そして、動きはじめる薇
列車から身を投げると、それはそれは透き通った青空が見えた。
ふいに綺麗だな。なんて、思うはずない。
そんな物思いにふけっていると、投げ出された身は草原に落とされる。
あぁ、背中打ったぁ。これ寝るとき辛いヤツだ。
しかし、そんなことで嘆いている暇はない。なんてったって、身一つで遭難してるんだからな。
もとはといえば、あの残念イケメンのせいだ。普通、奴隷階級のいたいけな少女を正義うんたら組織に引っ張るか?
見るからに弱そうなのに。
アホか、まぬけか、どうしようもないのか。うん、全部だな。
違う、違う。それよりも身の安全だ。
しょうがない、動くか。
立ち上がって、服の埃を払う。
そして、適当な方角に進んでいく。
~郊外の小さな家
「何故ここへ?」
二対のソファーにそれぞれ腰かける二人の人間。
そこには不穏な空気が何処と無く漂う。
「殺して欲しい人間がいる」
静かな空気の中、片方の豪華な服に身を包んだ男が言った。
すると、もう片方の黒いローブを被った人間はそれに返す。
「了解した。ターゲットについて詳しく教えてもらいたい」
それを聞くと、男は話し出す。
「白明という一族の族長の双子、どちらも殺ってほしい」
すると、ローブの人間は少し考える素振りをしたあと、
「双子の殺害、それでいいな。そうなると報酬は、貴方の一年間の情報全てとなるが、良いか?」
と、男に問う。
男は、渋々というように頷いた。
さすが、一国の宰相ともなると情報の質も量も段違いだった。
と、宰相がいた席を見て思う。
報酬はその者の持っている情報。
情報さえ渡せばどんなこともする。要するに、便利屋である。と、いっても大概が暗殺だった。
今回もやはり、暗殺。だが、難易度が少々高めだ。
白明一族。この一族は大陸でも一二を争うほど有名な一族だ。
その理由はこの一族の特殊な特徴にある。刀、杖、本、鋏、人形... ...。彼らはすべての物の中でも自分に合う最高の"物"を人生をかけて探す。
そして、それを持つと人を越えたかのような力を手にする。
それが白明一族。
そして、白明一族は国に属さない。一族で固まって生活する。
まあ、国を守る者としては危険かつ邪魔な存在でしかなかったのだろう。
「どうしたの?そんな考え事してさ」
ふと目の前を見ると先ほど宰相がいたソファーに一人の少年が座っていた。
すると少年は、
「また、依頼受けてんだぁ。しかもタダ。人間様に媚び売ったって裏切られるだけって分かってるのに。何で?K」
と、首を傾げた。同時に、動作に合わせてワイン色の髪が動く。
「私は知りたい。それだけ」
そう私が言うと、彼は更に首を傾げる。
答えは出てこないらしい。
なので、
「そう気に留めなくていい」
と言うと、すぐに納得したような表情になる。
「まあ、いいか。ああ、それよりそうだ!ご飯食べるからK呼んでこいって言われたんだった。ね、K行こ」
そう言うなり、私の手を引っ張る。
彼、Aはいつまで経っても子供らしい。
私はそんな彼の手をとって歩き出す。