興味
ミアの体でリンドウたちと戦った後、数時間程寝直したシュウは『魔装』の計測を終えるとクオンと共にクオンの部屋に向かった。
そしてシュウが用意した昼食を食べた後、二人はいつも通りゲームを始め、しばらく経った頃クオンがシュウに話しかけてきた。
「ミアさんはともかく今日から面倒見るギオルとサヤって人も強いの?」
体が入れ替わっている間の共同生活をミアが求めてきたとはいえ、シュウがその気になればミアの要求は断れたはずだ。
それにも関わらずシュウがミアに加えて更に二人の隊員に付きっ切りで訓練をつけると聞きクオンはギオルとサヤに興味を持ち、特にサヤに関しては別の意味でも興味を持っていた。
そんなクオンの質問にシュウはしばらく考え込んでから答えた。
「それなりには強いですよ。このままでいくと来年にはクオンさんよりは強くなってると思います。もっとも全員が隊長になれるかというと話は別ですけど」
「どういうこと?」
特別な事情があったとはいえ今回シュウがわざわざ訓練に誘ったぐらいなのだから今回誘われたギオルとサヤは強いのだろうとクオンは考えていた。
そのためシュウの答えを聞きクオンは戸惑い、そんなクオンを前にシュウは話を続けた。
「氷使いさんはともかく地味子さんには隊長は務まらないでしょう。どう見てもリーダーシップ取れる性格じゃないですから」
「……ふーん。実力的には問題無いんだ」
シュウがサヤが隊長に向いていないと判断した理由が性格だと知りクオンは納得した様な表情を浮かべ、テレビに目を向けていたシュウはクオンの表情には気づかずに話を進めた。
「そうですね。クオンさんと同じ典型的な能力が強いタイプで、何の能力も入れてないと今でもクオンさん苦戦すると思いますよ」
「ふーん。……サヤさんが『フェンリル』に入った理由は知ってるけど入ってから何か言ってこないの?」
「入ってすぐは私のこと殺すつもりとか言ってましたけどどう見ても嘘で、最近ではそれすら言わなくなりましたね。自分の記憶消す様な母親のために命は懸けられないってことなんじゃないですか?」
シュウも当初はサヤが母親の敵討ちを狙っている可能性を考えていたが、サヤは初めて会った時から今まで一度もシュウに殺気を向けたことはなかった。
シュウも今さら自分の父親を殺した相手が名乗り出たとしても特に何もする気は無かったのでサヤのこの態度を特に不思議には思わず、せっかく助けた相手が自殺しようとしなかったことを素直に喜んでいた。
しかしシュウの答えはクオンの聞きたかったこととは微妙にずれていたので、クオンはシュウへの質問を続けた。
「サヤさんがその気になれば生き別れの父親とか兄弟探せると思うけど、そういうことはしてないの?」
「さあ、さすがにプライベートまでは知りませんからそれについては何とも言えません。あ、でも私と血が繋がってる人がいたら会いたいかみたいな質問はされましたね」
「……何て答えたの?」
シュウの発言を聞きクオンはゲームの手を止め、それに気づいたシュウは不思議そうな表情をクオンに向けた。
「どうしたんですか?」
「いや、シュウの家族がいるかもって聞いて驚いただけ」
「そんなに驚くことですか?子供売り飛ばす様な親なら売り飛ばすために子供二、三人作ってても驚きませんけどね」
シュウのこのあけすけな発言を聞きクオンはしばらく言葉を発せなかったが、やがて本題に入った。
「もし弟とか妹がいたら会いたい?」
クオンとしては割と覚悟を決めてこの質問をしたのだが、それに対してシュウは特に表情を変えずに答えた。
「もし私に家族がいたとしても別に会いたいとは思いません。だって子供の頃別れたとかならともかく今まで存在すら知らなかった相手にいきなり家族面されても困りますし。クオンさんも困りません?いきなり見ず知らずに男に私はあなたの弟ですとか言われても」
「まあ、確かに」
シュウの口にした状況を想像してクオンは素直に感想を口にした。
「そもそも地味子さんにも言いましたけど血が繋がってるかどうかなんてただのきっかけなんですから、血が繋がってるってだけで即家族は暴論過ぎると思います。まあ、家族のいない私が言っても説得力無いでしょうけど」
「それ言われてサヤさんどうしてた?」
今のアイギスでもDNA検査は行え、それにより関係が壊れた家族の話はクオンもいくつか聞いていた。
そのためクオンはシュウの考えに反論する気は無く、気になったのはシュウのこの考えを聞いたサヤの反応だった。
コウガと研究以外にほとんど興味を示さないクオンがサヤについての話を続けたことがシュウには意外で、シュウは思いついた疑問を素直にクオンにぶつけた。
「ずいぶんあの人のこと気にしますね。まさかクオンさんの妹だなんて言わないでしょうね?」
民間の企業の他に研究局でもDNA検査は行えてシュウはそのことを知っていた。
そのためシュウは先程からのクオンの態度を見てこの様な推測を口にしたのだが、シュウはクオンの両親どちらとも面識がありその人柄を知っていた。
そのためシュウのこの発言は本気ではなく、クオンも慌てることなくシュウの発言を否定した。
「本人の許可無しでするわけにもいかないからDNA検査はしてないけど、そんなことしなくてもサヤさんと私に血縁関係があるわけない。第一それだと私の親のどっちかが浮気したことになっちゃう」
クオンのこの発言が嘘であることにシュウはすぐに気づいたが、さすがに内容が内容だっただけにこの場でそれを指摘するのは避けた。
サヤの母親が確定している以上、サヤがクオンの妹だとしたらクオンの父親、ドローマが浮気をしたことになる。
人は見かけによらないものだとシュウが驚いていると、シュウの表情から何を考えているのか読み取ったのだろう。
クオンは呆れた様な表情で父親の無実を主張した。
「あいにくだけど私の父親にそんな甲斐性無い。勝手に私の家庭に問題起こさないで。サヤさんのことが気になったのは能力が珍しかったから。あの能力は研究すれば装備に反映できそうだし」
「そうですか」
シュウとしても別にクオンの家庭に波風を立てたいわけではなかったので、サヤの出自について話題にするのは止めて先程のクオンの質問に答えた。
「で、さっきの質問に答えますけど私の考え聞いてもあの人は特にショック受けてる感じも無かったですよ?一応あの人の家族が見つかった場合は好きにすればいいって伝えましたし」
「サヤさんと似た様な能力持ってる兄弟がいると嬉しいんだけど」
「……その実験動物見る様な目、止められませんか?」
血液を操れる能力者をクオンはサヤ以外に二人知っていたが、この二人は体を血液に変える程能力を使いこなしてはいなかった。
そのためクオンは何度かサヤに実験に協力するように頼んだのだが、血液を無駄に消費したくないと断られていた。
こうした事情からクオンはサヤと同様の能力を持つ能力者がいれば助かると考えていて、クオンがサヤに興味を持っていた理由にシュウは軽く引きながらも一応は納得した。
やがて午後三時半を回った頃、シュウはミアたちと合流するためにクオンの部屋を後にしようとした。
「夜の分はサンドイッチとビーフシチューを作っておきました。生ごみはできるだけ出したくないのでちゃんと食べて下さい。最悪ビーフシチューは明日私が食べますけどサンドイッチだけは絶対食べて下さい。もし残してたら口にねじ込みますからね」
きちんと言っておかないとクオンは平気でシュウの作り置きした料理を残すので毎回注意しておく必要があり、そんなシュウに対してクオンは適当な返事をしながら机に向かい机の上からある原稿を取るとシュウに渡した。
「これ読んで中身分かるか教えて」
クオンがシュウに手渡した原稿には将来研究局で働くことを希望している子供向けのクオンのメッセージが書かれており、このメッセージは二週間後に発売される雑誌に記載されることになっていた。
機構の局長にこの様な依頼が来るのは珍しくなかったがクオンは子供向けのメッセージを書くのが苦手で、何度も両親や部下、あるいは記者に内容が難し過ぎると苦言を呈されていた。
自分が研究局の外部の人間への研究内容の説明が苦手なことはクオンも分かっていたので、それを克服するいい機会だと考えてクオンは毎回苦労しながら一人で外向けのメッセージを書き上げていた。
しかし今回は子供向けのメッセージということで内容と分かりやすさのバランスが取れているかがクオンは不安で、そのためシュウに理解できるなら子供たちでも理解できるだろうと考えてシュウに原稿を読んでもらうことにした。
このクオンの考えを聞いたシュウは特に怒る様子も見せずにしばらく原稿を読んでから感想をクオンに伝えた。
「いいんじゃないですか。使われてる言葉の意味も分かりますし、内容もおもしろいと思います。これなら子供でも分かると思いますよ。少しきれいごとが多いのが気になりますけど」
新聞を読むのにすら苦労する自分でもすらすら読めたのだからこれなら子供向けとしては十分だろう。
そう考えたシュウだったが一つだけ気になることがあったので一応それをクオンに伝え、シュウの感想の最後の部分を聞きクオンはため息をついた。
「さすがに向いてない人間は最初から来ない方がいいなんてよそ向きのメッセージで書けるわけない。……私やシュウみたいにやりたいことと才能がかみ合う人間ばっかりじゃないんだから」
「まあ、確かに。コウガさんとかあれだけ強いのに仕事中ずっとつまらなそうな顔してますからね。新入りさんみたいな人が私やコウガさんの力を持てれば一番いいんでしょうけど」
コウガが心底今の仕事を嫌がっていることはシュウも分かっていた。
そのため上昇志向が強いことが明らかなアヴィスの様な人間が自分たち並の才能を持って生まれれば幸せなのだろうとシュウは考えていた。
そんなシュウの発言を聞いたクオンは呆れた様な表情をシュウに向けた。
「コウガとリンドウさんが仕事中不機嫌そうにしてるのは半分以上シュウが原因だと思う」
「リンドウさんはともかくコウガさんの愛想の無さまで私のせいにされても困りますよ」
思わぬ方向の苦情を入れられたシュウは苦笑しながらクオンの部屋を後にし、シュウが部屋を去った後でクオンは疲れた様にため息をついた。
「何か変な勘違いされちゃったみたいだけど、まあ、結果オーライか」
クオンは気になった能力者の血液を入手すると無断で分析していた。
隊長の中ではシュウ、コウガ、アヤネ、そして自分の血液をクオンは分析しており、それ以外で最近クオンが血液を分析した能力者がサヤだった。
そのためクオンは今日サヤをシュウとの話題に出したのだが、自分の親の不貞が疑われるという予想外の結果になった。
この結果はクオンも予想していなかったがシュウはこの事実(勘違いだが)を言い触らす様な性格ではないので放っておいても問題無いだろう。
そう考えてクオンは研究のために部屋の奥へと向かった。
シュウがクオンの部屋を訪れた頃、昼食を終えて自分の部屋に一人でいたアヴィスは見るからに不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「……どこまでも忌々しい男だ。大人しく死んでおけばいいものを」
怒りを通り越して殺気すらにじませているアヴィスの言う男とはシュウのことだった。
あの強さに加えて『妖精女王』とまで繋がりがあるシュウは将来必ず自分の邪魔になる。
アヴィスはそう考えておりシュウが行方不明になったと聞いた時は喜びを表に出さないようにするのが大変だった。
そうして喜んでいたところにシュウが生還し、シュウが『創造主』の必殺の策を運よく突破したと聞いた時に舌打ち一つしなかった自分をアヴィスはほめてやりたかった。
アヴィスは自分が序列一位に登り詰めるまでの最大の障害をシュウだと考えており、一日でも早くシュウに死んで欲しいと考えていた。
六日後のSランクとの邪竜との戦いで死んでくれればいいのだが、今朝見た戦い振りを見る限りではその可能性は低そうだった。
シュウは王族から嫌われていると聞いているのでいざとなったら死亡ではなく失脚という手段も考えられるが、アヴィスの理想としてはシュウには大人しく死んで欲しかった。
「とりあえずは六日後の結果待ちだな」
六日後に『創造主』がシュウに差し向ける邪竜が昨日の邪竜と同等の能力を持っていればシュウは死に、そうなれば自分があれこれ悩む必要はなくなる。
ミアまで死ぬのは後々のことを考えると痛かったが、ミアがいなくなった穴ぐらい自分なら埋められるとアヴィスは信じていた。
心の底から六日後のシュウの死を願いながらアヴィスは机に広げていた研究局の新装備の一覧に目を通し始めた。




