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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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決着

 その後『フェンリル』全体が後退することには成功したが、まだAランクの邪竜四体に狙われていることには変わりはなかった。

 疲弊しきった隊員たちの力では足止めすら一苦労で、ガドナーやリンシャががんばってはいたが徐々に危ない場面が増え始めていた。


 すでに隊員たちの後ろにはアイギスが近づいており、これ以上後退はできなかった。

『フェンリル』の隊員の多くが死を覚悟した時、邪竜と隊員たちの間に三枚の障壁が出現し、邪竜たちから隊員たちを守った。


「レイナ隊長!守ってもらえるのはありがたいのですが、Aランク相手では長くは持たないのでは?」


 自分たちを守る形で展開された障壁を見たガドナーは、障壁を創り出したレイナに質問をした。

一体や二体ならまだしも『フェンリル』を追っている邪竜だけでも四体おり、時間が経てば『ナイツ』と戦っている邪竜たちもこっちに流れてくるだろう。


 数分時間を稼いだ程度では今のガドナーたちには休憩にもならない。

 それならいっそのこと危険ではあるがレイナの支援を受けて打って出た方がましだ。

 そうレイナに進言したガドナーだったが、レイナはガドナーの提案を断った。


「その必要は無いわ。この障壁もあなたたちを守るためじゃなくて邪竜がこれ以上アイギスに近づかないように創ったものだし。後はあの二人に任せましょう」


 そう言って障壁の向こうに視線を向けたレイナにつられる形でガドナーも視線をそちらに向けた。

 そんなガドナーの視線の先にはそれぞれ武器を構えるリクとヴェーダの姿があった。


「序列七位のリクとヴェーダです。残りの邪竜は僕たちとレイナさんで倒しますので、みなさんはこのまま帰ってもらって大丈夫です」


 自分たちの勝利が前提のリクの発言を受け、予想より遥かに早くこの場に現れたリクたちの姿に驚きながらも『フェンリル』の隊員たちは一斉にアイギスに向かった。

 そんな中一人この場から離れようとしないミアにガドナーは撤退するように言ったが、ミアはそれを断った。


「ここであの二人の戦いを見てていいですか?もちろん危なくなったらすぐに逃げるので」

「…分かりました。後で本部で会いましょう」


 ガドナーが見たところミアに大きなけがは無く、レイナが障壁を張っている以上ここも安全は保障されている。

 障壁の向こうにいる邪竜四体などリクとヴェーダが到着した以上物の数ではない。

 そう判断したガドナーは、ミアを残してその場を離れた。


 一人残ったミアの見ている前では、リクとヴェーダによる隊長の名に恥じない戦いが繰り広げられていた。

 先程のSランクの邪竜との戦いで壊れた薙刀の代わりに車に積まれていた予備の剣で戦っていたリクは、大きく跳び上がると邪竜の翼にしがみついた。


 リクはそのまま邪竜の背中に移動すると、剣に魔力を集中させて邪竜の翼を数発で斬り落とした。今リクが使っている剣は、あくまで車に積んであった予備の武器でリクの血は入っていない。

 しかしそんなことをまるで感じさせず、リクの振るう剣は次々に邪竜の翼を斬り落としていった。


その後リクは地上で落下した邪竜たちの相手をしていたヴェーダのもとに転移すると、邪竜へのとどめを刺すべく戦いを再開した。

 傍から見ると二対四に見える戦いだが、リクとヴェーダにはそういった考えは通用しない。


 テレパシーによる意思疎通と転移による有利な位置取りにより、さっきまでそれぞれ二体ずつの邪竜を相手にしていたと思ったら次の瞬間には二人がかりで邪竜と戦うということを平然と行っていた。

 二人と戦っている邪竜からすれば、二人どころか同時に四人も五人も相手にしている心境だっただろう。


 幸い邪竜たちの混乱はそう長くは続かず、一体、また一体と邪竜が倒されていった。

 その光景を障壁の向こうから見ていたミアは二人の連携にも驚いたが、ヴェーダの攻撃力の高さにも驚かされた。


 ヴェーダの使っている武器はかなり巨大な剣で、もちろんそれが高い攻撃力につながっているのだろう。

しかし同じ様な武器をミアも使っている。

 そのため今回の戦いでAランクの邪竜を倒すどころかまともに傷すら負わせられなかったミアにとって、まるで邪竜の体を紙の様に斬り裂いていくヴェーダの姿は衝撃的だった。


 もちろんなぜか普段と違う武器を使っているにも関わらずまるで不都合を感じさせないリクの戦いぶりも見ていて驚いたが、ミアにとっては同性のヴェーダの戦いの方が気になった。

 邪竜の真下に潜り込んだヴェーダは、邪竜の腹部に大剣を突き立てるとそのまま走り出した。


 邪竜の体の硬さをものともしないヴェーダの攻撃を受け、邪竜がうめき声をあげたがすでに手遅れだった。

 リクとヴェーダが最後に危なげなく一体ずつ邪竜を倒し、『フェンリル』が戦っていた邪竜は全て倒された。

 戦いが終わったことを確認したレイナが障壁を消すと、リクとヴェーダがレイナに近づいてきた。


「ありがとうございます。障壁を張ってもらったおかげで戦いに集中できました」

「構わないわ。『フェンリル』と『ナイツ』を支援するつもりで来たけど、あなたたちがいなかったら被害は十人や二十人じゃすまなかったでしょうから」

「はい。それに関してはシュウさんが急いで帰った方がいいと言ったので、それでSランクを倒し次第すぐに来ました」

「ふーん、あいつが。…もう少し話していたいけど私も部下を待たせてるから、話はまた後でね。あなたも早く部隊に合流しなさい」


 レイナは最後にミアに声をかけると、その場を離れた。

 レイナがその場を離れてすぐにミアは先程の二人の戦い振りをほめたたえた。


「二人共すごいですね!最後なんて一人で一体ずつ邪竜倒しちゃいましたし!」

「…まあ、一応隊長ですから」


 ミアの称賛を受けてのリクのこの発言は、謙遜と言うよりAランクの邪竜四体を倒したぐらいでほめられても反応に困るという戸惑いの方が大きかった。

 しかしそんなこととは露知らず、ミアは隊長にも色々いるのだなと自分の上司を思い出しながら考えていた。

 そんなミアにヴェーダが苦笑いしながら話しかけてきた。


「それにシュウさんは一人であれですから」


 ヴェーダの言う『あれ』を思い出し、ミアは小さくため息をついた。

 ミアがいる場所からはシュウの戦いの詳細は分からなかったが、そこにシュウがいることはすぐに分かった。

 ミアの見ている前で邪竜が数秒毎に消えていったからだ。


 剣士のシュウがどうやってあれ程早く複数の邪竜を倒しているのだろうか。

 そんな技はミアが見た映像の中ではシュウは使っていなかった。

 時折邪竜が火炎を放っている様子だったので邪竜も無抵抗でやられたわけではない様だったが、結局シュウの戦いは一分もかからずに終わってしまい、ミアが見学する暇もなかった。


 リクとヴェーダが『フェンリル』の前に現れたのと同時刻、リンドウと『ナイツ』の前に遠征組最後の一人、シュウが現れていた。


「よう、大ピンチって感じだな。後は引き受けるからさっさと帰りな」

「な、どうしてこんなに早く?」


 突然のシュウの登場に驚くリンドウに視線を向けず、シュウは邪竜を見据えていた。


「そんなこと話してる場合かよ。話はアイギスに帰ってからコウガ辺りに聞け。邪竜は倒すけど、おっさんたちの面倒まで見る気ねぇからな」


 そう言うとシュウは、リンドウの返事も聞かずに走り出した。

 邪竜目掛けて走り出したシュウは途中で落ちていた剣と槍を拾い上げ、それらを邪竜に投げつけた。

 数十メートルの距離をものともせずに邪竜の首や胴体に当たった武器にはシュウが限界まで魔力を込めていた。


 それらをまともに受けた邪竜の体は大きく吹き飛び、数秒も持たずに消滅した。

 邪竜に『テンペスト』に匹敵するダメージを与えたシュウは、自分の攻撃の結果を確認もせずに次の邪竜へと攻撃をしかけた。

 今回は邪竜を食い止める人間がいないため遊びは一切無しだった。


 邪竜の放つ火炎を回避しながらシュウは、新たに拾った槍に魔力を込めると邪竜目掛けて投げつけた。

 シュウが武器に全力で魔力を込めた場合、普通の武器は数秒と持たず崩壊するが、その武器は崩壊する際に周囲に斬撃をまき散らす。


 その威力は『テンペスト』にも匹敵し、そこら中に武器が落ちている今の状況はシュウにとってまさに理想の状態と言えた。

 戦闘後の武器の回収が困難になり、そして何より接近戦が好きなためシュウはこの戦法はめったに使わない。


 しかしシュウの後ろで『フェンリル』と『ナイツ』がアイギスに向けて後退している以上しかたがなかった。

 まさかリンドウも後で武器代を請求はしてこないだろう。

 次々と邪竜が消滅していき、最後の一体が雄たけびを上げながらシュウに襲い掛かるのを見てシュウは笑みを浮かべた。


「おっ、手間が省けたぜ」


 シュウは自分目掛けて突撃してくる邪竜を前に余裕の笑みを浮かべると、そのまま刀を振るい邪竜の首を一撃で斬り落とした。

 こうして一分足らずで『ナイツ』を追っていた邪竜たちは倒され、シュウは特に喜ぶでもなくリクたちのもとに向かった。


 リクとヴェーダ、そしてなぜかこの場に残っていたミアと合流したシュウだったが、三人と合流するなりミアがシュウをにらみつけてきた。


「あ?どうしたいきなり?にらまれる覚えねぇんだけど」


 とぼけているわけではなく本気でミアににらまれる覚えが無かったシュウが不思議そうにしている中、ミアが口を開いた。


「…あんた、私と戦った時はほんとに手抜いてたのね」

「当たり前だろ?俺が本気出したら、お前なんて二秒で挽き肉だぞ」


 ミアの視線を受けたシュウは、ミアの発言を笑い飛ばすでもなく淡々と事実だけを述べた。

 戦場での本気のシュウの攻撃によりAランクの邪竜が次々と倒される様を見て、今の自分とシュウの実力差を嫌と言う程見せつけられたミアは、怒りや恥じらい、絶望などが入り混じった混沌とした感情を抱いていた。


 その結果、今回シュウへ怒りすら感じさせる視線を向けることになったのだが、シュウはどこ吹く風だった。

 シュウに自分の怒りを軽く受け流され、ミアも一応の落ち着きを取り戻した。

 そんなミアの変化に気づく由も無く、シュウはリクとヴェーダをねぎらった。


「そっちも無事に済んだみたいだな」

「はい。シュウさんもお疲れ様でした」


 互いに声をかけるシュウとリクに横からミアが声をかけてきた。


「どうしてこんなに早く帰って来れたの?予定通りなら後一時間はかかるはずでしょ?」


 今のアイギスの技術ではアイギスから遠く離れた場所にいる相手までは無線が届かない。

 シュウたちにアイギスの危機を知る方法など無かったはずだ。

 それにも関わらずシュウたちは、ミアだけでなくアイギスにいたほとんどの隊長たちの予想を遥かに上回る速さで帰還した。

 ミアが不思議に思うのも当然で、そんなミアの質問を受けた三人を代表して口を開いたのはシュウだった。


「出発する時点で嫌な予感はしてたんで、帰りもとばしてきたんだ。感謝しろよ?レイナやクオンに怒られるの覚悟でエンジン一個ぶっ壊してまで急いだんだからな」


 魔動エンジンは一つ一つ手作りで作られている上に修理できる人間は研究局でも極一部だ。

 そのためいざ修理となると研究局、というよりクオンやその直属の部下の手間が増える。

 しかも貸し出した備品を壊したとなったらレイナも黙っていないだろう。

 そう考えてのシュウの発言だったが、リクはそれを否定した。


「今回は事情が事情ですから、説明すれば怒られはしないと思います」

「そうか?俺、あいつに仕事の報告したら二回に一回は文句言われるぞ」


 シュウの言っている報告とはどこどこの建造物を破壊した、あるいは事件解決のために部外者を巻き込んだなどといった内容だ。

 そのため毎回事務局局長としてそれらの事後処理に追われるレイナは文句や皮肉の一つも言いたくなり、リクはそれを理解していた。

 そのためリクは、シュウの発言をスルーして撤退することにした。


「そろそろ帰りましょうか。『リブラ』のみんなも心配ですし」


 リクの提案を受けて他の三人もアイギスへと向かった。

 こうしてアイギス史上最大の邪竜襲来は、隊長たちを始めとした討伐局の面々の尽力と多大な犠牲と引換えに幕を閉じた。


『創造主』はアイギスにおける人間たちと自分が送り込んだ邪竜との戦いを見終えると、満足した表情で今日行われた全ての戦いの様子を思い浮かべていた。

 彼が人間相手の戯れを始めてから二百年程が経過した。


 その間に人間たちは戦術や科学技術を高め、彼が用意した数々の試練を乗り越えるようになった。それ自体は彼の目論見通りではあったが、その結果としてただ邪竜を送り込むだけでは人間たちにとっては脅威にならなくなっていた。


 そのため今回は時間差をつけて邪竜を送り込むという小細工を行ってみたのだが、結果として彼の目論見は当たり、世界中に四十ヶ所程ある人間たちが集まっている場所の内、七ヶ所が壊滅した。

 無事だった場所もかなりの人的被害を出したが、これまで彼の期待に応えてきた人間たちならその犠牲すら進化の糧としてくれるだろう。


 彼が見ているのは種族としての『人類』で、人間一人一人を見ているわけではない。

 そのため邪竜との戦いで人間がどれだけ死のうが、彼は気にも留めない。

 指摘する者がいないため、彼は自分の考えが狂っていることに気がつかない。

 ただ楽し気に次の『試練』の内容を考えるだけだった。


 五月十八日(月)

 二本角のSランクの邪竜に加えてAランクの邪竜六十体が襲来するという危機を乗り越えた機構は、二日経った今もその後始末に追われていた。

 二日前の戦いでの討伐局の殉職者の数は、『ナイツ』八十七名、『レギオン』0名『プロメテウス』四十一名、『シールズ』九十名、『パニッシュメント』百三名、『リブラ』七十五名、『フェンリル』0名の合計三百九十六名という目を覆いたくなる程のものだった。


 戦力の低下というだけでなく通常業務にも支障が出ており、各局の局長だけでなく他の隊長たちも無事だったものの辞職を願い出た隊員たちの慰留などに追われていた。

 そんな中今まで通りの生活を行っていたシュウは、昼下がりの森で修行後の昼寝に勤しんでいた。


 そんな中自分に近づく気配に気づき、目を覚ましたシュウは不機嫌そうな表情で気配のする方に視線を向けた。

 その後しばらくして木の陰から顔を出したのはミアだった。


「ん?何か用か?」

「用っていうか、いいの?おじい様もだけど、隊長のみんな忙しそうにしてるみたいだけど」

「ああ、何かばたばたしてるな。まあ、うちは別に隊員が死んだわけでもねぇし、特にどうってことねぇさ。あ、でも新人の配属が遅れるかもとはリンシャが言ってたな」


 自分の隊に配属される新人についてまるで他人事の様に言うシュウを見て、ミアはシュウに何か言ってやろうかと思ったが結局止めた。

 まだミアが『フェンリル』に入って二週間程しか経っていないが、シュウが何度リンシャに怒られようが態度を改めようとしないのを散々見てきたからだ。

 それにミアがここに来た目的は、別にシュウに隊についての業務をさせるためではなかった。


「今日これから予定無いんだけど、手合わせしてもらえない?」

「しかたねぇな。少しは仕事するか」


 ミアから手合わせを頼まれ、面倒そうにしながらも笑顔を浮かべてシュウは立ち上がった。


「さあ、来い」


 シュウのこの発言の直後、ミアの斧とシュウの刀がぶつかり火花が散った。

 ミアの全力の攻撃を受けながらシュウは、ここ最近の出来事を思い出していた。

 生意気な部下が入ってきて退屈しなくなったと思っていたら、その後すぐに二本角の襲来とわずか半月の間に楽しいイベントが目白押しだった。


 シュウは今の仕事が天職だと思っている。

 戦ってさえいればいいのだから気楽なもので、つまらなかったらすぐに辞めようと思っていたのにすでに二年以上今の仕事を続けていた。

 日に日に鋭さを増していくミアの攻撃を受け、これからも退屈しそうにないと考えたシュウは、嬉しそうに笑いながらミアのわき腹に峰打ちを叩き込んだ。


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