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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが17万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
1章

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取引

 シュウとシンラの戦闘がリンシャの攻撃で中断した直後、地上には気まずそうな顔をしたシンラと不機嫌そうな顔をしたシュウがいた。


「……申し訳ありません。一対一の約束を破ってしまって」

「別に構わねぇよ。はなから信じてなかったし」


 シュウのこの発言は別に皮肉で言ったわけではなく、シュウが戦闘中に敵の言葉を信じる程平和な頭をしていないというだけの事だった。

 先程シンラにとどめを刺そうとした時、来ても無視しようと思っていた狙撃に過剰に反応してしまったのはシンラが強くて気持ちが高ぶっていたからで、先程の攻撃を思わず中断してしまったのは完全にシュウの失敗だった。


 シュウが不機嫌そうにしているのも別に戦いに水を差されたからではなく、今のシュウは能力を使用したために両腕と右脚が使えず更に近くにはシンラの他にガドナーとリンシャがいたのでシンラの目的がシュウの殺害ならシュウはとっくに殺されていたからだった。


 生殺与奪の権を他人に握られているという今の状況にシュウは不快感を覚えていたのだが、そんなシュウを放置してリンシャはシンラとシュウの処遇について話していた。


「シンラ隊長、この男はどうするんですか?治安維持局に引き渡しますか?」

「いえ、彼には機構で治療を受けたらそのまま帰ってもらいます」

「いいんですか?」


 リンシャの妨害が無かったらシュウは確実にシンラを殺していたはずで、そんな人物をわざわざ治療して帰すというのだから目の前の女が驚くのも当然だとシュウは思ったがシンラの考えは違った。


「今回の戦いは私から提案したもので私が殺されそうになったのは私のせいです。さすがに治安維持局に引き渡すのは悪いですし、ここは恩を売っておこうと思います」

「ここに置いていってもらって構わないぞ」


 妙な流れになりそうだったのでシュウはシンラの提案を断ろうとしたがシンラはそれを許さなかった。


「あなたの知り合いの毒使いならともかく、犯罪者でもない実力者を怪我したまま放置しておくのはアイギスにとって不利益にしかなりません。無理矢理にでも連れて行きます」

「……言っとくけど討伐局には入らないぞ」


 いざとなったら刺し違えてでも抵抗して見せると決めてシンラたちをにらみつけたシュウを見てシンラは敵意を感じさせない口調で話しかけた。


「でも討伐局の戦力が突破されて外周部で邪竜が暴れたらさすがに放置はしませんよね?それで十分です」


 こう言ってこの場をまとめたシンラは部下二人に指示を出すとシュウを連れてアイギスへと帰還し、その後クオンとアヤネの手を借りてシュウの治療をした上にシュウの全力に五百回耐えられる刀まで贈った。


「さすがにここまでされると悪いな。討伐局に入る気は無いがあんた個人の頼みなら一回だけ聞いてやる」

「ありがとうございます。その時はお願いします」


 刀を受け取り立ち去るシュウをシンラは見送るしかなかった。

 今となっては恥ずかしい話だが自分が負ける可能性などシンラは全く考えていなかったからだ。


 そしてシュウとシンラが別れた十日後の夜、事件が起き、爆発音に驚いて起きたシュウは即座に起き上がると外に出て目の前に広がる光景に愕然とした。


 視線の先で邪竜が暴れており邪竜が暴れている場所は既に外周部の一角で建物が壊される音に混じって悲鳴や怒号もシュウの耳に届き、周囲がこんな状態になるまで自分が邪竜の襲来を気づけなかった事に困惑しながらもシュウは邪竜のもとへと向かった。


「おっと、こりゃまた……」


 シュウが現場に着くと周囲は酷い有り様で邪竜の周囲一帯は一面火の海で肉の焼ける臭いが立ち込めて無傷な建物は一つも無く、周囲に転がっている死体の数は数える気にもならない程でシュウは周囲の惨状から意識を外すと我が物顔で空中にいる邪竜に視線を向けた。


 シュウは最初建物の屋上から邪竜の背中に跳び乗るつもりだったのだが近くの建物が軒並み破壊されていたため計画の変更を余儀なくされ、更に今のシュウにはもう一つ致命的な問題があった。


 能力が使えなかったのだ。

 厳密に言うと使えないわけではなかったがかなり能力が発動しづらく、それに加えて魔力による身体強化もいつもに比べてやりにくかった。


「めんどくせぇな。初めて戦うSランクがこれかよ」


 どうしたものかと考えながら邪竜に近づいていたシュウはそこで見知った顔を見つけた。


「おい、大丈夫か?」


 シュウが発見したシンラに近づくとシンラは体中に傷を負っており、特に下半身の負傷が酷く辛うじて意識を保っているだけという状態だった。


「はは、無様なものです」

「しゃべるな、死ぬぞ」


 シュウにそう言われてもシンラは口を閉じずにシュウに邪竜の能力を伝えた。


「気をつけて下さい。あの邪竜は能力を阻害してきます」


 最初からそれが分かっていればまだ対処できたのだが邪竜はシンラを含む隊長四人が近づいたのと同時に能力を阻害し、このためまともな戦闘すら行えずシンラたちは壊滅的なダメージを負ってしまった。


 この邪竜が相手では増援の能力者を送り込んでも効果は薄く今は数の少ない純粋な重火器で足止めしようとしているらしかったが、それも大して効果をあげておらず邪竜がアイギスの中心部までたどり着くのも時間の問題だった。


 シンラからこういった現状を聞かされたシュウだったが街に危険が迫っているかどうかなどシュウには関係の無い事で、自分の睡眠を妨げた時点であの邪竜を殺す事はシュウにとって決定事項だった。


「しかたねぇからあれは俺が倒す。じいさん、悪いけど俺を邪竜の背中まで飛ばしてくれ。そしたら後はこっちで何とかする」


 普段なら自力で跳び乗るなり『空間切断』で近づくなりするのだが、能力全般を阻害されている現状ではそれもままならなかった。


「分かりました。まさかこんなに早く力を借りることになるとは……。よろしくお願いします」

「任せとけ。俺が寝てるとこ起こすなんていい度胸してやがる。あのデカブツにマナーってものを教えてやらないとな」


 行っていた重火器での攻撃をシュウの頼みで止めさせたシンラはシュウを飛ばすべく能力を発動したが、無傷のシュウでさえ能力発動に手間取ったのだから意識があるのが不思議な程の重傷のシンラにとって能力の発動はかなりきついはずだった。


 十秒という普段のシンラからは考えられない程の長い時間をかけてシンラはシュウを打ち上げる準備を整え、シュウを打ち上げると同時にシンラは意識を失った。


 シンラの能力により高速で打ち出されたシュウは後少しで邪竜へとたどり着くという時に邪竜に気づかれてしまい、今のシュウはただ飛ばされているだけだったので邪竜に気づかれたところでどうしようもなかった。


 そして大きく口を開けて自分に襲い掛かろうとする邪竜を前にして何とか致命傷だけは避けようとシュウは刀を握る手に力を込めたが、次の瞬間邪竜の動きが一瞬止まりシュウは無事邪竜の背中にたどり着いた。


「ったくあの女、よくもまあ、毎度毎度こんないいタイミングで…」


 シンラとの戦いの際に感じた超長距離からの攻撃の気配を今回も感じたシュウは呆れた口調で狙撃手がいると思しき方角に視線を向け、シュウが背中に着地したことに気づいた邪竜がシュウを振り落とそうと体を揺らし始めた。


 落とされないように邪竜の体にしがみつきながらシュウは何とか邪竜の翼の根元まで近づき、邪竜の翼の根元までたどり着くとこれまで貯めていた魔力を解放した。

 時間をかけたにも関わらずシュウの放った斬撃はいつもの斬撃以下の威力しかなかった。


 しかしシュウは邪竜の翼を斬り落とす事には成功して翼を失った邪竜は叫び声をあげながら墜落し、墜落の衝撃でしばらく動けずにいた邪竜の背中をシュウは数度斬り裂いたがいつもとは比べ物にならない程の小さな傷しかつかなかった。


 刀を数度振るった後、らちが明かないと思ったシュウは邪竜の首元に移動すると邪竜の首に刀を突き立てた。

 普段ならこれで決着がつくのだが今回は刀が少し刺さっただけでこれ自体は予想通りの展開だったのでシュウは慌てる事無く能力を発動した。


 いつもの様に斬撃の威力を上げるのではなくシュウは斬撃の性質を持った魔力を邪竜の体に流していき、本来は傷をつけるのがやっとの硬い敵用の技を受けて邪竜はようやく首元の異変に気がついた。


 今回シュウが使った技はシュウの能力が『万物切断』と呼べる程の威力になったここ数年は使っていなかった名前すら無い技で、更に久し振りの使用な上に能力阻害されていた事からかなり苦労しながらもシュウはじわじわと魔力を流していった。


 邪竜もすぐに異変に気づいた様子だったが空を飛んでいない邪竜が首元にいる人間にできる事などたかが知れており、激しく体を揺さぶり抵抗してくる邪竜から振り落とされないように苦労しながらもシュウは邪竜の首を大きく損壊させる事に成功した。

 その後首に遅れて邪竜の体全体も崩壊を始めてシュウはようやく体の力を抜いた。


「さてと、じゃあ、寝直すか。俺の家を壊さなかった事だけはほめてやる」


 既に姿の無かった邪竜にそれだけ言ってシュウが現場を去ってから数分後、現場に到着した討伐局局員の手でシンラとレイナは救出された。


 数日後シンラが意識を取り戻した直後に隊長会議が開かれ、突如空いた隊長二人の穴を埋めるべくシュウの勧誘が行われる事が決定したがこの事実はもちろん、その後行われたシュウと当時の隊長たちとの戦闘までを含めた一連の事実を知る者はアイギスでも限られていた。

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