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空に捧げる狂詩曲(ラプソディ)

お題「弦・割れ物・虹」


「・・・・なんで・・・・」僕は呟いた。

「なんで、僕だけこんな目に遭うの・・・?」


「・・・・・夢、か。」

ベッドの中で目を開き、もう何度目かわからないため息をつく。

―――もう、昔のことなのにな。

親の期待通りに育つはずだった。なんでもできるはずだった。 だが――いつまで経っても、人よりも劣ったことしかできなかった。僕は、その度に怒られ、貶され、「オシオキ」をされる。そんな生活が嫌で、僕は逃げ出した。

森を越え、そしてたどり着いたのは――とある1軒の安宿。僕がその時持っていたのは数枚の銀貨と――音楽家になることを期待した親が買い与えた安いバイオリンだけ。何日も宿に泊まることはできない。

けれども――もう行くところはない。帰るところもない。そう思い、宿の主人に事情を話し、その後、働く代わりに泊めてもらうようになってから十年――。今でもたまに夢に見ることがある。

――どうして、忘れられないんだろう。

――うだうだと考えていてもしょうがない。宿の手伝いに行くか。


「おはよーございます。」

「おお、起きたか。じゃ、そこの荷物運んどいて。壊れ物だから

気をつけろよ。」

壊れ物、か。そういう意味では、僕も「コワレモノ」かな。心が壊れちゃってるし。

「よし、今日はもうやることもないし、後は自由でいいぞ。」

よっしゃ。内心思いつつ、僕はバイオリンを取りに部屋に向かう。たまに公園でバイオリンを弾くのが僕の唯一の楽しみなんだ。

ー―嫌々やらされていたあの頃とは違って、どんな音を奏でても文句を言われない。そんなひと時が楽しいのだ。

公園に付き、木陰のベンチに腰を下ろしてバイオリンのケースを開く。弦も傷んできてるし、そろそろ替えないと。

静かに弓を持ち、そっと奏でる。――うん、今日はなんか調子が出ないな―――。もう帰るか。と、バイオリンをケースに収めようとしてふと空を見上げると、そこには今まさに生まれたばかり、と言いたげな虹が架かっていた。

「虹、か―――。」

ーーん、――虹は雨の後に生まれる。それなのに美しい――、そうか、これだ!

僕はしまいかけたバイオリンを急いで引っ張り出し、そして思うがままに弓を踊らせた。早く弾く所は雨の激しさ。そしてその後にやさしく弾く所は雲間の太陽。そしてその後の一凪は―――一筋の虹。

そう、僕が奏でたかったのはこれなんだ。その音は、空に吸い込まれて消えていった。


二年後、音楽の街ウィーンの楽団に、一人の若いバイオリニストが彗星のごとく現れたという――。        


 FIN

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