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三十三話

 「名前を告げるというのは、愛を乞うということだ」


 最初に聞かされた話があまりにも突拍子がなく、私の意識が少しばかり遠のいた。


 「その獣耳はお前を番いにしたいんだろう」

 「番い……?」

 「伴侶だな」

 「伴侶……」


 




 「獣耳はずる賢い。

  何故、その意味を教えなかった」

 「ご主人様はボクのモノだもん」

 「くっ……! 腹立たしい!」

 

 鳥と猫は未だに言い争っている。

耳長はそんな二人へ、ため息交じりに諭す。

 

 「おい、人間相手に羽の先を当てるなアウフィ。

  地味に痛いんだぞ、それ。

  あと、猫耳ルキゼ、」

 「メルキゼデクだ!」

 「……メルキゼデク、人間にくっつきすぎる。

  少々慎みというものを持て。何よりアウフィがうるさくてかなわん」

 「うるさいとはなんだ!」

 「混ぜっ返すな。

  ……神鳥の名が泣くぞ」





 獣の本性なのか、夜も深まると静かになった鳥と猫は眠っている。

あんなにぎゃんぎゃん言い合ったくせして、振り返れば猫も鳥も仲良く隣同士である。

 鳥は羽の中で、猫は身を丸くして。すうすうと。

そのど真ん中でぎゅうぎゅうに詰め込まれた貨物状態だった私は、なんとか身を起こして、そそくさと外に出る。

 とっぷりと暗くなった森は恐ろしい。人間には怖い場所だが、予想通り、エルフがいた。木陰に佇んで腕を組み、背を大木に預けて夜番をしてくれていたようだ。

 瞑っていた瞳をあけて私を一瞥、


 「やっと出てきたか」


 なんだかチクリとしたものを感じないでもない。

だが、この耳長のエルフと神鳥は仲の良い友人同士であるらしい。なら、友を思えばこその行動だと納得はできた。闇夜の森からは、瑞々しい匂いがする。


 「雨が降っていたからな」


 私の訝しげな表情が読み取られた。

緑の露を見定めて、エルフに誘導された自分。


 「さて、人間よ。

  聞きたいこともあるだろうし、俺もお前に伝えたいことがある。

  ……ここでは目立つ。

  少し、歩かないか。近くに水辺がある」


 私は己の腰に手を伸ばした。

が、そこに魔術書はない。


 「……でも、ここを離れる訳には」


 エルフの申し出に警戒しつつも、私は言葉を選んだ。


 「慎重になるのは正しい。

  だが、この森は耳長の管轄だ。

  いざとなれば、この弓矢を持つ俺が戦う。

  人間と違い、俺たちはウソをつかない。

  ……それとも、耳長である俺の言葉を信用できないか、人間よ」

 

 ここまで言われて、はい、と。

はっきりと口にできるのは、魔術書があればこそだった。

今の私は宙ぶらりんだ。胸にある天地創造も、あまりにも強い力、エネルギー。畏怖するものだったから、やはり心もとない。

 ごくりと唾を飲みこみ……、ルキゼを起こすべきかどうか否か悩んだが。

 耳長の持つ弓と矢筒の本数をちらりと見やりつつ。


 「……分かりました」


 軽装である彼の後ろをついていくことにした。

虎子を得るには……なんだったか。

 そのような、自分を納得するための格言を頭に浮かび上がらせながら。自分を慰めた。





 さくさくと進めば、水が飛び。

靴が濡れ、魔法使いが纏う私のローブの端も、水草で汚れていった。

 たどり着いた先は、綺麗な水辺。水草があちこちで生え、ぽちゃり、と。魚が息を吸うためにできた輪がぽつぽつと浮かび上がっていた。

 空には、お月様。

耳長のエルフは、その見事な満月を見上げ、


 「ほお、月の女神様もご覧になられる」


 などと呟き、私と向き合った。

静観する彼の顔立ちはルキゼとも神鳥とも違った、精悍さがあった。しかし全体的に細身であり、弓矢を扱うための腕を持っているくせに筋肉があるようには見えない。隠れ筋肉かもしれないが。

 

 「さあ、て。

  人間よ、リアといったか」

 「そうです。私の名はリア」

 「ふ、そうやって意図的に名乗るあたりが面白い。

  人間なのか、本当に?」


 獣耳やら人ならぬ人たちにとって、面倒な風習のようなものがあるのを知った私は早速使ってやった。

苦笑するエルフ。


 「だが、それでは求愛にはならないし、足りない。

  愛を求めるには、愛する人に相応しいモノを与えなければ」

 「……モノ?」

 「そうだ。相手を想い、相手のために必要なモノを渡す。

  それが、大事な規則であり原則だ」


 (モノ、モノか)

 何か、渡したっけか。

モノとしては覚えはない。だが、プレゼントはしたな、ルキゼに。いや、結構、あげている。


 「見たところ、あの猫耳、

  ルキゼとやらにはずいぶんとモノを与えているようだな。

  家族でもないのに、あの目立つ赤い首輪。

  奴隷という忌まわしい証も与えている。

  服も渡しているのではないか?

  話によれば、寝起きを共に生活してきたという」

 「ええ。まあ。そうですね。

  マフラーを寒そうにしていたから買ってあげたりは」

 「なるほど。

  身内でもないのにあれほど睦まじいのは、

  人間の、人間らしい不用意な行動のせいか」

 

 どうやら私のしたことがすべて、自分に返っているらしい。


 「求愛しているようなものだ。

  ましてや、あの猫耳は番いを……、

  主を求める種族だからな。

  あの本性は誰かに愛されることに飢える。

  まして好みであれば、くっついて離れない。いつまでもな。

  懐っこいだろう?」

 「うん、まあ……そうですね」

 「猫の本性だしな。

  あれの父親も、主馬鹿だ。

  ご主人様を求めるがあまり政略結婚をしてでも、

  主を追い詰めて自分のモノにしようとして

  年がら年中逃げられている」

 「え」

 

 な、なんか……すごい内情を聞かされているような。

 (ルキゼ当人がいないのに、いいのだろうか……)


 「あの猫耳一家は複雑だ。

  戦闘馬鹿でもあるが、

  なまじ力があるゆえに同胞たる獣耳どもは皆ついて回る。

  大馬鹿者ばかりの集まりだ。

  別大陸で大人しく引っ込んでくれていたらいいのだが、 

  あっちの大陸の我が耳長どもも、あの猫耳一家に味方している。

  古の竜でさえも。

  そして、その一家の猫耳の子がこっちの大陸へやってきた。

  どうやって海を越えてきたのかは不明だが、

  これは由々しき事態だ、リア」

 「え」


 なんだろう。

話が壮大になりすぎて、ピンとこないが……とても厄介な気配を感じるのは間違いなく。

じわじわと後戻りができない、退避先が一気に塞がれた感覚が凄まじい。


 「あの大陸において、奴隷は禁忌だ。

  特に、猫耳を奴隷にする話は。

  ……まさか、あの猫の子を奴隷にして使役していたとは。

  お前、人間のくせして猫耳の父親に八つ裂きにされたいようだな」

 「や、八つ裂き」

 「それか、蒸し焼きか?」

 「む、蒸し焼き」


 どっちも嫌だな。

そんなことを思う。エルフの呆れが声に滲む。


 「猫耳一家は大きな家だ。

  人間であるお前はどういう経緯であの猫耳を奴隷にしたのか分からないが、

  迎えに来た猫耳の父親がお前をどう対処するのか分からない。

  そう、言っているんだ。……危機感のない人間だな」

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