糸を手繰ったその先は
結構間があきました。
もう、梅雨も目の前です。
さて、今回はK視点です。
本当は気づいていた。自分が依頼を達成していないことを。
あの時感じたもう二つの気配。
一つはある人物。もう一つは...
...消さなきゃならなかったもの。しかし、私は殺さなかった。これで二回目だ。殺さなければいけないものを殺さなかったことは。
何故かは分からない。私は時折自分が何をしたいのか分からなくなる。
いや、違った。
何故そんなことをするのか、理由が説明できないのだ。まあ、誰かにそのことを伝える気など微塵もないのだか。
私のこの『エゴ』という罪で世界はぐるりと回転する。
私は本当はエゴなんてもってはいけないのだ。それが正しいことではなくたって、それを覆す理由には決してならない。
それでも、私は止めない。進み続ける。
「K、どうした」
ふと、前を見るとSが目の前にいた。
周りを見ずに歩いていたようだ。
周りを見ると、辺りは草原で町の影など無くなっていた。
「考え事だ。それより、進まないのか?」
すると、Sはあきれたように、
「Kが呼んでも答えないから止まったんだよ」
と言う。
「悪かったな」
そう返すと、Sは更に呆れたようで、
「そう言いつつ、いつも考え事ばっかしてるだろ。てか、さっきの話も聞いてないだろ。もう一回言うぞ。こっから俺らはフォースタに向かう。それで、白明の方の依頼者を暗殺する。それでいいな」
と、わざわざ説明してくれた。
ここまでしなくても分かっていたのだか。
まあ、それを言うのは面倒なので頷く。
すると、Sが進み出したので今度は周りを見ながら考える。
と、言っても腰程度の草が生い茂った草原の細い道には、あまり人が通っている気配がしない。
なので周りを見るのを中止で考えることにする。
次の国はフォースタ。ミナツ山脈の麓に広がる一年中冷たい国で、それを生かした錬金術が有名だ。
しかし、後継者に問題があるらしく、若き女王は悩んでいた。
今回の依頼もそれに関係がある。
まあ、それは後でいい。それよりも、Sが邪魔である。あいつはトウクの依頼の
主が女王だということを知らない。
そのため、色々と面倒だ。
知らないということは問題、いや罪なのだから。
その問題がある奴をどうにか、まかなければいけない。
だが、面倒なことにSは簡単にまける相手ではない。そのため、現在私は私を誘拐してくれる者を望んでいるのだ。
こういうのをフラグと言うのだな。立てれば立てるほど効果はあると聞く。
私は絶対にあの国に行かなければいけないのだ。
あいつが待っているのだ。
これでフラグ立ちまくりだ。問題は微塵もない。
あとは、誘拐犯を待つだけだ。
まあ、残念ながら、こんなひらけた地ではまともな誘拐犯は誘拐しない。
「K。何度言ったら分かるんだ。歩きながら考え事をするな」
そう言って、Sは私の腕をとって歩き出した。
「もう少し使える頭を持ってると思ってたんだけどな」
「Sの見る目がなかったのだろう」
すると、Sは目を見開いて、小さく(本人視点予想)ありえねぇ、と呟いた。
悪かったな。私はとある事情により、天才バカキャラを貫いているのだ。
まあ、誘拐犯に来てほしいのは本音だか。
というか、誘拐犯は来ることが確定している。
「K、休むか」
さすがに心配になったのかSに声をかけられるが、問題はSなのでな。
いや、草原の真っ只中で休むのはいい趣味してるというべきなのか。
私は親切に首を横に振ってやった。
それでも心配らしく、Sは腰についているバッグの中をまさぐっている。
その時だった。
草原の中に私は引っ張られた。
そして、猿ぐつわを付けられ、目隠しをされ、両手を後ろで縛られた。
その間、十秒あったかなかったかだ。
かなり慣れている。そう思わせる、犯行である。
これなら、長時間Sをまけるはず。
そうこうしているうちに、誘拐犯は草原を駆け回る。
足音からして二人。しかも、体格はそこまで大きくない。
これは勝てる。ふいにそう思ってしまう。
五分ほど走っただろうか。誘拐犯らは立ち止まった。
そのあと、目隠しと猿ぐつわを外される。
目の前には、誘拐犯らしき二人の少年少女。
「白明の双子だな。誘拐お疲れ様です」
誰よりも早く挨拶を済ますと、少女が、
「あなたこそ、お仕事ご苦労様。ま、私達は殺さなかったようだけど」
と、自慢げに返す。
その程度の情報を知らないと思ったのだろうか。やはり、詰めが甘い。
「それにしてもだ。何処から見ていた」
そう問うと、今度は少年が、
「トウクの町の住民が一人もいなかったくらいからだろ。気配を察知されないように森から覗いてた。分からなかっただろう。ざまあみやがれ」
と、色々な情報を提示してくれた。
ここからが本題だ。
「それで、何が目的で私を誘拐した」
「お前があいつを、」
「ある依頼をしたいと思って」
少年の声を遮って言ったのは少女。
「私達は武器を探したい。でも、私達はそこまでつよくないし、親に見つかったらアウト。だから、私達を強くして」
勿論、報酬は払う。そう付け足した。
これは、見事な利害の一致?まあ、私としては最高だ。
だが、問題はまだある。
「見ての通り、私は奴隷であるはずの者だ。それでもいいのか」
私の目は黒、髪も黒だ。これは、私が奴隷階級であることを表している。
白明でもそのルールはあったはず。
「あんたの顔なんて見る価値がないでしょう」
「お前の見た目なんて興味ねーよ」
さすが双子だな。息ぴったりだ。
「なら、依頼を受けるとしよう。しかし、私は北のフォースタに用事がある。ということでだ。私の助手としてついてきてほしい。利点は結構ある。戦闘の経験ができる、フォースタの国を知ることができる、ああ、あとは、上流層に対する対応を知れる」
私が指折り説明していると、双子が、
「「ついていく!」」
と、答える。
「用事あるんでしょう。急いで出発!」
少女はそう言って、草原を進み始めた。
これは、中々いい。事がスムーズに運んでいる。
私は外してもらっていない両手の紐を引きちぎると、フードを被り少女に方向を指示する。