあくまで権利であり、必ず行使しないといけないというわけではない。

 もしシンラが権利を行使しなかった場合、シンラの後の序列一位は通例通り全隊長の投票で決まるだろう。


 シンラに直接そう言われ、不覚にもその可能性を考えていなかったレイナはもちろんリンドウもしばらく何も言えなかった。

 そんな二人を前にシンラは話題を変えた。

 シンラがシュウを後任にするつもりということはまだ誰にも知られたくなかったので、シンラとしてもこの話題を長く続けたくはなかったからだ。


「この話はまた来年になったらということでいいと思います。それより明日から一週間ミアさんがお世話になります。先日も言いましたがかなり気が強いので苦労をかけると思いますが、どうかよろしくお願いします」

「シュウより酷いということはないでしょうから大丈夫です。ただ私がミアさんに教えられる事なんてほとんどないと思うんですけど」


 レイナ率いる『レギオン』とシュウ率いる『フェンリル』は、明日から一週間一人ずつ隊員を交換することが決まっていた。

『フェンリル』から『レギオン』にはミアが、そして『レギオン』から『フェンリル』にも一人隊員が送り込まれることになっていた。


 元々はリンシャの様な狙撃手を増やそうという試みがきっかけのこの交換研修は、元々は他の隊でも行われる予定だった。

 しかし先月の被害のせいで自分の隊の再編成すらおぼつかない隊が多い中交換研修などできるはずもなく、とりあえず先月被害が全く出なかった『フェンリル』と『レギオン』の間でのみで行われることになった。


「今回レイナさんにミアさんの指導をして欲しいと思ったのは別に戦いについて指導して欲しかったからではありません。シュウさんだけに指導を任せるとかなり偏った指導になってしまうと思ったので、シュウさん以外の隊長の下でも経験を積んで欲しいとは前から考えていました。それでどうせならシュウさんと真逆のレイナさんがふさわしいと思いまして」


 実のところミアの指導を任されてかなり困っていたレイナは、シンラのこの発言を聞き安心した。


「なるほど。期待に応えられるかは分かりませんけど、そういうことなら私なりに色々教えたいと思います」

「はい。お願いします。リンドウさんもアヴィスさんの指導の件、よろしくお願いします。討伐局がかなり苦しい状態での隊長就任となったのでかなり苦労すると思いますので」

「はい。私なりにフォローはするつもりです」


 アヴィスというのは今日正式に隊長に就任した新しい隊長で、今日から二日ずつシュウ、アヤネ、リンドウが指導をすることになっていた。


「さてではそろそろ終わりにしましょうか。また後で会いましょう」


 今日は夕方から毎月一日に行っている討伐局の合同葬が行われることになっており、シンラの発言はこれを受けてのものだった。

 アヴィスにとっては、これが隊長としての初めての仕事となる。

 その後リンドウとレイナはそれぞれの部屋へと帰った。

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