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写真家・ササキの存在意義  作者: 1103教室最後尾左端
CASE003【蓮見飛鳥篇】
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007「ササキの師匠」

 蓮見はすみの「いかに自分がかわいいか」という講義に僕の残りの昼休みは全て溶けてしまった。


 僕は途中から赤べこのように頭を上下に振り続けるしかなかったし、蓮見はすみはそれすらも見ていなかった。首の振り損である。


 そして放課後、報告するようなことはほとんどなかったが、喫茶クロワッサンにていつも通り本を読むササキに今日聞いたことを伝えた。


「……というわけで、蓮見は今日もかわいいらしい」

「……それは何の報告なんだい?」


 もっともだ。僕もよくわからない。


「ともかく、撮影は予定通り今週末にできるみたいだ」

「……そう。わかった」

「……?」


 ササキはそれしか言わなかった。

 どうも違和感がある。

 いつものササキなら、


『その程度のことしか聞けなかったのかい? シュン君は本当に使えないねぇ……牛乳拭いた後の雑巾みたいに使えないよ』


 くらいは言ってきそうなものなのに。


蓮見はすみ、かなり頑張ってるみたいだったぞ。結構大変なんだな、男の娘でいるのって」

「ふーん。そうなんだ」

「……??」


 やはりおかしい。いつものササキならここで


『シュン君も女装に興味でも湧いたのかい? 悪い事は言わない、絶対にやめた方がいい。女装したシュン君なんて、環境性セクハラのモデルケースだ。呼吸する公害だよ』


 くらいは言いそうなものだ。


「……し、しかし蓮見はすみが昼休み一人でいたのは意外だったな~。僕じゃあるまいし、もっと沢山友達に囲まれてるかと思った」

「そうかい。意外だね」

「お前、今日どうした?!」


 ついに声にしてしまった。


 いや、僕の自虐コメントにすら食いついてこないとか相当だぞ?

 いつもだったら、


「シュン君なんかを基準にしたら、どんな人間でもウェイ系だし、日本中の人間がテニサーに所属してることになっちゃうよ。そろそろ自分の友達の少なさが異常であることを自覚したらどうだい?」


 くらいは言うはずだ。

 ササキの反撃がないと自虐もできないではないか。


 ……謎のDV耐性みたいなものが付いてるな、僕。


「どうしたって……何にもないよ」

「うそつけ! お前がこんなに静かなのはおかしい。何かあったんだろ? 自首なら早めにしろよ?」

「シュン君はボクのことを何だと思ってるんだい?」


 不審者だ。見たまんまじゃないか。


 ササキは、はぁ。と大きなため息をついた。手に持っている本のページが揺れる。よく見れば全然ページが進んでいない。文字が上手く追えてないようだ。


 らしくもないことに、ササキは緊張しているようだ。


 世界的企業の本家、枢木くるるぎ家の中で仕事したときもヘラヘラしていたコイツが緊張するなんて、本当に何があったのだろう。


「……芸大時代の先輩が、これから来るんだよ」


 ササキは重々しく言った。

 先輩? ササキの?


「来るって、ここにか?」

「そう。待ち合わせしたんだ……シュン君、くれぐれも粗相そそうのないようにね」


 かつてないほど真剣な声だ。本当に珍しい。


「わかったよ……で、どんな人なんだ?」

「一言でいうなら……『天才』だよ」

「『天才』?」


 ササキの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。


「うん。仮にシュン君の写真を撮る実力がミジンコ、僕がライオンくらいだとしよう」

「……ミジンコで悪かったな」


 プロと素人だ。仕方ない。実際そのぐらいの差はある。


「だとしたら、その先輩? はどのくらいなんだ?」

「核兵器」

「マジで?!」


 比較軸がブレブレだが、とにかくすごいことは分かる。

 圧倒的に異次元ということなのだろう。


「そんなに違うものなのか? 写真、というか芸術に上下ってないような気がするけど……」

「上下はないよ。ただし精度はある。彼女はそれがケタ違いなんだよ」

「なるほど……」


 深いセリフだった。実際に芸術家の世界にいるササキが言うとその深さもひとしおだ。


 ……ん?


「彼女? 女性なのか?」

「そうだよ。それに……」


 ササキが何かを言おうとした時、店の扉が開く音がした。


 その瞬間、ササキの表情が固まった。小さな声で「天海あまみ……先輩……」とつぶやいた。


 急いで扉の方を向くと、そこに立っていたのは、明らかに「只者ではない」ことが分かる女性だった。


 これが、ササキの先輩らしい。


 ぱっと見た感じ年齢はよくわからない。ササキより年上なのだから、40歳ぐらいのはずだ。確かに、長めのボブカットの下に見える顔は、年相応の思慮しりょ深さを感じさせる。しかし、顔に皺のたぐいはほとんど見られず、二十代と言われても信じてしまいそうだ。


 優しく笑みを携えた表情は、聖母のような温かさがある一方で、野性的な魅力を発散していた。見とれるような端正な顔というよりは、眺めていると吸い込まれるような暴力的な美しさを持った女性だった。



「……あ、いらっしゃいませ。お席までご案内します」



 少しの間固まってしまったが、僕はとりあえず接客に向かった。

 なんか声が裏返りそうだ。


 ササキの先輩、天海さんは僕を見るとにっこりと笑った。僕は、謎の緊張感に包まれ、またしても固まってしまった。


「……でゅふ」


 さらに、情けない音まで出してしまった。

 蓮見はすみ相手だったら我慢できたのに……。


 僕が漏らした恥ずかしい音を意にも介さず、天海さんは店内をきょろきょろと見渡し、ササキを発見し、つかつかとササキのいる席まで歩いていった。僕は慌ててその後を追う。


 そして、天海さんはササキの正面に座ると、持っていたカバンから小さめのホワイトボードを取り出した。


 ……ホワイトボード?


 そして黒いペンで、かわいい丸文字を書いた。


『久しぶり! 元気にしてた?』


 書いたボードをササキに見せつけて、にっこりと笑った天海あまみさんは美しかった。

 

 しかし……。


「おい、ササキ、これはどういうことだ?」


 僕の問いかけに、ササキはこう答えた。


「ああ、先輩、天海御言あまみみこと聾者ろうしゃ。つまり耳が聞こえない写真家なんだよ」

ササキの師匠、天海御言の登場です!! このキャラはずっと出したかったので、ここまでかけた自分を褒めたいと思います(笑)


どうやって物語に絡んでくるかはお楽しみに!!


楽しんでいただけたら、感想・評価・レビュー・ブックマークなど宜しくお願い致します。

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