連携
シュウの説明を聞きミアは怒りを露わにした。
「は?あんたのする事全部通用しないってずるくない?そんなの勝てるわけないじゃない!」
「邪竜の能力に文句言ってもしかたねぇだろ。逃げようとしたら邪竜の近くに引き戻されたし、お前ら以外とは無線も繋がらない。完全に俺殺すためだけの邪竜だな」
「……単純にあの邪竜の防御力が高いだけという可能性は無いんですか?」
シュウの行為だけを無視して行動できるという限定的過ぎる邪竜の能力を聞き、サヤはシュウの予想に疑問を呈した。
そんなサヤにシュウは邪竜が『空間切断』による障壁をすり抜けたことや突風攻撃を自分が防げなかったことを伝えた。
「なるほど、逃げることもできなくて他の人たちと連絡が取れないとなると、私とミアさんであの邪竜を倒すしかないですね」
シュウの説明を聞き邪竜の能力がシュウの予想通りだと判断し、サヤは考え着いた現状の打開策をシュウとミアに伝えた。
確かに今回の邪竜はあくまでシュウに対して無敵なだけなのでミアとサヤの攻撃なら通用するだろう。
しかしサヤの考えには根本的な問題がありシュウはそれを指摘した。
「それができれば苦労しねぇよ。戦った感じだとあの邪竜はスピードとかパワーはAランクの邪竜と同じぐらいだ。お前らじゃ能力抜きにしても勝てねぇよ」
この状況なら誰でも思いつくであろうサヤの案はシュウも真っ先に考えたが、残念ながらミアとサヤではあの邪竜を倒すには地力が足りない。
どうしてシュウを殺すために用意したはずの場に『創造主』がこの二人を転移させたのかはシュウにも分からなかったが、半端な期待を持たせるためだけにこの二人をここに転移させたのなら『創造主』もいい性格をしている。
そう考えていたシュウ目掛けて邪竜が突風を起こし、シュウはその攻撃を『反射壁』を発動したミアの後ろに避難することでしのいだ。
そんなシュウを見ながらミアは覚悟を決めた様子だった。
「……あんたが無理なら私たちでやるしかないでしょ。攻撃が通じるだけまだ私たちの方が勝ち目あるし」
『反射壁』で邪竜の攻撃を防げたということは自分とサヤは今回の邪竜の能力の対象外ということで、シュウを頼れない以上自分たちがやるしかない。
そう決意したミアにサヤが話しかけてきた。
「『空虚な新星』を使うしかないですね」
「ですね。他の攻撃じゃAランクには通用しないでしょうし」
初耳の技名を口にしながら邪竜との戦いを始めようとしている部下を見て、シュウはため息をつきながら腹をくくった。
「しかたねぇか。『創造主』がどんなつもりでお前らここに呼んだのか知らねぇけど、精々後悔させてやれ」
そう言って二人の邪魔にならないように後ろに退がろうとしたシュウだったが、ここでサヤがシュウにあることを頼んできた。
「まじか。それ失敗したら俺即死じゃねぇか」
サヤの頼みを聞き難色を示したシュウに対してサヤは本音を伝えた。
「……正直言って私たちだけであの邪竜と戦うこと自体がかなり危険な賭けなので勝率を少しでも上げておきたいです。お願いします」
「分かった。どうせ他にすることも無いしな」
そう言ってシュウは二人とは別行動を取り、攻撃するのに手頃な場所を探し始めた。
「ミアさん、私が隙を作るので後はお願いします。タイミングはシュウ隊長の方で合わせてくれると思うので、ミアさんの準備ができ次第邪竜を落として下さい」
「分かりました。いつでもどうぞ」
先程ミアが言った通り、今のミアとサヤの技でAランクの邪竜を倒せる技は『空虚な新星』しかない。
しかし『空虚な新星』は発動までに少し時間がかかる上にサヤが邪竜に近づく必要があるため、邪竜に攻撃を仕掛ける前に邪竜の動きを封じる必要があった。
そのための手順自体はサヤが考えてシュウとミアにも伝わっていて、後は実行するだけだったのだが他の二人と比べてミアは明らかに緊張していた。
邪竜の動きを封じるためにこれからミアが使う技はかなりリスクが高い技だったからだ。
まだ名前すら無いこの技は出力をかなり抑えて使用した練習ですら腕の骨を折る程危険な技で、できれば使いたくなかったのだがミアは他にAランクの邪竜の動きを封じる手段など持ち合わせていなかったのでしかたがなかった。
ミアの発言を聞き、ミアと共に邪竜を見下ろしていたサヤは『飛燕』で加速して一気に邪竜へと近づいた。
それを受けて邪竜はサヤに火炎を放ち、サヤはその攻撃をよけることなく正面から突っ込んだ。
サヤは邪竜の放った火炎を見るとすぐに自分の周囲に血液の壁を展開し、サヤが創り出した紅い球体は『飛燕』でついた加速をそのままに邪竜の放った火炎の中を落下していった。
今のサヤではAランクの邪竜の火炎を完全に防ぐことはできなかったが、邪竜のもとにたどり着いたサヤはすぐに全身に負った火傷を能力で再生して邪竜の眼へと向かった。
この正面突破のためにサヤはかなりの量の血液を消費してしまった。
ただ邪竜に近づくだけなら邪竜の攻撃をよければよかったのだが、今のサヤの役目はおとりだったので邪竜の気を引くためには無理をしてでも正面突破するしかなかった。
やがて邪竜の眼へとたどり着いたサヤは邪竜の眼に大量の血液をぶちまけるとその血液を凝固させた。
今のサヤの攻撃で邪竜の眼を潰そうとしたら仮に成功したとしても短時間では無理だっただろう。
しかし今回サヤは自分の血液を固めただけでこれなら邪竜の耐久力は関係無かった。
突然視界をふさがれて叫び出した邪竜を前にサヤはこれ見よがしに『ウロボロス』を発動して邪竜に攻撃を仕掛けた。
先程の正面突破でかなりの血液を消費したため、今のサヤはいざという時の回復用の血液を除けばほとんど血液を内蔵していなかった。
そのためサヤに『ウロボロス』で邪竜を傷つける気は無く、今回の『ウロボロス』に邪竜の注意を引く以上の意味は無かった。
しかし視界を奪われた邪竜にとって自分の近くで派手に能力を使うサヤは恰好の的で、邪竜はサヤの目論見通り叫び声をあげながらサヤに突進してきた。
試しに一回だけサヤは本気で『ウロボロス』を邪竜にぶつけたのだが、Bランクの邪竜にすら通用しないサヤの攻撃がAランクの邪竜に通用するはずがなかった。
「……まさか傷一つつかないなんて」
以前サヤはBランクの邪竜相手に手酷い敗北を喫したが、それでも傷を負わせるぐらいはできた。
そのため『ウロボロス』を無傷で弾いた邪竜の体を見てサヤは驚いたが、それで優先順位を間違える程愚かではなかった。
多少不満そうな表情を見せながらもサヤは『飛燕』を使って飛び回り、予定通り高度を落とし過ぎないように気をつけて適当に邪竜の相手を続けた。
やがてサヤの施した目くらましが壊れ、サヤを視界に捉えた邪竜はサヤに襲い掛かろうとした。しかしサヤに襲い掛かろうとしていた邪竜は体に異変を覚えて動きを止め、邪竜の動きが止まったことを確認したサヤはすぐに地上へと向かった。
一方サヤが邪竜に正面突破を敢行した直後、ミアも動き始めていた。
完全に自分に背を向けた邪竜目掛けて急降下した後、ミアは重力球を邪竜の背中にぶつけた。
しかしミアの重力球を受けても邪竜の体は少しへこんだだけで、この結果を受けてミアは残念そうな表情を浮かべた。
「まじで?Aランクってこんな硬いの?」
Bランクの邪竜の単独での撃破を早々に成し遂げ、ミアは多少は自分の強さに自信を持ち始めていた。
そんな時に自分の攻撃をものともしないAランクの邪竜の耐久力を見せつけられてミアは思わず嘆いてしまった。
今のミアが一人でAランクの邪竜に勝つのは不可能だということはシュウはもちろんシンラやガドナーからもさんざん言われていた。
そのためミアは自分が一人でAランクの邪竜を倒せるとまでは考えていなかったが、それでも今の自分の攻撃ならAランクの邪竜に少しは通じるだろうと考えていた。
しかし実際にはミアの攻撃はAランクの邪竜にはまるで通用せず、図らずもサヤ同様不満そうな表情をしながらミアは予定通り邪竜を地上に墜落させることにした。
「……はあ、これ絶対痛い」
心底嫌そうな表情をしながらミアは斧を横に置き、その後邪竜の背に両手をかざすと全力で邪竜の体に重力をかけた。
普段のミアは武器や自分の体が壊れないように能力の出力を抑えている。
しかし今回は能力の対象が邪竜だったので遠慮など不要で、両腕ぐらいなら吹き飛んでも構わないという気構えでミアは能力を発動した。
その結果、歴代の隊長と比べても上位に入る出力を持つミアの全力を受けて邪竜は落下し始めた。
もちろん自分に突然襲い掛かった重力に対して邪竜も無抵抗でいたわけではなく、邪竜は翼を動かして必死に上昇しようとした。
しかし傍から見ていると無抵抗で落下しているとしか思えない程あっけなく邪竜は落下を続け、そんな邪竜の背中でミアは予想外の発見に驚いていた。
加重を始めるのと同時に腕が裂ける覚悟をミアはしていたのだが、今回の加重でミアは一切傷を負っていなかったのだ。
「……へぇ、加減しない方がよかったのか」
これまで怖くて試す気すら起きなかった最大出力で能力を行使した結果、ミアは新技のコツをつかむことができた。
この調子なら練習さえ重ねれば新技を自爆技から切り札に昇華することができそうだった。
サヤの提案から起きた偶然で予期せぬ成長のきっかけを得てミアが喜んでいる中、ミアと邪竜はみるみる地面へと近づいていた。
このまま加速を続けて地面に激突すれば邪竜はともかくミアは確実に衝撃で死ぬだろう。
しかし今のミアの技術では地面すれすれで加速を止めて邪竜だけを地面に叩きつけるという芸当はできない。
今のミアは邪竜にかける重力と自分にかける重力の調整で精一杯で、少しでも他のことに気を取られたらミアは自分の最大出力をその身に受けて即死するだろう。
そんな状態のミアに安全な停止などできるわけもなく、今回ミアを止めるのはシュウの役目だった。
ミアが加重を始めた時点の高さから判断してミアがぎりぎり死なない高度を見定め、シュウは『瞬刃』を発動した。
その結果落下する邪竜とミアと地面の間の空間が一キロに渡り斬り裂かれ、ミアは斬り裂かれた空間に激突して動きを止めた。
一方シュウの能力の影響を受けない邪竜はサヤの考え通り斬り裂かれた空間を素通りし、そのまま地面に激突した。
「いった、……もう最悪。ああ、爪割れてる」
斬り裂かれた空間に無理矢理着地させられたミアは右腕と右わき腹を強打して思わず涙目になってしまった。
加重によるダメージが皆無だった分ミアは着地による痛みに転げ回りそうになったが、まだミアの役目は終わっていなかったため気力を振り絞って『瞬刃』によって斬り裂かれた空間に重力球を叩きつけた。
その後斬り裂かれた空間が割れて穴ができると、ミアはその穴からサヤ目掛けて重力球を三発撃ち出した。
シュウ程ではないがミアも遠距離攻撃が苦手だったが、今回は撃ち出すと言うより落下させればよかったのでミアは何とかサヤに重力球を届けることができた。
「後はお願いしますね」
既に余力など全く残っていなかったミアは小さいながらも心の底からの声援をサヤに送り、その後呆れた様な表情でシュウのいる方向に視線を向けた。
「まったく、私が死なないギリギリの場所斬るなんて、ぶっつけ本番でよくやるわ」
今回の作戦は当然事前に練習などしておらず、シュウもさすがに今回の様な状況を想定しての訓練などしていないだろう。
それにも関わらずミアは死なず邪竜にはダメージを与える高度を見極めて一度で斬り裂いたシュウの技量は悔しいがミアも認めざるを得なかった。
シュウとの経験の差を思い知らされる度にミアは悔しい思いをしており、今回もシュウの技術を見せつけられたミアは先程までの高揚感を忘れてシュウに向けて対抗心を燃やしていた。
しかしあれもこれもと欲張ってもどっちつかずになるだけなので、今は火力を上げることに集中しよう。
そう考えながらミアは地上に戻るために斬り裂かれた空間の穴を広げ始めた。
一方サヤは邪竜が地面に叩きつけられた衝撃で一瞬足下がふらついたものの、何とかミアの撃ち出した重力球二発を迎えることができた。
サヤが両手にそれぞれ創り出した血液の鞭が重力球に触れると、サヤの制御下で血液と重力球は混ざり合い三十秒程で直径二メートル程の黒い球体となった。
今回が実戦での初使用となる『空虚な新星』の制御に成功したことにサヤは安堵し、その後落下の衝撃から立ち直りかけていた邪竜に『空虚な新星』をお見舞いした。




