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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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初陣

 本編で金額が出てきた際は、単位は円だと思って下さい。

「おっ、今回は割とそろったな」


『フェンリル』の隊員たち四十人以上が現れたのを確認したシュウは、予想以上に参加人数が多いことに驚いた。

 今回の様なシュウ個人の予知による出撃の場合、準備時間が限られていることもあり参加者は二十人を下回ることも珍しくない。


 そのためわずか一時間足らずの間に四十人以上が参加したことにシュウは驚いた。

 シュウとシンラの個人的な予知を正式に討伐局のシステムに組み込むわけにもいかないので、この出撃はあくまでシュウが独断で行っているという扱いだ。

 討伐局の給料は歩合制ではないため、今回の出撃による追加報酬はない。

しかしそれに文句を言う隊員は、『フェンリル』にはいなかった。


「お前ちゃんと説明聞いたのか?今回は別に断ってもいいんだぞ?」

「もう来ちゃったんだし、このまま行くわよ」


 自分がいなくても特に困らないと言われている様に感じたミアは、若干不機嫌な口調で返事をした。

 しかしシュウは特に気にした様子も見せずにその場の隊員全員に声をかけた。


「さて行くか。西に割とすぐ現れるっぽいから少し急ぐぞ」


 そう言うとシュウは、隊員たちの返事も待たずに歩き出した。

 シュウとシンラによる邪竜出現の予知は、さすがに研究局が専用の機械で行っているもの程の精度は無い。

 大体の方角と距離、そして出現時間が分かるだけだ。


 外れたことこそないが現場に着いてから三十分以上待たされることも珍しくなく、逆に到着後すぐに戦闘ということもある。

 また現れる邪竜のランクも分からないので、Aランクが現れた場合はシュウとガドナー以外は即撤退していた。

 道中ガドナーから説明を受けたミアは、今までよく『フェンリル』に被害が出なかったものだと驚いた。


「それにしてもみなさん、しなくてもいい邪竜との戦いなんてよく参加しますね」


 参加しているミアが言えた義理ではないが、機構本部に住んでいるミアと違い他の隊員たちは自宅から急いで駆けつけたはずだ。

 それにも関わらずこれだけ多くの隊員が呼ばれてすぐ来たというのはさすがに意外だった。

 シュウにそこまでの求心力があるとは思えないのだが。そう思っていたミアにガドナーが説明をしてきた。


「隊長のポケットマネーから一応一万ずつ出ますから、みんな割のいいバイトぐらいに思ってるんですよ」


 ガドナーのこの発言に命を懸ける対価としては安過ぎると思ったミアだったが、ガドナーの説明はまだ終わりではなかった。


「そもそもシュウ隊長は私たちの助けはいらないと言っていて、私たちが勝手に着いていってるわけですからお金もいらないんですけどね」


 シュウが隊長に就任して二ヶ月が経った頃、アイギス周辺に予報から漏れた邪竜の出現があった。その際にシュウは誰にも声をかけずに一人で出撃し、Aランク二体、Bランク三体を撃破した。

 後でそれを聞いたガドナーたちが今後は自分たちにも声をかけるように頼み、シュウは間に合わなかったら置いて行くぞとだけ言い、一応は了承した。


 ちなみに次の出撃でシュウが臨時の出撃に参加した隊員たちに手当てを配った際、ガドナーとリンシャは必要無いと言ったのだが、シュウは自分が配りたくて配っているのだからガドナーたちの命令を聞く気は無いと一蹴して今に至る。


「あれ?でもそれだとおじい様しかいない時はどうしてたんですか?」

「シンラ局長の場合は、本部待機してる隊が邪竜が現れてから出撃していました。だから毎回外周部には被害が出てました」


 邪竜出現の予報の有無に関わらず、有事に備えて機構本部には常に一つの隊が持ち回りで待機している。

 シュウが隊長に就任する前もシンラの予知のおかげで比較的迅速な邪竜への対応は行えた。


 しかし毎回外周部に被害は出ていて、シンラは毎回歯がゆい思いをしていた。

 シュウとシンラの予知は、言ってしまえばただの勘だ。

 当時のシンラは自分一人の勘で多くの隊員を動かすことにためらいがあり、それが毎回の外周部への被害につながっていた。


「…そう聞くとシュウ隊長って自分にすごい自信を持ってるんですね」

「そう言うといい風に聞こえますけど、要するにシュウ隊長は周りからの目を気にしてないだけですからね。もう少し気にして欲しいというのが部下としての本音です。まあ、今のやり方で結果が出てるんですから、これは無いものねだりなんでしょうけど…」


 疲れた様にそう言うガドナーに何と声をかければいいか分からず困っていたミアにシュウの声が届いた。


「そろそろ着くぞ」


 シュウにそう言われて隊員たちは周囲を見渡したが、特に変わった様子は見られなかった。


「もういつ来てもいいんだがな」


 シュウがそう言った直後、上空に大きな渦が現れて邪竜が姿を現した。

 現れた邪竜の内訳は、Bランクが三体、Cランクが百体程だった。


「ガドナー、Cランクはお前らに任せる。孫娘は一番左のBランクをやれ」


 初陣でいきなりBランクとの一騎打ちを命じられて驚いたミアだったが、それも一瞬の事だった。

 斧を手にしたミアは邪竜目掛けて飛び出し、邪竜が吐き出した火をかわすとそのまま邪竜の左眼に斬りかかった。


 ミアの攻撃力の低さから斬るというより潰すという感じの攻撃になってしまったが、最初の攻撃で片目を潰せたのは大きい。

 ミアは続いて首を斬り落として一気に勝負を決めようとしたが、それは邪竜が許さなかった。


 叫び声をあげながらミアを噛み砕こうと迫る邪竜に対してミアは上空に逃れたが、邪竜はすぐさま角を振り上げてミアを引き裂こうとした。

 この攻撃も何とか回避したミアだったが、横から迫っていた邪竜の翼に気づくのが遅れて直撃を受けてしまった。


 この衝突は別に邪竜の攻撃というわけではなく邪竜の巨体ゆえの偶然の衝突だった。

 しかし食らったミアからすればどちらも同じだった。

 意識がとびそうになるのを必死にこらえてミアは邪竜を見据えた。


 シュウは部下に無理だと考えている命令は決して出さないとミアは聞いていた。

 つまりシュウはミアが一人でBランクに勝てると考えているのだろう。

 シュウに勝つことを目標としているミアとしては、初戦からつまづいているわけにはいかなかった。


 決意を新たにしたミアは邪竜の左の翼目掛けて突っ込み、翼の生え際に斧を突き立てた。

 そのまま加速して翼を斬り落とすつもりのミアだったが、その目論見は外れて邪竜の翼にはわずかな傷しかつかなかった。


「硬っ…」


 邪竜の体の予想外の硬さにミアは愕然とした。

 邪竜の体は体そのものも硬いのだが、体内に魔力が満ちているため能力者が魔力を放出して防御力を高めている状態を常に維持している。


 そのため魔力が通っていない武器での攻撃は効果が薄く、今のミアが行っている程度の魔力での武器強化ではBランクの邪竜の体の守りは突破できなかった。

 理由こそ理解していなかったものの、武器による攻撃が通用しないと瞬時に判断したミアは左手で重力球を創り邪竜の翼への攻撃を行った。


 先程の抵抗が嘘の様に翼が削られていく中、邪竜も黙ってはいなかった。

 左の翼が力を失っていく中何とか体勢を立て直すと、邪竜はその巨大な尾を振り下ろしてきた。

 ミアはその攻撃自体には気づいていたが、その攻撃の速度と範囲がミアの回避能力を上回っていた。


 ミアは回避を即座にあきらめると斧を上に放り投げ、両手に重力球を創って迫り来る邪竜の尾を迎撃した。

 威力だけならシンラの重力球に匹敵するミアの重力球をまともに食らい邪竜の尾が大きくけずられたが、邪竜の巨体からすれば微々たるダメージだった。


 攻撃の威力こそ大幅に殺せたものの邪竜への致命打にはならず、お互いの攻撃が衝突した際の衝撃がミアを襲った。

 邪竜が自分のダメージを気にもせずに戦闘を続けようとしていたのに対し、ミアは左肩が外れた上に体中に衝撃が走り視界が定まらず、とても戦闘が続けられる状態ではなかった。

 そう普通ならば。


 普通に考えれば戦闘続行が困難な状況でもミアは長期戦は無理ぐらいにしか考えていなかった。

 幸運にもつかむことのできた斧に斧が壊れかねない程の魔力を込め、それを邪竜の体に深々と突き立てた。


 的が大きいので外す心配だけは無く、その後ミアは斧と自分に耐えられる限界までの重力を加えた。

 斧はきしみ、ミア自身も自分にかかる重力に気絶しそうになったが、ここまでくれば後はミアが何かする必要は無かった。

 斧とそれを握るミアは、そのまま邪竜の体を斬り裂きながら墜落していった。


 ミアが目を覚ますと、そこは『フェンリル』の訓練室の治療スペースのベッドの上だった。

 意識を取り戻してすぐに起き上がろうとしたミアだったが、全身を走る痛みに耐えられずそのままベッドに倒れ込んだ。


「やっと起きたか」


 ミアが首だけ動かすと、近くにはシュウとリンシャの姿があった。


「私はどれくらい気絶していたんですか?」


 シュウから視線を外したミアは、リンシャに視線を向けた。

 ミアがシュウから視線を外したのは、初陣の結果が気絶で終わったという恥ずかしさからだ。


「二時間程です。もうすぐ午後六時になります」

「まったく、いきなり気絶とはやってくれるぜ。まだ早かったか?」


 呆れているとも失望しているともとれるシュウの発言に対し、ミアが何か言い返す前にリンシャが口をはさんだ。


「当たり前です。ミアさんがいきなり一人で邪竜と戦い始めた時は驚きましたよ。入隊二日目の新人に任せる仕事じゃありません」

「そう怒んなよ。生きてたんだからいいじゃねぇか」

「あの邪竜はどうなったの?」


 自分が無事だった以上、ミアとしては気になるのは自分と邪竜の戦いの結果だった。

 あの捨て身の攻撃で倒せていなかったら目も当てられないところだったが、ミアの心配は杞憂に終わった。


「安心しろ。あの邪竜はちゃんと死んだ。一応引き分けってことになるな。もっとも俺が受け止めてなかったら、お前地面に激突して死んでただろうけど」


 邪竜をちゃんと倒せたと聞いてミアが喜んだのも束の間、シュウの発言の最後の部分でそれも台無しになった。


「あんたが助けてくれたのね。ありがとう」

 ミアの再びのあんた呼ばわりにリンシャが反応したが、それをシュウが手で制した。


「一応は俺の部下なんだ。最低限の面倒は見るさ。お前も疲れてるだろうからさっさと話終わらせるけど、今回は百点満点で言うと三十点ってところだ。初陣ってこと考えて超甘めに採点してだけどな」

「引き分けだったからそんなに低いの?」


 先程のリンシャの発言にもあった通り、Bランクを一人で倒すなど討伐局に入って二日目でするような仕事ではない。

 引き分けただけでも大金星と言えた。


 しかし隊長を目指しているミアとしては、今日の戦いは素直に喜べる結果ではなかった。

 そのためシュウの採点自体に文句を言うつもりは無かったミアだったが、シュウの告げた内容はミアの予想を超えて厳しいものだった。


「負ける可能性も考えてたから引き分けなら十分だ。ただ失敗が多過ぎた。まず最初に邪竜が火を吐いた時だけど何よけてんだよ。ガドナーが防いでなかったら外周部に直撃だったぞ」


 今回の一件無謀にも見えるミアとBランクの邪竜との一騎打ちにおいて、シュウも一応の保険はかけていた。

 シュウ自身は一切遊ぶことなくBランク二体を瞬殺してミアの援護に入れるようにしていたし、ガドナーにもCランクは他の隊員たちに任せてミアの援護に専念するように命じていた。


 その際ガドナーにはミアの援護はシュウに任せ、ガドナーは周囲へのフォローを優先するようにシュウは命じていた。

 そのためガドナーが外周部を守れたのだが、そうでなかったら数十人単位で犠牲が出ていただろう。


「じゃあどうすればよかったのよ?まさか斧で受け止めろって言うの?」


 そんなことをしたらミアは黒焦げになってしまう。

 そう考えたミアからすればシュウの指摘は言いがかりとしか思えなかったが、シュウの指摘にはまだ続きがあった。

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