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裁きの眼  作者: earth
12/12

青い果実は、意外に甘い

更新遅れました。もう、同じようなことを何回言ってんだか。まあ、どうぞよろしく。

朝日が、頭角を現し始めた。

しかし朝日は空全てを照すほど、輝いてはいなかった。

部屋の窓から見えるのは、朝日と、もうひとつ。

宿の隣の空き地で、薄い寝間着のまま額に大粒の汗を滴ながら、一人の少年、エクが竹刀を振り回していた。

エクの所持品は少ない。エクは小さなリュックサックしか持っていなかったから。ということは、何処かから盗んできたと考えるのが打倒だ。


一体、何故そんなことをするのか?

鉛色の髪は汗の流れ道と化しているし、彼の動きは素人そのものだ。

どう見たって、今日から始めました、にしか見えない。

彼にはどんな心の動きがあったのだろう。知りたくてしょうがない。

まあ、これは良い方の変化だ。護衛対象者は強い方がやりやすい。

しかし、エクの剣術センスはここまでか、というくらいない。

これは、誰か教える者がいないとな。町ひとつ一夜で消せるほどの。

では、行くとするか。

ローブを羽織り、これまた黒い、手袋をはめる。

辺りに人はいないようなので、フードは被らずに、窓から飛び降りた。


空から落ちてきた私にエクは驚いたようで、こちらを凝視してきた。

「何?お前。邪魔なんだけど。失せろ」

口を開けば、私に対する敵意がむき出しになる。

黙っていれば、世間一般的に可愛らしい顔をしているのに。

だが、見捨てる訳にはいかない。

「そうかい。今から、依頼を遂行しようと思ったのだがな」

そう言って、腰にさしてある剣を引き抜いた。

剣の長さは、指の先から腕位の長さで、中途半端と言われがちだが、使いなれると、いいものだ。

そして、最も眼を引く、緋色の刀身。例えるならば、血の色が一番近いだろうか。まあ、禍々しさは随一である。

それを見たエクは口をポカンと開けて、竹刀を落としてしまった。

「これ、お前が使って勝負してみるか」

試しに言ってみると、意外に乗り気らしく、手を伸ばしてきた。

そのため、剣を渡すと、

「やってやる。その代わり、容赦しねーからな」

と、言って、刃先を私に向ける。

気概だけは、一流のようだ。

「分かった。では、私は素手で戦う。生憎、竹刀は苦手なのでな」

そう言うと、エクは睨み付けてきたが、これは挑発ではない。剣が無くても戦えるように鍛練していたのだ。


「では、始める」

少し距離をとった後そう言うと、エクは容赦なくこちらに向かってきた。

しかし、真っ直ぐ向かってきたので、次の動きが手に取るように分かる。

「死ね」

エクは私に向かって剣を降り下ろす。

それなりに攻撃にはなっていたが、体ががら空きだ。

左足を重心にくるっと回り、剣をかわすと、そのままエクの腹に向けて打ち込む。

もろに攻撃を受けたエクは受け身もとれずに五メートルほどとんだ。

これは結構なダメージになっただろう。

それでも、エクは私にヨロヨロと向かってくる。

「実際の戦闘だと死んでいるぞ」

私はそう言って、エクの後ろに回り、剣を奪いとると、首もとに刃先を当てる。


「何で、お前ごときに」

体力が持たなかったのだろう。エクはそう言うと、倒れてしまった。

私とて、このくらいで死ぬほど弱くはない。

「まだまだ、甘いぞ」

そう言って、エクの手から落ちた剣を腰にさし、エクをおぶる。

その体は、とても軽く、小柄な私でも楽々背負っていけた。


部屋につくと、ベッドにエクをおろす。

再度目をやると身体中、傷だらけだ。

流石にやり過ぎたかな。と、思うが、本人が望んだのだ。決して、虐待ではない。

しかし、このまま手当てをしないというのは、まずいだろう。

ローブのポケットから、包帯を取り出す。

あまり、手当てなどはしたことがないが、まあ、大丈夫だろう。


包帯を巻き終わると、太陽が爛々と輝いていた。

今の時間帯だと、食堂は開いているだろう。二人より先に食べてしまおう。

「俺のせいだ。だから、」

「私のせいだ。だから、」

振り返ると、二人は眠っていた。ということは寝言だろう。

双子って寝言も同じなのか?

まあ、いい。気にせず食堂に向かうとするか。


食堂に来た目的は第一に食事をすることだが、それだけではない。

情報収集のためでもある。いつの時代も何故か、こういうところは情報が手に入れ易い。

テーブルで一人、粗末な朝食を口にしながら、耳の感覚を鋭くする。違和感のないように。只の旅人になるのだ。


... ...まさか、な。聞き間違いであろう。有り得ない。しかし、彼奴のすることは、予想がしにくい。

それでも、...いや、可能性はある。

本気で敵に回ったか。私とて、あまり戦いたくはない。

まあ、いい。朝食も終わったことだし、部屋に戻ろうか。

そう、席を立とうとした時だった。

「何一人でしんみり食べてんの。見た目も惨めなのに、中身まで惨めとか、終わってる」

目の前には、ユキアとエクが。

「誰かにボコボコにされて腹減ってんだよ。退け」

そう言うと、二人は勝手に空いていた席に座る。

「あんたと一緒に座ってやってんの。感謝くらいしてもらいたいわ」

?ユキアの言ったことがよく分からない。何故、礼を言わなければいけないのだ?

「朝食二人分」

その間に、エクは朝食を頼んだ。

これで、うやむやにさせとこう。

「ねぇ、聞いてるの」

いや、出来なかった。というか、何故?

まあ、いい。

「礼を言おう」

これで大丈夫だろうか。

それにしても、この少女、何をしたいんだか。

今度は突然、

「何よ、その態度。ムカつく」

と、怒っている。本当にどうしたのだろう。

「はいよ。朝食二人前」

切り詰めた空気の中、宿の女将が朝食を持ってきてくれた。

二人は何も言わず、飯にがっついたので、代わりに女将に会釈をしておく。

「何で、頭下げたの」

ユキアはまた、何か不服らしく、私に強い口調で問い詰める。

このままで、旅は続けられるのだろうか。

まあ、答えないとキレることは確かなので、

「人とのコミュニケーションを円滑にするための技のようなものだ」

と、答える。

それでも、まだ納得いかないらしく、

「円滑にするのにそこまでしたい?」

と、高圧的に言った。

結構な大声だったが、エクは気にせず飯を食べている。もとより、ユキアはこうだったのか。

さっきの科白も、族長の娘という立場だったため、人が勝手によってきたからこそ言えたのだろう。

「立場がもとより弱いものは、こうして生きていくのだ。と、言っても、強いものも同じこと。結局、一番強いのは、人の縁だ」

そうだ。極論、一より百、百より千である。

それを、この少女が理解出来るかは別の話だが。

彼女はそれを何度か、考えた後、

「ふーん、そう。でも、私はそんな生き方はしたくない」

と言って、飯に集中し始める。

ユキアはユキアなりに私の言うことを考え、答えを出したらしい。

思いの外、物事を考えているな。最初に会ったときは、世間知らずで高飛車な少女だと思っていたが、間違えていたらしい。

と、いうことは、さっきキレたのは... ...。

「私が怪しまれないよう、共に食べると言ったのか」

そう、ユキアに問うと、

「うるさい。黙れ」

と、言って、また怒らせてしまった。

しかし、これも彼女なりのコミュニケーションの取り方なのかもしれない。

「ご馳走さま」

さっきから黙って食べていたエクは早々に食事を済ませたらしい。

そして私に、

「今日はどうすんだ」

と、問うた。

エクの方も、物事をちゃんと考えている方なのだ。戦闘の時も、そうしてもらいたいものだが。

「ここから出る列車に乗って、フォースタに向かう」

と、言うとエクは、

「武器が見てー」

と、言ったが、それを、

「エクは剣術センスがないのでな。ここで見るより、フォースタでオーダーメイドを買った方がましになると思うぞ」

と、言い返した。

勿論、エクの勘にさわったらしく、

「うるせー。たかが一度勝っただけで何言ってんだよ」

と、言うが反対はしないらしい。

これで、行動が出来る。いや、それよりも、一つ疑問ができた。

「白明の者は、特殊能力を使えるのか?」

これがあれば、剣術センスがなくてもまだ戦える。

彼らの年齢は、もう10を超えているだろうから、あるなら使いこなせるはず。

「あんた馬鹿なの?そんなことも知らないなんて。白明の一族は、自分の武器を見つけたら能力が開花するの」

勝手に話に割り込んできた、ユキアが説明した。

ほう、面白いな。流石、『人智を越えた一族』に当たるだけある。

「では、自分の武器とやらを見つけたら、魔族とも渡り合えるのか?」

それを聞いた瞬間、二人の顔がきつく歪んだ。

「その話、一生するな。もう、一度でもしてみろ。奴隷市場に売りさばくぞ」

そう、言って、エクは席をたってしまった。

結構な興味があったのだが。

やはり白明でも、魔族には勝てないのだろうか。

まあ、彼らは人と、比べられるものじゃない。

それぞれ男女の姿をした悪魔、天使、グールと、それを統べる魔神。

合計七体の化物。それを、魔族と呼ぶ。

彼らは人を喰い、餌が有る限り、永劫行き続ける。

その能力は、特殊能力持ちの人間、百人と余裕で渡り合えるほどと言われており、人間の恐怖そのものである。

昔はもっといたようで、いつの日か、歴史からは消えた。

今では、裁きの眼も殺そうとしているらしいが、実際死人が増えているだけ、というのが、世間の評価だ。

それよりも、エクを追わなくては。旅の準備もしなければいけない。

「ユキア、エクの様子を見てくる」

そう、ユキアに伝え、部屋に戻ろうと思った。が、何かに引っ張られ、進めなくなってしまった。

「あんな空気にさせた罰よ。少し待ってなさい」

ユキアがグッとローブの端を引っ張っていたのだ。

まあ、理由はどうあれ、あれは私が悪いだろう。

私が止まったのを確認すると、すぐに手を放し、早めのペースで食べ始めた。

そのため、数分後には、食事を終わらせていた。

「じゃあ、行くわよ」

自分が待たせたのに、私が待たせたような科白を言って、ユキアは歩き出した。


「おせーよ」

部屋につくと、エクが準備満タンというように、リュックサックを背負って立っていた。

「分かってる。少し待って」

ユキアもそう言うと、すぐに準備しだした。

ちなみに、私は全てローブに入っているので、準備は終わっている。


「早く行くぞ」

宿の代金を払っている間も、エクは騒いでいた。

それを、宿の女将は微笑みながら、見ている。

代金を払い終わると、女将は、

「気をつけてね」

と、二人に向けていった。

すると、二人は照れくさそうに笑いながら、ありがとう、と言った。


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