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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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限界

 北での戦いが始まろうとしていたのとほぼ同時刻、南西ではクオンとアヤネが面倒そうに空を見上げていた。

 これは別に余裕の表れというわけではなく、戦力差二倍という状況下での戦いに挑まないといけないことにげんなりしていただけだった。


「あー、めんどくさい。Aランク二十体とか何の冗談よ。援護は期待しないでね」

「分かってる。こっちも死なない程度に頑張る」


 コートの様な形の特注の制服に身を包んだアヤネが通信機越しに話しかけてきたのに対し、クオンは普段通りの抑揚の無い声で返した。

 さすがに二人共逃げる気は無いが、シンラにほぼ無理矢理就任させられて研究費のためだけに隊長をやっているクオンと外周部の状況改善に必要な治安維持局局長の地位に就くために隊長になったアヤネ。

 現隊長の中でも群を抜いて戦意の薄い組み合わせと言えた。

 そうこう言っている内に上空に渦が現れたため、会話を中断した二人はそれぞれの隊に指示を出した。


「じゃあ、ミザーナ。私は真ん中に突っ込むからあんたは右から削っていって。他のみんなは死なない程度に頑張って」


 アヤネは部下たちに大雑把に指示を出すと、その後邪竜の群れへと突っ込んで行った。

 アヤネに名指しで指示を受けたミザーナは『パニッシュメント』の副官で、治安維持局として活動する際もアヤネの右腕として活躍している。ミザーナはアヤネが邪竜と交戦するより早く邪竜への攻撃を開始した。


 ミザーナは大きく口を開くと能力を発動し、数十メートルの距離を超えてミザーナの攻撃が邪竜の一体に命中した。

『口から衝撃波を出す』、それがミザーナの能力だ。

 その威力はBランクの邪竜の火炎の威力を優に上回り、Aランクの邪竜の火炎と比べても遜色の無い威力だ。


 攻撃力だけなら一部の隊長より上で、一人でAランクの邪竜と戦っても十回中三回は勝てるだろう。

『パニッシュメント』の隊員の中で最大火力を誇るミザーナは、邪竜と戦う機会が比較的少ない『パニッシュメント』の邪竜戦における切り札だった。


 自分の副官の派手な攻撃を目にしたアヤネは、それに遅れる形で邪竜との戦闘を開始した。

 一人で突出している上に深紅のコートを纏ったアヤネは目立つことこの上無く、同時に三体の邪竜がアヤネに襲い掛かった。

 残りの邪竜は後方のミザーナたちや横のクオンたちのところに向かったがアヤネにそれを防ぐ手段は無く、またその余裕も無かった。


 三体の邪竜がアヤネ目掛けて同時に火炎を放った。

 それらを大きく前進することで回避したアヤネだったが、回避のことしか考えていない行動の隙を邪竜の一体が突いてきた。


 アヤネ目掛けて邪竜が右の前脚を動かし、移動直後の隙を突かれたアヤネにその攻撃をかわすことはできなかった。そう普通ならば。

 仮にも隊長に選ばれているアヤネがうっかり邪竜に隙を見せるなどという失敗をするはずがなかった。


 自分を握りつぶそうとする邪竜の攻撃が迫る中、アヤネは予定通り『切り札』を発動した。

 その瞬間アヤネ以外の全ての動きが止まり、アヤネは目前まで迫っていた邪竜の攻撃を難無く回避した。


 それどころか自分に迫っていた邪竜の脚を何度も切り刻む余裕さえあった。

『自分自身の時間の加速』、これがアヤネの切り札だった。

 アヤネの体感時間で五秒間、アヤネは周囲が止まったと錯覚する程の速さで動くことができる。


 言うまでもなく対人戦闘ではほとんど無敵の能力で、アヤネはこれを使いこれまで多くの犯罪者を殺すか捕えるかしてきた。

 しかし通用しない相手も存在する。

 今の隊長で言うと瞬時に全方位攻撃ができるシンラとセツナ、そして瞬時に防御技を展開できるレイナとコウガ、そしてシュウにはこの技は通用しない。


 もっとも邪竜にはアヤネの『時間加速』を攻略できるだけの技術も知恵も無いため、それ程気にする必要は無かった。

 またこの『時間加速』は移動速度自体が上がっているわけではないので、発動しても加速による攻撃の威力の上昇もない。


 そのためアヤネは歴代の隊長の中でも攻撃力が低く、邪竜を倒すのにかかる時間が他の隊長より長かった。

 後少しでアヤネを握り潰せるというタイミングでアヤネを見失った上、気づいたら前脚の一本が傷だらけになっていて動きを止めた邪竜にアヤネは容赦なく追撃を仕掛けた。


『時間加速』は多用すると五感や体を動かす感覚が狂うため、あまり気軽には使えない。

 そのためしばらくは『時間加速』無しで邪竜たちの攻撃をしのがなくてはならなかった。

 かといってただでさえ攻撃力や耐久力に圧倒的な差があるAランクの邪竜相手に防御に回っていたら命がいくつあっても足りない。


 大きく跳躍したアヤネは攻撃のために高度を落としていた邪竜の翼の端をつかむと、そのままよじ登って翼を斬り落としにかかった。

 翼に異変を感じた邪竜がアヤネを振り落とそうとしてきたが手遅れだった。


 翼を斬り落とされた邪竜が落下していく中、アヤネは邪竜の背中を足場にして別の邪竜目掛けて跳躍した。

 自分に近づくアヤネに気づいた邪竜がアヤネの後方の邪竜に気を遣うことなく火炎を放った。

 それに対してアヤネは『時間加速』を使っての回避をせず、邪竜の放った火炎をまともに受けた。


 その後数秒間邪竜の火炎を浴びたアヤネは、火炎により多少勢いを殺されながらもなんとか邪竜のもとにたどり着いた。

 邪竜の上あごに着地したアヤネは、全身が焼けただれて服は燃え残ったものが体に張り付いているだけという見るも無残な姿だったがそれも一瞬のこと。


 すぐに自分の体の時間を巻き戻したアヤネの体は、まるで何事も無かったかの様に復元された。焦げた細剣はもちろん特注の深紅の制服も元通りになっていた。

 しかし慣れているとはいえ、先程焼かれた痛みを忘れることはできなかった。

 アヤネはコート状の制服の裾をひるがえしながら邪竜の首へと向かった。


「これはさっきのお礼よ。取っておきなさい」


 そう言うと同時にアヤネは『時間加速』を発動した。

 いくらアヤネが攻撃力に乏しいと言っても、無抵抗の邪竜が相手なら五秒もあれば首に致命傷を負わせることぐらいはできる。


 邪竜が知らぬ間に二十回以上アヤネに斬りつけられて大きく損傷した邪竜の首は、そのまま自重で落下した。

 最終的に無傷で邪竜を倒したアヤネは、次の邪竜へ攻撃を仕掛けた。


 一度地上に降りたアヤネは、先程翼を斬り落とした邪竜を含む二体の邪竜を相手にしていた。

 時間の加速や巻き戻しができるアヤネは、余程の格上が相手でない限り死ぬことはない。

 その上再生しているわけではなく体の時間を巻き戻しているアヤネは、魔力も減らないため不眠不休でいくらでも戦える。


 しかしそれはアヤネに限った話で、共に戦っている『パニッシュメント』の隊員たちはそうはいかない。

 何体かはクオンたちが受け持っているといっても、少なくともこの場にいる邪竜の内五体程はミザーナたちに襲い掛かっているだろう。


 それを考えるとあまり悠長なことも言っていられない。

 他の戦線の戦力を考えると、北側は何とか勝てるだろうがこちらに援軍を送る余裕は無いだろう。

 東南に至っては隊長最弱のリンドウ率いる『ナイツ』とシュウがいない『フェンリル』だ。


 アヤネたち以上に戦力不足で、援軍どころか勝てるかも疑わしかった。

 話に聞く限りかなり強いらしいガドナーの強さ次第といったところか。

 遠目でミザーナたちと邪竜が交戦している様子を見たアヤネは、最悪の場合戦線をアイギス近くまで下げることも視野に入れ始めていた。


 戦いが始まる直前、アヤネとの通信を終えたクオンは自分の副官のローグに通信で指示を出していた。


「いつも通り隊の指揮は任せます。外に出ている隊長たちかシンラ局長、いずれにしても援軍を待つのが基本方針なので、引き気味に戦って下さい。邪竜をアイギスに行かせないようにだけお願いします」

「了解しました。隊長もお気をつけて」


 いつも通り覇気の無いクオンの指示を受けたローグは、すぐにクオン配下の部隊、『プロメテウス』の隊員たちに指示を出した。

 ローグを含む『プロメテウス』の隊員たちの認識としては、クオンは自分たちの上司というより戦いの時だけ顔を出す外部の人間だ。


 これはクオンが研究局の仕事に時間を割いて隊の指導を全く行わないことが原因だったが、これはクオンにやる気が無いわけではなく適性の問題だった。

 すでに研究局局長だったところをシンラに推薦されたクオンは、シュウ同様討伐局の一般の局員としての経験が無い。


 隊長就任時に実戦の経験がほとんどなかった上に、クオンの戦闘スタイルは典型的な能力依存型だ。そんなクオンに隊員たちの指導などできるわけもなく、クオンが隊長に就任して以来ずっとクオンは書類仕事以外はローグに任せていた。


 こういった事情は隊員たちも理解していたが、クオンがほとんど隊員たちと顔を合わせないことにより『プロメテウス』は歴代でも屈指の士気の低い部隊となっていた。

 最低限の打ち合わせを終えたクオンは飛行能力を使い上昇すると、地上にいる『プロメテウス』の隊員たちを襲おうとしている邪竜たちに視線を向けた。


 援軍を待つのが基本方針とは言っても、クオンが先陣を切って邪竜の勢いを殺さなければ時間稼ぎもままならないだろう。

 それぐらいはクオンもわきまえており、普段通りの表情でクオンは邪竜の群れへと向かった。


「さてと、さすがに二、三体は倒さないと」


 とても隊員たちには聞かせられない情けない発言をしつつ、クオンは邪竜の群れ目掛けて光線を放った。

 今のクオンは完全に戦闘用の能力を入れて戦いに臨んでいる。


 今使った光線を撃ち出す能力もその一つで、射程が長いことから接近戦の技術が皆無のクオンがよく使う能力だった。

 邪竜にダメージを与えるためと言うより自分に注意を引き付けるためにクオンは光線を連発した。


 そのかいあって邪竜三体がクオン目掛けて突っ込んできた。

 しばらくして邪竜たちがクオンを目視できる距離まで近づいた瞬間、クオンの姿が消えて邪竜たちはあてもなく周囲をうかがった。

 目についた人間を考えなしに襲うだけの邪竜たちは気づいていなかったが、邪竜たちの近く、先程までクオンがいた場所には霧が漂っていた。


 その霧はまるで意思を持っているかの様に邪竜へと近づいていき、邪竜の頭部に到達したと同時にクオンへと変化した。

『体の霧化』、それがクオンが今回自分に入れた三つ目の能力だった。


 去年シュウが捕まえた犯罪者から借りている能力で、発動中はほとんどの物理攻撃を無効にできる。

 その上一定以上離れると目視も難しいため、邪竜と遠距離戦をすることが多いクオンは邪竜との戦いではこの能力を使うことが多かった。


 気づかれることなく邪竜の頭部に到達したクオンは、邪竜の左眼目掛けて光線数発を叩き込んだ。いくら邪竜の防御力が高いといっても、ゼロ距離で眼に光線を撃ち込まれてはひとたまりもなかった。


 突然片眼を失い悲鳴をあげる邪竜の姿を見て、他の邪竜たちもクオンの存在に気がついた。

 暴れる邪竜から飛び立ったクオンは、周囲の邪竜に光線を撃って牽制しながら再び邪竜たちの中心へと移動した。


 そこに邪竜の一体が火炎を放ち、それを慌ててよけたクオンはお返しとばかりに邪竜に光線数発をお見舞いした。

 クオンの攻撃を受けた邪竜が雄たけびをあげながら再び火炎を放ち、それを再びかろうじてかわしたクオンは瞬時に体を霧に変えて邪竜たちの視線から逃れた。


 好きな能力を三つまで自分に入れられるクオンの能力は、借りている間相手が能力を使えなくできるという点も含めてかなり強力な能力だ。

 戦闘訓練どころか筋力トレーニングすらしたことないクオンがこの能力だけで隊長を続けられている事実がそれを物語っている。


 しかし使いづらい面があることも事実で、相手の同意無しでは能力を借りれないという点を今の立場で補ってなお弱点があった。

 これはコピー能力全般に言えることだったが、できることが多過ぎて全部中途半端になってしまうのだ。


 実際今日の戦闘でのクオンの光線による攻撃は、ゼロ距離での眼への攻撃以外は邪竜に対して牽制以上の効果を発揮していなかった。

 これが本来の持ち主の攻撃ならすでに邪竜を一体は倒しているはずで、クオンは他の二つの能力も本来の持ち主の半分も使いこなせていなかった。


 研究局局員の一人から借りて普段から使っている飛行能力すら複数の邪竜と空中戦をするには頼りなく、霧化にいたっては全く使いこなせていなかった。

 霧化の能力の本来の使い手は霧になった状態で空中を円滑に移動できたらしいが、クオンは霧になった状態では浮遊しながらゆるやかに移動するのがやっとだった。


 そのため飛行能力と併用してようやく邪竜との空中戦を行っている。

 そのままつかず離れずで邪竜たちと戦っていたクオンだったがなかなかクオンを倒せないことにじれたのか、邪竜の内一体が地上の『プロメテウス』の隊員たちに標的を変えた。


 すでに数体の邪竜と交戦中のところを別の邪竜に襲われては隊員たちはひとたまりもないだろう。

 クオンは『プロメテウス』の隊員に襲い掛かろうとしていた邪竜に近づくと、目標の邪竜目掛けて光線の雨を降らせた。


 その道中他の二体も攻撃を仕掛けてきたが、今この時はクオンは目標の邪竜以外は無視した。

 自分の近くを邪竜の放った火炎や邪竜の翼が通過する度に冷や汗を流しながらも、クオンは地上を目指す邪竜への攻撃を続けた。


 これまでの牽制目的の攻撃と違う殺意がこもった攻撃を受け、地上を目指していた邪竜が再びクオンと戦おうとしたがすでに手遅れだった。

 確かにクオンは歴代の隊長の中でも弱い部類に入るが、それでも隊長であることに変わりはない。Aランクの邪竜ごときが戦闘中に隊長から目を離した代償は大きく、クオンに狙われた邪竜は三十秒も持たずに消滅した。


「げっ、余計なのまでついてきた」


 先程の攻撃の流れ弾が地上の邪竜たちに届き、その内四体がクオン目掛けて飛び立つ姿がクオンの目に入った。

 今のクオンはできるだけ多くの邪竜を引き付けることを目的にしており、新たに邪竜がクオンのもとに来ること自体は大歓迎だった。


 しかし追加で邪竜を相手にするのは先程まで戦っていた邪竜の残りを倒してからのつもりだった。予定が狂ったことに一瞬いら立ったクオンだったが、どうせ自分にきちんとした戦い方の組み立てなどできないのだからと開き直った。


 この時点でクオンは自分を囲む六体の邪竜を倒すことはあきらめていた。

 自分を取り囲む邪竜たちの足止めだけに専念するつもりで、その間に一体でも倒せれば御の字だ。

 仮に一体も倒せなかったとしても先程倒した邪竜を含めて七体も邪竜を相手にしているのだ。

 この場での仕事としては上出来だろう。


 自分の能力以上の敵を相手取っていたためアヤネやローグと連絡を取る余裕が無かったクオンは知らなかったが、アヤネがこの時点で邪竜を二体倒してその後三体の邪竜を相手取っていることを考えるとクオンの現在の戦果は大金星と言えた。

 しかしこれは足止めに徹しているからで、これ以上欲張ると邪竜の一、二体は取り逃がしてしまいそうだった。


『プロメテウス』には来月隊長になる予定の隊員がいるので多少余裕があるが、アヤネはともかく『パニッシュメント』の方は現時点ですでに劣勢でもおかしくない。

 戦力を集中させているため、どこか一ヶ所でも突破されたらアイギスが危険にさらされてしまう。何としてもここで食い止めなくてはならなかった。


 とはいえ最初から分かっていたことだがAランクの邪竜二十体はきつい。

 攻撃に回避にと常に能力を使っているクオンは魔力が持つかどうかという意味でもあまり余裕は無かった。

 このままではじり貧なことはクオンも分かっていたが、今の劣勢を覆すことはクノンには不可能だった。

 無茶を言っているのは分かっているが、後二時間近くなど持ちそうにないので早く来て欲しい。

 コウガやシュウに心の中で文句を言いながらクオンは邪竜との戦いを再開した。

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