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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
4章

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風呂上り

「私があの人を名前で呼ばない理由を言う気はありません。私の昔の恋人を殺したから、とか言われても困るでしょう?」


 シュウが表情一つ変えずに口にしたこの発言を聞きミアとギオルの表情が硬くなったが、そんな二人の反応などお構い無しにサヤはシュウとの会話を続けた。


「さっきと同じ質問をアヤネ隊長にしてもいいですか?」

「別にいいですよ。多分答えてもらえないと思いますけど」


 シュウがアヤネを名前で呼ばないのは二人が隊長になる前のある事件が原因で、この事件が起こった際の自分の行動をアヤネは今も気に病んでいる。

 しかしこの事件の顛末を聞いたらおそらくほとんどの人間は悪いのはシュウだと答えるだろうとシュウは考えていた。


 そのためシュウは別にこの件で相手を恨んではいなかったのだが、気にしている相手に気にするなと言ってもしかたがないのでシュウもこの件は話題にしないことにしていた。

 サヤにこの件について質問されたらアヤネは不快になるだろうがさすがに殺しはしないだろう。


 アヤネは自分以上に殺人への抵抗が薄いとシュウは考えていたので一抹の不安はあったが、サヤの配慮の無さを改めるいい機会だと考えてサヤを止めなかった。

 しかしシュウとサヤが初めて『フェンリル』の訓練室で会った時もそうだったが、サヤが好奇心に任せてシュウに質問をした結果周囲の人間が困っている様子だったのでシュウはそろそろこの話は終わりにしようと考えた。


「私別に外周部にいた時に隠さなきゃいけないようなことしてないんで私のことについて聞くのはいいですけど、でも少しは場所を考えた方がいいですよ?私を批判する記事書こうとしてる記者たちがどこにいるか分かりませんし、何より私の昔話は刺激が強いみたいですから。見て下さい。あなたの隣の二人勘弁して欲しいって顔してますよ」


 シュウにこう指摘されてサヤがミアとギオルに視線を向けると、ミアとギオルはサヤに気まずそうな顔を向けた。


「言われてみればアヤネ隊長とリンシャさんにも私の個人的な質問をされたら答えないように言われていました。……昔の話も気軽にできないなんて面倒ですね」


 サヤは討伐局に入ってから記者と名乗る相手から幾度も質問を受けていた。

 取材の全てを断っている上に外周部への影響力も大きいテュールが経営している『ネスト』には記者たちも近寄らないが、サヤが街を歩いているところを狙って彼らはサヤがシュウをどう思っているかを何度も聞き出そうとした。


 シュウがサヤの母親のチャルチィを殺したことは公表こそされていないが『メリクリウス』が事実上壊滅したという事実自体は各報道機関で大々的に報じられ、その翌日には各報道機関はシュウがチャルチィを殺したこととチャルチィの娘、サヤが『フェンリル』に配属されたことを嗅ぎつけた。


 機構に批判的な報道機関はシュウへの批判にサヤを利用したいらしく、サヤはこういった事情自体は把握していなかったが記者に話しかけられる度にノーコメントの一言で押し切っていた。

 前もってアヤネからそう指示されていたからで、自分とシュウの問題に第三者に首を突っ込まれたくないサヤからしても彼らの存在は迷惑だった。


 一般隊員、それも一方的な被害者のサヤへのあまりに執拗な取材に対して機構が正式に抗議したため現在サヤへの取材は行われなくなったが、シュウがサヤを部下にしたことを批判する報道は今も行われていた。


 サヤの親が一般人、百歩譲って無名の犯罪者ならここまでの騒ぎにはならなかったはずなので、サヤは顔すら覚えていない自分の母親を今でもかなり恨んでいる。

 しかしおそらく母親譲りの自分の能力が無かったらサヤが『フェンリル』に入れなかったことも事実だったので、サヤは実の母親のチャルチィに複雑な感情を抱いていた。


 サヤはシュウはもちろんチャルチィについてももう少し詳しくシュウに聞いてみたかったのだが、ミアやギオルを困らせるのはサヤとしても本意ではなかった。

 そのため少し考えてからサヤはシュウにある提案をした。


「今日私と一緒に寝てもらえませんか?」

「はい?」


 唐突なサヤの提案にシュウが戸惑う中、サヤはシュウに自分の考えを伝えた。


「私は私の母親についてもあなたに聞いてみたいと思っています。けど私がそのために時間を作って欲しいって言ってもあなたは断りますよね?だったらちょうどいい機会なので今日聞きたいです」


 サヤのこの頼みを聞きシュウはしばらく考え込んだ。

 サヤのこの面倒な頼みを聞く義理はシュウには無かったが、合宿中しつこく食い下がられてもそれはそれで面倒だ。

 そう考えたシュウはサヤの頼みを限定的にではあるが聞くことにした。


「しかたありませんね。しつこく付きまとわれても面倒ですし今の内にガールズトークを楽しんでおくことにします。ただし一緒に寝るのは駄目です。男女が一緒に寝るのがまずいとかじゃなくて私人目があると眠れないので」

「……もしかして気配で起きてしまうんですか?」


 先程自分が話題に出したシュウの殺気を感じ取る技術を思い出しながらサヤはシュウに質問し、このサヤの質問をシュウは肯定した。


「はい。だから一緒に寝るのは無理です。あなたのために徹夜までする気は無いですから一、二時間話す程度で我慢して下さい。もちろんこの人の許可が降りなければ諦めてもらいますけど」


 そう言ってシュウはミアに視線を向け、続いてサヤまでミアに無言で視線を向けてきたためミアはたじろいだ。

 シュウとサヤの関係は非常に繊細な問題なのでミアは力にはなれず、それを考えるとここでサヤの提案を拒否するのはミアとしては避けたかった。

 そのため寝る前に話すぐらいは構わないだろうと考えてミアはサヤの提案を許可し、そんなミアにシュウが話しかけた。


「さてと、そろそろシャワーを浴びようと思うんですけど本当にやるんですか?」

「……もちろんよ。あんたに体見られるわけにもいかないし」


 体が元に戻るまでの一週間、シュウとミアはミアの提案で一緒に入浴することになった。

 手短にシャワーを浴びて互いに目隠しをした状態で相手の体を洗うというのがミアの提案で、さすがに一週間も体を洗わないわけにはいかなかったのでシュウはミアの提案を受け入れた。


 なおトイレに関してはミアは諦めた様子で、泣きそうな表情でできるだけ手短に済ませて欲しいとシュウに伝えてきた。

 ギオルとサヤと別れた後、シュウとミアはシュウの部屋に向かいぎこちない手つきで互いの体を洗い終え、その後一足先に部屋を出ようとしたシュウをミアが呼び止めた。


「ちょっと、待って下さい!まだ髪が乾いてません!」

「えっ?ちゃんと拭きましたよ?」


 ミアの発言の意味が分からずに戸惑うシュウを見て、ミアは呆れた様な表情で視線を自分の髪に向けた。


「どこがちゃんとですか。まだ全然濡れてるじゃないですか。そのまま寝ると髪が痛んじゃうんでちゃんと乾かしますよ。ドライヤーは、無いですよね?」


 部屋にドライヤーが無いという状況に戸惑ったもののミアはすぐに自前のドライヤーを取り出して自分の髪を乾かそうとしたのだが、その前にシュウはミアにある忠告をした。


「念のために言っておきますが髪を乾かす以外のことはしないで下さい。少しでも妙な動きを見せたら反射的に殴ってしまうと思うので」

「……分かりました」


 自分の髪を乾かすだけで危険な目に遭うかも知れないという状況にミアは釈然としなかったが、先程のシュウとサヤの会話を思い出して結局は何も言わずに髪を乾かし始めた。


「それにしてもお風呂ずいぶんきれいに使ってるんですね。部屋もかなりきれいですし」


 シュウの部屋の浴室はカビ一つ無くきれいに維持されていて、今シュウとミアがいる居間も埃一つ無くきれいに清掃されていた。

 シュウが家事をきちんとしている印象が無かったので先程見た料理の手際と合わせてミアはシュウの家事技術の高さに驚き、シュウはそんなミアの誤解を訂正した。


「料理はともかく掃除は私もできませんよ。私普段はこの部屋ほとんど使ってなくて週に二回業者を入れて掃除してもらってるだけです」


 シュウは料理と裁縫は人並みにできるがこれは自分でしている内に覚えたもので、する必要が一切無かった掃除の心得は一切無い。

 隊長になる前のシュウは決まった寝床を持っていなかったからだ。


 シュウのこの説明を聞いたミアは以前ガドナーやリンシャが言っていたシュウと話す際はある程度シュウの話したことをスルーしないとこちらが疲れるという助言を思い出して話題を変えることにした。


「このまま訓練を続けていれば私やサヤさんも『魔装』を使えるようになりますか?」


 先程サヤがシュウ相手に臆することなく質問していたのを受け、ミアはここ最近ずっと気になっていたことをシュウに尋ねてみた。

 今朝の模擬戦でシュウは『魔装』を発動して隊長数人を軽く蹴散らしていた。


 それを直に見たミアはシュウの強さが『魔装』頼りのものではないと分かってはいてもこの質問をせずにはいられなかった。

 これまでおぼろげながら思い浮かべていた自分の成長した姿以上のものも何度も見せられたからで、このミアの質問を受けてシュウはしばらく考え込んでから口を開いた。


「技を一から作るのと誰かを真似るのでは難易度が全然違います。そういう意味では『魔装』というゴールを知っている分今のあなたたちは有利になります。二、三年経てば使えるようになるかも知れませんね」

「二、三年ですか……」


『魔装』が使えるとシュウに言われたにも関わらずミアの表情は暗く、そんなミアを前にシュウは話を続けた。


「あなた自分が隊長になれるのかは全然心配してないんですね?」

「え?」


 シュウの突然の指摘にミアは一瞬戸惑ったがすぐに自分が隊長になれること自体は疑っていないことに気づき、そんなミアを見てシュウは笑みを浮かべた。


「千人以上の能力者の頂点、二百人以上の隊員を束ねる隊長になれるかどうかの心配を全然していないとは大した自信ですね」


 挑発する様なシュウの発言を聞きわずかながら怒りを覚えたミアは何か言い返そうとしたが、それより先にシュウが口を開いた。


「そんなに怒らないで下さい。別に挑発してるわけじゃありませんし、隊長になろうとしてる人間の態度としてはあなたの態度は理想的ですから」

「……どういうことですか?」


 シュウの言いたいことが分からず戸惑うにミアを前にシュウは話を続けた。


「討伐局の隊長というのはなろうと思ってなるものじゃありません。今の隊長でなりたくて隊長になったのはリンドウさんと治安維持局の局長さんぐらいです。他のみなさんは私も含めて強かったから周りが隊長に推薦した人たちばかりですから、隊長になれることを疑っていなくて周りからも期待されている今の状態はかなり理想的です。ですから『魔装』を使えるようになることにこだわり過ぎて無理はしないで下さい。向上心は大事ですけど上ばかり見ていても無駄に疲れるだけですよ」


 シュウにこう言われてミアは自分がかなり気を張り詰めていたことに気づき、そんなミアにシュウは重ねて焦らないように伝えた。


「あなたなら一年もかからないでリクさんかヴェーダさんのどちらか一人となら互角に戦えるようになると思いますから、向上心や焦りともうまく付き合ってがんばって下さい」


 今回の合宿中まともに訓練を行えないこともありミアは精神的にかなり参っており、その疲様子は傍から見ても分かる程だった。

 合宿中ずっと気落ちされていてもうっとうしいのでシュウはミアに精神的なケアを行おうと考え、そのためリクとヴェーダと互角に戦えるようになるという部分に関しては嘘をついてまでミアを励ました。

 そのかいあってミアの表情はわずかばかり明るくなり、その後ミアは自分を励ましたシュウに礼を述べた。


「シュウ隊長が励ましてくれるとは思ってませんでした。……テュールさんには悪いですけど今のシュウ隊長テュールさんみたいでしたよ」


 ミアはそれ程テュールと会ったことはなかったが、それでも『ネスト』で何度か会ったことがありテュールについての話をサヤを含む『ネスト』の店員たちから聞いていた。

 それを受けてのミアの発言だったのだが、このミアの発言を聞きシュウは表情を変えた。


「……話し方と性別変えたぐらいでなれるなんてアイギスの聖女様はずいぶんとお手軽なんですね」


 こう言って嘲笑を浮かべたシュウを見てミアはため息をついた。


「前言撤回、やっぱテュールさんとは違いますね」

「当たり前ですよ。あんなお人好しと一緒にされても困ります」


 こう言ってシュウとミアは互いに呆れた様な表情でため息をつき、ちょうどその頃シュウの髪も乾いたのでそのまま部屋を後にした。

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