014「ややこしいメッセージ」
それから、僕は枢木を駅まで送った。もう泣き止んではいるものの、まだ少し目のまわりが赤い。
駅までの道中、僕らは何もしゃべらなかった。目を赤くした美少女と、若い男が一緒に歩いている姿は、傍から見ればあらぬ誤解を受けそうだ。普段の枢木ならそのことで冗談の一つでも言うのだろうが、僕も枢木もそれどころではなかった。
僕は、歩きながらずっと考えていた。
自動車暴走事故、姉の喪失、現代オカルト研究部、心霊写真……
様々な言葉がぐるぐるとめぐり、大槻のいつもの表情と混ざり合った。
天真爛漫。天衣無縫。明るく誰とでも話せる愛嬌のあるふるまい。その姿からは全く想像つかない。
でも、言われてみれば。
彼女の明るさにはどこか少しだけ違和感があった。
どこか、誰かの真似をしているような、自分と違う何かを取り込もうとしているようなそんな違和感だ。その違和感の正体も彼女の過去と関係しているのだろうか。
大槻はどうして心霊写真が欲しいのだろうか。
部誌の記事にすると言っているが、それは本当なんだろうか。
答えの出ない疑問がどんどん浮かぶ。もう、明日から彼女とどう接していいのかよくわからなくなってしまった。
そもそも、ササキはどうしてこの事実を僕らに伝えたのだろうか。
「ついたわ。赤坂君。ここまででいい」
「……ああ」
気が付くと既に駅に到着していた。会社員の帰宅時間とずれているからか、改札前にはあまり人がいなかった。
「今日はごめんなさい。色々と私がひっかきまわしてしまったようね」
「いや、気にするな。僕の方が枢木を呼んだんだから。むしろ謝るのは僕の方だろう」
枢木は小さくため息をついた。彼女にとってもとんだ一日だったはずだ。お忍びで喫茶店に行ったことをごまかさなければならないのだろう。
「今更だけど、今日、来ても大丈夫だったのか? 家の人達になんて言うんだ?」
「本当に今更ね……。気にしなくてもいいわ。最悪、夏目さんに助けてもらうから」
枢木家に仕える慇懃無礼な敏腕メイド、夏目さんならばきっとうまいことやってくれるだろう。それならば安心だ。
「それよりも」
枢木は僕をまっすぐに見つめていった。
肌が白いせいで、赤い目元がとても目立った。
「赤坂君。これからどうするつもり?」
言葉に詰まる。コイツはいつでも直球だ。
僕は自分が考えていたことを整理しながら少しずつ話した。
「……駅までの道でずっと考えていた。何でササキは僕らにあの話をしたんだろうって。何もする気がないなら、黙っていればいいはずだ。ササキは調べたことをひけらかすだけ、なんてことをする奴じゃない」
枢木はじっと僕の話を聞いている。少しずつ駅には人が集まり始めた。改札の隅で立ち尽くす僕らに通行人の視線がちらちらとささる。
「大槻の過去が分かってしまった以上、大槻の今の依頼内容、つまり『部誌掲載用の心霊写真を撮る』ってことが、あいつの本当の思惑だとは考えづらい。きっと別の目的があるはずだ。だから、何のための写真なのか、もう一度大槻自身がはっきりさせなきゃいけないってササキは言いたいんだと思う」
こうやって整理すると、ササキはそんなにおかしなことを言っているわけではないように思える。
どんな写真が欲しいか、それはプロに任せてはいけない部分だ。自分で決めなきゃいけないことなのだろう。
枢木は僕の予想を聞いて、顎に手をやって小首をかしげた。
ベタな「考え中」のポーズだったが、こいつがやるとなんか様になるな……
「……でも、そう思っているなら、ササキさんが大槻さんに直接聞けばいいんじゃないかしら?」
「依頼者の過去を勝手に調べて、『お前の本当の依頼はそれじゃないはずだ。依頼の内容を変えろ』なんて言うのはどう考えても越権行為だ。明らかに写真家の仕事じゃない」
それは探偵、もしくはストーカーのやることだ。
僕がそう言うと、枢木は合点がいったというように手を打った。
「じゃあ、あの場で私達に大槻さんの情報をしゃべったのは……」
「そう。大槻の情報をあえて僕らに与えて、《《僕らを使って》》大槻の真意を引き出そうとしてるんだと思う」
本当に遠回りでわかりにくいメッセージだ。
もし僕が気づかなかったらどうするつもりだったんだ? なんでダイレクトに「大槻の真意を聞いてこい」って言えないんだアイツは……。
「……なるほどね」
枢木は一度だけ頷いた。
「そういうわけだから、僕は明日もう一度大槻と話してみるよ」
「そうね。私も行くわ」
枢木は平然とそういった。ほぼノータイムの返事だった。
「……いいのか? それを大槻に喋ったらお前の素性が……」
「いいのよ。私だけ彼女の秘密を知ってるなんてフェアじゃない。そんなことじゃいつまでたっても誰とも仲良くなれないわ」
枢木の目に迷いはない。表情の変化が少ない顔ながら、強い決意が感じられた。
「そうか。じゃあ、手伝ってくれ」
「ええ。もちろんよ……ねえ。赤坂君」
「なんだ?」
「ササキさんの言葉……『写真家ほど無責任な職業はない』って」
「ああ、あいつの口癖だよ」
事あるごとにササキが口にするセリフだ。ヤツの矜持と言えるかもしれない。
「そう……。でも、もしその言葉が正しいなら、ササキさんが私達に託したのって正しいと思わない?」
「……? どういうことだ?」
枢木は僕の目をまっすぐ見て言った。どこかその目線はいたずらっぽく、枢木らしからぬ愛嬌を感じた。
「だって、彼女を助けるのは『写真家』じゃなくて『友達』であるべきでしょう?」
そういうが早いか、枢木は踵を返して颯爽と改札に向かって歩き始めた。
取り残された僕は一人つぶやく。
「……『友達』、ね」
枢木の言葉には納得できた。これは、僕らがやるべきことだ。
大槻が僕のことを「友達」だと思ってくれているかは微妙だけれど。
僕は思わずにやりと笑った。が、なんだかササキっぽかったのですぐに表情を引き締めた。
ササキさんのめんどくささは筋金入りです。書いてても結構振り回されます。
評価・感想、何卒よろしくお願い申し上げます。




