4・各務視点
事情があって、司馬学園には3日遅れで入学した。
元々高校に行く気はなかったのに、親の知り合いに無理やり入れられ、特別に入学させてもらった高校。
本当はやりたい事があったのに、3年間高校に通って卒業しないと、やりたい事を全力で邪魔すると言われて、泣く泣くな言った高校だった。
そこで、不思議な雰囲気を持つ子がいた。
黒髪を後頭部の辺りで縛り、細いフレームの眼鏡をかけた女の子。
本人に自覚があるかはわからないけど、すごく美人。
クラスから浮いていても関係ないのか、休みの度にハードカバーの本を読んでいる。
元々、顔の良い連中が多い中、それに輪をかけて綺麗だ。
そんな子に、声をかける機会が訪れた。
生徒会主催の全体朝礼を忘れているのか、いつものように本を取り出し、読み始める。
凛とした表情。真っ直ぐに伸びた背筋。
まるで1枚の絵画のように、様になる。
6限目の授業をかねているので、体育館にはほぼ強制で行かないと駄目なはずだけど。誰も声をかけずに教室を出て行く。本当は声をかけたそうだったけど、彼女には誰も触れられない。
……少し。ううん。かなり、勇気を振り絞って、声をかけてみた。
「羽鳥さん……体育館に行かないの?」
すると、あっと言わんばかりに口を開き、忘れましたとばかりに頬を掻く羽鳥さん。本を鞄へとしまい、席を立つ羽鳥さんに、一緒に行かない?と声をかければ、頷いてくれた。
そんな姿も可愛い。
眼鏡でわかりにくいけど、近くで見ても美人だった。ちょっとドキドキしてしまう。
2人で並びながら体育館に行くと、何処かのコンサート会場のようになっていた。確かに、生徒会の顔の良さは別格だとは思うけど、ここまでくると凄いというか、引くというか。
羽鳥さん。
理流って呼べるようになったんだけどね。
名前で呼んでいって言ったら、じゃあ、私も、みたいな流れで。
かなりドキドキ中。
そんな理流も私と同意見らしく、驚いたように目を丸くしながら、目立たない後ろの方へと腰を下ろした。理流も生徒会には興味がないらしい。ちょっとホッとするし、気持ちはすごくわかる。
下手に関わったら、きっと取り巻き連中が煩いんだろうなぁ、なんて結論を出すと、真面目にではなく適当にステージに目を向ける。
何処かのアイドルみたい。
きゃーきゃーと女子の悲鳴がすごくて。失神者が出るんじゃないかなってぐらい。
隣を見ると、理流は眠そうに目をごしごしと擦っているんだけど、見られていても全く気にしないらしく、欠伸をかみ殺してた。マイペースな性格なのかな。
部活は帰宅部に入るみたいだし。委員会に入るつもりもないのかな。
お近づきになりたい子たちが、勝手に決めてくれるだろう。
委員会に入れば、接触出来る可能性が高いらしいし。人気だったりするんだよね。
やりたくない人にとってみたら、楽が出来るからいいんだけど。
ステージに立つ生徒会は、傍で見ていても別格に映るけど、全く興味がないので、人気があろうとなかろうと、正直どうでもいい。
彼等が人外だという事は知っているけど、ハンターとして狩る対象にはなっていないので、放置せざるおえない相手でもある。
別に、天地球の住民全てが嫌いなわけじゃないし。
両親は司馬学園で、害のない住民を見て来いとは言っていたけど……。
ただのアイドルグループになっているだけだった。
各務の後継者の私と、ハーフの人外との関係は良好であって欲しいと言ってたし。
命を捧げてもいい相手なんて、簡単に見つかるわけがない。忠誠を誓う異性との出会いと契約が、各務の力を強くするとか。意味がわからない。
狂って、人肉を求めるようになった人外は、天地球の住民にとっても殺す対象になるらしく、忠誠を誓った相手に命じられて、狩りをする各務は人間でありながら、その存在は人外よりだ。
3年間ここで過ごすのか。
それを考えると、気が重いとしか言いようがなかった。
「彩さん。終わりみたいですよ」
「……あ、うん」
考え事をしていたら、終わったみたいで理流に声をかけられ、辺りを見回してみる。
ステージの前に集まった人たちは、帰らずに見送るみたいだけど、私や理流は関係ないので、さっさと教室に帰る。こんな現場を見ていて疲れた。
ハーフって顔が破格にいいから、本当にアイドルっぽいよね。
今の所、忠誠を近いたいって全く思えないけど。
今日は疲れた。
早く眠ろうかな。