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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
4章

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夕食

「シュウ隊長って料理できたんですね」


 目の前に広がる料理の数々を見てミアは意外そうな表情をシュウに向け、そんなミアの視線を受けてシュウは照れるでもなく得意気になるでもなく無言でミアに視線を向けた。


「な、何?」


 ミアの発言を聞きどこか呆れた様な表情を浮かべるシュウを前にミアは戸惑い、そんなミアにシュウはあまりハードルを上げないように伝えた。


「これは料理と言える程のものじゃありません。いつも家や店で食べてるレベルのものを期待しないで下さいね?」


 料理というのはリクやヴェーダが普段行っている行為で、自分がしていることははあくまでも自炊だと考えていたシュウのこの発言は自炊すらしたこともないミアたち三人には通じなかった。

 そのためシュウの発言にミアとギオルはうまく返事ができなかったのだが、そうした空気を無視してサヤが口を開いた。


「これは魚というやつですか。初めて見ました」


 今回シュウが用意した料理の中には魚の煮物と焼き魚が用意されていたのだが、今のアイギスでは魚は食材として流通しておらず魚という存在すら知らない人間もアイギスには少なくない。

 そのためサヤが一目で魚という名称を口にしたことがシュウには意外だった。


「よく知ってましたね。今のアイギスで魚知ってる人は少ないはずですけど」


 このシュウの発言を聞きミアとギオルはサヤは『ネスト』で魚の存在を知ったのだろうと考え、喫茶店の『ネスト』のメニューに魚料理など無かったのだがこの二人の予想自体は当たっていた。


「『ネスト』の店員の知り合いが魚を養殖する会社で働いてるみたいでこの前少しだけ話を聞きました。確か生でも食べられるんですよね」

「ええ、前にヴェーダさんに方法聞いてさばいてみましたけど生で食べられましたよ。もっとも今ある調味料じゃ微妙に合いませんでしたけど」


 生で食べられる動物の存在を知りミアとギオルが驚いている中、シュウは調味料についての話を進めた。


「今リクさんとヴェーダさんが醤油とかいう調味料を再現しようとしてるみたいでそれが生の魚に合うみたいです。早ければ今年中に試作品ができるって言ってました。もっとも魚の養殖自体はまだ手探りの段階らしいですから醤油だけできてもって感じですけど」


 リクとヴェーダは隊長になる前からの知り合い数人と協力して今は失われた調理方法や調味料の再現を行っている。

 研究局で民間と協力して主に日常生活に役立つ研究をしている第五班と協力してリクとヴェーダはこの活動を進めており、リクとヴェーダはもちろん顧客兼実験体として研究局とも付き合いが深いシュウはこの辺りの事情に詳しかった。


「へー、私と二歳しか変わらないのに隊長だけじゃなくてそんなことまで、……すごいですね」


 シュウの説明を聞き心底感心した様子のミアを見てシュウもミアの発言に同意した。


「そうですね。あの二人はクオンさんと一緒で隊長やってること自体が何かの間違いって感じの人たちですから」


 シュウが戦闘以外で他人をほめたのを聞きミアはもちろん他の二人も驚き、そんな三人の反応を特に気にした様子も無くシュウは三人に食事を勧めた。


「大したものじゃないとはいえ冷めるとさらに酷くなります。熱い内にどうぞ。ただし焼き魚は慣れてないと骨がきついですから食べない方がいいかも知れません」

「さっき魚をさばいたって言ってましたけどそれって割とすごいんじゃないですか?」


 シュウに促されるまま皿に手を伸ばしたギオルだったが、シュウが先程当然の様に口にした魚をさばいたという発言に驚いたためそれを話題にした。

 料理どころか包丁すら手にしたことがないギオルだったが、動物を一からさばくのが大変なことぐらいは予想できた。

 そんなギオルの反応を見てシュウはギオルの勘違いに気づきすぐにそれを指摘した。


「多分魚の大きさを勘違いしてると思います。海という場所には一メートル以上の魚もいるみたいですけど、今アイギスにいるのは精々二、三十センチ程度の大きさの魚で三枚におろすだけなら慣れれば簡単ですよ」

「ああ、おろし器っていうのがあるんでしたね」


 魚を三枚におろすというシュウの発言を聞きミアは実家にいる時母親が口にしていた調理道具の名前を口にしたのだが、ミアの発言を聞きシュウは呆れた様な表情を浮かべた。


「……つみれでも作る気ですか。おろし器で魚三枚におろせる人がいたら私その人の言う事何でも聞きますよ」

「何でもですか?」

「ええ、何でもです」


 自分の冗談に想像以上に食いついてきたサヤに呆れながらシュウは自分が料理の講釈をしているという状況にため息をついた。

 その後料理がほとんど片付いた頃、シュウはサヤに料理が足りたかを確認した。


「私たちと同じぐらいの量しか食べてませんでしたけどそれで血作れるんですか?」


 能力者四人分ということでシュウはかなりの量の料理を作り、ミアの体に入っているシュウもサヤも成人男性二人分以上の量の食事を取った。

 しかしサヤは栄養補給とは別に能力使用時に消費する大量の血液を作る必要があり、普段サヤが戦闘や訓練で使っている血液の量を考えるととても通常の食事だけで賄えるとは思えなかった。


 シュウは『フェンリル』の訓練でサヤたちが『貪る氷槍』を使った後始末をサヤがする方法をガドナーたちから聞いていたため、サヤが通常の方法で食事をしていない可能性すら考えていた。

 サヤの髪の艶を見る限り健康状態に問題は無さそうだったので仮にそうだとしてもシュウはサヤに何も言う気は無かったのだが、シュウのこの考えを聞きサヤは自分の事情を説明した。


「確かに血を作る分の食べ物は血で直接飲み込みますけど私は普通の食事もします。胃に何か入れないとお腹が空きますから」


 確かにサヤはこの後自分で用意した重量二十キロ近くの食料を血液で直接取り込む予定だったが食事の必要はあり、シュウの食事はおいしかったとシュウに伝えた。

 自分の作った鶏のムニエルもどきに舌鼓を打っていたサヤの味覚をシュウは心配したが、これ以上自分の料理を卑下してもしかたないと考えてサヤの感想に適当に返事をするのみに留めた。

 そしてサヤとミアが皿洗いを終えた後、四人で雑談をしているとサヤが先程の訓練で気になったことをシュウに尋ねた。


「あなたの殺気を感じ取る技術は私でもできますか?」


 先程の訓練でシュウはサヤの不意打ちに完全にタイミングを合わせて対応した。

 いくら背後から攻撃が来ると分かっていたとしてもあれだけ正確な反撃をするにはサヤの攻撃のタイミングを把握する必要があり、それを可能にしたのはシュウの持つ殺気を察知する技術だとサヤは考えた。


 できれば自分もこの技術を習得したいとサヤは考えてシュウにこの質問をしたのだが、サヤがこの質問をした瞬間ミアとギオルの表情が変わった。

 シュウの殺気を感じ取る技術の習得過程を知っていたミアとギオルはサヤの質問を聞き気まずそうにしたのだが、当のシュウはこれまで何度もされた質問だったのでサヤの質問を受けても特に不快には思わずこれまで同様の回答を口にした。


「無理です。これは子供の頃から何度も殺されそうにならないと身に着かない技術なので大人になってから覚えるのはコウガさんでも無理でしょうね」


 シュウが事ある毎に自分と同格だと言うコウガの名前を出されてサヤは殺気を感じ取る技術の習得を諦めたが、それとは別にある疑問が浮かんだのでそれをシュウにぶつけた。


「子どもの頃から何度も殺されそうになるって条件だと外周部にもっと使える人がいてもいい気がしますけど」


 サヤが知る限りシュウとアヤネ以外に殺気を感じ取れる人間は討伐局にはおらず、今の討伐局には外周部出身者が百人以上いることを考えるとこの技術の持ち主の数が少ないとサヤは感じていた。

 こうしたサヤの疑問を聞きシュウは苦笑した。


「勘違いしてる人が多いんですけど昔の外周部はそこまで殺伐とした感じじゃなかったですよ。強い人間何人かが『メリクリウス』みたいな組織作ってそれなりのバランスを取ってましたから。だから私たち世代の外周部育ちって噂されてる程強くもなければ戦闘経験も積んでないんですよね。まあ、この間違ったイメージはほとんど私とセツナさんのせいなんであまり偉そうには言えませんけど」


 シュウとセツナが隊長になった三年前は外周部のバランスを取っていた権力者全員が死んでいたため一時的に治安が悪くなっていたが、それでもその前年にアヤネが治安維持局局長に就任していたため現在噂されている程の酷い状況にはならなかった。


 もし現在街で噂されている程シュウの同世代が戦いに明け暮れていたら今の外周部は年寄りと子供だけになっていただろう。

 こうした事情をシュウから聞きサヤは納得しつつも残念そうな表情を見せた。


「あの技術はかなり便利そうだと思ったので残念です」

「そこまで便利なものでもないですけどね。普通に生きてれば不意打ちされる機会なんてまず無いですし、実際この技術持ってる治安維持局の局長さんはそこまで強くはないですし」


 シュウのこの発言を聞いてもサヤは完全に納得はしていなかったが、習得できない技術についてこれ以上話してもしかたないと考えて引き下がった。


「この前アヤネ隊長と戦った時に手も足も出なかったんですけどアヤネ隊長は弱いんですか?」


 討伐局に入った当初ならともかく、今のサヤはこのアヤネが弱いというシュウの発言の前に隊長としてはという言葉がつくことは理解していた。

 しかし切り札の『時間加速』すら使わずに自分に勝ったアヤネが弱いとなると平均的な隊長程度の強さぐらいは手に入れようという自分の目標がいつ達成できるか分からない。

 そう考えたサヤは少なからず焦りを覚え、こうしたサヤの心情を完全に理解したわけではなかったがシュウはサヤに焦る必要は無いと伝えた。


「あの人に勝つだけならあなたならそこまで難しくないと思いますよ。あの人攻撃手段が物理攻撃しか無いですから『メリジューヌ』を使える今のあなたを倒そうと思ったら苦労すると思いますし。まあ、今のあなたはあの人倒すことよりもBランクの邪竜倒すこと考えた方がいいと思いますけど」


 シュウにこう釘を刺されてわずかながら不機嫌そうにしたサヤの横でミアが口を開いた。


「もしかして今の私たち三人がかりなら隊長の何人かには勝てる?」


 シュウとサヤの会話を聞いていて浮んだ疑問をミアはシュウにぶつけたのだがそれを受けてシュウは即答した。


「それはさすがに調子に乗り過ぎでしょう。地味子さんが治安維持局の局長さんと相性がいいのは事実ですけどあくまで相性がいいってだけで戦えば結局は負けると思います。今の隊長で一番弱いリンドウさんも今のあなたたちじゃ小細工を全部力で突破されるでしょうね。忘れてるみたいですけど隊長ってAランクの邪竜より強いんですよ?」


 呆れた様な表情でこう言ったシュウにミアは反論できず、そんなミアと交代する形で今度はサヤがシュウに質問をした。


「アヤネ隊長は能力でどれぐらい体を再生できるんですか?」


 方法こそ違うが自分と同じ様に体の大規模な再生を行えるアヤネの能力のコストパフォーマンスがサヤは気になったのだが、それに対するシュウの答えを聞いてサヤは驚いた。


「魔力の消費って意味で聞いてるならあの人は無限に再生できますよ。魔力を全然使ってない状態の体にいつでも戻れますから」

「……それは魔力が無限ということですよね?……何と言うかずるいですね」


 シュウが当たり前の様に口にしたアヤネの能力の仕様を聞きミアとサヤが言葉を失っている中、二人より多少は隊長たちについての知識があったギオルはアヤネの魔力が実質無限ということに驚きこそしたものの何とか感想を口にし、それを聞いたシュウはギオルの感想を否定した。


他人ひとの能力にずるいって言ってもしょうがないでしょう。リンシャさんの『千里眼』に比べたら私たち全員恵まれてるわけですし」


 リンシャの様な能力を持っている能力者は機構とは別にアイギスの周囲を警戒する仕事を行っている団体で働くことが多く、自分たちと同じ隊にいるリンシャを引き合いに出されてギオルは自分たちも戦い向きの能力を持っているという意味では恵まれていることを自覚させられて黙り込んだ。

 そんなギオルの態度を特に気にせずにシュウは軽い口調で話を続けた。


「まあ、あの人の能力がずるいって言いたくなる気持ちは分かります。私別に自分の能力に不満は無いですけどあの人かクオンさんの能力を使えれば色々おもしろいことができそうだとは思いますから」


 自分が今と別の能力を持っていたらという想像は能力者なら大抵一度はする。

 そのためシュウたち三人はこの話題でしばらく盛り上がったのだが、その流れを無視してしばらくの間会話に参加していなかったサヤがシュウにある質問をした。


「アヤネ隊長はちぎれた体をどうやって処分してるんですか?」


 シュウたち三人の会話の流れを完全に無視したサヤの質問を聞いてもシュウは特に驚かなかった。

 サヤのこうした唐突な言動には慣れていたからでシュウはすぐにサヤの質問に答えた。


「邪竜の攻撃食らった場合はそのまま放置してるみたいですけど、そもそもあの人、体がちぎれる程の怪我は滅多にしません。仮にも隊長ですから。まあ、この前は自分の死体盾にしてましたけど」

「自分の死体を?」


 シュウの発言を聞き顔をしかめているミアにシュウはこの前の繭の中での戦いでアヤネが取った戦法を説明した。


「自分の死体どう使おうが本人の自由でしょう」


 盾にするために自分の死体を創り出したというアヤネの戦法を聞きサヤ以外の二人が少なからず引いているのを見てシュウは呆れた様な表情を浮かべ、そんなシュウにサヤは別の質問をした。


「クオン隊長はいつも能力を三ついれてるんですか?」


 サヤの質問を聞きシュウは話題が飛んだことを不思議に思ったが、質問自体は特に答えられない内容ではなかったので素直に答えた。


「研究用にいつも一つか二つは入れてるみたいですけど邪竜と戦う時以外は三つ全部は入れてないみたいです。でもさっき見せた映像でも言った通り私クオンさんに頼んで色んな能力入れて遊んでますからそれも入れると能力フルで使ってる時の方が多いかも知れませんね」

「なるほど。やっぱりアヤネ隊長だけ名前で呼ばないんですね」

「は?」


 サヤの予想外の発言にシュウは戸惑い、そんなシュウにサヤは本命の質問をした。


「どうしてアヤネ隊長だけ名前で呼ばないんですか?」

「……他の隊長たちが聞きたくても聞けなかった質問をよくもあっさりと。あなたのそういうところ好きですよ」


 シュウのアヤネに対する呼び方の違和感にはミアとギオルも気づいていたがおそらく聞いてもろくな結果にならないだろうと考えて触れずにいた。

 そんな中シュウに正面から疑問をぶつけたサヤの横でミアとギオルは気まずそうな表情を浮かべ、それとは対照的にシュウは楽しそうな笑みを浮かべていた。

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