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写真家・ササキの存在意義  作者: 1103教室最後尾左端
CASE002 【大槻こむぎ篇】
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005「学校の怪談」

 大槻の取材に同行することが決まった次の月曜日、大槻は休み時間に僕のもとへやってきた。


「赤坂君。今日、放課後大丈夫?」

「ん? ああ取材か? 一応カメラは持ってきてるぞ」

「おー! やる気満々ですなー!」


 大槻はクラスの誰とでも話すことができる。クラス内で何となく出来上がっている「友達グループ」を飛び越えて会話できる稀有な存在であり、どのグループにも参加していない僕相手でも普通に話しかけることができる。大槻のコミュニケーション能力の高さと人徳がなせる技だ。


「今日のテーマは~」


 どぅるどぅるどぅるどぅる~でん!と文字におこすと知性を疑うような擬音を口に出しながら、大槻は幾分年季の入ったノートを取り出し、ページに書かれた文字を僕に見せた。


「……学校の怪談?」

「いえす!! 古今東西、学校にはオカルトがあふれています!」


 確かに、近場から攻めるのはいいかもしれない。それに、高校で発行する部誌なら妥当な気がする。


「じゃ、赤坂隊長! 放課後よろしくお願いします!!」


 大槻はびしっと敬礼を見せ、自分の席に戻っていった。

 


 そして放課後。

 大槻はぴょこぴょこと僕の机にやって来て、先ほどのノートを僕の机の上に開いた。


「ではでは、赤坂君。作戦会議しましょ!」

「お、おう……。このノートは?」

「いくつか学校の怪談の代表的なもの集めてきたの。記事になりそうなの吟味したいなって」


 ノートには学校の怪談のモデルケースがまとめられていた。

 参考にした資料や、サイトの名前も書いてある。結構本格的にやっているらしい。


「『トイレの花子さん』に『赤い紙・青い紙』……この辺は僕でも聞いたことあるな」

「有名どころだよね~。小学生なら一回くらい聞いたことあると思うよ」

「でも、高校ともなると聞かないな」

「そうだね~。流石にちょっと嘘っぽいもんね。逆に中高生だとこういう方が信じてもらえるかも」


 大槻はページをめくって、一つの項目を指さした。


「『ピアスの白い糸』……これ、知らないな」

「お、気になる? 気になる?」

 

 なぜか大槻の顔はわくわくしている。話したくてうずうずしているようだ。


「いや、別に……」

「そこまで言うなら、現オカ研のエースストライカーが教えてしんぜよう!!」

「いや、聞けよ」


 今日はサッカーらしい。


 おほん。と咳払いをすると、大槻は少し声色を変えて話始めた。


「……とある高校生の話なんだ。耳たぶにピアスをあける時、ちゃんとした病院じゃなくて、自分であけちゃったの。画びょうかなんかで。無事に穴はあいたんだけど、その穴から細くて白い糸みたいなものが垂れてたんだって。何だろうと思って、その白い糸を引っ張ったら、するするって白い糸は伸びていったの。不気味に思いながら引っ張っていくとどこかで『プチン』って音がしたの……。その瞬間、その子の目の前は真っ暗になった」


 大槻の語り口は、日ごろの明朗な調子とは打って変わって、抑揚がなく一本調子だった。結構、雰囲気がある。


「実はその白い糸は視神経だったの。それを切っちゃったからその高校生は失明しちゃった……ってお話!!」


 急にテンションが戻った。むしろその緩急の方が怖い。


「なるほど。確かにありそうな話だな」

「うん。私これ知ってからピアスあけるの怖くなってやめたよ~」

「まあ、そんなところに視神経はないけどな」

「えっそうなの?!」


 目を丸くする大槻。いや、信じてたのかお前……。


「視神経はそんなところにない。ピアスでおこるのは、化膿か金属アレルギーくらいだ」

「そっかー……。じゃあ今度ピアスあけよっかなー」

 

 大槻がピアス。ちょっと想像してみる。

 何か背伸びした中学生にしか見えない。


「でも、確かに神経とか、普段目に見えないものとか仕組みが分かってないものが怪談とか都市伝説になるってのはよくある話な気がするな」


 多くの人が知っているのに、仕組みが分からないもの、そういうものに対する漠然とした恐怖や不信感が、オカルトの源泉なのかもしれない。


 みんなが知っているから広まる。よくわからないから、「ありそう」と思わせることができる。オカルトや民間伝承の根幹ともいえるだろう。


 逆に言えば、共有されず、真実が判明したものは、誰にも伝わらない。何かがあったとしても忘れられていくだけだ。


「でも、これだけの情報社会じゃ『ピアスの白い糸』みたいな話はすぐに作り話だと看破されると思うぞ」

「うーん、そうだね……。できればこの学校独自の怪談とかあればいいなーって思ってるんだけど……」


 確かに、学内で発行する部誌なら、オリジナルの学校の怪談の方がとっつきやすい。


「でも、僕はそういうの聞いたことないな」

「赤坂君友達少ないもんね」

「……え? 今それ言う必要あった?」


 さりげなく友人数でマウントを取られた。


「でも私も聞いたことないなー。赤坂君の数十倍友達いるのに」

「なあ、それ、言う必要あった?」


 さりげなく友人数で殴られた。


「うーん、学生だと三年間でいなくなっちゃうから、共有しにくいのかな」

「……え、僕が友達少ない話、ほんとに何だったの?」


 通り魔みたいなディスだった。


「あっそうか!!」


 混乱する僕のことを完全に無視して、何かに気づいたように人差し指を天井に向ける。


「先生に聞けばいいんだ!! 長くこの学校にいる先生なら何か面白い話知ってるかも!」

「……そ、そうだな」

「よーし、そうと決まれば! 現オカ研のゴールキーパーの血がうずくよ!! 全速前進!!」

「……ゴール、がら空きになるぞ」


 どこまでもマイペースな大槻に振り回されてしまっているようで、甚だ遺憾であるが、そういうわけで僕らはわが校の先生たちを取材をすることになった。


 一つ分かったことは、大槻はサッカーも詳しくないらしい。

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