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写真家・ササキの存在意義  作者: 1103教室最後尾左端
CASE003【蓮見飛鳥篇】
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009「ササキ達の学生時代(そして不審な会話)」

『悪趣味』


 そう一言だけ書かれたホワイトボードをぼんやりと見つめながら、ササキはしばらく動けずにいた。


 ササキの表情からは何も読み取ることができなかった。ショックを受けているようにも見えるし、あきらめているようにも見えるし、苦しそうにも見える。


 表情一つで何を思っているかをはっきり表現できていた天海あまみさんとは違う。


 色々な思いが混濁こんだくしている。それだけが伝わってくる。


 ササキのそんな表情を見るのは初めてだった。

 聞きたいことは色々あったが、今は無理そうだ。


「……店長、あの天海あまみさんって」

「ああ、嵐みたいな人だったろ? 俺とコイツの先輩だ」

「店長もササキと同じ大学だったんですね……知りませんでした」


 という事は店長も何らかの芸術的な素養があったのだろうか?

 失礼ながら、普段のふるまいからは全くそうは見えないぞ……


「……今、俺が芸術肌に見えないと思ったろ?」

「え、いや、そんなことは……」


 動揺する僕を見て、店長は声を上げて笑った。


「いいんだいいんだ。俺は舞台の、特に裏方関係が専門だったから、芸術家って感じじゃないしな。俺とササキは同期入学で、何となく馬が合ってな。今までこうして関係は続いてるんだ」

「へえ……」


 ササキと店長の関係は大学時代からできていたのか。

 随分と仲がいいとは思っていたが、結構長い付き合いのようだ。


天海あまみ先輩は在学中から世界的に注目された写真家だった。他学部だった俺の耳にも噂は常に届いてたよ。学生の癖に各国のフォトコンテストやポートフォリオアワードを総なめしてた」

「そんなにすごい人だったんですね……」

「ああ、先輩の写真は俺みたいな素人が見ても一発で凄さが分かる。技術の高さはもちろん、被写体選びのセンスなんかも抜群だ。でも、そんなのは些細なことだ。一番すげぇのは……」


 そこまで言うと、店長は頭を掻いた。


「どうしたんですか?」

「いや、言葉にすると野暮な気がしてな……シュン、お前、今金に余裕あるか?」

「そんな瞬間、あるわけないじゃないですか!!」

「……すまん。これこそ野暮だったな」


 思わず大きな声が出てしまった。が、これは半分ぐらい店長が悪い。僕の財政状況を一番よく知っているのは店長だからだ。


 高校生活が始まってからというもの、僕の財布が潤ったことは一度もない。バイト代は光熱費や家賃に消え、食事は店長のまかないが文字通りの生命線である。


 もし僕の財布が盗まれたとしても、そのあまりの盗るもののなさを哀れに思うだけだろう。募金感覚でお金を入れて返してくれる泥棒がいても不思議ではない。


「……ま、シュンはいつもよく働いてくれてるしな。ボーナスでも出すか」


 そう言うと店長はレジの中から一万円札を取り出し、僕に渡した。


「今日はもう帰っていいぞ。そんで本屋行ってこい。そこで天海あまみ先輩の作品集買ってみな。余った金はとっといていいから」

「え、でも……」

「いいから。布教だ布教。俺の好きなものをお前にも好きになって欲しいだけだよ」


 ……そう言われると返す言葉もない。

 ササキといい、店長といい、布教に関してはお金を惜しまないな。そんなに僕に写真を布教したいのか?


「……わかりました。ありがたく受け取っておきます」

「おう。そうしろそうしろ」


 にかっと店長は笑って、僕を送り出した。

 

 店を出る前に、ササキに一声かけようかとも思ったが、それどころではなさそうだった。まだぼんやりとホワイトボードの文字を見つめている。苦し気な表情にも変わりはない。


 何がコイツをここまで追いつめているんだろうか。

 僕に関係あることなんだろうか。

 『悪趣味』ってどういう事なんだろうか。


 ……分からないことだらけだ。


 今悩んでも答えは出ない。僕は思考を止めるように、複雑なことに蓋をするように店の扉を閉めた。








(以下、赤坂が去った後の店内)




天海あまみ先輩に怒られちまったな」


「……悪趣味なのは自覚していたよ。でもこうして面と向かって言われるときついものがあるね」


「自覚しているのと、他人に指摘されるのは全然違うもんだろ」


「違いない」


「だがよ。本当に大事なのはシュンがどう思うか、じゃねえか?」


「……その通り、だね」


「お前さ、シュンに事実を話す気はあるのか? つまりは、『あいつの両親』とお前の関係について」


「……」


「ここでだんまりは卑怯だぞ」


「……分からないってのが正直なところだよ。知ったからと言ってどうなるって話でもないし」


「それでもあいつは知りたがってるんじゃないか?」


「そんなのは君の予想だろう?」


「ああ、予想だ。でもしばらくあいつを見てきて、ほぼ確信に近い予想だ」


「……シュン君は受け止めきれるかな。彼、優しすぎる所があるから」


「そりゃあいつは優しいよ。でもお前が心配するほど弱くはない。お前も分かっているはずだ。結局はお前に覚悟があるかどうかだろ」


「手厳しいね……」


「……俺はシュンの両親のこと、お前のせいじゃないと思ってるぞ」


「……そうかい。でもボクはそうは思わない」


「はぁ……頑固なところ、全然変わらねえな、お前」


「悪かったね……」


「これからどうするつもりだ? ずっとこのままってわけにもいかんだろ」


「うん。でも、せめてシュン君の進路が決まるまではここにいさせて欲しいかな」


「そうか……お前、シュンに写真家になって欲しいのか?」


「……分からない。ただ、彼には写真のことを少しでも知って欲しいし、写真を嫌いになって欲しくないんだよ」


「……そうか。ま、だったらもう少し様子見るか」


「うん。迷惑かけるね」


「今更だよ。コーヒーのおかわり飲むかい? お客さん」


「頼むよ」

正直言って、あんまりおもしろくないシーンです。

ただ、わかりやすいくらいに謎を提示した回でもあります。


今後ともよろしくお願いいたします。

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