紅の術師
慎夜くんではなく”猪”遭遇時にいた”人”のほうをメインになってます。
”彼女”は依頼内容をこなすために森を探索していた。
元から森に住んでいたこともあり慣れた足取りと慣れた道を歩いていた。お昼ご飯の弁当と水筒の入った巾着袋と、木の実を入れるための籠を持って森を探索していた。
「あ、こんなところに苺が生ってる。ふふ、少しだけもらっていこうかしら」
慣れたといって把握している訳ではないから、目新しい物が目に入ったりすることが多々ある。探索自体は始めたのが最近だったこともあり、今回の依頼であるジャーグの討伐のジャーグ探しのついでに探索をしていた。
ジャーグとは、猪型の大型魔物である。ただの猪型の魔物ならばいいのだがジャーグは肉食で凶暴なことから、1度みかけるすぐ討伐依頼がされる。
討伐内容であるジャーグを探しながら木の実を集める”彼女”は、長く伸ばされた紅と真っ黒なつり目が彼女の凛とした雰囲気を醸し出してる、やや控えめなスタイルを彩る緋色を基調とした黄色の菊の模様の彩られた着物を着ていた。そんな男が居れば一度見たら忘れないほどの美女は”紅葉”という。
「もう少し歩いたら川があったと思うし着いたら、少し遅いけどお昼にしようかしら」
鼻歌を歌いながらに川を目指して歩いていった。
――――――――――
「え、えーと川はどっちだったかしら…」
迷子である。絶賛迷子中である。鼻歌を歌って余裕そうに歩いてたのに今は迷子であった。
「何か目印になるものがあればいいのだけれど…ないのよねここ」
そんなことを考えていると遠くに大きな影をみかける。それは、体長6メートルを超えそうな超大型ジャーグであった。
迷子になったけど討伐対象にしてはやや大物だが、すかさず近づくこうとしたが、ジャーグが1頭しかいないと依頼内容には書いてなかったことを忘れていた紅葉はジャーグに奇襲を許してしまった。
「しまっ……」
1頭が突進してきたのをひらりと華麗に避けた。が、咄嗟に取ったせいで体制を崩してしまった。その時、ジャーグが5頭いるのを確認した。
(数が少し多いわね)
紅葉は後衛支援を得意とするため、近接での戦闘は不慣れなうえに相手は5頭は非常に分が悪い。前衛に誰か1人いると後衛が楽なのだがないものねだりしても、前衛来る訳ではないから必死に打開策を考えた。しかし
「おらぁ!」
遠くから”誰か”が石をジャーグに投げつけた。石に当たった3頭が気を取られ、石を投げた”誰か”の方へと走っていく。
普通に考えればおかしな行動であった。ジャーグは魔物の中では下の上ぐらいの強さだが、一般人が普通に戦闘して勝てる相手ではない。ましてや、先ほど石を投げた者は投げたあとすぐ逃げていったのであった。走って逃げられるということは武装はしてないと考えるのが普通だろうに、まともな武装もなしにジャーグの群れに挑発を買うとはまさに自殺行為であった。
なにかしらの策があったのかもしれないが、危険極まりない自殺行為でしかない。
そんな馬鹿な赤の他人より今は自分のことである。ジャーグが離れたとはいえ2頭もいることには違いないうえ、6メートルを超える大物も残っている。しかし、紅葉はただ美女ではなく魔術師であった。
「消え失せなさい、醜い野獣よ」
そう告げたそばから、ジャーグが焔に飲まれた。彼女の髪に似た紅がジャーグを燃やし尽くした。暴れ回る暇も与えず塵一つ残さず焼き尽くしたのである。
「ふぅ、久しぶりの魔術はさすがに体に響くわ」
肩を回しながら呟くがあれほどの巨体をあと塊も無く燃やし尽くすほどの魔術師はそうそういない。
紅葉が軽く話してるのも普通ではないことであった。
「さて、さっきの石投げたとこも見に行かなくちゃね、もしかしたらあのまま轢き殺されているかもしれないからね」
そう呟き歩き始めた。
次はちゃんと対面します。