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神人の行方

 決めかねていたのだ。

彼らだって間抜けではない。このままでは埒はあかず、苛立ちをぶつけ合ってまるで意味無し。決定事項がヒトカケラも存在せずに連続する空中分解、同士討ちになるばかりだ。

 すなわち、


 ――――まったく関係のない他人に委ねる。

第三者に決定権が与えられる、ということが決定した。


 そういった決まりごとを作ってしまったのである。神の約束は絶対だ。

……多分、神だと思うが。

 押し付けられた役割をイマイチ、ぼんやりと眺めていた青年である。

彼がそう思ってしまうのも無理はない。失礼極まりない集団であったのだ。


 見下ろされ、あれこれと男に言いたい放題であった。

青年の見た目が地味だなってことにまでぐちぐち無遠慮な言葉を吐き散らされて、何を言っているんだこいつらと呆然としている彼に向かっておつむの方は大丈夫かと人生における意味合いみたいなものを尊大な神らしき講釈を頭ごなしにもたらされ、訳も分からず巨人のような彼らを仰ぎ見続けている隙にぽいっと死にかけの世界に放り投げられた。

 いや、捨てられた。


 緑豊かな故郷と比べ、赤茶けた貧相な土地が永遠に続いている。


 そこに、ぼさっと突っ立っているのは選ばれし人類である青年だ。

押し付けられた役割に反し、見た目は至って平凡なる男である。

 ――――なんでも第三者の目と耳で、滅ぼすかどうかを決めて欲しいのだと。

 (はあ?)

 せっかく作った箱庭を、奴らは自分の手で滅ぼすのが嫌なんだと。

すなわち散々に身内同士で諍いがあって。このまま滅ぶのを見守る派とせっかくだから助けよう派やらが和気藹々。人間と同じように連日連夜の会議をしてのド突き合い、酒を飲んでは踊ってのどんちゃんどんちゃんアンドどんちゃんなどんちゃん大騒ぎ。

 つまりは、




 青年は放心した。

 しばらくしてようやくじわじわと理解を示し、その場で頭を抱えた。

埃臭い大地。どこまでも続く地平線。草も水もない、明らかに現実としかいいようのない実写性。最近の映画館は匂いも出ると言うが、ずいぶんと高性能になった……などと現実逃避したかった。

 (勘弁してよ)

 営利誘拐に他ならん。こんな食べ物さえ不足してそうな、滅びる一歩手前の異世界である。

何もない荒涼とした赤茶の地面に蹲っていたが、

 (……しょうがない)

 選ばれし天の代理人として。神の代わりとして。

この世界のこと、住民のこと、すべての命。すべてを好きにして良いと神様のお墨付きを貰ってしまっている。どういった生き方をしてきたか不明な異世界の青年ではあるが、神々の意志の通り動く人材ではあった。

第三者を選ぶ際の選定だって、神々の思うがまま。神は、神の願い通りのモノを呼びつけたのだ。

 未だ流されていることに自覚のない青年、歩き出すのにさほど時間はかからなかった。





 世界の端は塩になってぽろぽろと落ちていく。

砕けた色は白。乳白色になった異世界は滅亡寸前。

 黄昏の空を眺め、栄養不足の魚を頬張る青年がまず向かったのは、居残り組たる月の女神様がにっこりとほほ笑んでたおやかな腕の指先に示されたひとつの島だった。火山で沈んだ島だ。

 かつては商業で大いに賑わった島で、一大文明を築いた土地柄であるという。

しかし一歩踏み入れたらば、そこは火山灰に覆われた死の街であった。そこは青い宝石が貴重品の街で、地下深くに作られていたであろうシェルターには一組の夫婦がいた。寄り添う亡骸ではあったが、大事にしまいこまれた黄金や腐った食べ物の量からして窒息死したのだと見てとれた。

 (南無南無)

 そこに、一羽の白い鳥が青年の頭に舞い降りた。

 (なんだ?)

 どうにも人懐っこい鳥である。指で払ってもついてくる。ついでにしぶとく青年の毛根を刺激する。

たまに調子外れた歌を謳う妙な鳥であったけれども、大体において民謡的な聞き慣れぬ歌を唄って夜長の闇を照らしてくれる青年の旅路には欠かせぬ友になった。孤独を癒せる命でもある。愛らしいが青年の頭に予告なく糞をする。

 (……酷い生き物ばかりだ)

 青年は自分のことは棚に上げ、今度は竜王の娘だと名乗る妙なトカゲと出会う。

ピンク色だ。鱗がテカって眩い。それでいて固く、青年の拳が痛めつけられるほどの強度を誇る。化け物と遭遇したと思った青年は、鎧のごときそれに負けたのだった。

 (鱗が宝石みたいだ)

 艶々である。光に反射して、常に手入れをしているのが癖であるらしい珍妙なる爬虫類。ピンクトカゲとしてもそれは自慢するものであるらしく、誇らしげにおヒゲと同時にひくひくと動かしてみせた。


 「我、知る」


 偏屈な鳥と違って片言で話すので、なんとも把握に時間がかかるけれども神人たる青年の旅順はますます順調になる。大柄なトカゲは尻尾をふりつつ、翼を持つ生き物であったために空を飛ぶことができた。青年は大いに喜んだ。靴の底がもう抜けていたのだ、少しはラクをしたい。父親である竜王もなかなかのものらしい。会ってみたい。

 白い鳥がくちばしを尖らせて神人の毛先を啄んだ。不満があるらしい。

 




 ――――次第に。

世界が閉じられていく。





 神人たる青年ようやく待ちわびた人間と出会い、助けて欲しいと言われる。

第一人類発見。久しぶりの人間遭遇に、神人は喜ぶ。まあ、助力を願ってきた人間の岩の影、そこにどしゃっと人間たちが連なって潜んでいたから大層ビビったが。

 (人類は滅んでいなかった!)

 嬉しかった。四つ足ばかりと遭遇していたから。

駆け出し、久方ぶりの言葉での邂逅。意志の疎通がこそばゆい。心が綻ぶ。

 芽生え始めた緑の恩恵に、人類もまた命を繋いできたのである。

 平凡な男にとって、それはあまりにも甘美なことだった。竜やら鳥やら植物にだって遭遇した神人、意志ある親しみ深い人類にはことのほか寵愛を示した。


 こればかりは元が凡庸なのだ。本人の資質がそうなのだから仕方ないと普段であれば諦めるのが常な彼だが、幸か不幸か、神人としての力を持ちあわせていた。

 動揺よりも怒りが噴き出す。


 遭遇したのは枯れた自然で終えた亡骸、命。

歩み、確かにこの目で認めた少しずつ壊れていった世界の果て。

 神人は思う。

 自分が神々の願いによる体現ならば。

 また、この世界の命、すべてが紡ぐ命の螺旋をしっかりと繋げていくというのなら。

好きにして良いと言われたのだから。

 頷き。

願いを叶えたる旅順紀行。

 

 ソワソワしながら可愛らしい花を頭に加え、求愛活動をするピンクトカゲを面白おかしくからかって喧嘩別れしたり。

 降り注がれる滝に打たれて喜ぶ猫を見付け、人になりたいと訴えてくるので人間にしてやったのを忘れ、その子孫が久しぶりに遭遇したピンクトカゲの猛烈アタックによって陥落したのを目出度いと言いつつメスだったのかと驚愕し竜の火炎を浴びた青年もいれば。

 大いに力を振るい、竜王の娘をおびき寄せて苦しめた傲慢大陸そのものを沈めたり。

 

 空を美しく舞う、人の姿を形取った神鳥の美麗さに手を叩いて喜色して。


 かつて、共に旅をした仲間たちが消えていったことを苦しみ、ピンクトカゲの父である竜王の翼を拝借し、昔を思い出して涙して。

 愛を失ったり……。


 寂しそうにしている神人のために、世界中の言葉を交わせる生き物たちが願い事をした。

彼は、神の代理人として命を繋ぐ選択をしたのだ。その代わりに失ったものは大きい。

彼は、寂しく独りで生き続けている。


 「なんだ? しおらしく集まって」

 

 二本足の生き物たちは期待した。


 「……分かった、分かったから。

  別に、すべて言わなくていい」


 貴方に。

神の代理たる貴方を慰めるべき共に歩む存在を生み出すことを許してほしいと。

 

 「……だが、それは」


 このままでは、この世界はまた滅ぶから。


 「そうだな……」


 青年は仰ぐ。

すっかりもとに戻った異世界の色を。

 神の力をあまねく使った。その力が循環したので、元に戻った。神の我儘を行使する力を持つ存在があってこその世界だった。


 「お月様だけが、留まっている状況だからな」


 神々は立ち去った。

我々は見捨てられたのだ。月の女神だけが、神の代理人たる貴方の後ろ盾。


 「そうでもないと思うがなぁ……」


 古き神は、顔を出しもしないではないか。


 「まぁ、な」


 青年は頭を掻いた。その頭のてっぺんを。


 「そうだな。

  あいつら神は、人と同じで気まぐれだ。

  ……何でも押し付けるだけ押し付けて、雲隠れだ」


 神人がいなければ、世界は安定しない。

なら、その神人を留めるために我々は何でもしよう。


 「……そうか。

  なら、俺を元に。

  いや、せめて手紙だけでも」


 それは無理だ。

我々のために。

 我々のすべてのために世界は閉じられた。


 「……そうだな。俺の知己なんてもう、竜王ぐらいだもんな。

  トカゲのピンちゃん、いなくなっちまったし。

  猫耳の子は可愛いが……、このままだと何もかもが台無しになるかもな」 


 青年は、大きく眼を見開き続ける生き物たちへ苦笑を向ける。

はなむけのように。


 「人間たちは俺を排除しようとしたし。

  ……見たくないものも見てしまって、俺は俺のために力を使った。

  物事には背景がある。

  俺は、それを見逃したんだ」


 あの大陸は自業自得だ、と一人が叫んだ。

百獣の王は嘘と偽りで竜王の娘を縛り付け、痛めつけた。

神人を惹きつけるためだけに裏切った。


 「…………神が、何故傲慢なのか。

  なんとなく、今じゃそれが分かる気がするよ」


 ――――行くのですか。

我らを見捨てるのですか、天よ。天の使いよ。

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