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三十四話

 危機意識が不足しているとの警告を受け、確かに、と納得した。

ここ最近、ルキゼに頼りすぎている。


 「……耳長の話をまんま聞く人間がいるとは。

  お前、長生きするぞ」

 

 褒められた。

しかし、これ以上寿命が延びたら私はどうなるんだろう。生きた屍になるんだろうか。それは嫌だな、この二本足が歩けなくなるのなら、手を使って動かねばならない。となると、もぞもぞ動く私から、どこぞの誰かに僅かばかりな金目のものを奪われ、裸同然のままぺいっと捨てられそうだ。それだけならまだしも、試し切りに遭いかねない。ぞっとする。


 「うーん、あまり伸びやかに生き過ぎると後々面倒そうだから、

  遠慮しとく」

 「……そこはありがたく受け取っておけ。

  訳の分からない人間だな」


 がっかりされた。





 話によれば、彼ら耳長と神鳥の二人が仲良く旅をしてきたのは、私を探し求めてのことらしい。謎だ。


 「そうだな、俺も良く分からない」

 「そう」


 肯けば、残念そうに頭を横に振られる。


 「……まあ、そう悪い人間ではなさそうだ。

  ただ……」


 頭のてっぺんから、顔のあたりをまじまじと見詰められ、次に手足の長さを看過される。


 「あまり、お勧めはできないが……」

 「はあ」


まあ、外見のうっかりさは誰にだってあるものだ。特に私の場合、この世界の人間とはほんの少しだけ、顔やら頭の中身の造形がズレてはいるだろう。ましてや、彼ら人ならぬ人にとって、他種族への魅力を感じるには相当なものがなければ、恋することさえ難しい。


 「……アウフィエル、奴の種族は神鳥というもので、

  一途で、他の者なんて目にも留まらぬほどに寄り添うことで有名だ。

  おしどり夫婦ともいうか。仲睦まじい鳥、の意味においても、

  その美しい見目の良さからしても昔から評判なんだ」

 「へえ」

 

 (なんだ?)

さっきから、相槌を打てば打つほどに、エルフの表情が微妙になっていくんだが。不思議に思い、観察し続けてみるが、気を取り直したものか、たちまちに真顔になった。


 「とはいえ、弱い鳥だ。身体もそうだが、愛する相手がいなくなったら、 

  たちまちに死んでしまう。引き裂かれると弱るんだ。

  愛に生きる鳥、一途な鳥、という訳でな。

  俺は、友であるアウフィエルのために、

  その番いになるかもしれない女……、つまりは、お前を探してきたんだ」

 「なるほど」

 

しばらく、互いに無言になって見つめ合った。


 「……驚かないのか?」 

 「いえ、十分びっくりしてますが」





 なんだか、いっぱい説明を受けて疲れてしまった。気疲れともいうか。

ましてや、神鳥の友人からの驚くべき旅事情と、猫耳一家の驚愕の内情である。どっちも聞けば聞くほどに、

 (うわ、厄介だな。

  関わり合いたくない)

 という思いが強まってしまう。

神鳥は愛する人がいなくなったら死ぬと言われ、猫耳一家は傍若無人の振る舞いは随一らしい。その家の一人息子であるらしいルキゼを私は、結果的に奴隷にしちゃってるし。神鳥は神鳥で、私を番いかもしれないと気もそぞろでばさばさと煩いから連れてきたとのことだ。

 (何故、こんなことに)

 良く分からないが、とりあえず厄介なことに巻き込まれている感があるのは拭えない。

月光の明るさはひと際であった。

 森の中をゆっくりと歩けば、フクロウの鳴き声がした。

見上げれば、近場にいるようだった。

 先行するエルフが、木の枝に留まっているらしいフクロウを見やり、立ち止まる。


 「どうしました?」

 「んーむ、そうだな。

  悪い知らせというか」


 耳の長いエルフ、思案声を紡ぐ。


 「ああ、そういえば教えていなかったか。

  世界中に居るフクロウ、あれらは俺のような耳長と会話ができる。

  猫耳の話も、あれから聞いたのだ」

 

 説明されてる合間に、ホウホウ、と本物の鳥からの相槌が降ってきた。


 「……なるほど」


 頭の良い鳥らしい。

 

 「それで、悪い知らせだが。

  あの猫耳一家が動いているらしい。

  ……早く始末をしないと、大変なことになりそうだ、人間」





 「父様が?」

 

ああ、とエルフは口に果物を咀嚼しながら猫耳に伝える。


 「お前の父親、猫耳の王が動いている。

  といっても今のところ準備だけで、静観を決めているようだがな」


王、である以上、子孫を残すのが当然である。それがルキゼ。しかも一人息子だ。


 「お前の母親が、動かない夫の尻を叩いたんだろう。

  人間の村を保護していたが、じわじわといびりたいのを条件として、

  お前の父がこの大陸へやってくる、らしい。

  ルキゼ、お前を迎えに来るために」


 人間の村を保護しておきながら、いびりたいのか。

謎が謎を呼ぶお隣大陸の事情だが、突っ込んだら負けなんだろうか。しかし気にはなる。


 「母様が……」


 ふうん、となんだか感心したような声でいるルキゼに、そこのところの話を尋ねる。


 「ねえ、ルキゼ」

 「なぁに?」


きょろりと、その大きな黄金の瞳を私に向けた。干し肉をむしゃむしゃと口の中にとろかしながら。べたべたとするが気になるのだろう、指を舐めている。


 「その、条件って?

  人間の村を保護とかなんとか」

 「あ、うん。

  父様、昔奴隷だったんだ」


 (あ、思った以上に重た……)

 

 「いや、いいよ。それ以上は、その、ごめん」

 「そう?」


 後悔する。

気持ちを切り替えるため、円陣を組むようにして座る私たちのど真ん中に置いてあった水筒に腕を伸ばした。


 「でも、父様、きっと嬉しそうにしてるだろうなあ……」


 微笑むルキゼの表情は言動と一致している。

つまり、

 (よっぽど、奴隷に対して嫌な思いを……、)

 この子供の父である猫耳王は奴隷として酷い目にあわされたので、結果的に保護する羽目になった人間の村を痛めつけたいのだろう。そして、それは……私にも向けられる可能性が。どうしよう。私、蒸し焼き八つ裂きは勘弁願いたい。


 「……どうしたの?」

 「う、な、なんでもない」


 きょとんとしているルキゼは不思議そうに小首を傾げている。

私は慌てて水筒に口につけ、ほっと息をつける。ちらり、と。白い真綿に包まれるようにして羽の中にいる神鳥を見やるが、彼は一向に羽の中から姿を現さず、何かを咀嚼する物音ばかりを響かせていた。これには友であるマスティガも、渋面を作るばかりだ。


 「はあ、すまんな。人間。

  ここまで分かりやすい友であったとは思わなんだ」

 「いえ」

 「……いつもは堂々とした鳥なんだがなあ。

  …………実に堂々としていた、なあ、アウフィエル」

 「……マスティガ!」

 「なんだ、あれはお前が悪いだろう。

  いきなり空から飛び降りてきて見せつけられるこっちの身にもなってみろ」

 「そそそ、それはっ!」


 よっぽどのことがあったものらしい、純白の肌を猛烈に赤く染め上げた神鳥は友の襟首を掴み、ううう、と唸り、涙を零し始めた。


 「す、すまん。つい……思い出してしまった。

  だが、こんなところで泣かなくったって」

 「マスティガが悪い!」

 

 神鳥はずいぶんと友人に心を許し、友である耳長も過去を恥じらう鳥を大事にしているようだ。

私は隣にいる猫耳ルキゼに、


 「仲良いね、ねぇ」


 って囁いた。

すると、うん、と。

嬉しげに応えたものである。 

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