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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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襲撃

 五月八日(金)

 この日もミアは『フェンリル』の訓練に参加していた。

 他の多くの隊と違い隊長の姿こそ無いものの、『フェンリル』も他の隊同様毎日朝八時から二時間程の訓練を行っている。


 この訓練への参加率があまりに低いなど素行に問題があると判断された場合、その隊員は除隊や追放処分の対象になる。

 しかし『フェンリル』では隊長が訓練にほとんど顔を出さないので、訓練への不参加が理由で処分を受けることは無かった。


 しかしそれを知らなかったミアは訓練が始まって二十分経ってもシュウが顔を見せないことに違和感を覚え、隊員たちに檄を飛ばしているガドナーにシュウはどうして来ないのか尋ねた。

 ミアの質問を受けたガドナーは意外そうな顔をし、そんな顔をされるような質問をした覚えが無かったミアが戸惑っている中、ガドナーが口を開いた。


「ああ、まだ説明してませんでしたね。シュウ隊長は隊の訓練には参加しません。週に一度私たちに訓練をつけるだけで、それ以外は私が訓練をつけています」

「あいつ、隊の訓練すらしないんですか…」


 このミアの発言にガドナーの表情が変わった。


「ミアさん、シュウ隊長は何も言わないでしょうけど、隊長をあいつ呼ばわりは止めて下さい。一応体面というものがありますから」

「あっ、すいません」


 気をつけようと思っていたのに素の口調が出てしまいミアが慌てる中、ガドナーは説明を続けた。


「シュウ隊長の指導については、こっちからお願いして週に一回にしてもらったんです。あれを毎日されると邪竜と戦う前に私たちが死んでしまいますから」


 隊長が自分の隊に訓練をつける際、ほとんどの隊長は当然手加減をする。

 しかしシュウの場合は常に『フェンリル』の総力を挙げてもぎりぎり勝てない強さで戦い、それ以外一切の手加減を行わない。


 少しでも気を抜こうものなら即病院送りで、実際シュウが就任した最初の一ヶ月は入院者が二十名を超えた。

 能力者は魔力を高めることで傷の回復を速めることができるが、これは自動で働くものではない。そのため意識不明になると、能力者といえども回復速度は非能力者と変わらない。


 ガドナーとリンシャがもう少し訓練の手を抜いて欲しいとシュウに頼んだのだが、優しい訓練を受けて邪竜に殺されたければ他の隊に行けばいいとシュウは取り合わず、最終的にシュウの訓練は週に一回ということになった。

 ガドナーから説明を受けたミアが言葉を失う中、ガドナーはさらに追い打ちをかけた。


「ついでに言ってしまうと隊長は事務仕事を一切しません。今頃リンシャさんが一人で机に向かっているはずです」


 シュウのあまりに無責任な仕事ぶりを聞き、驚いたミアだったが何とか言葉を絞り出した。


「嫌にならないんですか?そんな隊長で」

「言いたいことは分かりますよ。実際シュウ隊長が就任した時は、ほとんどの隊員が反発しました」


 シュウが隊長になってしばらく経ち、隊員が六十八名になった頃、隊として落ち着き始めたことをきっかけに隊員たちの間でシュウへの不満が噴出した。

 元々『フェンリル』の隊員たちは、けがを理由に隊を率いなくなったシンラの隊が引き継がれる形でシュウの部下になった。


 序列一位のシンラの部下としての自負があった隊員たちにとって、当時十八歳だったシュウが大きな顔をしているのは我慢ならなかったのだ。

 そんな隊員たちにシュウはある提案をしてきた。


 一週間の間に誰か一人でもシュウの体に一撃を入れることができたら態度を改めてやると提案してきたのだ。

 その際に不意打ちでも何でもしてみろと言ったシュウだったが、一つだけ忠告をしてきた。

 それはシュウが寝ている時は襲わない方がいいというもので、何でもありと言った以上襲うなとは言わないが、その場合手加減し損なうかも知れないと言ってきたのだ。


 自分が負けることを全く考えておらず、その上シュウは自分が勝つのは当然だからシュウが勝った場合の要求は無いとまで言ってきた。

 このシュウの傲慢な発言に憤りを覚えた『フェンリル』の隊員たちだったが、二日が経つと隊員たち全員が愕然とした。


 誰一人シュウに一撃を加えることができなかったのだ。

 隊員全員が参加したわけではなかったが、それでも四十人以上がシュウに襲い掛かり、その全員が返り討ちに遭った。


 そしてこの結果に業を煮やした隊員三人が屋外で昼寝をしていたシュウに襲い掛かり、三人そろって病院送り、全治一ヶ月という結果に終わった。

 それ以降シュウへの襲撃は行われなくなり、隊員たちもシュウを認めざるを得なくなった。


 ちなみに最後の襲撃を行った三人は、今では『フェンリル』の主力として活躍している。

 こういった経緯で完全な力技で隊員たちに自分のことを認めさせたシュウだったが、それを聞かされたミアはすぐには受け入れられない様子だった。

 それはガドナーも分かっていたようで、苦笑しながら補足を入れた。


「確かにシュウ隊長は模範的という言葉とは縁遠い人です。でもシュウ隊長の就任直後に『フェンリル』を抜けた人で今も討伐局に残っている人は二十人もいないはずなので、そこをどう評価するかは意見が分かれるでしょうね」

「リンシャさんがシュウ隊長は性格に難があると言っていた理由が分かりました」

「そうですね。私には今年で五歳になる娘がいるんですけど、できれば隊長とは会わせたくないですから。一隊員から始めていたらすぐに追放処分を受けていたと思いますよ」

「本当に規格外ですね。あのお、シュウ隊長は」

「はい。でも一度隊長の下で戦うと他の隊長の下では戦えないと思いますよ。安心感が違いますから」

「安心感…」


 シュウと出会ってからまだ二日目のミアだったが、ミアの知っているシュウは安心感という言葉からは程遠い粗暴な男だった。

 もう少し付き合えばこの印象も変わるのだろうか。

 とりあえず戦闘以外でシュウを手本にするのは止めようと決めたミアは、ガドナーとの話を終えて訓練に戻った。


 一方自身の訓練を終えて機構本部の裏庭で昼寝をしていたシュウのもとでは、一つの事件が起きていた。

 機構本部の裏庭は一般にも解放されており、今も家族連れや子供数人が遊んでいる姿が見られた。


 しかしその先に少し行くと木々が生い茂った森が広がり、この森には誰一人近づこうとしなかった。

 森と言っても広さはそれ程ではなく、迷う心配は無い。


 ではなぜ誰も足を踏み入れないのかというと、この森がシュウの訓練所になっていることが広く知られているからだ。

 シュウも最初は『フェンリル』に割り当てられた訓練室で訓練をしていたのだが、大技の開発中に隣の部屋にまでつながる程の穴を作ってからは森で訓練を行っていた。


 森には主要な施設も無いため、シュウの訓練に巻き込まれる危険を冒してまで森に入る者などいない。

 しかし今日に限っては二人の来訪者がいた。


 二人の男は森の中をしばらく進み、ついに寝ているシュウを発見した。

 シュウの周囲の地面には斬り傷やクレーターが見られ、地面には剣や槍が刺さり、周囲の木の何本かは折れていた。


 二人とシュウの間には十メートル程の距離があり、これ以上近づくと気づかれると判断した男の一人がシュウ目掛けて風の刃を放った。

 寸分違わずシュウへと向かった風の刃がシュウに直撃し、男たちはシュウの死を確信した。

 不意を突かれては隊長といえども非能力者と変わらないからだ。

 シュウの死を確認しようと前に出た二人だったが、男たちの予想はあっさりと覆された。


「なんだあ、いきなり」


 寝ているところに不意打ちを受けたはずのシュウは魔力で体を強化して風の刃を防ぎ、不機嫌そうに男二人が潜む方角に視線を向けた。

 木々に隠れている上に距離もあるにも関わらず自分たちを的確に見据えるシュウの視線を受け、男たちは驚いたがそれも一瞬のこと。


 まともに戦って隊長に勝てるはずもないので、奇襲が失敗したことを悟った男たちは即座に逃げ出した。

 その後しばらく走り続けた男たちだったが、突然男の一人が声をあげたかと思うと次の瞬間にはもう一人の男の背中に衝撃が走った。


 シュウが男の一人を捕まえてもう一人の背中に投げつけたのだ。

 二人そろって倒れ込んだ男たちが慌てて立ち上がると、二人の前には不機嫌なことを隠そうともしていないシュウの姿があった。


「俺の安眠妨害しておいてただですむと思ってねぇだろうな。俺は寝てるとこ起こされるのが一番嫌いなんだ」


 そこまで言ったシュウは、ここでようやく襲撃者二人に見覚えがあることに気がついた。


「お前らどっかで見た様な、…ああ、コウガの部下か。ったく仕事も探さないで俺の寝込み襲うなんて救いようの馬鹿共だな」


 シュウに追いつかれて逃げられないと観念した二人は先程まで怯えていたものの、一転してシュウへの怒りを露わにした。


「うるせぇ!お前らのせいで俺たちは討伐局をくびになったんだ!追放処分を受けたらどこも雇ってくれないし、俺たちの人生はもうおしまいだ!」


 自分たちのことを棚に上げて無茶苦茶なことを言い始めた男たちを前にしても、シュウの表情に特に変化は見られなかった。

 まだ完全には頭が目覚めていなかったシュウは、人生がおしまいと怒りながら勝ち目の無いシュウとの戦いをして破滅しようとしているのはギャグなのだろうかと考えていた。

 そんなシュウの前で男たちはなおも叫び続けた。


「薄汚い人殺しの分際でよくも俺たちの人生を…」


 討伐局の隊員たちは金銭面以外でもかなり優遇されており、外部の人間ともめた場合も大目に見られることが多い。

 これは討伐局が慢性的な人手不足に悩まされていることが原因なのだが、その反面処罰を与える場合は見せしめの意味も含めて厳しく対応している。


 追放の場合は理由と名前が公表され、そうなったら警察への就職は絶望的でよほど優秀でない限り民間企業への就職も難しい。

 しかしくびになって数日でシュウへの報復を行うぐらいなら、シュウとしてはそのフットワークの軽さを就職活動に活かして欲しいものだった。

 とはいえ今ならシュウが睡眠を妨害されただけなので、シュウは一応説得を試みることにした。


「聞いた話だと農園とか鉱山ならよっぽどでもない限り雇ってくれるって聞いてるぜ。そこ行ってみたらどうだ?」


 外部からの補給が一切無い今のアイギスでは、一次産業は邪竜との戦いと同じぐらい重要だ。

 そのため街の三割を占める農園や牧場では常に求人を行っていた。

 いわゆる社会経験が一切無いシュウでさえ知っている常識で、このシュウのアドバイスは的確なものだったのだが残念ながら二人には届かなかった。


「ふざけんな!お前が余計なことしなければこんなことにはならなかったんだ!全部お前のせいだ!」


 逆上した男たちは、自分たちが助かる最後のチャンスを逃したことに気づいておらず、そんな二人を前にシュウはただ笑うだけだった。


「なるほど。俺のせいか。確かにリクとヴェーダの件に首突っ込んだ形だったからって対応が適当過ぎたな。よし、来い。今回はきちんと制裁を加えてやる」

「でかい口きいてんじゃねぇ!」


 男たちに向けて一歩踏み出したシュウ目掛け、男の一人が風の刃を放った。

 シュウはそれを紙一重で回避すると、同時に風の刃で斬り落とされた木の枝を手にして男たちとの間合いを一気に詰めた。

 男たちが次の行動を起こす暇を与えずに接近したシュウは、先程手にした木の枝を振るって男の左手首を斬り裂いた。


「えっ…」


 魔力で強化した枝によるシュウの攻撃があまりに鋭かったため、男は最初自分が何をされたのか理解できなかった。

 左手が地面に落ちてからようやく悲鳴をあげた男から視線を外し、シュウはもう一人の男に視線を向けた。


「どうした?さっきお前らが言ってた通り、お前らの人生はここで終わりだ。せめてもの情けで無駄な抵抗ぐらいはさせてやるよ。逃げるなり攻撃するなり好きにしな」


 男への怒りも薄れてただ面倒そうにしているシュウを見て、男はようやくシュウが自分のことを敵と認識していないことを理解した。

 そして自分たちが先程口にしたのとは違う次元で自分の人生が終わろうとしていることも。

 もはや男にシュウに歯向かう気概などかけらも無く、男は即座にシュウに背中を向けて逃げ出そうとしてシュウに後頭部を強打されて意識を失った。


「さてとさすがにこれじゃあいつに悪いか」


 一人は左手を失ったというのにもう一人が気絶では釣り合いが取れない。

 そう考えたシュウは袖口からナイフを取り出して気絶した男の右腰を二回刺し、その後男の服でナイフについた血をぬぐった。


 その後男たちを放置したままシュウは先程まで寝ていた場所に向かい、近くに転がっていた無線機で治安維持局に連絡を入れた。

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