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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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シュウ

 シュウから連絡を受けて部下数人と共に現場に駆け付けたアヤネは、部下に男たちを連行するように指示を出した後でシュウに事情を聞いていた。


「意外だったわ。てっきり殺してるかと思ってた」

「馬鹿言え。誰でも一回ぐらいは間違いを起こす。そういう時は、周りが温かく対応してやらないとな」

「えっ?あの二人、リクとヴェーダとトラブル起こした二人でしょ?」

「あれは、あいつらの事件だからノーカンだろ」

「ああ、そういうこと」


 余程の凶悪犯でもない限り一回目は見逃して二回目は殺すというのがシュウの方針で、これは犯罪者、一般人問わずアイギスでは広く知れ渡っている。

 そのため今回はアヤネ以外の討伐局局員たちもシュウを襲った男たちは殺されていると思っていた。


「ま、謝る手間が省けてレイナは喜ぶでしょうけど」

「そりゃ、よかった。俺も穏便にすませたかいがあったぜ」


 機構の人間が人を殺傷した場合、加害者がどこの所属でも対外的な謝罪や説明を行うのは広報を担当している事務局の仕事になる。

 そのためシュウは、犯罪者を殺す度にレイナから文句を言われていた。


「しかし何で俺狙うんだよ。追放したコウガ狙えよ」


 呆れた様子のシュウの質問にアヤネが淡々と答えた。


「多分序列通りあんたが一番弱いとでも思ったんでしょ。これに懲りたら少しは公式の場に顔出すのね」

「やだよ。めんどくせぇ」


 討伐局に所属していても直属の隊長以外の隊長の顔を知らないという隊員は意外と多い。

 隊同士で連携することがあるといってもその際の打ち合わせは隊長と副官だけで行われ、いざ実戦となればよその隊長の顔など見ている余裕は無いからだ。


 一応年に一回事務局が出している広報紙に隊長全員の顔は載っているが、発行部数が少なくほとんど読まれていないのが現状だった。

 そんな中で隊長たちの顔を多くの者が知る機会が毎年一月に行われる王族と全隊長が出席する式典なのだが、それも毎年当然の様に欠席しているシュウは隊長の中でも特に他の隊の隊員にとって謎が多い隊長だ。


 こうした事情からほとんどの討伐局局員は、シュウの強さを理解していなかった。

 もちろん強いということは分かっているのだろうが、多くの隊員からすれば隊長は全員強いというくくりに入るためその差は分かりにくかった。

 これが今回の襲撃やミアの無謀な挑戦の原因となっているのだが、それをシュウに言っても無駄だと分かっているアヤネは一度形式的に注意するだけに留めた。


「じゃあ、後は任せるから何かあったらリンシャといいように、」

 アヤネと話していたシュウは、突然遠くの空を見上げて嬉しそうに笑った。

「どうしたの?」

「『郊外訓練』だ」

「忙しいわね。あんたも」

「あの馬鹿二人に関しては、お前らのせいだと思うけどな」

「はいはい。悪かったわね。ほら、早く行かないと間に合わないわよ」


 シュウの文句を適当に聞き流したアヤネはそのまま立ち去り、残されたシュウはすぐにリンシャに連絡を入れた。


 シュウがリンシャに連絡を入れた三十分後、『フェンリル』に割り当てられた訓練室に再び『フェンリル』の隊員たちが集められていた。

 といっても急な招集だったため、集まった隊員の数はミア、ガドナー、リンシャを含めて四十一人だけだった。


 訓練も終わり部屋でくつろいでいたミアは、『もうすぐ邪竜が現れるのですぐに訓練室に来て欲しい。ただし強制ではない』という中途半端な指示をリンシャから受け、とりあえずすぐに訓練室に向かった。

 ミアが訓練室に着いた時は部屋にリンシャしかおらず、ミアはリンシャに予報では邪竜の出現は無かったはずなのにどうして自分たちが招集されたのかを尋ねた。


「研究局の邪竜出現予報が邪竜の出現を百パーセント予報できるわけではないことは知っていますか?」

「はい。予報から漏れた邪竜は毎回街の近くで防いでるって聞いてます」

「予報から漏れた邪竜をなぜ毎回瀬戸際で防げているか不思議に思ったことはないですか?」


 リンシャの質問を受け、ミアは初めて違和感を覚えた。

 予報から漏れた邪竜が肉眼で確認できる程近くまで現れてから討伐局の局員が出撃していては、局員が現場に着いた頃には邪竜がアイギスを襲っているだろう。


 しかしここ数年の間、アイギスは外周部を含めて一切邪竜の被害を受けていない。

 どうやってそんなことを実現しているのだろうかと言われて初めて疑問に思ったミアに、リンシャはとんでもないことを言ってきた。


「シンラ隊長とシュウ隊長は邪竜の出現を事前に予知できます」

「は?」


 ミアはリンシャが言ったことをすぐには信じることができなかった。

 そんなことができる能力者がいるなら、もっと知られていてもいいはずだ。

 しかし実際にはそうなっておらず、シンラからもそんな話は聞いたことがなかった。


「おじい様とあいつが…。あいつ何でもありですね」


 リンシャの発言にあっけにとられたミアはそう口にするのがやっとだったが、それを聞いたリンシャは顔をしかめた。


「ミアさん、隊長をあいつ呼ばわりは止めて下さい。シュウ隊長のそういうところは真似しなくていいです」

「あっ、すいません」

「…もういいです。電話でも言いましたが今回の出撃は強制ではありません。それでも行くというのなら急いで準備を」


 リンシャに急かされて準備に向かうミアを見ながらリンシャは、ミアが驚くのも無理は無いと思っていた。

 邪竜出現の予知ができる能力者は、リンシャが知る限りシュウとシンラだけだ。


 しかしリンシャはこれが二人だけの固有能力ではなく、特定の条件さえ満たせば能力者なら誰でも使えるようになると考えていた。

 その条件とは膨大な戦闘経験だ。


 使用者が二人しかいないので断言はできないが、二人の共通点と言えばこれぐらいしか無かった。シンラは四十代の前半にこの予知ができるようになったらしい。

 邪竜出現の予知が天性のものならもっとできる人間がいるはずなので、誰にも言っていないがリンシャは自分のこの考えに自信を持っていた。


 膨大な戦闘経験が条件なら、シンラはともかくまだ若いシュウが邪竜出現の予知をできるのがおかしいように見えるかもしれないがそんなことはない。

 むしろシュウ以上に戦闘経験を積んでいる者は、シンラを含めて討伐局にいない。


 シュウの略歴はこうだ。

 幼くして人身売買組織に売られ、その後五歳の時に組織から脱走。その後二年程かけて逃げ出した組織を潰して外周部の顔役の勧めで護衛の仕事を始める。

 その後戦いに明け暮れる日々を過ごして数年が経った頃、当時外周部最強と言われていた能力者を殺して名実と共に外周部最強となる。


 その後二年程は敵のいない平和な日々を過ごしていたらしいが、ある事情からセツナと衝突したらしい。

 その後街に逃げ出したセツナは大量虐殺をして捕まり、シュウは邪竜狩りをしていたところをシンラに勧誘されて今に至る。


 戦い一色の少年時代で、寝込みを襲われたり信じていた人間に裏切られるなど日常茶飯事だったらしい。

 シュウという名前も十代の半ばに自分で決めたもので、誕生日にいたっては討伐局に入るために戸籍を作った日というだけだ。


 年齢も見た目で決めただけで、実際のところはシュウ本人にも分からないらしい。

 シュウは外周部時代の経験のおかげで今の強さを手にして好き勝手やれているのだから結果的にはよかったと言っているが、これに関してはさすがに強がりも入っているとリンシャは考えていた。


 シュウ自身も隊長就任前の生活をコイントスで二十回連続で表が出た様なものだと表現していて、実際何度も死にかけたらしい。

 それ程の経験をするか二十年以上討伐局で戦わないと使えるようにならないのだから、邪竜出現の予知ができる能力者が新たに現れることは当分ないとリンシャは考えていた。


 リンシャは狙撃手という役職上前線には出ないが、出発は同時に行う。

 出撃予定の隊員全員の準備が整うのを確認したリンシャは、ガドナーとの確認を手短に済ませるとシュウの待つ機構本部玄関へと向かった。


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