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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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劣勢

 ちょうどその頃、リンドウ率いる『ナイツ』と邪竜との戦いも佳境を迎えていた。

 地上で邪竜に視線を向けるリンドウ目掛けて邪竜が火炎を放った。

 それを回避したリンドウはそのまま邪竜の真下まで走り抜け、その後邪竜の翼目掛けて跳び上がった。


 翼をつかんでよじ登ったリンドウは邪竜の背中まで移動すると、そのまま何の小細工も無く邪竜の背中に拳を振り下ろした。

 リンドウの拳を受けて邪竜の動きが止まり、続けて邪竜のうめき声が周囲に響き渡った。しかしそれを気にも留めずにリンドウはその後も何度も邪竜の背中に拳を叩きつけた。


 リンドウに背中に登られた時点で邪竜に効果的な対抗策は無く、それが分かっているリンドウの大振りの攻撃数発を背中に受けて邪竜は地上に落下した。

 落下の衝撃で邪竜の動きが止まっている隙をリンドウは逃さず、そのまま邪竜の頭部へと走り邪竜の頭を何度も踏みつけた。


 邪竜の背中にたどり着いてからここまでの流れがリンドウのいつもの邪竜の倒し方だ。

そのためリンドウは手慣れた様子で邪竜の頭を踏み砕き、これで三体目となる邪竜の撃破にも喜びの色を見せず次の邪竜への攻撃を始めようとした。


 しかしそれより邪竜の攻撃が早く、邪竜の放った火炎がリンドウを捉えた。

 邪竜の攻撃に気づいたリンドウはとっさに回避しようとしたが、完全には回避できず体の左半分を焼失した。


 能力で体の再生能力を高めて次の瞬間には体も服も元通りにしたリンドウだったが、その表情から余裕は感じられなかった。

 消耗した魔力さえ時間を巻き戻して元通りにできるアヤネと違い、リンドウは再生に使った魔力は時間経過による回復を待つしかない。


 腕一本の再生すらかなりの魔力を消耗するため、リンドウはアヤネ程気軽に体の再生を選択肢に入れることができない。

 そのため先程の自分の失態にリンドウは顔をしかめずにはいられなかった。


 しかしいつまでも終わったことを悔やんでいてもしかたないので、リンドウは自分の左半身を奪った邪竜に視線を向けた。

 面倒なことに邪竜はリンドウが飛び移れない高さを飛んでおり、遠距離攻撃の手段の無いリンドウとしては手の打ちようが無かった。


 この状況は逆に相手からの遠距離攻撃もよけやすい状況なので、こういった場合は邪竜がしびれを切らしてこちらに近づいて来るまで攻撃をかわし続けるのが定石だ。

 しかしまだ十体以上邪竜がいる状況でそんな悠長なことはしていられず、幸いにも今回その必要は無かった。


 リンドウが見上げていた邪竜の翼の上に一人の男が現れ、手にした剣で邪竜の翼への攻撃を始めたからだ。

 その男の攻撃の威力自体はそれ程高くなく、すぐに翼を斬り落とすことはできなかった。


 しかし翼に攻撃を受けたことで邪竜はその高度を大きく落としてしまい、リンドウにとってはそれで十分だった。

 翼への攻撃に気を取られていた邪竜の顔まで跳んだリンドウは、出会い頭に右の拳を叩き込み邪竜の左眼を潰した。


 その後邪竜の口に手をかけたリンドウは、邪竜の頭部によじ登るといつもの要領で邪竜の頭を何度も踏みつけた。

 リンドウと男の同時攻撃を受けた邪竜は、程無く落下し始めて数秒後には姿を消した。


「ありがとう。助かった。今の状況は?」

「テトさんが今もがんばっていますが、そろそろ戦線を維持するのがきつくなってきました」


 リンドウの質問に対してリンドウの副官、ベリアンドは手短に現状を説明した。

 ベリアンドの能力はワープで、視線が届くところならどこにでもワープできる。

 この能力に加えて判断も早く、ベリアンドは副官としてリンドウを長年支えてきた。

 そして先程ベリアンドが口にしたテトというのは天候操作の能力を持つ『ナイツ』の隊員で、リンドウに匹敵する戦闘力を持っている隊員だ。


「そうか。『フェンリル』の方はどうなっている?」

「あちらはすでに邪竜を五、六体倒しているそうですが、徐々に押され始めています。こちらも負傷者が増え始めて、テトさんもそろそろ限界だと思います」

「分かった。彼への援護は私がする。お前は他の隊員たちの指揮をとって後退してくれ。アイギスの二百メートル前までは下がっていい」

「分かりました。それではまた」


 ベリアンドとの話を終えると、リンドウは一際激しい音がする方へと駆け出した。

 リンドウがテトと邪竜と戦っている場に着くと、その場は竜巻と落雷、そして火炎が飛び交う激戦区と化していた。

 今もまた邪竜がテト目掛けて火炎を放ち、テトはそれを風の防壁で防ごうとした。


 体中が焼けた上に傷だらけの状態で戦闘を続ける邪竜の耐久力もさすがだったが、一人でここまで邪竜を追い込んだテトもさすがだった。

 しかしテトの方には明らかな疲れが見えた。


 邪竜が放った火炎を風の防壁で防ごうとしたテトだったが、完全には防ぎきれずに邪竜の攻撃を回避せざるを得なかった。

 万全の状態のテトなら余裕で防げる攻撃だったので、これまでの戦いでかなり消耗しているのだろう。

 目の前の攻防が一段落したところを見計らい、リンドウは風を操り空中に浮遊しているテトに通信をつないだ。


「私も援護する。さっさとこの邪竜を倒して後退するぞ」


 ここでようやくリンドウの存在に気づいたらしいテトがリンドウに視線を向けた。


「隊長、どうしてここに?ここは大丈夫ですから他の場所をお願いします」

「駄目だ。私たち以外はすでに後退を始めている。このまま戦うと孤立するぞ」


 隊員としては高い戦闘力を持つテトは、なまじ強いばかりに他の隊員たちとの連携をおろそかにする傾向があった。

『レギオン』以外の隊はそこまで密に連携を取っているわけではないので大抵の場合は見逃されてきたが今回は話が別だった。

 改めて強くリンドウに命じられ、不満をにじませながらもテトはリンドウの提案を受け入れた。


「私は左から攻める。右から牽制してくれ」


 それだけ言うとリンドウは一気に邪竜目掛けて走り出した。

 テトの繰り出す派手な攻撃ばかりに気を取られていた邪竜はリンドウの接近をあっさり許してしまい、元々深手だったこともあり邪竜はすぐに倒された。

 その後二人はすぐに邪竜の攻撃を受けている『ナイツ』の隊員たちの救援に向かった。


 時はさかのぼりアイギス近辺での討伐局と邪竜の戦いが始まろうとしていた頃、『フェンリル』の隊員たちも緊張した面持ちでアイギスから離れた場所に布陣していた。

『フェンリル』は『ナイツ』の右側に布陣しており、邪竜が現れたら向かって来る邪竜には各自で対応することになっていた。


 リンシャだけは『フェンリル』本隊からさらに後方で待機していたが、これはいつものことなので不満を言う者は誰もいなかった。

 戦いが始まる少し前、ミアはガドナーから今回の戦いにおける諸注意を受けていた。


「あらかじめ言っておきますが、Aランクの邪竜とBランクの邪竜は別物です。Aランク相手にミアさんが突っ込んだところで無駄死にするだけなので絶対にしないで下さい。いいですね?」

「分かりました。でもそれで勝てるんですか?」


 隊長を含む隊一つの戦力がAランクの邪竜五体に相当するという考えは、討伐局における一般的なものなのでミアも当然知っていた。

 この理屈でいくと今回の戦いは三つの戦線全てで不利な戦いになるはずだった。


 そんな状況で空が飛べる上にそれなりに腕が立つはずの自分が大人しくしていていいのだろうか。ミアのガドナーへの質問は、こういった傲慢と言われてもしかたない考えによるものだった。

 そしてそれに対するガドナーの返答は簡潔だった。


「ミアさん一人でどうにかなる状態ではないのでそこまで気負わなくても大丈夫です」


 あまりにあっさり言われたので、ミアは最初ガドナーから自分が役に立たないと言われた様に感じた。

 しかしガドナーの発言には続きがあった。


「でもミアさんには重要な役目をお願いしたいと思っています。前線での戦いではなく機動力を活かした遊撃での牽制、リンシャさんと同じ様な役目を任せたいのですがどうでしょうか?」


 本来なら討伐局に入って半月も経たない隊員に頼む仕事ではなかったが、ミアはそれを承諾した。

「任せて下さい!」

 重要な役目を任されて高揚した様子のミアを見て、ガドナーは念押しの確認をした。

「重要な役目ですがそこまで気負う必要はありませんよ。何より自分の命を優先して下さい。それが結局隊全体の生存につながりますから」

「はい。分かりました」


 その後ガドナーと別れて上空へと移動を始めたミアにリンシャからの通信が入った。


「私は右側の邪竜を攻撃するので、ミアさんはできるだけ左側で戦うようにして下さい」

「分かりました」


 自分の勝手な判断でこの前の様に気絶してみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。

 今回は素直にガドナーとリンシャの指示通りに動こうとミアは考えていた。

 その後現れた邪竜が『フェンリル』目掛けて進行するのに対し、『フェンリル』は先頭に陣取るガドナーを中心に迎え撃った。


 邪竜と『フェンリル』の距離が縮まった時、先手を取ったのはガドナーだった。

 ガドナーの影から伸びた刃が邪竜二体の翼を斬り落とし、その後墜落した邪竜たちに隊員たちが襲い掛かった。

 その後続けて二発の影の刃を放ったガドナーだったが一発外してしまい、結局三体の邪竜の翼を斬り落としただけとなった。


 影の刃の使用中は影を使ったワープが行えないため、ワープによる隊全体への支援を始めたら影の刃による攻撃は行えなくなる。

 そのため今回の戦いでは最後となる影の刃による攻撃をガドナーは行い、それにより邪竜一体を倒すことに成功した。


 できれば狙った邪竜は全て最低でも地上に落としたかったのだが、そううまくはいかなかった。

 ガドナーの能力はあくまでワープがメインで、影の刃による攻撃はその応用だ。

 そのため命中精度が若干怪しく、魔力の消費も激しい。


 最後に仕留めた邪竜にしても一度に四枚の刃を使いようやく倒した。

本来は最初の四体への攻撃だけに留めるつもりだったのだが、一体だけ『フェンリル』も『ナイツ』も無視してアイギスに向かいそうな位置に邪竜がいたのでしかたがなかった。


 ガドナーが一人で戦って倒せるAランクの邪竜はせいぜい六体か七体で、しかもこれは『フェンリル』の隊員たちへの支援を全く行わなかった場合の数だ。

 これまで共に戦ってきた部下たちを捨て駒になどできず、またそういった心情を抜きにしてもガドナーと『フェンリル』が連携すれば被害を出さずに十体近くの邪竜を倒すことも不可能ではない。


 久々に行った三枚以上の影の刃の同時発動にガドナーの息が荒くなったが、すぐにそれを落ち着けるとガドナーはいつも通り隊員たちの支援を行うために影に潜り込んだ。

 あらかじめ決めていた邪竜一体の前にガドナーが姿を現すと、邪竜はガドナー目掛けて火炎を放ってきた。


 ガドナーが転移に使った直後の影はガドナー以外も入れるため、遠距離攻撃の回避には使えない。

 もちろんタイミング次第では可能だが今回は無理だった。

 そのためガドナーは前に走り抜けることで邪竜の放った火炎を回避すると、ついでとばかりに跳び上がって邪竜の腹部を斬りつけた。


 そうしながらもガドナーが邪竜と戦っている隊員たちに視線を向けると、隊員数名が邪竜が翼で起こした突風で吹き飛ばされて追撃を受けそうになっていた。

 それを見たガドナーはすぐに能力を使って転移し、隊員たちを襲おうとしていた邪竜の腹部を深々と斬りつけた。


 致命傷というわけではなかったが、それでも邪竜の動きを止めるのには十分な一撃だった。

 邪竜が動きを止めたのはほんの短い時間だったが、『フェンリル』の隊員たちが体勢を整えるには十分な時間だった。


「右脚を潰したぞ!」

「よっしゃー、今だ!ぶっ殺せ!」


 頼もし過ぎる部下たちの声を聞きながらガドナーは、先程戦っていた邪竜のもとに戻った。


「お待たせしてすみませんでした。何しろ数が多いもので」


 戦いの最中に消えたと思った敵が再び姿を現した。

 不可解な現象ではあったが邪竜にとってそれはそこまで大した問題ではなかった。

 ただ目の前の人間を殺すという衝動に従って邪竜はガドナーに襲い掛かった。


 先程の攻防で火炎放射ではガドナーを倒せないと思ったのか、邪竜は後ろに下がると攻撃範囲の広い翼による突風で牽制をしてからガドナーを踏み潰そうとした。

 しかし魔力を高めることで突風の影響を無効にしたガドナーは、邪竜の攻撃を難無くよけるとそのまま迫り来る邪竜の前脚を斬り裂いた。


 このまま邪竜の後ろ脚を潰して他の隊員たちに任せようかと思ったガドナーだったが、邪竜が空に逃げたためその考えは断念するしかなかった。

 跳んで追撃することはできたが、あまり地面から離れるといざという時に影を使っての転移ができなくなってしまう。


 今のガドナーの最優先事項は部下たちの支援で、目の前の邪竜は足止めさえしていれば十分だった。

 それにしてもと考えながらガドナーは上空を飛んでいるミアに視線を向けた。

 いくら飛べるとはいえ、さすがに討伐局に入ったばかりの隊員に今回の様な場での遊撃を任せたのは早計だったかも知れない。


 先程からガドナーが見ている限り、ミアは遊撃というよりはひたすら邪竜たちから逃げ回っていた。とはいえ一人で三体の邪竜を相手にしているのだから戦果としては十分過ぎたが。

 この様子ならしばらくはなんとかなるだろうが、いずれ限界が来るだろう。

 頃合いを見計らってどこかで一度後退する必要がある。

 そう考えながらガドナーは邪竜との戦闘を続けた。


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