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 今日は生憎の雨です。


 濡れない場所でお弁当を食べているので、雨に濡れる心配は全くありません。


 いつものようにお弁当を食べ終え、鞄から本を取り出して読みふける。


 雨の音でさえ心地よい音色に聞こえ、私は薄っすらと目を細めながら口角を上げた。こんな日も、悪くありません。じとじとしとしとと降り続ける雨音。


 全てを覆い隠してくれるかのような雨のカーテンに、私は機嫌よく本を読み進める。


 けれでお、ふと気付く。


「今日は、雨が降っているから来ないでしょうか」


 一応ですが、今日もおやつを持ってきました。わんこ用のホットケーキです。レンジで温めたタッパーを、保温バッグに入れてあるので、まだ温かい状態をキープしております。


 これは帰ってから、メープルシロップとバターのコンビで、自分で美味しくいただきましょうか。そんな事を考えていたら、茂みが揺れたかと思うと、ずぶ濡れのわんこ登場です。


 ……吃驚です。


「大変です! こっち来て下さい!! 拭きますからっ」


 わんこが来た時の事を考え、バスタオルとタオルを持ってきていたのですが、まさか使うとは思いませんでした。準備しておいて良かったです。心底思いつつ、私の隣にタオルを2枚程引いてからその上に座ってもらう。そして、忙しなく手を動かしつつ、痛くならないように気をつけて水分を拭き取る。


「風邪ひいちゃいますよ……」


 表面上は拭きましたが、下がった体温は取り戻せません。温かいわんこ専用のミルクをカップへと注ぎ、それを目の前へと置く。身体の中から温めないと、本当に風邪をひいてしまいます。


 幾らハーフで身体が丈夫だと言っても、風邪をひかないわけではないのです。


「少しでも温まればいいのですが」


 ぺろりぺろりと飲んではくれていますが、寒そうに、少し震えています。どうしましょうか……。


「これは今日のおやつのホットケーキです。自宅に戻って、身体を乾かしてから食べて下さいね。このままここにいると、風邪をひいてしまうでしょうし」


 本当のわんこだったら、こんな事を言って、保温バッグを渡しても意味は通じません。ハーフだとわかっているからこそ、言える言葉です。


「わふ」


 私の言いたい事がわかってくれたのか、了解とばかりに鳴くと、ホットケーキの入った保温バッグを噛んで持ち上げ、また茂みの奥へと消えていく。人の姿に戻った時に、風邪をひいてなければいいんですけどね。


 これが純粋な魔族なら、自身の魔力で身体を乾かしたりとかも出来ますし、ハーフよりも身体が丈夫です。私は人間だった頃の記憶がある為に、記憶に引っ張られて実は身体が弱かったりします。


 今は丈夫だと思い込む事で、マシになっていますが。


 過保護の原因はこれもありますよね。恐らく。


 しかし、あのわんこの人間バージョンを知らないので、確認のしようがないんですけどね。


 風邪をひかなかったか、とかは。






「羽鳥さん。体育館行かないの?」


「……忘れてました」


 いつもの日課で、少ない休み時間に本を取り出しましたが、今日は全体終礼の日でした。


 月に1回、生徒会が中心になって終礼をやるんです。生徒へのサービスですね。実態は。


「ありがとうございます」


 声をかけてくれたのは、3日遅れで登校してきた各務 彩さん。薄い茶色の髪が印象的な、可愛い女の子です。胸辺りまである真っ直ぐなストレートの髪を、緩く縛ってある、見るからに美少女な方です。人間でもこんな可愛い子がいるんですね。美人美形に見慣れた私でも、あまりの可愛さにシャーペンを落としてしまいました。誰にもばれませんでしたけど。


「ううん。気にしないで。あのさ……一緒に行かない?」


 身長は同じぐらいなので、上目遣いにはなりませんでしたが、それと同等の威力のある潤んだ瞳。美少女の威力、半端なしです。


「ん。いいですね。一緒に行きましょう」


「嬉しい」


 私の言葉に、にっこぉと満面の笑みを向けてくれる各務さん。やっぱり、3日と言えども遅れてきた各務さんは、既に決まっているグループに入る事が出来なかったみたいです。


 あまりの美少女過ぎて気後れして、声をかけられなかっただけかもしれませんが。


 その線の方が濃いですね。近くで見ても、超美少女は超美少女でした。


 並んで歩いてみると、私の地味さが引き立ちます。


 各務さんは華やかです。


「ねぇ……羽鳥さんの事、理流って呼んでもいい?」


 各務さんの可愛さに目を奪われていたら、突然そんな事を言われましたが、勿論問題はないです。


「いいですよ」


「嬉しい。私の事は、彩って呼んでね!」


 凄く嬉しそうな各務さん。いえ、彩さんでしたね。


 そんなに嬉しいのでしょうか。まぁ、1人っきりは寂しいですよね。


 私の場合は中身がこれなので、気になりませんが。


「はい。彩さん。あ、でもさん付けは許して下さいね。癖なんです」


 さん付けの事を言われそうだったので、先手を取って言い切りました。


 先に言われて、少し残念そうな表情を浮かべさせてしまいましたが、これは仕方ないです。


 生まれる前からの癖ですから。






 全体朝礼の場所である体育館に行くと、既に前の方は埋め尽くされていました。席は自由なんです。しかし、色々なものを右へ左へと振ったりと、案内する方がいるのですが忙しそうです。


 何処かのコンサート会場でしょうか。


 生徒会のメンバーや部活の部長とか委員長とか。一通り興味がないので、勿論後ろの席へと座らせてもらいます。その隣には彩さんが座りました。


 きゃーきゃー、と声が聞こえます。


 吃驚しました。色々な意味で。


 どうやら4月の終礼は、委員会と部活の説明みたいですね。それぞれアピールしていますが、人気の部活は、というより人物には悲鳴が上がっています。


 しかし、道理でクラスで説明がないわけです。


 6限目の授業がないので、1時間程やるというわけですね。……飽きますが。


 欠伸を手で隠しながら、一応ステージへと視線を向けていますが、今にでも眠ってしまいそうです。眠気覚ましにガムを噛んでいますが、今回は眠気の勝利でしょうかね。




「理流は中学からのエスカレーター?」


「違いますよ。高校からです」


 彩さんに話しかけられ、首を横へと振る。


 司馬学園は、幼等部からのエスカレーター式になってます。


 私は外部受験で、ここに通っています。勿論、地球での戸籍もありますよ。そうでないと、色々と不便なので。


「そうなんだ。凄く慣れてる感じがしたから、エスカレーター組かと思った」


「そうですか?」


 マイペースなだけだと思いますが、彩さんからはそんなふうに見えてたそうです。


 しかし、本当にハーフな方々が多いですね。そういう学園ですけど。


 ハーフの中でも、生徒会のメンバーは別格ですが。


「ちょっと眠くなりますね」


「うん。でも凄いね」


「そうですね」


 前で見ている方たちとの温度差はすごいです。


 でもすいません。睡魔に負けそうです。



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