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写真家・ササキの存在意義  作者: 1103教室最後尾左端
CASE003【蓮見飛鳥篇】
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001「蓮見飛鳥はまぎらわしい」

CASE003【蓮見飛鳥篇】開始です!!

よろしくお願いいたします。

 僕らの学年の中で、一番の美女が誰であるかを議論する時、蓮見飛鳥はすみあすかの名前はそうとう早い段階で挙がるだろう。


 枢木雪枝くるるぎゆきえは確かに麗しい見た目をしているが、そのほぼ皆無といえるコミュニケーション能力のために選考から外れる。大槻おおつきこむぎは目が大きく、愛らしい顔立ちをしているが、「美女」と言うよりかは「可愛い」という形容詞の方がふさわしい。


 そこにいくと蓮見飛鳥はすみあすかは、まさしく「美女」と言えるだろう。長い金髪、白くきめ細かい肌。アーモンド形でクールな印象を与える目に、女性としては高い165センチほどの身長。予想外にハスキーな声も魅力の一つだろう。身体の凹凸が少ないなどと文句を垂れる男もいるらしいが、それを差し引いてもお釣りがくる美女である。


 そして何より、恐らくこれが彼女を美女たらしめている一番の要因なのだと思うが、蓮見飛鳥はすみあすかは「見られること」に慣れている。


 俳優やアイドルに限らず、お笑い芸人など、メディアに取り上げられている人間は一般人とは異なる雰囲気を放つことがある。「芸能人オーラ」とでも言うべきこの雰囲気は、彼らの「人に見られる経験値」の高さが生み出していると言えるだろう。


 不思議なことに、蓮見飛鳥はすみあすかにはそのオーラがあった。人に見られることを、自分がどう見られているかを、常に意識している人間が放つ、独特の雰囲気があった。


 そんな学校でも指折りの美少女から昼休みに「赤坂君、今日の放課後、ちょっといいかな?」なんて声をかけられたら、僕が何かを期待してしまうのは無理からぬ話だろう。舞い上がって午後の授業に集中できなかったのも正常な反応と言える。


 しかし、しかしだ。僕だって自分のことが見えていないわけではない。ササキに「面白くない顔」などと笑われるまでもなく、自分の顔が平凡であることはよくわかっている。


 また、コミュニケーション能力が高いわけでもなく、クラスへのコミット率も低い。クラス内での正体の不明度はつい最近まで学校内で一言も言葉を発さなかった枢木雪枝くるるぎゆきえと双璧をなすとまで言われているらしい。


 しかし、「たで食う虫も好き好き」という先人のありがたい言葉もある。僕のような平凡な人間が好みと言う変わった人間だって、いないとも限らない。


 生まれてこの方「モテる」という現象を、貞子がテレビから出てくるレベルのフィクションだと思っていたが、しかし、科学技術の進歩は留まることを知らない。噂に聞く4Kとか3Dだのを駆使すれば、人間の一人や二人、テレビから飛び出したとて不思議ではないのではないか? それなら僕に「モテ期」なるものがやって来てもおかしくない。


 そんなことをぐるぐると考えながら、授業中をやり過ごし、放課後となった。


「あ、あかさかくん……ごめんね。呼び出したりして」


 僕の席までやってきて、ハスキーボイスでそんな風に話しかけてくる蓮見飛鳥はすみあすかは、もじもじと恥ずかしそうに言った。それは、何というか、聞いているこちらまでソワソワさせるような妙な甘さがあった。少しずつ寒くなっているからか、首にはネックウォーマーみたいなものをまいていた。


「べ、別にいいぞ? あんまり時間無いけど」


 いかん。声、上ずってないか? 脇の汗とかにおってないだろうか。妙に斜に構えるのもダサいような気がする。ていうか、時間ないアピールとか、思春期丸出しの反応してしまった。頬が熱くなるのを感じる。


「ありがとう……あのね……お願いしたいことがあるの……」

「お、おう。何だ?」


 蓮見飛鳥はすみあすかは、たっぷり間をとって、右手で首に巻いている布に触れた。目は伏し目がちで、少しだけ頬が紅く染まっていた。何かいい匂いもした。妙に色気のある彼女の仕草に僕の心拍数は上昇する。


 何というか、蓮見飛鳥はすみあすかの仕草などからは枢木や大槻など、他の僕の知り合いの女子よりも「女の子らしさ」みたいなものを強く感じた。


 目の前の美少女が、口を開く。そして、妙に熱っぽい声で僕に話しかける……!


「……写真、撮って欲しいの……」

「ですよね。知ってた」


 校舎裏に張っておいた「写真とり〼 スタジオ・ササキ 詳しくは2-B赤坂まで」とだけ書かれた紙を差し出した蓮見を見て、僕の心は急速に冷えていった。


 いや、当然だ。何を落ち込むことがある。僕と目の前の美少女は、まともに会話をしたのは今日がほぼ初めてだ。好意が生まれているはずがない。当たり前だ。


 なのに、なんだ、この落胆は。


 やはり、僕にとって「モテ期」は幻想だったようだ。8KになろうがVRになろうが、所詮はバーチャルである。触れあう事なんてできないのだ。そんなことまで忘れていた自分を恥じた。この一連の事態がササキに伝わるようなことがあれば、きっと死ぬまでネタにして笑い続けるだろう。忌々しい。


 僕はそのあと、ほとんど事務的に「喫茶クロワッサン」の住所が書かれたカードを蓮見飛鳥はすみあすかに渡し、今週末に来るように伝えた。蓮見飛鳥はそれを了承し、嬉しそうに去っていった。


 後で調べて分かったことだが、「たで食う虫」はホタルハムシという虫だった。図鑑で画像を確認すると、頭はオレンジ色、胴体は黒く光沢を放つ、触覚が妙に長い、農業害虫の一種だった。


 たでだって食べられる虫を選びたい、なんて言うのは贅沢な悩みなのだろうか。そんなことを考えてしまう、秋の一日だった。


楽しんでいただけたら、感想・評価・レビュー・ブックマークなど宜しくお願い致します。

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