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五十九話

※やっぱりちょっと表現がアレかなあ……

 と、内容お綺麗にしておきました。修正。2018/1/31

 買い取られるぐらいだ、神鳥の羽は王室ご用達といっていいだろう。

そんな高級羽毛布団の温もりを感じ取りながら目覚めたといっても過言ではない。

 ――――つまりは、イの一番に言わねばならないことが発生した。


 「アウフィ、この羽、どけて」


 私の、この寝ぼけ眼いっぱいに広がる純白の世界。

瞬くたびにまつ毛の隙間に羽の毛先が当たってこそばゆいが、神鳥の羽はまさしく私の頬を包んでいた。顔面からいっている。

 そしてアウフィエルは私に対し背中を向け、何故か小汚い毛布を大事に抱えて横になり、丸くなって眠っている。

 

 「んー……」

 「うぷっ」


 アウフィの寝言と共に、顔面に羽がより一層押し付けられる。毛布を抱え込む寝相の悪さにより、翼の面積が私に圧迫してきた。取り外そうとしたもののこれぞ神鳥の意志といわんばかりに離れない。手羽先にまで柔らかな骨が入っているから、下手に動こうものなら骨折させてしまいかねなくて怖い。あいにくと鳥の骨格について詳しくはないのだ。鼻の穴にまで羽の先が柔らかく当たり、ふがふがといった鼻息が私の鼻腔から出てくる。息苦しい。


 「アフ(ウ)フィ~……」

 

 朝日が差し込み気温が上昇してきたからか、羽毛に包まれた私は段々と暑苦しくなってきた。

わさわさと腕や手を使い試行錯誤を繰り返すも、アウフィエルの翼はまた定位置へ戻ってくる。上に押し退けようとしても通り抜けられるほどの隙間が開かないのだ。なにこれ。一瞬膨らんだ翼は強制的に私のほうへと挟むようにして落下してくるし。

 

 「……」


 私の小さな抵抗は、アウフィエルが寝ぼけ眼で起きるまで続いた……。




 不機嫌である。

実に。

 

 「リア、どうした。

  さっきからずっと押し黙って」


 食事もまた良いものばかりが取り揃えられていた。

肉もあり、魚もある。とにかく朝から食べきれないばかりのものが取り揃えられており、それなりに満腹にはなった食後、こうして甲斐甲斐しくアウフィはお茶の準備をしてくれたものの。

 ゆったりソファにふてぶてしく座る私は、まさしくなんともいえない気持ち……ぶすっとした心持ちになる。黄金色の線が入ったティーカップを持ち上げ、温かみのあるお茶を飲む。とにかく、お茶は飲まねば気持ちが静まらない。喉を通る甘ったるいお茶は確かに間違いなく私の心を落ち着かせた。それを淹れてくれた神鳥というやつは、なんともこんな私の状態が気になるようでずっと話しかけてくる。

 ばさばさとその白い翼を蠢かして。

 

 「そんなにお花を摘みに行きたかったのか?」

 「……」


 私は飲んでいるお茶をお綺麗な顔面に吹き出したくなった。

 

 女性である。言いづらいことはあるものだ。

外ならまだしも、ここは建物の中。トイレがある。わざわざ宣言していくのはいかがなものか。それもこれも天使の羽が悪い。やっぱり無理して押し退けて、でも骨折したら夢見が悪い。私の判断は間違っていたのか、あるいは大声で宣言するべきだったのか。アウフィエルが起きてくれてどけてくれさえすれば、わざわざ口にしなくても良かったのだ。何故にそこまで遠慮して我慢してしまったのか。

 (恥ずかしい)

 突発的について出た言葉とはいえ、自己責任だ。いつまでも怒っていても仕方ない。一人で生きてきた私にとって、心とは常に平定に保たねばならないものだった。でないとどこで足を引っかけられて転んでしまうか、分からないからだ。

 (スっ転ぶだけならまだしも。

  ……お金を盗られたり、

  奴隷狩りに遭う可能性があるからね)

 この世界、一人旅には世知辛い。

正しく自由に責任が伴う。さて、それがどうも、この神鳥に出会ってから狂ってしまった。

 普段通りであれば冷静に振る舞えるのになぁ、と胸の内でぼやく。

 

 「リア」

 「うん?」

 「怒ってるか?」

 「……怒ってないよ」

 「……本当か?」

 「本当だよ」


 お上品なアウフィエルの憂いを帯びた麗しい顔から目を逸らす。

神鳥は私のことを気にしているものらしい。すごくじっくりと見詰められている。

 そんな微妙な空気のさ中、しずしずとした足音が近づいてきた。

ぴくりと羽が微動する。アウフィエルが急に緊張し出したので、誰かが来たのだと分かる。

 天使の横顔が、回廊のほうへ向かっていた。

 果たして、予想通りの女官がやって来た。

多分、女官だろう。この世界における役職名というものはさっぱり分からないが、きりっとした居住まいと凛とした整った顔だちからして、王城という働くに必要なスペックを満たしてやって来て経験を積んだベテラン、といった風情だ。

 (王女様もこの者に、と言っていたし)

 私たちの担当、なんだろう。

食事の用意が出来たと呼び出しをした人も、この女性である。

 

 「ご歓談中、失礼いたします」


 明らかに作法がばっちりと言わんばかりの一礼をし、女官は告げる。


 「南の王陛下と王女殿下が、

  特に何もございませんでしたらお会いになりたいとのこと。

  いかがなさいますか?」

  

 1時間後ぐらいに、彼らと会うことになる、と。

 なんとも言えず、ちらっ、と私はアウフィエルのほうを見やる。

神鳥は黙ったまま女官のほうへ視線を向けていたが、やにわに声を私にかけてきた。


 「……どうする、リア」 

 「え、どうする、って」

 

 まぁ、そうなる予感はしていた。

 (……ただ、このままでは)

 神人もどき、になってしまう。

神鳥はその翼の抜けた羽でさえ王族を満足させることができるが、私は何も提供していない。まさしく、ただ飯ぐらいだ。それなりに挨拶ぐらいはすべきだろう。

 

 「アウフィはどうする?」

 「リアの判断に任せる」

 

 (やっぱり)

 予想通りだ。

アウフィエルはじっと私を見ているが、まぁ、了承、といったところ、でいいのかなぁ?

 (分からない)

 でもこのまま、という訳にもいかないだろう。

会わない、という選択肢はせっかく軒先を貸してくれた人からの申し出を断るようなものである。馬車さえ用意されてのこのことここまでやって来たのだから。

 

 「……では、お会いしたく思います。

  どうかお伝え願いますでしょうか?」 

 「かしこまりました」


 また綺麗に一礼を示した女官、すっと背筋真っ直ぐに立ち去って行った。


 「……ねぇアウフィ」

 「なんだ?」

 

 さて、私は神鳥たるアウフィエルに尋ねなければならないことがある。

神鳥のほうへ向きなおり、綺麗な青目をじっと見据える。


 「……王様、って言ってたよね」


 ぱちぱちと見返すアウフィ。


 「ああ。

  南の王だ」

 「そうだよね」

 「ああ」


 しーん、と。

私達以外、静まり返った部屋で私はひとり、頭を抱えた。 

 私の唐突な行動にぎょっとしたのは神鳥であった。


 「り、リア?

  どうした、やはり腹具合が悪いのか?」

 「違う……」


 (やはり、ってなんだ)

 そうじゃない。第一頭抱えてるだろう。

ため息をつきたくなるような、そんな泥の中に包まれたような倦怠感に襲われた私は、じとっとアウフィエルの心配そうな顔を上目使いで見やる。


 「あのさ、アウフィ……」

 「なんだ」


 美々しい天使に答えた。


 「……私、お偉いさんとの。

  そういった面談の仕方ってさ。

  分からないのよね」

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