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写真家・ササキの存在意義  作者: 1103教室最後尾左端
CASE002 【大槻こむぎ篇】
22/76

002「オカ研のエース」

「心霊写真!!」


 元気よく言った大槻の表情は明るかった。しかし、残念ながらそこに冗談を言っているような様子はない。


 あまりに突拍子もない事だったので、僕はしばらく言葉を失った。

 


「でね~、私はできれば土日がいいんだ~。今週末とかどう?」


 大槻はカラフルな手帳を机の上に開いて、ボールペンでページをたたいている。

 自分が放った言葉にいささかの疑問も持っていないようだ。さも当然であるかのように撮影の予定日を決めようとしている。


「いや、大槻?」

「はい、大槻!」


 大槻は片手をあげた。

 いい返事だった。


「心霊写真って本気で言ってんのか?」

「もちろん本気だよ~」

「心霊写真ってあの、霊とかうつちゃってるやつだよな」

「うつっちゃってるやつだよ~」

「本気で言ってんのか?」

「もちろん本気だよ~しつこいよ~赤坂君」


 大槻が口をとがらせる。なぜ僕が文句を言われなければならないんだ。


「いや、普通に考えて無理だろ……心霊写真」

「お。じゃあ普通に考えなきゃ撮れるってことだね!」

「本気でゐってんのか?」

「歴史的仮名遣い!?」


 目を丸くする大槻。

 動揺して我ながらわかりにくいボケをしてしまった。

 人間、動揺するとこんなものだ。


「というか、そんなもん撮ってどうすんだよ……」

「よくぞ聞いてくれました!」


 大槻はバンッと両手で強く机をたたいた。


「立派な心霊写真が撮れた暁には、我が現代オカルト研究部の部誌に掲載します!!」


 ぱちぱちぱちー。

 と、大槻は拍手をする。そのビジュアル自体は可愛らしい。

 でも気になるフレーズが聞こえた。


「現代オカルト研究部? お前、そんなのに入ってんのか?」

「うん! 二年生にして現オカ研のエースといえばこの私! 大槻こむぎです!」


 オカルト研究部のエースってなんだ。


「うちの学校、オカルト研究部なんてあったんだな……」

「まあ、部員は私しかいないんだけどね」


 それって部活として成立してるのか?

 お前が言い張ってるだけじゃないのか?


「だから私がエースで四番! さらに監督まで兼任!」

「受けるキャッチャーも返すランナーもいないのは寂しいな」

「そうなの? 野球よくわかんない」

「ああ、そうですか」


 いったん仕切りなおそう。


「ともかく、現代オカルト研究部の部誌に載せる用の写真が欲しい、と」

「うん。できればがっつり霊映ってる感じの写真だといいなって」

「がっつり映ってたらもう心霊写真じゃないような……」


 ともかく、大槻の依頼内容はわかった。部誌掲載用の心霊写真。現代オカルト研究部の部誌としては、まあ妥当と言えなくもない。


「あかさかくーん。頼むよー。写真家さん紹介しておくれー」

「いや、いくらササキでもそんな写真は……」


 撮れない、と言い切りたい所だが、ササキなら撮れてしまうのではないかという妙な期待感があるのも事実だ。


 一回聞いてみるのもありかもしれない。

 だが、もし撮れなかったとしたら、僕は盛大にササキに馬鹿にされるだろう。


「心霊写真? そんなもの撮れる訳ないじゃないか。君の首の上に載ってる重そうな頭は飾りなのかい? 装飾品としても出来が悪いのに、中身もないなんてどんな冗談かな?」

 

 きっとこういうに違いない。きっとニヤニヤしながら僕の顔面を批評するはずだ。僕はササキに相談したことを永遠に後悔するだろう。


 でも逆に撮れたとしたら?


「心霊写真? 撮れるに決まってるじゃないか。君は何にも知らないんだね。頭を振ってごらんよ、多分カラカラ音がするよ? なに?そんな音はしない? じゃあ何も入っていないんだね」


 きっとこうやって僕の知能の低さを揶揄するだろう。僕は残りの人生を奴への怨嗟で終わらせることになる。


 何であいつはこうも憎たらしいんだ。撮れるにしろ撮れないにしろ僕はヤツに皮肉なり嫌味なりを言われないといけないようだ。


 しかし、脳内のササキに気を使って依頼を断るのは、むしろササキに振り回されているようで腹立たしい。それは何より避けるべきことのように思えた。



「……わかった。撮れるかどうかわからないけど、取り敢えず紹介だけはするよ」

「随分長い沈黙だったね……でもありがとう!!」


 笑顔でそういうと、大槻は携帯を取り出した。


「じゃあさ、LINEとか交換しよ!」

「あー、僕自分の携帯持ってない」

「えーーー?! このご時世に?!」


 大槻は驚愕の表情を浮かべた。

 一応バイト先の店長から携帯電話を持たされているが、サービス終了間近のガラケーだ。「携帯電話」という言葉と必要十分条件を満たしている僕が持っている機体は、「携帯できる電話」以外の一切の機能を持っていない。


「なんでなんで? 持ってると便利だよ?」

「そうなのか? なくても一応それなりに生活はできるぞ」

「……もしかして赤坂君って『人と違う俺かっこいい!』拗らせちゃった系?」

「失礼な!!」


 男子高校生に言っちゃいけない言葉ランキング割と上位に食い込む言葉だ。


「本当に必要ないんだよ。お金もったいないし、バイト先と学校と家をいったりきたりするだけの生活だからさ」

「いや、それでも友達と連絡とか……はっ」


 急に何かに気づいたようにしんみりとした表情になる大槻。


「なんだよ」

「ごめんね。赤坂君。……友達、いないもんね」

「……まあな」


 悲しい事実だった。反論の余地もない。


「まー、持ってないならしょうがないか」

 

そういって大槻は手帳の端っこ、日曜日に〇をつけた。


「この日のお昼、でいいかな? ササキさんの所に連れて行ってくれる?」

「大丈夫だと思うよ。僕のバイト先に来てくれ」


 そういって僕は「喫茶クロワッサン」の住所や電話番号が印刷された名刺サイズのカードを大槻に渡した。


「ここに行けばいいんだね?」

「ああ、時間は何時でも多分大丈夫だ」

「分かった。ありがとー」


 大槻は手帳をしまって言った。


「じゃあ赤坂君。週末、よろしくね!」

 その表情はまさしく天真爛漫で、天衣無縫で、可憐という言葉がぴったりだった。先ほどまでのトンチンカンな会話を一瞬忘れ、僕は彼女に見とれてしまった。


「お、おう。大槻はこの後どこに行くんだ?」

「ん? 自主練! オカ研の!!」


 そういって大槻は颯爽と去っていった。


 取り残された僕の脳がしていたことは、今週末のシュミレーションでも、「オカ研の自主練ってなんだよ!」というツッコミでもなく、大槻の笑顔によっておきた動揺を、どうにかして取り消そうとする空しい努力だった。

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