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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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連日の敗北

「もう武器の注文は終わりましたか?でしたら私と戦ってみましょう。ミアさんの実力を把握しておきたいですから」


 そういうガドナーの後ろでは、ガドナーにやられた隊員たちが比較的軽傷の同僚たちに助けられて壁際に移動していた。


「はい。お願いします!」


 周囲からの『フェンリル』の隊員たちの視線を受け、緊張しながらミアはガドナーの提案に応じた。

 しかし武器が無いことに気づき足を止めたミアにリンシャが斧を持ってきた。


「これは『フェンリル』の装備費で購入した訓練用の武器です。一般的な加工しかされていませんが、その分安いので壊してしまっても問題ありません。遠慮無く使って下さい」


 リンシャに礼を言って斧を受け取ったミアは、斧を数度振って使い心地を確認した。

 確かに若干能力が使いにくいが誤差の範囲で、重さと大きさも魔力で強化した腕力があれば気にならない。

 手始めに能力以外の接近戦の腕前を上げようと考えていたミアにはちょうどよかった。


「それでは始めます。遠慮無くどうぞ」


 ガドナーとミアが対峙し、周囲の隊員たちが固唾を飲んでそれを見守る中、ミアがガドナーへと襲い掛かった。

 ミアの振るった斧がガドナーの胴体に迫り、それを剣で防いだガドナーは動きが止まった斧をつかもうとした。


 それを見たミアはとっさに能力を発動して上に逃れ、ついでとばかりにガドナーの顔面を蹴り飛ばそうとした。

 剣での迎撃が間に合わなかったガドナーはその攻撃を左腕で防ぎ、そのまま後退してミアとの距離を取った。


 それに対してミアは床に降りることなく攻撃を続け、ガドナーはミアによる斧の振り下ろしを剣で幾度も防いだ。

 剣に角度をつけて受けることで剣と腕に伝わる衝撃をやわらげつつ、ガドナーはミアの隙をうかがった。


 そんなガドナーの姿勢にミアは違和感を覚えた。

 頭上からの攻撃という剣士にとって対応しにくい攻撃とはいえ、ガドナーがあまりにも防戦一方過ぎたからだ。


 昨日のシュウとの戦いを思い出したミアは、一見自分が押している現状に不安すら覚え始めた。

 しかし実戦経験が無いミアには現状を変える手段が思い浮かばず、程無くしてミアの不安は当たった。

 何度も自分の攻撃が防がれていることに業を煮やしたミアは、防御したガドナーごと吹き飛ばすつもりの大振りの攻撃を放った。


 その攻撃をガドナーは正面から受け止め、お互いの武器が激しい音を放った。

 今までと違う強い反応が返ってきたことに一瞬戸惑ったミアだったが、単純な力勝負なら望むところだった。

 単純に力をこめるだけでなく、自分と斧に重力をかけて頭上を取っているという優位も活かしてガドナーとの押し合いを続けた。

 その後しばらく両者の押し合いは続き、そろそろどちらかの武器が壊れるかと思われたその時、ガドナーの影から伸びてきた黒い槍に貫かれてミアの斧が破壊された。


 突然の攻撃に驚いたミアだったが、とっさに後退して攻撃の正体に気がついた。

 ガドナーの影から巨大な槍が生えており、不意を突かれたことを悔しがる暇すら与えずにその槍がミアに襲い掛かってきた。


 とても目で追える速度ではなく、何とか反射的にガドナーの攻撃を回避したミアだったが左わき腹を貫かれてしまった。

 ミアはこれまで何度もシンラと模擬戦を行っていたが、当然手心を加えていたシンラはミアに流血を伴う傷は負わせなかった。


 そのため人生初となる本格的な痛みにミアは気を失いそうになったが、なんとか気を引き締めると空中を横に移動してガドナーの攻撃から逃れようとした。

 そんなミアに対してガドナーは何度も影の槍をお見舞いした。伸びた影が消えたと思った次の瞬間にはもう別の槍が現れてミアに襲い掛かった。


 すでにミアには距離を詰めてガドナーへの攻撃を試みる余裕など無く、おぼろげな視界を頼りにガドナーの攻撃をよけるのが精いっぱいだった。

 その後柄だけとなった斧が弾かれたと思った次の瞬間にはミアの腹部にガドナーの剣が叩き込まれ、その衝撃にミアは意識を完全に失った。


「大丈夫ですか?」


 ガドナーの呼びかけで意識を取り戻したミアが周囲を見渡すと、ミアの近くにはガドナーとリンシャ以外の人影は無かった。

 三人は今各訓練室に用意されている治療スペースにおり、この治療スペースには治療道具や薬品が各種そろえられていて、討伐局の隊員たちは負傷者が出た場合に備えての講習を受けているので傷の縫合程度ならこの場で行えた。

 目を覚ましてすぐに起き上がろうとしたミアだったが、腹部に走った痛みに思わず動きを止めてしまった。


「無理をしないで下さい。剣での攻撃はともかく、私の影の攻撃でできた傷はかなり深いです。魔力を高めれば十分ぐらいで動けるようにはなると思いますから」


 ガドナーにそう言われたミアが服をめくると、腹部に包帯が巻かれていた。

 これだけの手当てが終わる程気を失っていたのかとショックを受けていたミアに、ガドナーが追い打ちをかけてきた。


「すみません。今日は体に攻撃を当てるつもりは無かったのですが、狙いがそれてしまって…」


 負けた直後に手加減し損ねたことを謝罪され、ミアは正直おもしろくなかったがそれを表に出さない程度の分別はあった。

 そのためミアが口にしたのは今回の戦いの感想だった。


「ガドナーさんも強いんですね」


 結局ミアは、ガドナーに一撃も攻撃を当てていない。

 そのため思わず口を出たミアの感想だったが、それに照れるでもなくガドナーは答えた。


「これでも何年も討伐局にいます。さすがに入隊初日のあなたには負けませんよ。今回の反省点としては、邪竜戦はともかく人間相手の戦いでは不用意に飛ぶのは止めた方がいいです。ミアさんがもう少し戦いに慣れたら別ですが、今のミアさんでは全方位を完璧に警戒するのは難しいと思いますので」

「だったらどうすればよかったんですか?」

「聞いた話だとあなたの重力球の威力はシンラ隊長と遜色ないそうですね?でしたらよけずに正面から受ければよかったと思います。正面から力で潰せればそれが一番ですからね。シュウ隊長と戦った時はそうしたんですよね?」

「はい。でも結局素手での『空間切断』で不意を突かれたところを負けたので、まずは能力じゃなくて身のこなしとかを練習した方がいいのかなと思って…」


 ミアのこの発言を聞き、しばらく考え込んだ後でガドナーは口を開いた。


「考え方は間違っていませんが、先程のあなたの回避は中途半端過ぎました。最初の回避の時点で、あわよくば攻撃しようという意図が見え見えでしたからね。同格ならそれでもいいんでしょうけど、自分より強い相手の場合は回避を優先した方がいいですよ。といっても邪竜との戦いの場合は、そんなこと言ってられないんですけどね」


 邪竜はBランクですら巨体を活かした直接攻撃と火炎放射という広範囲攻撃を繰り出してくる。

 それを何度もよけるとなると隊長でも難しく、邪竜に攻撃の間を与えずに圧倒するというのが邪竜と戦う時の基本方針だった。


「邪竜との戦いでは一対一という状況はほとんどありません。当分は他のみなさんとの連携を意識して、邪竜の気を引く時は全力で逃げる。攻撃は邪竜の気が他の隊員に向いている時だけ。これぐらいの割り切り方でいいと思います。その内攻撃、防御、回避を意識しなくても流れでできるようになると思うので」

「分かりました」

「今日は初日でしたので軽めに戦いましたが、明日からは他の隊員と同じ訓練を受けてもらいます。今日はもう帰ってもらって構いませんが、しばらくの間午前中は潰れると思っていて下さい」


 そう言って訓練に戻ったガドナーを見送ったミアにリンシャが話しかけてきた。


「大丈夫ですか?傷が治るまではここにいてもらって構いません。ここを使う程のけが人はそうそう出ないので」


 昨日のこともありリンシャに苦手意識のあったミアだったが、まさか無視するわけにもいかず、何とか立ち上がると気丈に振る舞った。


「いえ、これぐらいなら家に帰っても大丈夫だと思うのでもう帰ります」

「そうですか?でしたら私もこれで失礼しますね」


 狙撃手として戦闘に参加するリンシャは、訓練室での訓練には参加しない。

 今日リンシャが顔を出したのはミアの初勤務の日だったからだ。

 ここでの用を全て終えたリンシャが隊の書類仕事を終わらせるために退室しようとしたところにミアが話しかけた。


「一つ質問があるんですけどいいですか?」

「はい。私に答えられることなら」


 三年前の真相を聞かれるのではと警戒していたリンシャだったが、ミアの質問は全く関係無いものだった。


「ガドナーさんってかなり強いですよね。あれで隊長になれないんですか?」


 ミアも自分に勝ったのだから隊長並の強さだなどと言う程うぬぼれてはいないが、それでもガドナーの強さはかなりのものだった。

 あの強さで隊長になれないとなると隊長を目指しているミアとしては不安になってしまう。

 そう思ってのミアの質問だったが、それに対するリンシャの答えは意外なものだった。


「確かに隊長になってもおかしくはない人ですよ。実際シュウ隊長が推薦しようとしたこともあります。本人が嫌がったので結局その話は無かったことになりましたけど」


 妻子を遺して死にたくないという理由からガドナーが隊長就任を強く嫌がり、結局シュウが殉職したらガドナーが隊長に就任するということで話がついた。


「…もしかして副官の人ってみんな強いんですか?」


 自分が目指している隊長の座をガドナーが断ったと聞き、ミアの中でガドナーの就いている副官という役職への印象は大きく変わった。

 しかしそんなミアの考えは、リンシャにあっさり否定された。


「いえ、そういうわけではありませんよ。私も副官ですけど、『フェンリル』では一番弱いですから」


 討伐局の各隊における副官というのは、あくまで戦闘中の隊の指揮や事務作業といった隊長の業務全般を補佐する役職だ。

 そのため必ずしも強い必要は無く、隊長に匹敵する力を持った副官がいる隊など『フェンリル』の他にはリンドウ率いる『ナイツ』ぐらいだ。


 もっとも当のガドナーは、あんな人外たちと一緒にされても困ると常々言っているが…。

 なお副官は必ず指名する必要も無く、今の隊長だとコウガ、リク、ヴェーダ、そしてセツナは副官を指名していない。


「なるほど分かりました。今日はこれで失礼します」


 シュウだけでなくガドナーにも負けたミアだったが、打ちひしがれるどころかその持ち前の勝気な性格で闘志を燃やしながら帰路についた。

 その後ミアに続く形でリンシャもガドナーに吹き飛ばされる隊員たちの悲鳴を聞きながら部屋を去った。


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