馬鹿と天才は紙一重
2話目です、今回から1話辺りの長さを調節していこうと思います。
裁判所を出た頃には既に日が暮れていた、今が何時何分なのか今や三百万と言う罰金しか持っていない俺は知る由もない。
あの裁判の内容を改めて考え直すと考える時間すらないほどのマシンガントークが繰り広げられていたと思う、あの場所だけ時間が二倍になっていたのじゃあないかと裁判所を出て夜空を見上げた時思った。
なぜ本来は長時間掛けてじっくり進めて行かなければならない事柄がポンポンとまるで重要な所だけを切り取ったかのように進んだかと言えばやはり茜と裁判長つまりは茜のおじいちゃんに原因があっただろう、何か相手が発言をした場合それに対して適切な返しをするには普通の人間ならば考える時間というものが必要だ、それは皆することであってその間こそが緊張感やその会話の重要性などを作り出しているものなのだ、それが今回の裁判には無かった、否無くなされていた茜と裁判長によって。
あの家族は相手の発言に対して瞬時に反応した、それだけならば俺にだって出来る俺だってツッコミなどにいちいち考えたりしないそれは頭の中にあらかじめそう言った出来事に対する対処がインプットされていてそれを引き出したに過ぎないからである、それが今回の様な始めて体験した出来事には無効だ、それは茜も同じ筈なのにそれを無意識のうちにやっていた。
結論を述べると茜は発言を瞬時に理解し反射的に的確な答えを述べ、裁判長もそれと同じ事をしてのけたため俺はあまり会話に参加出来ず流されるままこの結果になったという事だ。
「やっと俺の中で理解出来たはぁ疲れた」
「ねぇ!まだ?お腹減って死にそうなんだけど!何分ベンチで待たせる気?」
始めはただの馬鹿だと思っていた茜の印象がこいつひょっとして天才なんじゃねと今回の件で思い始めた俺はふとそれを試したくなった。
「9×12は?」
「何引っ掛け問題?」
「いいから普通に答えろよ、正解したらあそこの飯屋で飯奢るから」
「本当!瞬お金持ってるの?この魔界では日本の貨幣は使えないわよ?」
「そうなの?」
茜がポケットから見た事の無いコインを取り出す。
「これがこの魔界で使われている通貨ルーツよデフレインフレとかで価値は変わってくるけれど瞬のいた日本とほぼ同じ貨幣価値よ、どう私なかなか説明上手じゃない?」
そのドヤ顔をこの一日で二桁に突入しそうな勢いで見ているのでこみ上げてくるその顔面に蹴りを入れたいという欲求を我慢するのも容易くなってきた。
「嘘だろ、なら俺無一文じゃん、てか俺そもそも今二百円しか持ってなかったわ、これって結構ピンチじゃね?」
無一文の上に罰金三百万という最悪なこの状況に俺は蓋をし話を戻す。
これは現実逃避ではなく閑話休題だ、そういうことにしておいてくれ。
「それよりも問題の答えは?飯は奢れないけどこれから出す問題全部クリアしたら命令一つ聞いてやるよ」
そう今はこいつは天才なのかどうかという俺の中での問題解決が最優先である、裁判でも俺たちは付き合っていると宣言した以上こいつとは長い付き合いになると思うのでこいつがもし天才というか頭の良い奴だったのなら今後こいつにわかりやすい嘘や出任せは通用しない可能性があるので、ここでの確認は大事だ。
「まだするの?普通に答えるわよ?」
まあ流石に初級はクリアか次の問題では因数分解を出すか。
「だいたい五千」
あーはいはいなるほど。
一言で俺の勘違いを正す事が出来るのはおそらく世界でこいつだけだろう。
馬鹿と天才は紙一重ということわざがまさしくこいつのために作られたと言っても過言ではないんじゃないか?
「なんで慈愛に満ちた目で私の肩を叩いてるの?凄く気になるんですけれど」
「まあうん頑張れよ俺はそういうの嫌いじゃあないぜ」
「なんだか馬鹿にされているというのは分かる、でもなんで馬鹿にされているのか分からない!」
「そんなことより」
と茜は話題を変える。
「瞬これからどうするの?もう自分の家には帰れないわよ?」
茜の切り替えの速さは見習いたいが確かに今は今後どうするかだ、裁判のあと茜おじいちゃんから散々茜との恋愛状況を聞かれ「わしは認めてない!」と言い残して出て行った後茜おじいちゃんがガルシアさんと言われていた方が話しかけてきた。
「柊瞬さんあちら側に戻りたいと思っているかも知れませんので先に話しておきます、結論から申しますとあなたはほぼあちら側つまりは元いた世界には帰れないです、理由を述べますと魔界からあちら側には十八年に一度しか行けないからです、そうしないと皆旅行気分であちら側に行ってしまい情報漏えいの可能性がありますからね、逆にあちら側から魔界へはいつでも行けるようになっています、なので十八歳になった若い魔法使いがあちら側に行ってパートナーつまりは婚約者を見つけて魔界に帰ってくるのが一般的になりつつあります、おかげで最近魔界の人口も増えて来ました、おっと長くなりましたね最後に罰金の支払いについては月々の収入から五十パーセントとなっていますので死にものぐるいで働いてくださいね」
「五十パーセント・・・」
今後俺は働いた金の半分しか手元に来ないのか、辛すぎるが仕方の無い事だと納得しよう。
「最後に一ついいですか?」
そう言って裁判所の一室から出て行こうするガルシアさんを俺は引き止めた。
「俺の元いた世界では俺の存在はどうなっているのでしょうか?」
ガルシアさんは何か思い出したかのように半笑い(自分では上手く誤魔化していると思っていそう)で答えた。
「それでしたら私が適当にあちら側の役所と連携して花粉症で死んだことにしておきました」
絶望する俺の顔を見て笑いを下唇を噛んで堪えながら出ていったガルシアさんにいつか似たような事で仕返ししてやろうと誓った俺だった。
窓開けっ放しで寝たら花粉症になり、今も鼻が詰まり謎の音が鳴っています。
次回はすぐ!