異世界転移は質問から、1
”猪”との戦闘を終え早30分、戦闘後に倒れてからいまだ体が動かないままで倒れたままだった。
異世界に来て初の過剰運動で体が動かなくなるくらいの衝撃を受けたのかもしれない、というか受けた。
「真面目になんとかしないとまた”猪”が来た時すぐ殺されそうだな」
何とかしようと考えていると足音がした。音の大きさやテンポで”猪”ではないことはわかったが、人ではない可能性があるため声は出さずに待機した。
やがて足音が近くなりその方向に目をやる。後方にいたため首をどうにか回して後ろを見た。
「あなた何やってるの?」
”猪”と対峙していた人だった。改めてみるととても綺麗な人だ。と内心で思いながら質問に答えた。
「見ての通りさ!」
ドヤ顔で答えたが相手の表情は、何だコイツと言いたげた嫌な顔をしていた。
「いや、あの、その、体が動かなくて…」
「そう」
一言告げるとあたりを見渡して周りの惨状を確認し始めた。
斬り捨てられた”猪”にぶっ倒れている男が1人となかなかに変な光景だったからであろう。
(ファーストコンタクト完全にミスったなこりゃ。しかし、チャンスはある。”猪”がなにで斬ったかとか、なぜ倒れたのかとか質問されたら、それを理由に体をどうにかしてもらえないか頼もう!)
完璧な作戦だった。
しかし、現実は非常だったのだ。あたりを見渡してから何も見なかったのように立ち去ろうとしていた。これは、仕方がないと割り切り交渉に出た
「あ、あのー、すみませーん。助けてもらえませんかー?」
「…得体の知れない怪しい男を助けろと?」
「俺は一度助けたはずだが?」
「確かにジャーグを3頭討伐してもらったのには感謝しよう。しかし、それを理由に私が助けると思うか?」
「恩を仇で返すような人ならそれでいいけど、そうじゃないなら体を起こして貰うだけでもいいからなにかしらして欲しいんだ」
これが。俺は助けたんだからあんたも何かしらしてほしいんだが?作戦だった。男らしさがないうえにくそ発言だった。
そうこうしてると近づいてきて背中に手を当て一言。
「ヒール」
「……」
体に何かが流れるような感覚がしたと思えば、体が動くようになっていた。
淡い期待をしていたが、まさか本当にあったのか『魔法』が。
「おおー体が動…」
「動くな、怪しい挙動を取ってみろ。すぐさま首と身体を切り離す」
首に何かを貼られ脅された。
とりあえず、両手を後頭部に当て戦意を無いことを示す。
「よし、ならいくつか質問をするから嘘偽りなく答えなさい」
「わかった」
さっきのようなふざけた態度を取ると本当に殺されそうだから大人しく応じることにした。
「あなたは何者?」
「学生さ」
「こんな辺境の地で学徒生がいるとでも?」
「現にここにいるからね」
「…」
異世界にも学校はあるのかと感心しながらも補足を入れておく。
「一応伝えておくが、俺はこの世界から違うとこから来た。気がついたらこの森で目覚めて、探索がてら歩いている時に襲われているのを見かけて、この死体を陽動をした」
「確かにありえるかもしれないわね」
「信じるのか?」
「ええ、常識人ならジャーグの陽動なんかしようとおもわないもの」
どうやらあの”猪”はジャーグというらしい。美味そうな名前してるのな、ビーフジャーキーのジャーキーみたいな?そんな感じ。
アホなこと考えていると次の質問を問われた。
「では、その異世界人に質問するわ、あれをなにで斬ったのかしら?」
この質問を倒れている時にしてもらえれば良かったのだが。
「そこの木の棒さ」
「木の棒?冗談はよしてちょうだい。その答えは無理がある」
「だが、他にあれを切れる刃物があるか?」
「刃物を空間魔術で収納しているのでしょ?」
「その魔術ってやつを使えるのであれば使ってみたいものだな」
躍起になって答えたら手の甲が焼かれていた。
じゅぅ、と肉の焼ける匂いと手の甲の痛みが広がる。
「もう一度聞くわ、なにで斬ったのか答えなさい。本当のことを言わないと首を飛ばすわ」
「だから…」
ヴォォォォ!!
大きな遠吠えとともに大きな足音がしてきた。一つ、二つ…七つの足音が後方と前方からしてきた。
あまり良くない状況だと察したのか二人ともあたりの警戒に意識を回した。そして背中合わせになるように並ぶ。
「あなたの言うとおりその木の棒でジャーグを斬ったのならば斬ってみなさい」
「仰せのままに…っと!」
木の棒を引き抜き木の上の方になっていた枝を『波ノ太刀』の用量で斬撃を放った。落ちてきた枝や木の葉で目くらましにして移動した。移動に気づいてないのか、木の葉のカーテンに突っ込んできたタイミングで放つ。
「刀術:断ノ太刀!」
斬ったのはジャーグではなく枝や木の葉を落とした木だ。倒れるとジャーグを下敷きにして道を塞いだ。こちら側にいたジャーグは全部で5頭だ、下敷きできたのは2頭だった。
すかさず攻撃をした。
「数がいると厄介だから手短に片付けるぞ!刀術:斬ノ太刀!」
木の下敷きになった2頭のジャーグに『斬ノ太刀』を放ち首を斬った。後からきた3頭は突っ込んでくるのかと思っていたが、こちらの様子見をするかのように止まっていた。
「こないのなら一気に攻めるのみ!」
前屈みになり走って一気に距離を詰め、2メートルもない距離から斬撃を放つ。技なのかあれを使わず斬ってみると、斬れるは斬れるが傷があまりつかなかった。
1頭に意識が向いている間に2頭が挟み撃ちをしてきた。
「小賢しい真似を…っ!、刀術:斬ノ太刀!」
一回転しながら『斬ノ太刀』を使ってみたが、効果はよく通った。目の前にいたジャーグは首を骨まで斬り、挟み撃ちしてきた2頭は目を斬った。
すぐに上に飛ぶと視界を失った1頭が首を斬られたジャーグを引き倒し、もう1頭が遅れて視界を失ったもう片方を押し飛ばした。あの巨体が巨体に当たっただけあって当たった側は絶命していた。残す1頭は上から断った。
「最後だ、刀術:断ノ太刀」
最初と同じように縦に真っ二つに斬り分けた。
「終わりっと、戻るか」
木の棒を肩に掛けながら先の場所に戻った。
――――――――――
「あら、案外早いのね」
1頭の全身焼かれた死体を背にこちらに言った。
「当たり前さ、あの程度のノロマに遅れをとるほど弱くないぞ」
「あの程度、ね」
「ん?何か言いたげな言い方だな」
「別に、何でもないわ。そんなことよりあなたに聞かなくてはならない事がまだあるからね」
このタイミングで気づいた。死体が全身焼かれた1頭しかないことに、俺が倒した5頭に、彼女の倒した1頭、最初に聞こえた7頭の足音はずが1頭少ない。
あたりの気配を探そうとしたが、探すより先に目で見つけた。最後の1頭は彼女の後方からすごい勢いで突っ込んできた。
「危ない!」
彼女を横に押し木の棒を居合の構えした。そしてすぐさま放った一閃。
「刀術:居合ノ太刀」
後方から突進してきたジャーグは首を斬り落とした。
「ふぅ、怪我はなかった?」
「え、ええ、怪我はないけど今のは…」
「さぁ?わからないけど『刀術』ってのが使えて、居合、斬、断、波、の四つが使える」
「……」
僅かな沈黙の間に何か考えたのであろう。その後背を向け歩き始めた。
「付いてきて」
一言告げるとそのまま歩き始めた。
会話書くのが意外と楽しくすらすら書けたおかげで文字数が前回より増えましたー
これからは2人のシーンが増えると思います。クラスメイト視点ももう少ししたら書きますので少々お待ちよ