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自然すぎるナイフ

 警部は目を見開いた。ぼくだって驚いていた。

「じゃ、じゃあ、きみは、犯人がこの館から出ていくところを目撃していたのかね?」

「いいえ、内田おじさん」

 と、めい子は内田警部のことをそう呼んだ。

「内田おじさん?」

 と警部は素っ頓狂な声をあげた。

 でも、そんなことはこの事件とは関係のないことだから、警部は話を続ける。

「じゃあ、どうしてそんなことがわかるの? お嬢ちゃん」

「推理です」

 警部は笑った。ぼくもまた、隣でつい吹き出してしまった。

「ミステリー小説が好きかい?」

「はい。だけど、正確には『半ミステリー』ですね、私の好みは。たとえばそう、村上春樹の『羊をめぐる冒険』とか」

「ああ、それなら私も読んだよ。感心だ。最近の子は、本当に本を読まんから……それで」と、警部は話が脱線しそうになったので戻した。「その推理というのを、『一応』聞かせてもらえるかい?」

 警部が『一応』を強調して言ったのは、きっと、そんなにこの中学生の推理なんてあてにしていないし、もしそれに頼らなければならないとしたら名が廃る、とでも思っていたのに違いなかった。

「まず、殺された薄田という人は、笑うとき、よく上体を大きくそらせる癖があったそうですね」

 警部は手帳を取り出して確認する。

「ああ、確かにそうらしい。さっき薄田夫人から聞いたのだが」

 めい子は、さっき警部が薄田夫人から話を聞き出すところを、注意深く聞いていたのだ。デザートのケーキを不謹慎にももぐもぐさせながら。

「だけど、そんな癖と、この事件と、どんな関係があると言うのかい?」

「いいですか、内田おじさん。死体は殺される時、笑っていたのですよ」

「笑っていた?」

「死体の表情を確認してください。なんとも言えない顔をしているでしょう。これは、笑いが絶望に変わっていくときの、その中間にある表情なのです」

「……それで?」

「それなのに、ですよ。今度は死体のナイフの角度を確認してください。まったく『自然』でしょう? わたしには、それが不自然に見えるのです。もし殺される瞬間に、笑って体を剃らせていたのなら、あのナイフの角度ということは、よっぽど高い場所から刺された、ということにならなければなりません。警部、あれを見てください」

 今度はめい子が高い場所を指さした。

 ぼくもその方向を見上げると……。

「高い窓が閉まっていますね。犯人は、あの窓からナイフを投げたんです」

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