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竜滅者たちの進化論(おかげさまでPVが15万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
4章

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不意打ち

 シュウの『反射壁』によって発生した無数の氷の礫から身を守るためにギオルは自分を氷漬けにしたのだが、体を包んでいた氷が無くなったのと同時に斧を手にしたシュウが自分の近くにいたため大変驚いた。

 そしてシュウは氷漬けになっていたため反応が遅れたギオルの右脚に蹴りを入れ、容赦無くギオルの右脚の骨を折った。


「その自分を氷漬けにする技、便利ですけど格上相手には使わない方がいいですよ。時間稼ぎにしかならないですから」


 呆れた様な表情でそう言いながらシュウは動けなくなったギオルに容赦無く斧を振り降ろし、それに対してギオルは自分とシュウの間に氷の障壁を創り出した。

 先程ギオルとサヤに宣言した通り、シュウの振り降ろした斧の威力はギオルでも防げる程度のものだった。


 しかし片足を使えない今のギオルでは普通に氷の障壁を創っても時間稼ぎもままならない。

 このままでは次の瞬間にはシュウに倒されると判断したギオルはサヤから頼まれた時間稼ぎに徹するために再び自分の体を氷漬けにし、それを見たシュウは斧を思い切りギオルを包む氷へと振り降ろした。


「へぇ、思ったより硬いですね、この氷」


 手加減しているとはいえ自分の攻撃を受けてもひびが入るだけで済んだギオルの氷を見てシュウは感心した。

『魔装』もそうだが全身から能力を発動すると能力の出力が上がるのだろうかと考えながらシュウはギオルの氷を砕くために一度距離を取った。


 重力球を数発叩き込めばギオルを包む氷を破壊することはできたが、せっかくギオルが身をていして時間稼ぎをしているのだからそれに乗ってやろうと考えてシュウはギオルの氷を斧で破壊することにした。


 距離を取って加速すればこれ以上魔力で斧を強化しなくても斧でギオルの氷を突破することができるはずで、サヤの血液の結界のせいで視界は最悪だが自分なら動かない相手に攻撃を当てることは可能だろう。

 そう考えたシュウは霧状になって自分とギオルを包んでいるサヤに話しかけた。


「今からする攻撃は確実にあの人を倒します。不意打ちをするならこれが最後のチャンスですよ」


『メリジューヌ』発動中のサヤの五感は一切機能していないのでこのシュウの助言とも挑発とも取れる発言は無意味でシュウもそれは知っていた。

 しかしシュウはそんなことを気にする素振りも見せず、宣言通り自分に横向きの重力をかけて氷漬けになったギオルに斬りかかった。


 一方のサヤは五感こそ機能していないものの血液の結界と化した自分の中にシュウとギオルがいることを能力で感じ取っていた。

『メリジューヌ』発動中のサヤは周囲の血液の存在を感じることしかできないので、シュウとギオルがもし数分に渡り激しい接近戦を繰り広げたら今のサヤではどちらがシュウか判別することはできなかった。


 しかし時間稼ぎを頼んだにも関わらずサヤはギオルがシュウ相手にそれ程長時間善戦できるとは考えておらず、ギオルのことはおとり程度にしか考えていなかった。

 シュウがギオルにとどめを刺そうとした瞬間を狙おうとサヤが考えていると、一度近づいたシュウとギオルの反応がまたすぐに離れてしまった。


 その後どちらの反応も動かなくなったことを感じ取ったサヤは、動きを見せた反応がシュウのものだったことから現状を正確に把握していた。

 氷漬けになったギオルにダメージを与えるのはガドナーですら苦労するので、いくらシュウでも斧による攻撃に制限をかけている状況で氷漬けのギオルにダメージを与えようと思ったら全力で臨む必要があるはずだ。


 そう考えたサヤは自分が望んだ通りの絶好の不意打ちの機会が訪れたことに喜び、シュウの反応が動き出す瞬間を逃すまいと全神経をシュウの血液の反応に向けた。

 やがてシュウの反応がサヤの予想より速くギオルに向けて動き出したが、今のサヤは自分が創り出した血液の結界の中ならどこにでも瞬時に体を創り出せることができる。


 普段のシュウですらこの奇襲に対応できるかは分からず、ましてやギオルへの攻撃に全力を注いでいる今なら確実に自分の奇襲はシュウに通用するはずだ。

 そう考えたサヤはシュウとギオルの反応が激突した瞬間を見計らいシュウの背後を取り、一瞬で鎌を創り出してシュウに斬りかかろうとしたところで顔面を何かで強打された。


「なっ……」


 転移に近い現れ方をした自分が攻撃を防がれるどころか反撃を受けるとはサヤは思っておらず、何をされたのかすら分からない内にわき腹を強打されて近くの木に叩きつけられた。

 吹き飛ばされた直後に『メリジューヌ』を発動してダメージを抑えたサヤは動揺しながらも戦闘を続行しようとしたのだが、吹き飛ばされたサヤがシュウとギオルのもとに向かうとシュウがギオルののど元に斧を突きつけていた。


 サヤは自分の新技ならシュウに勝てないまでも一矢報いるぐらいはできると思っていた。

 そのため今回もいつもの様に完敗したことに呆然としていたサヤにシュウが話しかけてきた。


「あなたを倒した瞬間血まみれになったらどうしようかと心配していたんですけど、いつの間にか消えていて安心しました。今の技はかなりよかったですよ」


 サヤが実体化した時点でサヤの血液の結界は解除されるのだが、今のサヤにこれをシュウに伝える精神的余裕は無かった。


「……どうやって私の不意打ちに反応したんですか?あなたはギオルさんの氷を壊すことに全力を注いでいたはずです」


 自分の攻撃をあっさり防いでおきながら賞賛の言葉を送ってきたシュウを前にし、何度も経験したこととはいえサヤは軽いいらだちを覚えた。

 しかしそれよりも今はシュウが自分の不意打ちを防いだ方法が知りたかったのでサヤは開口一番シュウに質問したのだが、サヤの質問を受けてシュウは苦笑した。


「来るって分かってる時点で不意打ちにならないでしょう。それに不意打ちなんて死角からするに決まってますから後ろだけ警戒してればいいですし。そもそもあなたたち相手にしてる程度で私が余裕無くすわけないじゃないですか」


 さすがにシュウもコウガかセツナと本気の殺し合いをしている時にリンシャに『テンペスト』で狙撃されたら対戦相手の攻撃か『テンペスト』により致命傷を受けるだろう。

 しかしギオルとサヤとの戦い程度ならシュウは余裕を持って行え、実際シュウは戦いの最後の方はこの後夕飯に何を作るかを考え始めていた。


 さすがに夕飯のメニューを考えていたとまではシュウはサヤたちに伝えなかったが、シュウがサヤたちとの戦いをかなりの余裕を持って行っていたことはサヤにも伝わった。

 そのためしばらく呆然としていたサヤだったが、そんなサヤにシュウは呆れた様な表情で話しかけた。


「私が相手の殺気に気づけるって『フェンリル』の隊員なら全員知ってますよね?私相手に不意打ちしようって発想がそもそも間違ってます」

「私にどうやって攻撃したんですか?」


 自分の新技が全くシュウに通用しなかったこと自体はサヤにとって残念ではあったが、それでも予想はしていたのでサヤはそれ程ショックは受けていなかった。

 しかし先程サヤがシュウに奇襲を防がれた時、シュウは振り向くことなく背後にいたサヤを迎撃した。


 シュウの武器や打撃があり得ない軌道で迫って来ることはサヤも身をもって知っていたが、先程のシュウの攻撃はさすがに武器や手足では不可能な攻撃だった。

 最初は足下の土でも浮かせたのかと思ったのだが、サヤが見たところそれらしき土の塊は落ちていなかった。

 そのためサヤはシュウに先程の謎の攻撃の種明かしを求め、シュウはすぐにサヤの質問に答えた。


「簡単ですよ。こうしたんです」


 そう言うとシュウは近くに生えていた木まで近づき、首を動かすと重力で浮かせた髪を鞭の様に振るい木をへし折った。

 シュウの髪による無造作な攻撃で人間の胴体程の太さの木がたやすくへし折られたのを見てギオルとサヤは言葉を失い、そんな二人を見てミアは先程シュウが髪を操ってサヤを吹き飛ばすのを見た時のことを思い出していた。


 練度はシュウと比べ物にならないがミアも自分の体にかかる重力の操作は行っている。

 しかし髪を能力で操って戦いに使うなどミアは考えたこともなかったのでシュウの先程の攻撃には驚かされた。

 そのためミアはシュウの説明を聞いて驚いている二人の気持ちがよく分かったのだが、それはそれとして一つ気になったことがあった。


「ねぇ、サヤさんを叩くぐらいならともかく木なんて攻撃して髪痛んだりしない?敵の攻撃受けたとかならしかたないけど武器として使うのはできれば止めて欲しいんだけど」


 命のかかっている戦いで何をのんきなことをと思われるかも知れないが、ミアは普段から髪の手入れには気を遣っている。

 そのため他に攻撃手段があるのなら自分の髪を武器としては使って欲しくないというのがミアの本音で、ミアのこの発言を受けてシュウは余裕の笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ。私手刀であなたたちの武器受けても傷一つつかないんですよ?木を髪で斬ったぐらいで傷なんて、」


 そう言いながら自分が攻撃した木の傷口に視線を向けてシュウは驚いた。

 確かに斬り裂いたと思っていたはずの木が斬り裂かれるのではなくへし折られていたからだ。

 それ程頻繁に行っているわけではないがシュウはこれまで何度か自分の髪を能力で強化して物を切断したことがあり、その際は毎回シュウの予想通りの結果を得ることができていた。


 しかし今回はシュウの攻撃の威力が足りず木を斬るのではなく折るという結果に終わってしまい、この結果はシュウにとって致命的なものだった。

 シュウは戦闘の際自分の行動が成功するということを全く疑っておらず、例えば透明化や幻術使いを相手にする時は自分の勘を五感以上に信じて戦う。


 こうした自分への信頼がシュウの戦闘における大胆さと安全を両立させているので、ミアの体を使っているとはいえ攻撃の結果が自分の予想と違ったことにシュウはかなりの衝撃を受けていた。

 しかしこれをそのままミアたちに伝えても余計な心配をさせるだけだったので、シュウはすぐに笑みを浮かべてこの場を取り繕った。


「まあ、自慢の髪を乱暴に使って欲しくないというあなたの気持ちも分かります。明日からの訓練でも本番でも髪は戦いに使わないと約束します」

「ええ、お願い」


 まるで口調を変える様子が無いミアにシュウは呆れたが、ミアへの約束を口にした時に何気無く手を伸ばした髪の手触りが予想以上によかったため驚き文句を言う機会を逃してしまった。


 合宿初日の訓練を終え、シュウたちは四人で一緒に夕食を取ることになった。

 今回の合宿が行われる最大の理由はミアの体に入ったシュウが一人で就寝するのが嫌というミアの完全に不要な心配だ。


 そのため食事まで一緒に取る必要は無かったのだが、ギオルは脚の骨を治すのに時間がかかりミアはシュウの体であまり人前に出たくはない。

 そのため二人は森の奥で夕食を取るつもりだったシュウと夕食を共にすることになり、そうなるとサヤだけ本部の食堂で夕食を済ませるのも変だということになり四人での夕食となった。


「ほら、できましたよ。さっさと運んで下さい」


 脚の骨を折っているギオルはともかくミアとサヤまで自炊の経験が無かったのはシュウにとって計算外で、結局シュウは一人で四人分の夕食を作ることになった。

 能力者四人分の夕食の準備となるとかなりの量になり、買い出しも含めて二時間近くかかったがシュウは何とか四人分の夕食を作り終えてそれをミアとサヤに運ばせた。


 普段シュウが寝泊まりしているだけの森の奥に机などあるわけがなく、四人はシートを敷いてシュウの作った料理を食べた。

 シュウの作った料理は買って来た食材を加熱して味付けをしただけの自炊の域を出ないものだったが、自炊すらしたことがない他の三人はシュウの作った料理の乗った皿を見て驚いている様子だった。

 ミトンを外しながらそんな三人の様子を見ていたシュウはこの量を何度も作らされるのは面倒なので、明日以降は食事は各自で取ることにしようと決めて三人のもとに向かった。

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