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フロズベルクの笛  作者: りょうや
1/1

前編 フロズベルクの出会い

口笛の音がする。その音色からは炎のゆらめきが見えるような滑らかな音がして優しい暖炉の中のパチパチとしたスナップ音がする。やがて火は消えて黒ずんだような暗い音。そこから鳥が生まれる。一匹、二匹、三匹、四匹、五匹、六匹と生まれる。小鳥たちはやがて歌い出す。


口笛の音色は小鳥たちを呼び寄せる。午前6時頃、馬に乗る旅の者が二人いる。一人は二十代の若い男で馬の手綱を引いている。一人は子供で楽しそうに口笛を吹く。取っ手がついた箱を持ち瞳は青い色をしている。子供は楽しそうに口笛を吹いていた。


二人は旅の景色を楽しんでいるようだ。右には森や家屋がある。左は開けた土地が広がる。遠くに大きな街が見える。そこに続く道を積み荷を乗せた馬が歩く。手綱を引く男は名をエルという。そして、子供の名はルイカという。二人は遠方に見えるベルク王国を見ている。そして、一際高く目立つ塔がある。


エル

「あれがフロズベルクの笛か…」

ルイカ

「そうだね……凄い!吹いてみたいな…」


フロズベルクの笛。それはベルク王国に伝わる笛でフロズという鳥とベルクの民の友好の証として作られた大きな笛が塔の天辺にある。


ルイカ

「エル……大きいね」

エル

「フロズを呼ぶ笛か…」

ルイカ

「思ってたより大きい…」

エル

「そうだな!俺はフロズの方がみたいがな!」

ルイカ

「大きい鳥!…フロズいるかな~」

エル

「ルイカがあの笛で呼べばいいんだよ!」

ルイカ

「エル!それいいのかな~」

エル

「う~ん……やっぱだめかもしれない」


ルイカは持っていた水色の飲み物を口に含む。甘く喉ごしがいい飲み物である。


ゴクッゴクッ


ルイカ

「うまぁ~」

エル

「俺にもよこせ!」

ルイカ

「ふざけんな!俺のだ!自分の飲め!」


二人は馬の上で飲み物を取り合う。すると向かいから来た女の子が歩いてやってくる。


女の子

「おはようございます……いい天気ですね!」

ルイカ

「おはよう!」

エル

「おはよう!」

女の子

「凄い大きい!かっこいいお馬さんだわ!」

ルイカ

「凄いでしょ!!怪力自慢のロームズって言うんだ!」

エル

「…お嬢ちゃんはベルクの民?」

女の子

「そう!……旅人さんたちはフロズベルクの笛を見に来たの?」

ルイカ

「もちろん!!有名だからね!」


女の子がルイカの箱を見つける。


女の子

「何?その箱?」

ルイカ

「色々な楽器が入ってるんだ!」


ルイカが箱を開ける。


女の子

「凄い!!沢山ある!!」

ルイカ

「一曲披露するよ!」


ルイカはそう言うと手に収まる小さいハープを一つ取り出して手に持つ。そして、手でハープを引き口で色々な音を出す。


風の音が色めき始める。


新緑をイメージするような音に時々交ざる甲高い音。ルイカは口笛を吹きながらハープを奏でる。やがて海の荒々しい音へと変わり雷が打ち付けたような感覚を呼び起こす。最後には鳥が羽ばたき、そして天高い上空から舞いおりて大地に雄大な姿で降り立つ。フロズベルクの笛をイメージした曲を披露している。

ルイカの指が軽やかに動きエルは目を瞑り口笛とハープの音をじっくりと聴いている。馬のロームズはブルッブルッと低い声で優しく鳴く。女の子は目を輝かせて音に魅いられる。


曲が終わり女の子は精一杯の拍手をする。


女の子

「凄い!凄いよ!私もそんな風に弾いてみたい!」

ルイカ

「口笛もハープも楽しいよ!やってみて!」

女の子

「うん!お母さんに頼んでみる!」

エル

「ははっ!よかったなルイカ!……ねぇお嬢ちゃん!今日はフロズはいるの?」

女の子

「…フロズはいつもいるわけじゃないよ!」

「フロズは笛を吹けばどこにいても来てくれるけど…私たちはめったに呼べない!……フロズベルクの笛があるフロズベルクの塔に向かってみるといいわ!」

「そこにいるベルさんという人を訪ねてみて」

エル

「ベルさんか……その人は女性かな?男性かな?」

女の子

「うーん私も会ったことないから知らないの…でも女性と聞いているわ!とても優しい方だそうよ!」

「フロズと仲がいいの!」

「あともうひとつ!フロズに名前を付けたのもその人でフロズはフロズ・ベルクという名前が本名らしいの!」

「旅人さんたちいい?フロズ・ベルクだからね!」

ルイカ

「フロズ・ベルクかぁ~会いたいな~俺は笛を吹いてみたいのもある!」

女の子

「へぇ~いいねそれ!」

エル

「嬢ちゃんありがとう!またどこかで会おうな!」

女の子

「うん!また会いましょう!」

ルイカ

「またね~」


ルイカとエルは女の子に別れを告げてフロズベルクの塔を目指す。女の子は口笛を吹く練習をしながらその場を去る。


馬のロームズは優雅に芝生を駆ける。フロズベルクの笛は太陽に照らされている。エルは腕時計を見る。現在の時刻は午前6時43分に達している。


時は進みフロズベルクの街の時計台は午前9時11分を指している。


フロズベルクの街に通行客が増え始めて様々なお店が開き始める。中でもクラノンのパン屋というお店が有名である。パン生地は白くて丸くふんわりと石釜で焼かれている。パンの中には特製のカスタードクリームが入っていて食べる人を魅了する。


お店には列が少しできている。


お店の中に入り右を見ると色々なパンが並んでいてお客さんを楽しませる。レジは入って直ぐの真ん中にあり、その右にパンが並んでいる。パンが決まったらレジに行ってお会計を済ませる。そのまま持ち帰ってベンチで食べる人もいれば右奥のお店の中の席で食べる人もいる。

席は約90席ある。お店の中はパンをモチーフにしたデザインが壁や柱に施されていて緑色の装飾が多い。そこに赤茶の装飾がマッチしている。テラス席は外を眺めることができて解放感がある。煙草をふかしながら談笑するお客さんがいる。クラノンのパン屋の周りには釣具屋、靴屋、大きな宿屋などがある。そして、クラノンのパン屋の席では何処からでもフロズベルクの笛を見ることができる設計となっている。

パンが焼かれた匂いをたどり調理場に着くと石釜でパンを焼く緑色の瞳を持つ二十代の女の人がいる。頭には緑色の帽子を被っていて黒いエプロンをしている。名前はソノンという。クラノンのパン屋を開いた凄腕のパン職人であり、経営者である。ソノンは焼けたパンを店内に並べに行く。


ソノン

「ほら!出来たよクラノンパン!」

帽子のお客さん

「美味しそう!」

男の子のお客さん

「早く食べたい!」

ふくよかなお客さん

「いい匂い」

デニムのお客さん

「焼きたてね!」

ソノン

「いつもいつもありがとうございます!」


ソノンはクラノンパンのかごが並ぶところに行く。3つあるがどのかごもパンの残りは僅かである。


ソノン

「はい!残ってるクラノンパンは………12個!」

ソノン

「母さん!コルク!」


ソノンが呼ぶと赤い帽子を着けて黒いエプロンをしている女性が来る。ソノンの母で名をクラノンと言う。クラノンパンの名前の由来はソノンの母である。クラノンは主に接客や備品チェック等の雑務をこなしソノンの経営を手助けする。

次にコルクはオレンジ色の帽子を被り黒いエプロンを着けている若い男である。クラノンのパン屋で接客の第一人者でもある。


クラノン

「はい!セールね!」

コルク

「了解!」

ソノン

「はい!お願いします!」

コルク

「さぁクラノンのセールのお時間です!

今ならクラノンパン割引だよ!」

「お目当てのパンもタイムセールに混ざるかも!」


コルクは一つのかごに残りのクラノンパンを入れて入り口の左側の空きスペースにかごを置く。従業員たちがそれに呼応してタイムセールのパンを並べる。レジは3つある。入り口から見て左奥のレジにコルクがスタンバイする。


コルク

「さぁラッキーなお人は誰だ!!」

「今レジに並ぶとタイムセールのパンを注文できます!」

「詳しくは従業員にお申し付け下さい」


列に並んでいたお客さんは笑みを浮かべる。そして、列にお客さんがより増え始める。従業員の女の子は列を整理する。


コルク

「さぁ…これから安く売るよ!皆列に並んでおくれ!」


そこへエルとルイカが歩いてやってくる。馬のロームズはフロズベルクの街の外に放ち遊ばせている。積み荷はエルのカバンだけ降ろしてロームズに預けてある。ルイカは楽器を肌身離さない。二人はクラノンのパン屋という看板を見つける。


エル

「あれが有名なクラノンパンだな」

ルイカ

「早くお店に入ろう!」


店内は賑わっている。


ルイカ

「エル見て!メロクラだって!」

エル

「あれは…メロンパンか…」

「おっ!フロズパンだ!」

ルイカ

「!」

エル

「白とそれから羽は緑のパンか!噂に聞くフロズの姿と一緒だな!」

ルイカ

「肉だるまパンだって!」

エル

「海鮮サンド美味しそう!」

ルイカ

「リーフパン!」

エル

「ドリンクもあるみたいだな!」

従業員の女の子

「只今タイムセール中です!お決まりの方はレジにお並び下さい!」

ルイカ

「タイムセール!?」

エル

「普通の値段より安いってことさ!」

ルイカ

「ふーん」


二人はどのパンを食べようか悩んでいる。


髭のお客さん

「クラノンパンはセールで売り切れるの早いからな!朝の時間帯は個数自体がないしな!まぁ俺はセールではなく焼きたての方がいい!」

白髪のお客さん

「そうだな!俺は細長のパンのやつのが好きだ!」

髭のお客さん

「ステッキパンか?それともスティックパン?」

白髪のお客さん

「確かステッキパンだ!」

髭のお客さん

「確かに細長くてクセになる味はいい!」


エルとルイカはよだれが止まらない。


ルイカ

「お腹空いた…」

エル

「ボソッと言うな!……腹が…唸ってやがる…」


二人は焼きたてのクラノンパンが並べられているのを見つける。並べているのは緑帽子のソノンである。


ソノン

「旅人さん!焼きたてを是非召し上がって下さいね」

エル

「めっちゃ美味しそうですね!食べますよ!1つ聞いていいですか?」

ソノン

「はい!何でしょう?」

エル

「ベルさんという方をご存知ですか?」

ソノン

「ベルさん!?知ってますけど…なぜ?」

エル

「フロズベルクの笛を見に来て道中フロズ・ベルクの名付け親だと聞いたもので…」

ソノン

「あぁ…それで!」

「……ベルさんだったらフロズベルクの塔の近くに住んでるわ!」

「フロズベルクの笛を管理していて塔にいることも珍しくないから塔に行った方がいいかも!」

エル

「なるほど!ありがとう!」

ソノン

「いえいえ!」

エル

「さぁ並ぶぞ!ルイカ!」


二人は列に並ぶ。パン屋は賑わいを見せている。


従業員の女の子が列の状況を見て大きな手持ち看板を取り出す。従業員の女の子は列の最後尾に看板を持って行く。


“タイムセール最後尾“と書かれている。


従業員の女の子

「間もなくタイムセールを締め切りま~す!」

「慌てずにお並び下さい!」


他に列に並ぶ人はいないみたいなので従業員の女の子は列の最後尾に立つ。


ルイカは従業員の女の子が大きくしっかりとした声を発しているのに感心している。ルイカは歌を小さく口ずさむ。


アルプスっいちまんっじゃ~く!


小槍のう~えで!


アルペン躍りを…ふっふん!


躍りましょ!


ふ~ふふっふ……


ルイカはパンを食べるのを楽しみにしている。エルはお腹に手を当てて「俺のお腹よ静まれ!」とまるで妊婦みたいな行動をとっている。


クラノンのパン屋の列は続いている。従業員の女の子が持つ看板の後ろにも列は続く。


従業員の女の子

「タイムセールは締め切りになります!看板より後ろのお客様は通常通りのお値段となります!」


すると遠くの方から狐目のお客さんがやって来る。


狐目のお客さん

「おい!セールはもう終わりか?」

従業員の女の子

「はい!タイムセールはこの看板で区切らせてもらってます!」

狐目のお客さん

「姉ちゃん!お願いだ!看板の前に入れてくれ!」

従業員の女の子

「他のお客様もいますので申し訳ありませんがまたの機会にご利用下さい」

狐目のお客さん

「ケチ!」

「まぁいいや!」

従業員の女の子

「セールは終わってしまいましたが焼きたてのクラノンパンならありますよ!」

狐目のお客さん

「え!?まじ?焼きたて!」

従業員の女の子

「はい!焼きたてです!これが美味しいんですよ!もちろん焼きたてでなくても常温完備のクラノンパンはうちの自慢です!」

狐目のお客さん

「なるほど!そりぁいいな!」


狐目のお客さんは列に並ぶ。


ルイカ

「はぁ…早く食べたい!」

エル

「だな!10個ぐらい買おうか?」

ルイカ

「エルは菓子パン好きだもんね!」


そうこうしているうちに二人はレジの前へ。


コルク

「いらっしゃいませ!お客さん注文を伺います!」

エル

「クラノンパン15個、肉だるまパン3個、海鮮サンド1個、メロクラ2個、フロズパン2個お願いします!」

コルク

「はい!わかりました…ドリンクは着けますか?コーヒーとか…」

エル

「あっミルクリーフジュースを2つ!」

コルク

「はい!ご注文は以上でいいですか?」

エル

「はい!」

コルク

「店内でお召し上がりですか?一応店内でお召し上がりでも持ち帰られるようになっています!」

エル

「はい!店内で!」

コルク

「ではお会計は1927円です!」

エル

「安っ!」

コルク

「はい!ありがとうございます!では少々お待ち下さい!」

エル

「はい!」


コルクは注文されたパンを紙で包みトレイに乗せてドリンクも乗せる。


コルク

「お待たせしました!」

エル

「ありがとうございます!頂きます!」

コルク

「ごゆっくり!」

「次の方お待たせしました!」


エルとルイカは店内の二人の席に着く。


エル

「海鮮サンドうめぇ!」

ルイカ

「肉だるまパンも上手いよ!」

エル

「海鮮要らないの?」

ルイカ

「うーん今日は肉が食べたい!」

エル

「めっちゃうまい!」

ルイカ

「パンが美味しいよね!」

エル

「菓子パンが楽しみだな…」


エルは海鮮サンドと肉だるまパンを食べた。ルイカは肉だるまパンを2個平らげる。


エル

「さて…クラノンパンだ!」


二人はクラノンパンにかぶりつく。


エル

「幸せ~」

ルイカ

「うまぁ~」


その時、大きな音がした。どうやら笛の音みたいである。店内がざわつく。フロズベルクの笛が鳴らされているらしい。


ルイカ

「えっ!?フロズベルクの笛!?」

エル

「そうみたいだな!」


ルイカは席を立ち上がり外へと出る。


エル

「おい!待てまて!」


エルは慌てて用意された袋にパンを入れてルイカを追いかける。


ピィィィィィィィィ


フロズベルクの笛は街中に響く。街の人々はフロズが来ると喜びを露にする。しかし、次の瞬間街の人は危険を感じとる。


大きな鳥がソノンのパン屋近くの靴屋を破壊した。街はパニックに陥る。近くの宿屋の窓からお客さんが顔を出す。皆が靴屋が破壊されたのを見ていた。


ルイカもその光景を見ていた。


ルイカ

「そんな……あれがフロズ・ベルクなの!?」


お店からソノンが出てくる。


ソノン

「あれは……そんな…」


エルやお客さんや従業員たちもお店から出てくる。大きな鳥は隣の釣具屋にも襲いかかり破壊し始める。


甲高い音がする。


ピィィィィィィィィィィィィ


続く

前編、後編でフロズベルクの笛にまつわる物語を描きたいと思います。


まずは前編を読んでくれた方ありがとうございます。

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