抜き打ちテスト
「発動しているだけであれだけ能力の幅が広がるとは『魔装』は本当に便利ですね。武器で再現できそうですか?」
『魔装』さえ使えれば昨日体を入れ替えられてから精々数時間しか重力操作の能力を使っていないはずのシュウがブラックホールを創れるのだから、ぜひクオンと研究局には武器による『魔装』の再現を目指して欲しい。
そう考えたシンラの発言を聞き、クオンは何やら言いにくそうにシンラの質問に答えた。
「『魔装』の再現は一応目指してはいますけどまだ時間がかかると思います。それにもし『魔装』を再現できたとしても多分シンラさんの考えてる程役には立たないと思います」
「どういうことですか?」
いくらシュウでもわずか数時間の訓練でブラックホールを創れるわけがないので、先程シュウが見せた高練度の重力制御は『魔装』の恩恵だとシンラは考えていた。
しかしクオンの表情からシンラは自分が何か勘違いをしていることに気づき、そんなシンラにシュウが話しかけてきた。
「能力の精度が上がるって言っても制御自体は自分でしないといけませんから、いきなり『魔装』だけ使える様になっても使いこなせませんよ?『魔装』って全パラメーターが上がるだけですから」
「ではさっきのブラックホールや武器の操作は一体どうやって……。いくらシュウさんでもわずか数時間であれだけの技を使えるようになるわけが……」
シンラですらブラックホールを創れるようになったのは二十代の前半で、いくらシュウでもセンスだけでブラックホールを創れるわけがない。
そう考えていたシンラは『魔装』に能力の制御を補助する効果は無いと言われて戸惑い、シュウはそんなシンラからクオンに視線を移した。
「あれ?その辺さっき説明してませんでしたか?」
自分たちが戦っている最中に話し込んでいる同僚たち(特にシンラ)を見てシュウは呆れたのだが、それと同時に自分が重力操作の能力を使いこなしていることにクオン以外の隊長たちは驚いているのだろうと納得もしていた。
そのためシュウはクオンがシンラたちにシュウが重力操作の能力を使いこなせる理由を説明したと思っていたのでシンラの反応を見て戸惑った。
そんなシュウにクオンが事情を説明した。
「さっきその辺を説明しようとしたらシュウたちの戦いが盛り上がったから途中で話が終わった。ちょうどいいから説明したら?」
「まあ、別に隠す様なことでもないからいいですけど。私重力操作の能力使うの今日が初めてじゃないんですよ。さすがに毎日ではないですけど重力操作だけじゃなくて障壁とか雷とか炎とか色んな能力をクオンさんに頼んで入れてもらってるんです。だから私大抵の能力は隊長が務まる程度には使いこなせますよ?」
「何のためにそんなことを?まさか遊びでですか?」
シュウの説明を受けてシュウが自分以上に重力操作の能力を使いこなせたことには納得できたシンラだったが、今度はどうしてそんなことをわざわざしているのかという疑問が浮かんだ。
そのためシンラはシュウの性格を考えて一番あり得そうな理由を口にしたのだが、それに対するシュウの答えは肯定と否定の両方だった。
「そうですね。半分以上遊びですけどでも一応仕事も兼ねてますよ?色んな能力使って気づいたことは隊員たちへのアドバイスに役立ってますし。むしろみなさんこれやらないでよく隊員たちの訓練できますね?」
シュウ以外の隊長たちが隊員たちに行う訓練の内容は多少隊長の個性が出るもののただ戦うだけというのが一般的で、これは討伐局の歴史全体を見てもそうだった。
そのため自分にしかできない訓練方法を行い成果を出している隊長が同時に二人いる今が恵まれているだけだったのだが、シュウが自分なりに隊員たちの訓練のために工夫をしていると聞き多くの隊長たちは後ろめたさを感じていた。
ほとんどの隊長が自分は隊員たちが死なないようにできるだけのことはしていると考えていたからだ。
こうした同僚たちの気持ちを完全に読み取ったわけではなかったが、それでもシュウは同僚たちの表情から同僚たちが自分に引け目を感じていることを察した。
自分が才能溢れる人間だと自負しているシュウですらできる事できない事を割り切って行動している。
そのため隊長としては自分以下の同僚たちが自分に引け目を感じているのを見てシュウは呆れたが、この雰囲気を放置するのも忍びなかったのでこの場で披露する気が無かった大技を隊長たちに見せることにした。
「さてと、ついでですから最後にもう一つがんばってるアピールしておきますか。レイナさん、今から大技使うので壁と天井を二重に障壁で囲ってもらえませんか?」
「……それは別にいいけど床は大丈夫なの?」
レイナは障壁を十枚までしか創れないので床まで守れと言われても不可能だが、かといってシュウの言う大技とやらで床が壊されるのを見過ごすわけにもいかなかった。
そんなレイナの質問を受けてシュウは心配無いと答えた。
「昨日少しだけ外で試しましたけど地面にはほとんど影響無かったんで大丈夫です。そもそもこれ攻撃技じゃないですし」
「ふーん。まあ、いいわ。もしもの場合は修理代『フェンリル』に請求するわよ」
「……どうぞ」
レイナの発言を受けてシュウの脳裏に一瞬リンシャの顔が浮かんだが、先程言った通り今からシュウが使う技は攻撃技ではない。
そのためシンラに割り当てられた訓練室が壊れることもないだろうと考えてシュウは能力を発動した。
レイナは壁と障壁の間に自分たちが入れる空間を用意する形で障壁を展開し、その空間から技を発動するシュウの姿を見ていた隊長たちのほとんどが驚きに目を見開いていた。
『魔装』を発動したシュウは自分を中心に周囲の物を引き寄せる重力場を発生させ、シュウが技を発動してすぐ室内は轟音に包まれた。
シュウの発生させた重力場はブラックホール程ではなかったものの強い吸引力を持っており、それにさらされてすぐにレイナの障壁は軋む様な音を立て始めていた。
「ねぇ、これやばくない?レイナの障壁持つ?」
「一枚目はともかく二枚目は大丈夫でしょ。あいつもいざとなったらすぐに技使うの止めるでしょうし」
シュウが創り出した重力波の嵐を見てアヤネは苦笑し、そんなアヤネの発言にレイナは多少表情を引きつらせながら返事をした。
一方シュウをそこまで信頼していなかったクオンは二ヶ所に設置していたカメラを回収し、いざという時のためにコウガの後ろに避難していた。
そんなクオンの行動を見てコウガは呆れた様なため息をつき、その光景を見てシンラもミアを自分の後ろに避難させた。
やがて内側に展開されたレイナの障壁全てにひびが目立つようになった頃、シュウはクオンの予想通り新たな動きを見せた。
「これだけ時間かけて障壁一枚も割れないっていうのは結構ショックですね。せめて一枚ぐらいは割っておきますか」
そう言うとシュウは一度能力を解除し、その後隊長たちのいる方向のみに絞って重力場による吸引を行った。
全方位への能力発動を止めて一方向に集中したシュウの重力波を受けてすでにひびだらけだったレイナの一枚目の障壁は瞬く間に砕けた。
それを見てもシュウは能力の発動を止めず、それどころか笑顔で隊長たちに話しかけた。
「どうせ死にませんからこのまま続けますね。その内重力使うSランクと戦うこともあるかも知れませんし」
そう言ってシュウが能力の出力を上げると二枚目の障壁もあっさりと壊れ、その後ほとんどの隊長たちがシュウへと引き寄せられた。
引き寄せられなかったのはコウガとコウガが守っていたクオン、そしてシンラが守っていたミアだけで、二枚目の障壁が壊れてすぐにシュウが能力の使用を止めた後にはシュウの周囲の床に転がっている隊長たちの姿があった。
床に倒れながら自分に視線を向けてくる同僚たちを横目に見ながらシュウはコウガに話しかけた。
「シンラさんはともかくコウガさんはその紳士っぷり他の人たちにも発揮できませんか?位置的に後一人か二人は守れましたよね?」
『雷帝の鎧』を発動してクオン一人を守ったコウガを見てシュウはからかう様な表情を浮かべ、それを見てコウガは不機嫌そうに顔をしかめた。
「いきなりあんな技を使われて完璧に対応できるか。そもそも今日は隊長以外もいるんだぞ……。本当にお前は馬鹿だな。虫唾が走る」
「そんなに悲しいこと言わないで下さい。ま、いざとなったらクオンさんの手を引っ張るぐらいの男気はコウガさんにもあるみたいなのでそれでよしとしましょう」
コウガはシュウが隊長たち目掛けて能力を使った次の瞬間には『雷帝の鎧』を発動し、その後右手の手首から先だけ『雷帝の鎧』を解除してクオンを引き寄せた。
正直コウガにそこまでの甲斐性があるとはシュウは思っていなかったので、驚き半分からかい半分でコウガの行動に言及した。
しかしコウガが本気で怒りそうだったので、残念ではあったがシュウはすぐに話題を変えた。
「それにしても驚きました。一部だけ『雷帝の鎧』解除するなんて器用なことよくできますね」
『纏刃』をまともに使えるようになった頃、シュウは一度だけ『纏刃』の一部解除を試したことがあり、その際右腕の肘から先を失いクオンとアヤネの力を借りる羽目になった。
そのためコウガが当然の様に行った『魔装』の一部解除を見てシュウは素直に驚き、シュウが驚いている理由を知っているクオンはどこか誇らしそうな表情を浮かべていた。
そんなクオンの様子にコウガは気づかず、不機嫌そうな表情をしながらもシュウとの会話を続けた。
「『魔装』を使っている期間はお前より長いからな。……『魔装』を消すのではなく消したい部分の魔力を空気中に逃がすイメージでやってみろ。お前ならこれだけでできるだろう」
「ずいぶん素直に教えてくれますね」
自分にからかわれて不機嫌そうな表情をしているコウガが素直に助言をくれたことにシュウは驚き、そんなシュウにコウガは面倒そうな表情を向けた。
「お前と無駄話をしたくないだけだ。もう終わりですよね?私は先に失礼します」
こうシンラに告げてコウガは訓練室を去り、その後コウガに続く形で部屋を出て行こうとしたクオンがシュウに声をかけた。
「計測どうする?午前中はさすがにきついでしょ?」
「そうですね。夕方からは私も用があるので二時ぐらいに顔出します」
「分かった。後あんまりコウガからかわないで。なだめるのが大変だから」
「すみません。でもいちいち反応がおもしろいコウガさんも悪いと思いますよ?」
全く反省していない様子のシュウを見て小さなため息をつきながらクオンは訓練室を後にし、その後シュウはシンラ以外の隊長に声をかけた。
「まったく、……防げないのはしかたないにしてもどうせ引っ張られるならそれを利用して私に攻撃するぐらいの気合は見せて欲しかったですね」
「……お前はいつもこんな訓練を『フェンリル』の隊員にしているのか?」
シュウの容赦無い攻撃を受けてリンドウはシュウが『フェンリル』相手に実戦さながらの訓練を行っていると以前聞いたことを思い出し、もしこれ程の訓練を行っているなら『フェンリル』の強さも納得だと考えた。
シュウの攻撃から立ち直って早々にリンドウがしてきた質問に対し、シュウは助言も交えながら答えた。
「何人か見どころがある隊員がいるのでそういった隊員にはそれなりに本気を出しますけど、基本的には手加減しますよ。あんまり本気出し過ぎても訓練になりませんから。精々Aランク二、三体倒せるようになってくれればいいと思ってやってます」
「それはガドナーさんを抜いてですか?」
「はい。私やガドナーさん抜きでAランクを二、三体倒せるようになればいいと思ってますし、うちの隊なら五体も夢じゃないと思っています」
リンドウとの会話に横から口を挟んできたシンラの質問にシュウは迷うことなくこう答え、その後シンラに今回の模擬戦の感想を尋ねた。
「どうでしたか、シンラさん?今の私の強さを見て安心してもらえましたか?」
「はい。少なくとも私よりは強い以上、私からは何も言えません。よろしくお願いします」
「はい。任せて下さい。当日はミアさんも連れて行かないといけないのが不安ですけど、まあ、私なら何とかなるでしょう。シンラさんは当日は安心して私たちの帰りを待っていて下さい」
「……ミアさんの顔でさん付けで呼ばれると妙な気分ですね」
シュウがミアの体でも普段と遜色無い強さを発揮できることを知りシンラは安堵し、そのために出たシンラの軽口を聞きシュウは苦笑した。
「それは我慢してもらうしかないですね。私におじい様なんて呼ばれたくないでしょう?」
「それはそうなんですが……」
シンラがこの発言をした瞬間シュウの表情が一瞬硬くなったが、シュウのこの反応にはほとんどの隊長が気づかずにそのままシュウはシンラとの会話を続けた。




